第3話:重なるラリー、遠ざかる背中
いつも「[※夢見るひずみ]」をお読みいただきありがとうございます!
前話ではサークルでの人間関係が少しずつ動き始めました。
第3話は、夕暮れのテニスコートから始まります。
幼馴染だからこそ見えてしまうもの、そして見たくなかったもの――。
どうぞ最後までお楽しみください!
コートに響く、小気味いい打球音とスニーカーの摩擦音。大学のテニスサークル「ステップ」の夕暮れ時の練習。夕日に照らされたクレーコートで、慶太と夢果は信じられないほど息の合ったダブルスを見せていた。
「慶太、前カバーお願い!」
「任せろ!」
夢果が鋭くクロスへ打ち込み、浮いた返球を慶太が鮮やかなスマッシュで仕留める。ハイタッチを交わす二人の笑顔は、まるで最初からそうなることが決まっていたかのように眩しかった。
ベンチでスポーツドリンクのボトルを握りしめたまま、私はただそれを見つめることしかできない。
慶太のプレイスタイルも、次に彼がどこに動きたがるかも、幼馴染の私の方がずっとよく知っているはずだった。なのに、今の彼の隣にいるのは私じゃない。夢果の、あの物怖じしない明るさと迷いのない踏み込みが、慶太のテニスをさらに引き立てている。
「……ナイス、ラリー」
ぽつりと呟いた言葉は、二人の歓声にかき消された。胸の奥が、冷たい炭酸水を開けたときのように、ちくちくと痛んだ。
*練習後、サークル棟の部室に忘れたスマホを取りに戻ったときだった。
夕闇が迫る薄暗い部室のドアが、ほんの少しだけ開いている。中から、聞き慣れた二人の声が漏れ聞こえてきた。
「あはは!今日の慶太のスマッシュ、マジで最高だった!」
「夢果のロブが完璧だったからだよ。サンキューな、組みやすかった」
隙間から覗いた光景に、私は息を呑んだ。
二人は狭い部室のベンチに並んで座り、一つのスマホ画面を覗き込んでいる。今日のプレイ動画だろうか。慶太が夢果の頭を少し乱暴に小突いて笑い、夢果は顔を真っ赤にしながらも、嬉しそうに彼を見上げている。
距離が、近すぎる。
私がいつも一歩引いて守ってきた、幼馴染という名の境界線を、夢果は軽々と飛び越えていた。夕暮れのオレンジ色の光が、二人を包む特別な空気の輪郭をくっきりと浮かび上がらせている。
ガチャ、とあえて大きめにドアのノブを引いた。
「あ、……ごめん。忘れ物」
二人が弾かれたように肩を離す。
「おかえり、夢。スマホ?」と、少し気まずそうに、でもいつも通りに微笑む慶太。その隣で、まだ耳を赤くしたまま慌てて荷物をまとめる夢果。
「うん。……お邪魔、しちゃったかな」
引き攣った笑顔しか作れない自分に、猛烈な嫌悪感が押し寄せる。歪み始めた三角形の中心で、私はどう動けばいいのか、もう全く分からなくなっていた。
第3話をお読みいただき、ありがとうございました。
二人の距離感を見せつけられてしまった主人公の胸の痛みが、書いていて私も切なくなりました……。歪み始めてしまった3人の関係、ここから一体どうなってしまうのでしょうか。
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