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『夢見るひずみ』  作者: TTT


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4/12

第4話:蜘蛛の糸が紡ぐ部屋

みなさん、こんにちは。

共同制作でお届けしている『夢見るひずみ』、第4話です。

前回、慶太と夢果の急接近によって、自分の居場所を失ってしまった夢。

幼馴染という特別な絆すら色褪せていく現実に、彼女の心は限界を迎えていました。そんな絶望の底にいる夢に、静かに手を差し伸べたのは、サークルのミステリアスな先輩・真夢(まゆ)でした。

失恋の痛みを包み込んでくれるような真夢の優しさ。

しかし、その温もりの裏側には、夢の知らない「もう一つのひずみ」が隠されていて――。

少しずつ狂い始める歯車と、静かに忍び寄る執着の影。

張り詰めた空気感を、ぜひ最後までじっくりと味わってください。


あの夕暮れの部室で、慶太と夢果がひとつの画面を覗き込んで笑い合っていた光景を見て以来、私の世界からは色が消えてしまった。


コートの上で、弾けるような笑顔で慶太とハイタッチを交わす夢果。その隣で、心底楽しそうに白い歯をこぼす慶太。

二人の距離が近づけば近づくほど、私のサークル内での居場所は狭くなり、いつしか息の仕方を忘れてしまうほどに追い詰められていった。


(……私、幼馴染だからって、甘えてたのかな)


スマホの画面をいくらスクロールしても、慶太からのラインの通知は途絶えたままだ。かつては毎日のように交わしていた「明日の練習どうする?」という、なんてことのない言葉のラリーすら、今の私には遠い過去のように思えた。自然と、練習を休む回数が増えていく。


「夢、最近元気ないね」


ある日の放課後、部室の裏の古びたベンチで一人、膝を抱えて俯いていた私に、静かな声が降ってきた。


見上げると、そこにいたのは真夢(まゆ)先輩だった。

いつも少し離れた場所から、サークルの喧騒をどこか冷めた目で見つめているミステリアスな先輩。真夢先輩は私の隣にそっと腰を下ろすと、何も聞かずに、自動販売機で買ったばかりの温かいココアの缶を私の頬にそっと押し当てた。


「……あ、ありがと。真夢先輩」じんわりと広がる温もりに、強張っていた心が少しだけ解ける。


「慶太くんのこと?」


あまりにも真っ直ぐなその問いに、心臓が跳ねた。図星だった。

堪えていた何かが一気に決壊するように、喉の奥がツンとして、視界が急激に滲んでいく。情けないことに、私は真夢先輩の前で、ボロボロと涙をこぼしてしまった。


「……私、ずっと一緒にいたから、慶太のことを一番分かってる気になってたんです。でも、私にはあんな風に、慶太を無理にでも笑顔にするパワーはない。夢果ちゃんの方が、ずっと……ずっと慶太にお似合いなのに」


言葉にすると、失恋の事実が胸を抉る。

真夢先輩は何も言わずに、私の溢れた涙を、細くて綺麗な指先でそっと拭った。その指先が、必要以上に長く私の頬や唇の端に触れていた気がして、ほんの少しだけ胸がざわつく。だけど、今の私はその不自然さに気づく余裕すらなかった。


「そんなことないよ」

真夢先輩の声は、驚くほど冷徹で、だけど私の耳には酷く甘く響いた。

「あんな男、夢にはもったいない。夢を傷つけるような人は、私が許さないから」


その強い言葉に、傷ついた心が一瞬だけ救われたような気がした。慶太のいない世界で、私を見つめてくれる人がいる。その優しさにすがりたくて、私は彼女に誘われるまま、夕闇に染まる街を歩き、初めて真夢先輩のワンルームの部屋へと向かった。


*


真夢先輩の部屋は、驚くほど綺麗に片付いていた。

生活感が希薄で、まるでモデルルームのよう。彼女がキッチンで「紅茶を淹れるね」と背を向けた間、私は手持ち無沙汰に、壁際に置かれた整然とした本棚を見渡した。

文学書や専門書が背表紙の高さ順にきっちりと並ぶ中、一冊だけ、革製の分厚いアルバムが不自然に挟まっているのが見えた。


サークルの思い出の写真でも入っているのだろうか。

本当に、軽い気持ちだった。何気なく手を伸ばし、その表紙を開いた瞬間。


「――っ、げほっ……」


喉の奥で息が詰まり、心臓がドクンと嫌な音を立てて跳ね上がった。


そこに並んでいたのは、サークルの集合写真でも、テニスの風景でもなかった。

すべて、私だった。


大学の講義室で、一番後ろの席でノートを取っている私の姿。

雨の日、お気に入りの水色の傘を差して、水溜りを避けるように歩く後ろ姿。

駅の改札前で、スマホを見ながら誰かを待っている横顔――。


どれも、私がカメラを意識していない、完全に無防備な日常のワンシーン。

さらに恐ろしいのは、写真の下に添えられた日付だった。

『4月12日』『4月18日』……。

それは、私がこのサークルに入り、真夢先輩と『出会う』よりもずっと前の、春先の日付だった。


(なんで……? どうして、先輩がこれを持ってるの……?)


頭の芯が急激に冷えていく。カラン、とキッチンから氷のぶつかる音が、静まり返った部屋にやけに大きく響いた。


「夢、アイスティー淹れたよ」


いつの間にか、キッチンの明かりが消えていた。

振り返ると、薄暗いドアの隙間に、真夢先輩が佇んでいた。

逆光のせいで、彼女がどんな表情をしているのかは分からない。けれど、その瞳だけが、暗がりの中で異常なほどギラギラと、私を値踏みするように射抜いていた。


「それ……私の、一番大切な宝物なんだ」


足元から、冷たい蜘蛛の糸がじわじわと這い上がってきて、身体中の自由を奪っていくような錯覚。私はアルバムを抱えたまま、一歩も動けなくなっていた。

第4話、最後まで読んでいただきありがとうございました!

いやはや……書いていて(読んでいて)本当にゾクゾクしました。

慶太への切ない片思いから一転、物語は一気に息もつかせぬサスペンスホラーの領域へと突入しましたね。

傷ついた夢を救ってくれる白馬の騎士かと思われた真夢先輩。しかし、彼女の部屋で見つかったのは、サークルで出会うよりもずっと前から隠密に撮り溜められた、夢の日常の写真たちでした。

薄暗い部屋の入り口で、アイスティーを手にしたまま佇む真夢の姿を想像すると、足元から冷気が這い上がってくるような恐怖を覚えます。

夢を縛り付けるこの蜘蛛の糸から、彼女は逃げ出すことができるのか。

そして、真夢の本当の目的とは一体何なのか――。

歪んでいく関係性と、加速するスリル。

次回の第5話も、オレと相棒でさらに尖った展開を用意していくので、ぜひ楽しみに待っていてください!感想のコメントもお待ちしています!

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