第2章4話 芽吹きの時
目の前でスカルさんが連れていかれてしまった。聞いてた話と特徴が似ていたから多分アイアンリザードだ。頼みの綱のスカルさんもいないし助けを呼ぼうか……。
いつもの弱気な選択が頭を過る。
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「ストロ、お前はなにが得意なんだ」
「一応、木魔法と土魔法ができます。得意と言っていいかはわからないですけど」
「現場前に少しできることを見せてくれ」
襲撃をうけた現場に向かう道中で転がっていた大きな岩に魔法を放つようにスカルが指示した。
ストロは手を伸ばすと瞬く間に魔法が行使される。先の尖った丸太が飛んでいき、岩に浅く刺さる。そのあとすぐに土魔法を行使する。大きな土の塊を飛ばし、岩に大きな凹みをつける。
「こんな感じで威力が全然ないんです。兄さんたちなら一撃で岩が吹き飛ぶんですけど僕はこれぐらいしかできないんです」
「魔法行使速度はいつもそれぐらいか」
「行使速度ですか……意識したことないです」
「次はとにかく早く使ってみろ」
ストロは頷くと手を岩方向にかざした瞬間、魔法が飛んでいく。スカルは心の中でニヤリと笑う。
「お前は兄たちのようにはなれない。だがそれでいい。この行使速度は絶対に武器になる。工夫と速度で戦うことを意識してみろ」
「そんなこと言われても……」
「納得できなくてもいい。その時が来たら思い出すだけでいい」
「……わかりました」
「あとなにがあっても今回の案件は二人でどうにかするぞ。わかったな」
「えっ……っておいていかないで!」
スカルは現場に向かって歩みを始めた。置いて行かれないようにバタバタとストロはついていく。
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いや、ダメだ。あの強いスカルさんが言うんだ。僕の力でやってみよう。それにスカルさんもあれで倒される人じゃない。きっと生きてる。まずは合流から。
ストロはスカルが連れていかれた方向に歩みを始めた。しばらくすると気配を感じ始めた。洞窟を進むと少し広い空間に出た。3匹のアイアンリザードが壁や天井に居座る。ストロをギロリと覗く。それにびくついてしまう。
1体がストロにとびかかる。それに向かって慌てて魔法を打ち込む。アイアンリザードの頭部に土の塊が当たるがびくともせず、そのまま突進される。盾で受けると吹き飛ばされ、壁に体がめり込む。盾で防御したため意識を飛ばすことはなかったが、力負けを痛感する。
痛い。痛い。どうすればいい。魔法は効かないし、多分槍も有効打にならない。1体でもきついのにあと2体もいる。これ死んじゃうよ。本当に勝てるの?
頭の中を不安が過るがスカルの言葉が思考の中を反芻する。
工夫ってなんだろう。ってあぶない。まずは動き続けないと。
壁に埋まっていたストロにアイアンリザードの突進が飛んでいくがうまく抜け出し躱す。その流れで動きながら3体の攻撃をいなす。
真正面で受けたら飛ばされるからまずは受け流せばいいかな。そこからどう倒すか考えよう。
淡々とアイアンリザードの突進やかみつき攻撃を盾を使いながらいなしていく。ストロは当たり前のように思考しながら回避を続ける。思考によぎるのはアイアンリザードに対して有効的な攻撃とはなにかという問題のみ。
威力は足りない。工夫ってなんだろう。どうやってもあの鱗を貫通できないし、弱点らしい部分もない……。それにしてもこの突進うざいったいな。威力が高いし、まともに受けないように必死なんだから頻繁に突っ込んで来ないでほしいな。またきた。
アイアンリザードの1体がかなりの強さで突っ込んできた。これも素早く避けると後ろの壁に激突した。激突したアイアンリザードが頭を振ると鱗が落ちた。
ほら自分の突進で鱗が落ちてるし。あんな突進を盾で受けたのか。飛ばされるのもうなずけるな……あ、これかも。
戦闘中に心の中で愚痴をいいながらも思考を止めなかったストロに降って落ちた考えがストロの次の行動を決定づける。すばやく壁際に立ったストロはかみつき攻撃をいなし、突進を待つ。
アイアンリザードの1体と目が合う。
くる。
轟音とともにアイアンリザードがストロに突進で迫る。これまたストロは回避をする。しかしさっきと違うのはここから。後方の壁に先の尖った岩柱を作り、アイアンリザードの突進がそこに突っ込む。止まれないアイアンリザードが躱そうするが、アイアンリザードを後ろから丸太で押し込んだ。かなりのパワーを孕んだまま岩柱に突っ込んだ。轟音とともに煙が上がり、結果を隠す。
