第1章4話 魔王登場
長髪を靡かせて立つ姿は絵画になりそうなほど美しい。オスカルは横目で見て確信する。
圧倒的な存在感。さすが今代の魔王だ。
「魔王様! 申し訳ございません」とメイはすぐさま刀を鞘にしまう。
周りにいた魔物たちが膝まづく。
「そんなにかしこまらなくてよい。それにしても面白いことになっているな。メイよ」
「はい。このスケルトンは第4部隊から連れてきたうちに1体です。魔素のコントロールに加えて……」
「そこまで言わなくてもわかる。迸る気配でな。ルラー、このものの治療を頼む」
「かしこまりましたