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『夢見るひずみ』  作者: TTT


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8/12

第8話 開演のベルは、あの日鳴った

いつも『夢見るひずみ』をお読みいただき、本当にありがとうございます!

前回の第7話、サークルの部室であの写真が白日の下に晒されてしまうという、最悪の結末を迎えてしまった真夢。

秘密がバレた絶望と恐怖の中、暗室の赤黒い光に照らされた彼女の奥底から、誰も知らない「もう一つの影」が這い出てきます。

第8話、真夢の真の「ひずみ」が暴かれる瞬間を、どうぞ見届けてください。

レンズ越しに見る世界は、いつもどこか他人事のようで心地よかった。


現像液の独特な匂いが立ち込める暗室。赤いセーフライトが、私の指先を、そしてトレイの中でじわじわと浮かび上がってくる一枚の写真を、禍々しい赤黒い色に染め上げていく。


第7話のあの最悪な結末。白日の下に晒されてしまった、私と後輩の夢の、あのきわどい写真。


サークルの部室でみんなの視線がそれに向いた瞬間、私の世界は音を立てて崩れ去った。息が触れ合うほど互いの距離を詰め、お互いにしか見せないような危うい表情を浮かべている私たち。隠し通さなければならなかった二人の秘密を、もう言い訳することなんてできない。


「……私の、せい?」


ぽつりと呟いた自分の声が、暗室の壁に跳ね返って鼓膜を刺した。冷たい汗が背中を伝う。すべてが終わってしまったという絶望が、脳の奥を締め付ける。


頭の奥で、カチリ、と硬質な音が響いた。


暗闇の向こうから、あの声が聞こえる。何年も前に、私の心を粉々に砕いて、どこかへ消え去ったはずの、あの忌まわしい記憶の残響。


『全部、あなたのせいでしょ』


「あは」


喉の奥から、自分でも驚くほど乾いた、冷酷な笑い声が漏れた。


瞬きをした次の瞬間、私の視界は反転する。さっきまで絶望に震えていた「真夢」の意識は、急速に冷たい泥の底へと沈んでいき、代わりに、もっと肥大化した、鋭利な私が水面に顔を出す。


ああ、またこの退屈な世界に戻ってきた。あの子――臆病で、秘密がバレることを恐れて、写真サークルの『優しい真夢先輩』を必死に演じていた可哀想な人形は、恐怖のあまりもう眠ってしまった。


私はトレイから濡れた写真を乱暴に引き揚げると、ピンチで吊るすこともせず、指先でその表面を強く爪立てた。写真の中で私に抱かれている夢の顔。秘密がバレて怯えている顔も、きっと可愛いんだろうな。


『ねえ、全部あなたのせいにしてあげる。だから、みんな終わらせちゃおうよ』


頭の中で、私と私が会話を始める。大切なものを失う恐怖から生み出された、夢への歪んだ愛を守るための、私を壊すための怪物。


ポケットの中でスマホが震えた。夢からのメッセージが表示される。


【真夢先輩、あの写真……みんなに見られちゃいましたね。私たち、もうサークルにいられないかも……どうしたらいいですか……?】


私は口元を歪め、画面を凝視した。

怯えるあの子なら、きっと『大丈夫だよ、私がなんとかするからね』と優しく嘘を吐くのだろう。


しかし、今の私の指先がタップしたのは、全く違う言葉だった。

暗室の赤黒い光の中で、私の中の『誰か』が、スマホの画面に毒を吐き出すように文字を打ち込んでいく。


怯えるあの子――写真サークルの『真夢先輩』なら、きっと震える指で優しい嘘を吐くのだろう。でも、今この身体の主導権を握っているのは、私ではない。


あの子が絶望の底に沈んだときにだけ現れる、冷徹で攻撃的な、私の中の『男』の人格。


彼は歪んだ笑みを浮かべ、夢からのメッセージを冷たく見下ろしながら、慣れた手つきでフリック入力をしていく。その口調は、サークルの誰も知らない、低く、残酷な響きを孕んでいた。


【夢、あの2人――慶太も夢果も、最初から僕たちのことを憎んでたんだよ。僕たちの関係を邪魔したくて仕方がなかったんだ】


画面の向こうで、夢が既読をつけて息を呑む気配が伝わってくるようだった。

彼は容赦なく、決定的な言葉をさらに打ち込む。


【だからさ、僕が2人を完璧に終わらせる『最高のショー』を見せてあげる。楽しみにしてて】


送信ボタンを押すと、暗室の静寂に電子音が小さく響いた。


彼はスマホをポケットに放り込むと、トレイの中で赤く染まったままの写真を指先でそっとなぞった。写真に写る夢の怯えた顔が、愛おしくてたまらない。


慶太と夢果。私たちの秘密を暴き、あの子を泣かせた罪は重い。力ずくで壊すなんて野蛮なことはしない。もっと美しく、もっと確実に、2人が築いてきたすべてを内側から崩壊させてあげる。サークルという狭い世界の中で、誰からも信じてもらえなくなるような、底なしの絶望へ叩き落とす。


「さあ、まずは何から始めようか」


真夢の唇から漏れたのは、低く、愉悦に満ちた男の声だった。赤い光に照らされたその瞳には、すでに2人を破滅へ導くための、完璧な罠のシナリオが写り込んでいた。

第8話をお読みいただきありがとうございました!

絶望した真夢先輩が引きこもる代わりに表に出てきたのは、サークルの誰も知らない、低く冷徹な「男」の人格……。

怯える夢を利用し、慶太と夢果の二人を内側から崩壊させるための「最高のショー」を始めようとする彼の目的とは一体何なのか。サークル内の関係性がここから一気に、より深い泥沼へと加速していきます。

ゾクゾクした、この先の復讐劇が気になる!と思ってくださった方は、ぜひブックマーク登録や、下の評価(☆☆☆☆☆から★★★★★へ!)で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

次回、彼が仕掛ける「最初の罠」とは――。どうぞお楽しみに!


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