第7話 友達だから、あなたを離さない
いつも『相棒とオレで描いた夢見るひずみ』をお読みいただきありがとうございます!
第7話は、真夢先輩の部屋の前での最悪の対峙です。
慶太を守るために一人で戦おうとしていた夢果の叫び、そして部屋から現れた夢。
3人の感情が激しく交錯する中、物語は誰も予想しなかった衝撃の展開へ向かいます。
ぜひ最後まで目撃してください!
……まゆ先輩、夢果!」
俺は我慢できずに、物陰から飛び出していた。朝の住宅街に、俺の場違いな声が響き渡る。
「慶太……!? なんで……」
夢果が弾かれたように振り返る。その顔は、秘密を握られた焦りと、俺を巻き込んでしまったという絶望で歪んでいた。
「あら、慶太くん。サボり魔の君が、こんな朝早くにどうしたの?」
真夢先輩は眉ひとつ動かさず、いつも通りの、だけど心底冷めきった瞳で俺を見下ろす。
「先輩……夢は、夢はどこですか! 部屋の中にいるんですか!?」
俺が詰め寄ろうとした瞬間、夢果が俺の胸元を強く突き飛ばした。
「来ないでって言ってるでしょ、慶太のバカ!!」
夢果の叫び声が響く。彼女の瞳から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「なんで来ちゃうのよ……! ウチが、ウチが1人で全部解決して、また3人でテニスするって決めたのに……! 慶太にこんな汚いところ、見せたくなかったのに……っ!」
夢果の胸の内の叫びだった。
彼女が俺を夢から遠ざけようとしていたのは、ただの嫉妬なんかじゃなかった。真夢先輩の狂気から俺を守るため、そして、大好きな友達である夢を自分の手で救い出すため、たった1人でこの恐怖と戦っていたんだ。
俺への恋心と、夢への友情。その両方を守るために、夢果は限界まで強がっていた。
「健気ね、夢果さん」
真夢先輩が、くすくすと低く笑う。
「でも無駄よ。あの子はもう、男と女の薄っぺらい恋愛ごっこになんて興味はないわ。私とあの子は、もっと深いところで繋がるの」
「ふざけないで……!」
夢果が声を絞り出す。
その時だった。ガチャリ、と重苦しい音を立てて、真夢先輩の後ろのドアがゆっくりと開いた。
薄暗い玄関口から這い出るようにして姿を現したのは、生気を失い、怯えたように肩を震わせている夢だった。
「……ゆ、め……?」
俺の声に、夢の大きな瞳がゆっくりとこちらを向く。
だけど、夢の視線は、俺を通り越して、その手前でボロボロに泣き崩れている夢果の姿に釘付けになった。
「夢果、ちゃん……」
夢の乾いた唇から、掠れた声がこぼれ落ちた。彼女の視線は、俺ではなく、激しく肩を震わせて泣いている夢果を真っ直ぐに見つめていた。
夢の胸の奥で、冷え切っていた感情が一気にパチパチと音を立てて弾け始める。
サークル棟の部室で、慶太と夢果の仲睦まじい姿を見た時、夢は自分の恋の終わりを悟った。だから、真夢先輩の甘い言葉に付け込まれ、この部屋に閉じ込められるような形になっても、どこか「これでいいんだ」と諦めていたのだ。自分が消えれば、二人は幸せになれる、と。
だけど、目の前にいる夢果は、幸せそうなんかじゃなかった。
泥だらけになりながら、必死に自分を救おうと叫んでいる。
(私は……慶太のことが、好き。でも、それと同じくらい……いや、それ以上に、夢果ちゃんを傷つけたくない……!)
自分に向けられた夢果の真っ直ぐな友情が、夢の頑なな心を激しく揺さぶる。
もしここで慶太の手を取れば、私は夢果の大切な想いを踏みにじることになる。だけど、夢果のその優しさに甘えて、真夢先輩の檻の中に引きこもったまま、彼女にこれ以上泣いてほしくない。
恋愛を選ぶのか、それとも、この温かい友情を守るのか。
引き裂かれそうな葛藤の末に、夢は震える足で、一歩前へ踏み出した。
「夢、だめよ。私のそばにいなさい」真夢先輩が、氷のように冷たい手を夢の細い手首に伸ばす。その瞬間、夢果が弾かれたように叫んだ。
「その手を離してっ……!!」
夢果は自分のラケットバッグを地面に投げ捨てると、真夢先輩と夢の間に、文字通り身体ごと割り込んだ。そして、真夢先輩の手を力任せに振り払う。
「夢ちゃんは、先輩の『宝物』なんかじゃない! ウチの、大事な友達なんだから……っ!」
「夢果ちゃん……」
夢の瞳から、堪えきれずについに涙が溢れ出した。
二人の少女の、剥き出しの感情のぶつかり合い。
俺はその光景に圧倒されながらも、二人が命がけで守ろうとしているものの尊さに、胸を激しく締め付けられていた。俺が、男の俺の恋心が、この二人をここまで追い詰めていたのかという、苦い後悔とともに。
「――うるさいわね」
不意に、真夢先輩の声から全ての抑揚が消えた。
彼女は自分の長い髪を苛立たしげにかき上げると、ポケットから取り出したスマートフォンの画面を、夢と夢果、そして俺の前に突きつけた。
「そんなに『友情』が大事なら、これを見ても同じことが言えるかしら?」
画面に映し出されていたのは、薄暗いサークル棟の裏、私服姿の夢と真夢先輩が、今にも唇を重ね合わせようとしているように見える、あまりにも不鮮明で、だけど決定的な一枚の写真だった。
「……え?」
夢果の息が止まる。
夢の顔から、一瞬で血の気が引いていった。
第7話をお読みいただきありがとうございました!
夢果の命がけの叫びによって、夢との強い友情が通じ合った……と思った瞬間に、真夢先輩が突きつけたあまりにも残酷な一枚の写真。最後の最後でとんでもない爆弾が投下されてしまいました……。
画面に映し出された写真の真実とは何なのか? そして、この写真を突きつけられた夢果と慶太はどうなってしまうのか――。
次回、この最悪の状況から物語がどう動くのか、ぜひ楽しみに待っていただけると嬉しいです!
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次回もお楽しみに!