どうなった。これでノーダメージなら新しい方法を考えないといけない。
自然と思考が次に行く。ストロの新しい境地が開かれ始めていた。
煙が晴れるとなんと大きな岩柱に頭から突き刺さり絶命寸前の状態だった。ストロは自然とにやける。
自ら工夫して良い結果が返ってきた。これほど楽しいものはない。挑戦し、調整し、また挑戦する。この過程を経て、高みに近づく。最高にいい気分だろストロ。
スカルが少し離れたところでストロの雄姿を見届ける。漏れ出す魔素を最大限薄めることで完全に気配を消していた。スカル自体は連れ去られた直後にあっという間にアイアンリザードから抜け出していた。もとよりそのつもりだった。魔獣は強い魔素に惹かれるため、洞窟に入ったスカルは強い魔素を醸し出し、アイアンリザードを誘っていた。すべてはストロのため。兄を頼る癖、兄に対するコンプレックス。すべてを払拭できる良い機会だった。
頃合いを見て合流だな…………まさか。
3体目のアイアンリザードを倒したタイミングでストロ、スカル両者とも気づく。奥の洞窟から色の違うアイアンリザードが現れた。
ミスリルリザードだと。アイアンリザードの完全な上位種じゃないか。
なんか違う色のアイアンリザードがきた。多分アイアンリザードより強い気がする。
ストロが身構えた瞬間、塊が頭をかすめる。よく見ると鱗をとんでもない速さで飛ばしていることが分かった。ストロは冷や汗をかくが不思議と混乱せず、冷静に物事を飲み込んでいた。
ミスリルリザードはミスリル鉱石とほぼ同じ硬度の鱗を飛ばすことができる。突進などの近接攻撃に遠距離攻撃を織り交ぜることができるようになったため、トカゲ系の魔獣の中では最強と名高い。並大抵の人間だといくら束になっても勝つことができないとされている。
スカルも加勢しようと考えた矢先、ストロの表情が目に入る。緊張しつつも必要以上に怯んでいるわけでもない。目にはひっそりだがしっかりと闘争心を宿していた。
何度見てもこの瞬間は嬉しいものだな。ギリギリまで見届けておこう。今のストロがどこまでできるのか。見せてもらおうか。
ミスリルリザードはストロを明確に敵と認識していた。鱗を飛ばし、安全圏で様子を見る。しかし目の前のオークには鱗が効かない。それでも動揺しない。そういうレベルの相手とは何度もやり合い勝ってきた。故に洞窟の王として君臨してきた。
ストロは冷静に対応し続けていた。盾で受けつつ、魔法で牽制していた。土魔法で突き上げを行うことで致命傷にはならないが動きに制限をつける。木魔法で足にツタを絡ませることでさらに制限をつける。しかし致命傷になる攻撃ができない。
攻めあぐねているが立ち回りはほぼ完璧だ。あと一押しだな。
「ストロ! 魔法を圧縮してみろ。今のお前ならできるはずだ」
「えっ生きてる? というかなんでそこに?」
「それは今はどうでもいい。勝つことに集中しろ」
「はい!」
ストロは立ち回りを維持しながら、攻撃に使う魔法を行使する際に魔素を圧縮する。そして魔法が行使される。細いが圧倒的な密度の樹木が硬度の低い腕の付け根部分に突き刺さる。刺さって少し経つとミスリルリザードがゆっくり膝を折り倒れた。口から大量の血を流していた。
「圧縮することしか教えてないのにここまでたどり着くとはな」
「工夫って言ってたからね。外は固いけど中身は柔らかいと思ったから刺さった後に中で枝を広げたんだ。うまくいって良かった」
「言っただろう。お前は強くなるとな。ということで俺はやることがあるから引き続きアイアンリザードの掃討は任せる」
「え!? そんな!」
「いいから行ってこい」
トボトボとストロはアイアンリザードの掃討に向かった。もっと褒めてくれてもいいのにと呟きながら。
スカルはミスリルリザードが出てきた場所が気になっていた。
アイアンリザードは本来ミスリルリザードになったとしても鱗攻撃をあの頻度で打ち出すことはできない。魔素が足りず、鱗が剥げてしまうためだ。しかし、あの戦闘中ずっと打ち続けていた。あの魔素量の根源や理由があると推測していた。そしてその推測が当たる。
ミスリルリザードが出現した洞窟を進むと大きな空洞とエメラルドグリーンに輝く泉が現れた。
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