第3話 適当な先輩
銃を人にめがけて撃っていた。
俺は恐る恐る銃を持っている人達に近づいた。
「あの…。」
「すみません。」
周りの人達が物珍しそうにこっちを見てきた。
少し間が空いた。
「お前もしかして。」
「転生を断ったのか。」
この人達も同じ境遇なのだろうか。
「はい。」
「神様に無理やりここに飛ばされました。」
なぜだろう…
少し嬉しそうだった。
「そうか、それならあいつに色々聞くといい。」
1人の男を指差した。
その男はライフルを構えていた。
「バーンッ」
引き金を引くと銃弾が光りながら
遠くの人に命中していた。
銃で撃たれたはずの人は
何事もなかったかのように
平然としていた。
その男がこっちに向かって歩いてきた。
少し背が高い。
寝癖がついている。
頭を掻きながらこっちを見た。
「お前、誰だ。」
少しだらしない人に見えた。
「俺は…。」
前世の名前を言えばいいのだろうか。
少し考えていた。
「ちょっとまて。」
「前世の名前は言わなくていい。」
「むしろ、ここでは言わない方がいい。」
「お前がなんで、ここにいるのかだ。」
お前は誰だ。
と言われたら
名前を聞いてると思うじゃないか。
「俺は…。」
そんなことを考えながら
転生を断ったこと。
神様に無理やりここに飛ばされたことを
男に話した。
男は少し嬉しそうな顔をしていた。
「なら、俺のことは先輩と呼べ。」
「先輩…。」
先輩なんてしばらく言ったことないな。
前は言われる側だった。
「はい。」
「では、先輩に聞きたいのですが。」
「あの銃はなんですか。」
「ライフルのように見えますが。」
「あれで人を撃ってましたよね。」
俺は、ここに来てから
ずっと気になってたことを聞いた。
「あれはライフルだ。」
「そして、それを使って幸運を撃っている。」
「幸運を撃つ…?」
俺は訳がわからなかった。
「お前、神様から何も聞いてないのか。」
先輩が目を細めて言った。
「はい。」
「幸運を届ける仕事ってこと以外は
何も説明がないまま
すぐにここまで飛ばされました。」
先輩は少し呆れた顔をしていた。
「そうか、神様は身勝手だからな。」
「事情はわかった。」
「とりあえず、仕事の説明をする。」
「何かわからないことあるか…。」
何かわからないことがあるかだって
まだ、何も説明してないだろ。
何言ってんだ、この人…
「あの、まだ説明してもらってないので
何ひとつわからないんですけど…。」
「なんだ、さっきやってたの見てただろ。」
「あっち側に見える人間をこの銃で撃つだけだ。」
「以上…!!」
えっと、なんだろう。
こいつ、全く説明できないタイプの人間だ。
こういうタイプはこっちから
細かく聞くしかないやつだ。
「わかりませんけど、
わかりました。」
「とりあえず、あそこに見える人達の説明してもらえますか。」
ライフルを持ってる人達が
立っているラインがある。
その先は明らかに別の次元に繋がっている感じだ。
たぶん人間界につながっている境界線がある。
そして、鮮明に見える人もいれば
めちゃくちゃ靄がかかっている人もいる。
「ああ、あれか。」
「あそこから見える誰かを撃つ。」
「誰に撃ってもいい。」
「とりあえず決められた弾数をその日に撃つ。」
「それだけだ。」
それだけって…。
「まだ色々聞きたいのですが。」
「鮮明に見える人と
靄がかかっている人がいるように
見えますが、あれはなんでですか。」
先輩が頭を掻きながら
あからさまにめんどくさそうに
口を開いた。
「はぁ…。」
「後輩よ。」
「おまえは少し細かいな。」
いや、あんたが適当すぎんだよ。
心の中で思ったが
一応先輩なので何も言わないことにした。
先輩が続けた。
