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『夢見るひずみ』  作者: TTT


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11/12

第11話:終わりの始まりの日 〜崩れる芸術と姉妹の影〜

鳴り響く火災報知器、立ち込める白い煙。

夢果の仕掛けた命がけの作戦により、狂気の空間は一転して混沌へと化します。

真夢の身体を盾にする男の執念に、苦戦を強いられる慶太。

絶体絶命の窮地を救うのは――。

第11話、混沌の脱出劇。どうぞ最後までお見逃しなく……!


「ピィィィィィィ――!!! ビーーーッ! 火事です! 火事です!」


鼓膜をブチ破らんばかりの爆音と、機械的な警告音声が赤暗い部屋を支配した。夢果のつけた火から一気に煙が立ち込め、アパートの狭いワンルームを瞬く間に白く染めていく。


「なっ……、バカな、私の、私の芸術が……っ!!」


真夢先輩の顔をした男の表情が、初めて恐怖と焦燥に歪んだ。男は狼狽しながら、煙の中で床に落ちたスマホの配信ボタンへ必死に手を伸ばそうとする。


「させるかよぉぉぉっ!!」


俺は考えるより先に身体を動かしていた。煙を吸い込まないよう息を止め、男の胴体めがけて頭から突っ込む。

ドンッ! と重い衝撃。俺と男は、壁にピン留めされていた大量の夢の写真を引きむしりながら、激しく床へと転がった。


「ガハッ……! 邪魔をするな、慶太ぁッ!」


男が真夢先輩の華奢な身体からは想像もつかない力で、俺の胸ぐらを掴み、突き飛ばそうとしてくる。俺は必死にその腕を抑え込んだ。

至近距離で見つめ合う。

端正な真夢先輩の顔。だけど、その瞳の奥でギラギラと蠢いているのは、紛れもなくあの冷酷な『男』の狂気だ。


(クソッ……、真夢先輩の身体なんだ……! 本気で殴ったら先輩が……!)


一瞬、俺の心に生じた迷い。男はその隙を逃さなかった。

バキッ、と鈍い音がして、俺の頬に強烈な衝撃が走る。男の頭突きだった。


「あぐっ……!」

「アハハハ! 優しいねえ慶太くん! 彼女の身体が傷つくのが怖いか? なら、そのまま私に潰されろ!」


視界が火花を散らす中、男が俺の首に両手をかけ、全力で絞め上げてくる。呼吸が止まり、目の前が急速に暗くなっていく。


「慶太……! 今助けるっ!」


その時、白い煙を切り裂いて、夢果が男の背後から飛びかかった。部屋にあった重いビデオカメラの三脚を、男の腕めがけて叩きつける!


「ぐああぁっ!?」


男の拘束が緩んだ。俺は激しく咳込みながら、酸素を肺いっぱいに吸い込む。


「夢果、夢を……! クローゼットだ!」


「わかった!」夢果はすぐに床を見回した。男がもみ合った拍子に、ポケットから何かの鍵が滑り落ちるのを、彼女の鋭い目が捉えていたのだ。

夢果は床に這いつくばり、煙の中で金属光沢を放つその鍵をひったくるように掴むと、クローゼットへと走った。


ドアノブにガチガチとハメられていた南京錠の鍵穴に、奪った鍵を差し込む。

カチャリ、と小気味いい音がして、重い錠前が外れた。


ガタッと扉が開く。中から飛び出してきたのは、涙と汗でぐしゃぐしゃになった、夢だった。


「夢果ちゃん……! 慶太……!」

「夢ちゃん、もう大丈夫! 立てる!?」


夢果が夢の肩を支え、ガッチリと抱きしめる。夢の救出は成功した。スマホの写真拡散も、この大混乱と煙に巻かれた空間ではもう不可能だ。


俺たちの勝ちだ――そう確信した、その時だった。


「アハハ……, ハハハハハハ! 素晴らしいねえ、友情、愛情、自己犠牲! 実に美しい!」


床に倒れ込んだまま、男が狂ったように笑い出した。立ち込める白煙の向こうで、真夢先輩の口から、男のドスの利いた声と、真夢先輩自身の細い声が、不気味に混ざり合って響く。


「だけどねえ、慶太くん。君たちは大きな勘違いをしているよ」


男はゆっくりと立ち上がった。その足元はふらついているが、瞳に宿る不気味な余裕は消えていない。薄いアパートの壁を突き抜けて、近隣の住人が騒ぎ立てる声や、階段を駆け上がってくる足音、そしてかすかに警察のサイレンの音が近づいてくるのが聞こえる。


俺は夢と夢果を背中に庇いながら、男を鋭く睨みつけた。


「勘違いだと……? 終わりなんだよ、あんたの犯罪は! もうすぐ警察が来る!」


「警察? 捕まるのは誰かな?」

男は歪んだ笑みを浮かべ、自分の頭をトントンと指先で叩いた。


「この身体は『真夢』だ。そして私は、彼女が創り出した幻影。……ねえ、君たちはまだ、何も分かっていないんだ。なぜ彼女が、夢ちゃんにこれほど執着したのか。なぜ『推しどり姉妹』なんていう歪な関係が生まれたのか……」


男の言葉に、俺の背筋に冷たい戦慄が走る。


「私を消せば、真夢の精神も完全に崩壊する。そして、君たちが信じている『真実』の裏側には、もっとドス黒い、あの姉妹の『本当の姿』が隠されているのさ……。すべては、あの始まりの日に――」


男がそこまで言った瞬間。

ピクン、と真夢先輩の身体が大きく痙攣した。


「あ……、あ、う、頭が……っ!」


男の邪悪な笑みが消え、真夢先輩の顔が激しい苦悶に歪む。彼女は自分の頭を抱え込み、そのまま糸が切れた人形のように、床へとバタリと倒れ込み、意識を失った。


「先輩……!?」


煙が立ち込める部屋。鳴り響く警告音。

救出された夢は、ガタガタと震えながら、倒れた真夢先輩をただじっと見つめていた。その瞳には、恐怖だけではない、何か別の深い『絶望』が混ざっているように見えた。


遠くから近づくサイレンの音が、すぐそこまで迫っていた。

俺たちの戦いは終わったはずだった。なのに、胸のざわつきは激しくなる一方だった。

真夢先輩の中にいた男の言葉。そして、夢のあの視線。


――俺たちはまだ、この事件の本当の闇を、何一つ知らなかったんだ。


第11話をご覧いただき、ありがとうございました!

煙が立ち込める極限状態の中、夢果のファインプレーによって無事に夢をクローゼットから救出することに成功しました!

しかし、気絶間際に男が遺した「真実の裏側」という不気味な言葉。そして、救われたはずの夢が見せた、恐怖だけではないあの視線……。

警察のサイレンが迫る中、事件は終わるどころか、さらにドス黒い本当の闇へと突入していくことになります。あの姉妹に隠された秘密とは一体何なのか――!?

ここからの新展開や、明かされる過去が気になる方は、ぜひ画面下の【ブックマーク登録】や【いいね】、応援の【評価★】をポチッと押していただけると、執筆の大きな励みになります!

次回の第12話から、いよいよ物語の核心へ。どうぞお楽しみに!

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