第2章1話 第3次人魔戦線
2026/9/29に少しセリフや内容を変更しています。
誤字脱字の修正も行っています。
ルラーとともに第4部隊の作戦室に移動した。扉を開けるとたくさんのアンデッドたちがこちらを見やる。
「ルラー様。そちらが話題のスケルトンですか」と1人のグールが口を開いた。
「はいぃ。スカルさんですぅ。第4部隊の一員として頑張ってもらおうと思っていますよぉ」
「そうですか……スカル殿について魔王様はなんと言っていましたか」
「特になにも仰ってなかったので大丈夫でしょうねぇ。あの方には見えていますからぁ」
「かしこまりました。挨拶が遅れました。私は魔王軍第4部隊の隊長補佐のジーンと申します。第3次人魔戦線では第4部隊の諸々を取り仕切っています」
第5訓練場に向かう際、ルイと会話をしていた彼だな。
スカルは話すことができないので会釈で返す。
「スカルさんは戦闘力があるもののただのスケルトンなので会話ができないんですぅ。ジーンさん第5部隊にあれを依頼してもらってもいいですかぁ」
「かしこまりました。その手配も出発までに済ませておきます」
「ではジーンさん。まずはスカルさんもいらっしゃるので第3次人魔戦線の現状を説明してもらえますかぁ」
ジーンは返事をすると作戦室の中央の大きな長机に地図を広げた。その地図にはルーナ大陸北部が記されている。
ルーナ大陸とは三日月型の大陸であり、周辺の海域には海域特有の巨大な魔物がおり、船が一切仕事をしない。そのためルーナ大陸以外にも大陸はあると考えられているが誰もこの海域の外を知らない。そしてルーナ大陸北部には大陸を南北に分ける霊峰フルムという山脈がある。それより北が魔物の国、南が人間の国とされている。広げていた地図にはその霊峰フルムを中心とした地域が描かれていた。その霊峰フルムの南の大森林に赤い丸印がある。ジーンはそれを指さし、説明を始めた。
「第3次人魔戦線は現在、防衛拠点ウルストにて人間軍と魔王軍が交戦中、魔王軍は大森林の地形を生かし、ゲリラ戦を徹底しています。現状こちらが有利ではありますがまだ勇者の姿を確認できていません。勇者が現れてしまった場合、突破は容易と想定しています」
「勇者が現れた場合、ウルストはどの程度で突破されそうですかぁ」
「半日もかからないと思われます」
「そもそも勇者はいるのか」とルイが質問する。
「人間たちは愚かではありますが馬鹿ではありません。恐らく勝つ算段があるため、戦争を起こしているはずです。私はその算段の中に勇者はいると想定しています」
第3次人魔戦線は人間の国サライト王国が魔物の国ルーラー王国に攻め入る形で始まった戦争だったため、吹っ掛けてきた人間側になにか策があるとジーンは睨んでいた。
「ジーンの予想が合っているとして俺らにできることはあるのか」とルイがジーンに投げかける。
「今のところはありません。強いて言うなら雑兵は勇者との交戦は避けるべきですね」
「それはなんでだ」
「勇者に人海戦術は一切通用しません。先代魔王の遠征時の報告では雑兵クラスの1万の魔物が一瞬で魔素の粒子になり、戦線が崩壊したと記載されていました。勇者と対等に戦えるであろう副隊長クラス以上での交戦が一番良いと考えています」
「分かりましたぁ。勇者についてはおいおいでぇ。お話を戻しましょうぅ。我々、第4部隊はなにをすればよいですかぁ」
「失礼いたしました。それでは……」
ジーンは今回の作戦を皆に共有した。第4部隊は防衛拠点スタリフへの配属が決まった。明日にでも出発し、防衛の準備にあたる。防衛拠点スタリフは霊峰フルムを越えるために通る道の頂上にある砦。崖を蛇行するように道は作られ、その途中にはいくつもの防壁で行く手を阻む。防衛拠点ウルストを突破された場合の次なる障壁となる第2の防衛拠点だった。
そこにはすでに第8部隊が配属されている。今後は第8部隊とともに人間たちとの戦いの日に備えていくこととなる。
「そういうことでしたら、さっそく準備ですねぇ。ジーンさんは明日の移動について、人員への共有をお願いしますぅ。ルイさんとスカルさんは似た者同士、情報交換などされるとよいかもしてないですねぇ。では私も戦いに備えて準備させてもらいますねぇ。失礼しますぅ」と言ってルラーは作戦室を後にする。ジーンもルラーの命令に返事をして周りにいるアンデッドたちを引き連れて作戦室を後にした。部屋にはルイとスカルだけが残った。
「あんたの戦っている姿に見惚れたよ」
ルイが口を開くとぽつりと呟いた。
「あんたは初代様の死霊術で生まれたスケルトンか?」
スカルは首を振る。
「俺は初代魔王様であるルーラー様の死霊術で生き返ったスケルトンなんだ。だから意思もあるし強くなれた。だからあんたの戦いを見たときに同じやつと出会えたと思ったよ。まぁ違うっていうならそうなんだろう……」
初代魔王……ルーナ大陸に魔物の国を興した最強の魔王。死霊術で圧倒的な力を有し、魂の支配者と言われた傑物だな。
