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『夢見るひずみ』  作者: TTT


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5/12

第5話:ファインダーの向こうの空白

いつも『夢見るひずみ』をお読みいただきありがとうございます。

第5話です。

これまではどこか「違和感」として漂っていた心のズレが、ついに目に見える歪みとなって現れ始めます。

最強のペアであるはずの慶太と夢果。しかし、欠けたもう一人の存在が、二人の関係をじわじわと侵食していき……。

どうぞ最後までハラハラしながらお楽しみください。


「――慶太、次、前衛お願い!」


夢果の弾けるような声がコートに響く。

いつものように鋭いラリーを返し、夢果のトスから俺がスマッシュを決める。ボールは綺麗に相手コートの隅へ突き刺さった。


「ナイススマッシュ!やっぱりウチら、最強のペアだね!」


夢果がラケットを掲げて駆け寄ってくる。いつもの弾けるような笑顔。だけど、ハイタッチを交わす俺の手のひらは、どこか冷めていた。


「ああ、サンキュー。夢果のロブが良かったからだよ」


口ではそう言いながら、俺の視線は無意識に、コートの脇にあるベンチへと向かってしまう。そこには、スポーツドリンクのボトルと、誰のものでもない白いタオルがぽつんと置かれているだけだった。


(……今日も、来なかったな)


夢がサークルを休みがちになって、もう二週間が経とうとしていた。

最初は「風邪でも引いたのかな」くらいに思っていた。だけど、ラインを送っても既読すらつかない。通学路のいつもの交差点にも、彼女の姿はなかった。


「……慶太?」


不意に名前を呼ばれて我に返る。目の前で、夢果が小首をかしげて俺の顔を覗き込んでいた。その大きな瞳に、微かな不安の色が混じっている。


「あ、ごめん。ちょっと疲れてるのかも」

「もー、ウチとテニスしてるときに、他のこと考えちゃダメ!……ほら、ドリンク飲んで休憩しよ!」


夢果は俺の手首を掴むと、ぐいぐいとベンチの方へ引っ張っていった。

いつも通りの強引さ。いつも通りのポジティブなエネルギー。だけど、掴まれた手首の強さに、どこか必死なものが混じっているような気がして、俺は小さな違和感を覚えていた。


ベンチに座り、スポーツドリンクの缶を開ける。それでも俺の思考は、どうしても夢のところへ戻ってしまう。


言葉は多くないけれど、俺のテニスの癖を誰よりも見抜いてくれた夢。後ろから静かに俺の背中を見つめてくれていた、あの心地いい空気感。それがすっぽりと抜け落ちたサークルは、どれだけ夢果が盛り上げてくれても、俺にとってはどこか隙間風が吹いているようだった。


「……俺、ちょっと夢の様子、見に行ってこようかな」


ぽつりと、独り言のように呟いてしまった。「明日の朝、ちょっと家の方に寄ってみる。さすがに連絡もつかないのは心配だし……」


俺がそう言った、その瞬間。


夢果の動きが、ピタリと止まった。


スポーツドリンクの缶を口元に運ぼうとしていた腕が、空間で凍りついたように静止している。彼女の長い睫毛が細かく震え、俯いた顔の影がぐっと濃くなった。


「夢果……?」


声をかけると、夢果は弾かれたように顔を上げた。

その顔には――いつもの、満面の笑みが張り付いていた。


「あはは!何言ってるの慶太、過保護すぎ!夢ちゃんだって、ちょっと体調崩して家でゆっくりしたいだけかもしれないじゃん。急に男の子が家に来たら、夢だって困っちゃうよ?」


鈴を転がすような、いつもの明るい声。

だけど、その笑顔はどこか歪だった。目は全く笑っていない。それどころか、俺を真っ直ぐに見つめるその瞳の奥には、今まで見たこともないような、暗くドロドロとした焦燥と嫉妬が渦巻いているのが見えた。


「それよりさ、明日の放課後、駅前に新しくできたパンケーキ屋さん、ウチと一緒に行こ? ほら、前に行きたいって言ってたやつ!」


夢果は俺の腕に自分の腕をぎゅっと絡め、さらに身体を寄せてくる。

拒絶を許さないような、必死な笑顔。絡められた腕から、彼女の心臓の激しい鼓動が伝わってくるようだった。


「あ、いや……」


断ろうとした俺の言葉を遮るように、夢果はさらに声を張り上げる。


「約束だからね! 明日は夢のことなんか忘れて、ウチといっぱい楽しも!」


その無理に作った笑顔の裏にある、剥き出しの執着。

俺は夢果のノリに気圧されながらも、背筋に冷たいものが走るのを確かに感じていた。


そして、その様子を、部室の窓からじっと見つめている冷ややかな視線があることにも、俺たちはまだ気づいていなかった。

第5話をお読みいただき、ありがとうございました!

夢果の笑顔の裏に隠された、ドロドロとした執着がとうとう爆発してしまいました。目が笑っていない笑顔って一番怖いですよね……。慶太の背筋に走った戦慄が、読者の皆様にも伝わっていれば幸いです。

そしてラスト、二人の様子を冷ややかに見つめる「あの視線」は一体誰のものなのか……?

物語はここからさらに加速していきます。

面白いと思っていただけたら、ぜひ評価や感想、ブックマークをよろしくお願いします!次回もお楽しみに!

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