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『夢見るひずみ』  作者: TTT


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2/12

第2話:シトラスの朝、歪む三角形

感覚で通じ合う私と彼。会話で彼を笑顔にする彼女。

シトラスの風が吹く通学路、私たちはまだ、この恋の名前を知らない――。

大学のテニスサークルに所属する夢(ゆめ)には、毎朝の通学路を一緒に歩く幼馴染の慶太(けいた)がいる。テニスという共通言語で静かに、だけど深く心が噛み合う瞬間が、夢にとって何よりも愛おしい時間だった。

しかし、そんな二人の空間に、圧倒的な陽キャのエネルギーを持つ夢果(ゆか)が加わると、空気は一変する。

夢果の弾けるようなトークのテンポに巻き込まれ、戸惑いながらも楽しそうに笑顔を浮かべる慶太。

一歩引いた場所からその背中を見つめる夢の胸の奥に、チクリと小さな針が刺さる。

「言葉は弾まないけれど、感覚が合う私」と、「ノリは合わないけれど、会話が弾み続ける彼女」。

まだ誰も自分の恋心に名前をつけていない、朝の通学路。

爽やかな風の中で、3人の影はほんの少しずつ歪な三角形を描き始めていた。

大学生ならではの、少し大人びて、だけど痛いほど純粋な青春三角関係ラブストーリー。


朝の通学路は、昨日の夕暮れとはまったく違う匂いがする。湿ったアスファルトが太陽に温められる匂いと、どこかの庭から香る、かすかな金木犀。


水色と白のテニスバッグを肩にかけた夢(ゆめ)は、いつもの交差点で足を止めた。そこにはすでに、見慣れた二人の姿があった。


「あ、夢!おはよー!見てこれ、ウチの猫が今朝とんでもない格好で寝ててさ!」


弾けるような声でスマホを突きつけてきたのは夢果(ゆか)だ。

彼女の周りだけ、いつも空気の振動数が高い。テニスサークルでもその持ち前の「陽キャノリ」で、男女問わず部員を引っ張るムードメーカーだった。


夢はクスッと小さく微笑んだ。「本当だね。完全に野生を忘れてる」


夢がクスクスと笑うと、夢果は「でしょー!?」と満足げにさらにスマホの画面をスクロールさせる。その勢いに少し圧倒されたように、一歩後ろを歩いていた慶太(けいた)が、控えめに「おはよう、夢」と声をかけてきた。


「おはよう、慶太。今日も朝練行くの?」「うん、一応。でも、ちょっと昨日のサーブの感覚が残っててさ。肩が重いっていうか……」


慶太が少し困ったように眉を下げて、右肩を回す。


「あ、それならインパクトの瞬間に手首が返りすぎてるのかも。昨日、最後のラリーのとき、ちょっと打点が後ろになってたよ」


夢が自然な口調で指摘すると、慶太の目がパッと輝いた。


「あ、やっぱり? 自分でもなんか違和感あったんだ。夢、よく見てるな」

「いつも後ろから見てるからね」


二人の間で、テニスという共通言語を通した静かで心地いいラリーが始まる。お互いに多くを語らなくても、感覚的な「ノリ」がピタリと噛み合う瞬間だった。


しかし、その空気を察した夢果が、すかさず二人の間に割って入る。


「えー!なになに、またテニスの難しい話? 慶太ってば真面目すぎ!そんなことよりさ、今週末のサークルの買い出し、どこのお店行くか決めた?ウチ、駅前にできた新しいパンケーキ屋さんがいいなー!」


夢果のトークのテンポは速い。話題は一瞬でテニスから週末のイベントへと飛び跳ねる。


「えっ、あ、いや……まだ決めてないけど。パンケーキ屋って、男一人じゃ入りづらいし……」


慶太はあからさまに戸惑い、ついていけないという顔で苦笑いした。夢果のエネルギーは時に、静かに考えたいタイプの慶太には少し眩しすぎるのだ。


だが、夢果はそんな慶太の困り顔など気に留める様子もなく、さらに言葉を畳みかける。


「何言ってるの、ウチらが一緒に行くんだから関係ないじゃん!あ、そこのお店、映えるスムージーの新作も出たらしくてさ――」


夢果がひとたび話し出すと、会話のキャッチボールは途切れない。慶太はタジタジになりながらも、「へえ、そうなんだ」「詳しいね」と、夢果のペースに巻き込まれていく。気づけば、登校路の主導権は完全に夢果のものになっていた。


夢果の話は弾む。慶太も、なんだかんだと言いながら彼女の明るさに引っ張られ、笑顔を見せている。


その様子を、夢は一歩引いた場所から静かに見つめていた。


(……夢果って、すごいな)


夢の胸の奥に、チクリと小さな針が刺さる。自分と慶太の間には、確かに「通じ合うノリ」がある。だけど、慶太をあんな風にタジタジにさせながらも、無理やり笑顔にさせてしまうパワーは、自分にはない。夢果と話しているときの慶太は、どこか楽しそうだ。


言葉は弾まないけれど、感覚が合う自分。ノリは合わないけれど、会話が弾み続ける夢果。


慶太の視線が、夢果の笑顔に向かう。その慶太の後ろ姿を、夢の視線が追う。そして夢果は、慶太の気を引こうと、さらに声を張り上げる。


まだ誰も自分の恋心に名前をつけていない、朝の通学路。

爽やかなシトラスのような風が吹く中で、3人の影は、ほんの少しずつ歪な三角形を描き始めていた。


学校の校門が見えてくる。

夢はバッグの紐をぎゅっと握り直し、二人の背中に追いつくために、少しだけ歩幅を広げた。

読者の皆様、はじめまして。作者のTTTです。

数ある作品の中から本作を開いていただき、本当にありがとうございます!

朝の通学路の匂い、言葉にしなくても伝わる心地いい空気、そして自分にはない眩しさへのちょっぴり切ない嫉妬心……。大学生活という新しい世界の中で、誰もが一度は通り過ぎたことのある「青春のきらめきと揺らぎ」を丁寧に描いていきたいと思い、この物語を書き始めました。

静かに慶太を想う夢、嵐のように周りを巻き込む夢果、あるいは二人の間で揺れる慶太。

まだ始まったばかりの歪な三角形が、これからどんな風に形を変えていくのか、一緒に見守っていただけたら嬉しいです。

もし「雰囲気が好きかも」「続きが気になる!」と思ってくださったら、ブックマークや評価、感想などで応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

次話はさっそく、夢果の言っていた「週末の買い出しとパンケーキ屋」のお話になりそうです。どうぞよろしくお願いいたします!

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