「本題に入ろう。スケルトンの大きな問題である魔法が使えないという欠点だが、補う方法がいくつかあるから少し伝えておく。1つは魔道具に頼ること。これによってあんたはいずれ会話ができるようになる。これは後日のお楽しみだな。もう1つはあんたもやっていたが繊細な魔素操作をすること。最後は魔素をため込むこと。スケルトンは実は魔素をため込むのが得意なんだ。だからただのスケルトンの俺が副隊長になれるほどの魔素を有しているというわけだ。あんたならこの情報だけでうまくやっていけるだろう」
たしかに魔素の吸収が早かった。まさかため込むことも得意だったとは。いい情報を貰えたな。
スカルは頭をさげ、感謝を表現した。
「さっそくだが、俺と実戦形式の稽古をしないか」
スカルは頭を縦に振り答える。二人は第4訓練場に移動した。
かれらは明け方まで特訓を行った。そこに言葉はなかったものの確かに友情や戦友のような気持ちが芽生えるきっかけとなった。
第4部隊は作戦会議をした翌朝にはこの場を出発し、防衛拠点スタリフに向かっていた。そこにはスカルも同席していた。明け方までの特訓で疲労していたスカルは助かったと肩を撫で下ろしていた。
心肺機能がないスケルトンに体力が尽きて疲れてしまうということはない。しかし魔素のコントロールによって精神的な疲れが積み重なり、疲労という概念を生み出している。
馬車には第4部隊の精鋭たちが乗っている。
「全員を載せられた良かったのですが、如何せんアンデッドは体力という概念がないのだから歩けと言われましてねぇ」
「嘆かわしいことだ。スケルトンも我らの同胞だというのに扱いにこうも違いが出るとは」
「費用が掛かるやほかの部隊に回したいなどそれっぽい理由で突っぱねられました。私の交渉力があればお役立ちできたのですが」
「ジーンさんは気にしないでくださいねぇ。この件で悪い人は誰一人いないのですからぁ」
馬車は4人が座るには狭く、スカルは気を使い、端に寄せるような形でルラーの横に座っていた。第4部隊の基本移動は徒歩だった。首脳陣のみこの馬車に乗り、ほかのアンデッドたちは遅れてぞろぞろとスタリフにたどり着く手筈となっていた。
第4部隊の最大の強みは戦闘力ではなく費用のかからないアンデッドたちだった。食料などを必要としないなど、ほかの部隊に比べると圧倒的にコストが低かった。そのため、移動費さえもケチられてしまい、今に至る。
「そういえばスカルさんにはプレゼントがあるんですよぉ。ジーンさん、スカルさんにお渡ししていただけますかぁ」
ジーンは懐から手より少し大きい長方形の木の箱を取り出した。その箱を開けると綺麗な赤い石が装飾されているネックレスが出てきた。
「スカル殿、こちらは音魔法が施された魔道具です。代わりの声を出してくれる代物で魔素を軽く流すだけで使うことができます。これからはいろいろなやり取りが必要になるのでぜひお使いください」
スカルはジーンからネックレスを受け取り、首に取り付ける。
「軽く魔素を流すことでネックレスから声が出るというわけだな」
「最初の一言がそれかよ。もっと声が出たことに喜ぶとかあっていいだろう」とルイがあきれる。
「私の所作でなんとなく人となりはわかるだろう。ルイ」
「ルイさんな。これでもお前の上司なんだからな」
「そうだったな。改めて礼を。そして自己紹介を。私はスカル。見ての通りスケルトンではあるが中身は元人間だ」
スカルはさらりとカミングアウトをした。ルイを除く2人はあっけに取られている。
「元人間だったのか。そりゃ魔素の扱いに長けているわけだ」
なるほどと手をポンと置き、頷くルイ。事の重大さをうまく理解していないルイの発言で我に返った2人は重ねるように尋ねる。
「そもそも中身が元人間ってどういうことですか」
「その話について、私も気になりますねぇ」
「転生魔法によってスケルトンに転生した魔法使いといえば伝わるだろうか。原理は初代魔王の死霊術を参考にさせてもらった。かなりの年月がかかってしまったがな」とスカルは少し笑う。
「転生魔法ですかぁ。私の分野ですねぇ。ぜひこの戦争が終わった際にはお話し聞かせてくださいねぇ。今聞きたいのは山々ですがもうそろそろ着くみたいですしぃ」
ジーンもなにか言いたそうにしていたが、ぐっとこらえて前のめりだった体を戻し、席に座りなおす。
窓の外には、天をも貫く霊峰フルムが聳える。霊峰フルムは麓こそ木々が生い茂るが、中腹は岩肌が見えるほど岩々に囲まれた山だった。第4部隊の面々は麓に到着し、馬車を降りる。
スカルは霊峰フルムを見上げ、辺りを取り囲む魔素に感嘆していた。霊峰フルムは魔素が滞留しており、時折強い野生の魔物が出現することもある。あまりの強さに人間たちには手に負えないため、よほどの実力者か愚か者しか立ち入らなかった。
スタリフはこの霊峰フルムの一番低い峰にあるため、流石に馬車で向かえるはずもなく、そこに向かって4人は歩み始める。4人は全員実力者ということもあり、道中は周囲に野生の魔物がいたが攻撃をしかけてくることはなく遠くからを眺めているだけだった。特にトラブルなく、防衛拠点スタリフにたどり着くのだった。
到着するなり、存在しないはずの鼓膜が破れそうなほどの声量で出迎えを受けた。