「人生で徳を積んでる人っているだろ。」
「そういう人は俺たちから鮮明に映るんだよ。」
「逆に全然徳を積んでなければ靄がかかったり
ひどいやつだと映らないやつもいる。」
「これでのぞいてみろ。」
そう言って先輩は俺に
ライフルを持ってきた。
「そのライフルのスコープで覗いてみろ。」
俺は初めて持つ銃を恐る恐る受け取り
言われた通りスコープを覗いた。
そこで不思議なことがあった。
「なんであんなに遠くの人なのに
鮮明に見える人がいるんだ。」
そう、その人はスコープ越しで見ないと見えないぐらい離れている。
ただその人は鮮明に見えた。
「先輩、あの人めちゃくちゃ離れてますけどすごい鮮明に見えます。」
「めちゃくちゃ徳を積んでる人ってことであってますか。」
「そうだな。」
先輩は答えた。
俺はひとつ疑問に思った。
なんで人によってこんなに距離が違うんだ。
スコープ越しに見た人は
どう見たって徳を積んでいる人だ。
なのになんであんなに遠くに居るんだろう。
「先輩、なんで人によって距離がこんなに違うんですか。」
先輩が、不思議そうに答えた。
「お前ほんとに新人か。」
「なんでそんなことまで気づくんだよ。」
いや、誰でも疑問になると思うが
先輩なので言わないことにする。
先輩が続けた。
「人間には運ってやつが人によって決まってんだ。」
「生まれながらに運がいいやつが
俺たちの視界に映る距離が短いんだよ。」
「逆に生まれながらに運が悪いやつは
遠くになるんだよ。」
この人は本当に適当な人だ。
こっちから聞かないと何も教えてくれないじゃないか。
その話が本当なら運が悪くて
徳のない人は絶対に幸運にならないってことだな。
「ただ、世の中には運が悪くて
全く徳も積んでないやつでも幸運になることがある。」
先輩が少し真剣な顔になった。
「そんなことがあるんですか。」
どう考えても不運で徳を積んでなければ
遠いうえに見えないってことだから
幸運になりようがないだろ…。
先輩が少し強張った顔で言った。
「俺達がライフルを撃つ。」
「誰に撃ってもいい。」
「ただ全ての弾を狙ったやつに
当てられる訳じゃない。」
「奇跡のような確率だが
外した弾に当たるやつもいるのさ。」
先輩の雰囲気が変わったのがわかり
それ以上聞くのをやめた。
「今日はお前は初日だから
このライフルで撃てる弾は
1発だけだ。」
「お前が思う好きなやつに撃て。」
そう言って先輩が1発の弾丸を渡してきた。
この弾丸が幸運…。
少し前世の記憶が蘇った。
あれだけこの幸運を信じてたのに
俺は当たらなかったってことか。
まあ、俺は人生をもう諦めた。
もうどうでもいい。
少しの苛立ちと呆れの感情が込み上げてきた。
だが、せっかく撃つなら徳を積んでいる
鮮明に見える人に撃とう。
そう思い、弾丸をライフルに込めた。
銃など今まで撃ったことがない。
流石にいきなり遠くの人には当てられないと思い
近くで鮮明に見える人に撃つ。
「そろそろ撃ちたいやつは決まったか。」
「はい。」
「あのお婆さんを狙います。」
距離も比較的近い。
そして何より鮮明に見える。
「撃ちます。」
俺は狙いを定めて引き金を引いた。
「バンッ」
ライフルの銃声が鳴った。
俺は恐る恐るお婆さんを見た。
先輩が言った。
「初めてなのにやるじゃねえか。」
どうやら命中していたらしい。
神様に押し付けられた初仕事を
無事に終えたみたいだった。
幸運か…。
あのお婆さんは幸運になるのか。
どんなことが起きるんだろう。
少しの期待と興味が湧いた。
明日見えたら覗いてみよう。
そんなことを思いながら
初日が終わった。
ただ、ここでこの仕事について
深く考えることになるなんて思いもしなかった。




