第12話:推しどり姉妹
あの嵐のような夜から数日後。
事件はストーカー事件として処理され、ひとまずの平穏が戻ったかのように見えました。
しかし、病院の面会室で待っていたのは、すべての謎を解き明かすあまりにも残酷な真実。
慶太、夢果、そして夢が直面する、血の呪縛と歪んだ愛の結末とは――。
『夢見るひずみ』ついに最終回。
三姉妹の物語の結末を、どうぞ最後まで見届けてください。
あの嵐のような夜から数日後。アパートの一件は、表向きは「ストーカーによる監禁・脅迫事件」として処理され、真夢先輩は精神鑑定も含めた医療刑務所への収容が決まった。
俺と夢果、あるいは体調の回復した夢は、病院の面会室にいた。アクリル板の向こう側に現れた真夢先輩は、あの夜の狂気は嘘のように消え失せ、ひどく痩せて、だけどどこか憑き物が落ちたような静かな瞳をしていた。
「……来てくれたんだね。慶太くん、夢果ちゃん、夢ちゃん」
真夢先輩の声は、いつもの、俺たちの優しかった先輩のものだった。だけど、その口から紡がれたのは、この物語のすべての謎を解き明かす、あまりにも残酷な真実だった。
「ごめんなさい、二人とも。……ううん、夢果、夢。ちゃん付けで呼んでいたのはね、そう呼ばないと、自分がどうにかなりそうだったから。本当の名前で呼んだら、憎しみが止まらなくなると思ったから。……あなたたちが、お互いをそう呼び合っていたようにね」
先輩の言葉に、俺は思わず二人を見た。夢果と夢は、静かに目を伏せる。
二人は大学で出会った親友同士ではなかった。父親が同じ、腹違いの姉妹。年の近い二人は、数年前にその事実を知り、だけど「姉」「妹」と呼び合うにはあまりに複雑な家庭環境のせいで、お互いを気遣うように、あえて友達のように「ちゃん」を付けて呼び合っていたのだ。
アクリル板の向こうで、真夢先輩が小さく震える手をガラスに押し当てた。
「知っていたよ。二人がそうやって、私の知らない『父の面影』を共有し合っていたこと。……私たち、本当は三姉妹なんだよ。私が、一番上の姉」
「父親が亡くなった日。厳格だった父の遺品を整理していた真夢先輩は、父がもう一つの家庭を持ち、二人の娘を溺愛していた証拠を見つけてしまう。本妻の母はあなたたちの存在を完全にシャットアウトし、葬儀の場から徹底的に排除したため、顔を合わせることはなかった。だけど写真のなかで誰よりも幸せそうに笑う二人を見たその日こそが、血の呪縛を知ってしまったすべての『始まりの日』だった」
本妻の子として、愛に飢えて育った真夢先輩。一方で、写真の中の夢果と夢は、父親の腕の中で、世界で一番幸せそうに笑っていた。
「許せなかった。私から父の愛を奪った二人が、同じ大学に入って、仲良く『ちゃん』付けで寄り添い合っていることが。だけど、同時に、血の繋がった二人がたまらなく愛おしく思えてしまった。近づきたくて同じサークルに入ったけど、本物の二人を見たら、嫉妬と愛憎で頭が狂いそうになったの」
真夢先輩の精神は、二人の妹への「愛」と「憎しみ」の板挟みになり、限界を迎えた。その結果、真夢自身が傷つかないために、憎しみと破壊衝動だけを肩代わりする『男の人格』が生まれたのだ。
「あの男は、私の生き霊のようなもの。夢ちゃんをカメラに収めて、私だけのものに飼い殺したいという『執着(推し)』。そして、籠の鳥のように私に囚われてほしかった『鳥』。それが……周囲から仲の良い『おしどり姉妹』と呼ばれていた私たちの、本当の全貌(推しどり姉妹)だよ」
先輩は、悲しそうに、だけど愛おしそうに夢果と夢を見つめた。
「すべてをめちゃくちゃに壊したかった。でも……慶太くん。君が命がけで二人の手を握り、護ろうとした時、私の中の『男』は消えたの。あの子たちには、命をかけて護ってくれる人がいる。それを見たら、なんだか、私の負けだって、すんなり受け入れられたの」
面会時間の終了を告げるブザーが鳴り響く。真夢先輩はゆっくりと立ち上がり、最後に俺を見て、優しく微笑んだ。
「慶太くん、二人をよろしくね。……バイバイ、私の可愛い妹たち」
背中を向けて去っていく姉の姿を、夢果と夢は、声を上げて泣きながら見送った。二人が「ちゃん」付けの裏に隠していた複雑な血の繋がりは、さらに大きな悲劇の引き金になっていたのだ。
アスピリンのような白い秋の光が降り注ぐ、病院の中庭。
夢果と夢は、お互いの手をぎゅっと握りしめていた。血の呪縛という深い闇を知ってしまった二人の身体は、まだ小さく震えている。
「慶太……」
夢が、涙の滲んだ目で俺を見上げる。
「私たちは、これからどうしたらいいのかな……」
俺は、二人の肩をそっと抱き寄せた。
「一緒に歩いていこう。何があっても、俺が二人を護るから。これからは『ちゃん』なんて付けなくてもいい、本当の家族になっていこう」
俺の言葉に、二人は顔を見合わせ、涙を流しながらお互いの名前を呼んだ。
「うん……夢果」
お姉ちゃんである夢が、初めて「ちゃん」を外して妹の名を呼ぶ。
「……うん、お姉ちゃん!」
夢果が涙を溢れさせながら、ずっと呼びたかった言葉を返した。
二人はそうやって本当の姉妹になり、俺の胸に顔を埋めて泣いた。
繋いだ手の温もりだけが、嘘偽りのない本物だった。
血の繋がりが生んだ悲劇は、決して消えはしない。だけど、俺たちはもう、あの赤黒い暗闇の部屋にはいない。白く眩しい光の中を、三人で、一歩ずつ進んでいくんだ。
『夢見るひずみ』、ついに堂々の完結です!最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
隠されていた「三姉妹」という衝撃の事実。真夢先輩が抱えていたあまりにも深い孤独と、夢果・夢が背負っていた複雑な過去が明かされる、切なくも重厚なクライマックスとなりました。
(※ここに後半の結末・エピローグに合わせた一文を1文追加:例「最後に三人が選んだ未来は……」など)
ここまで慶太たちの戦いを見守り、応援してくださった読者の皆様には感謝しかありません。
もし「面白かった!」「最高の結末だった!」と思っていただけましたら、最後にぜひ画面下の【ブックマーク登録】や【いいね】、そして完結記念の【評価★】をポチッと押して応援していただけると、次回作への最大のエネルギーになります!
また次の物語でお会いしましょう。本当にありがとうございました!




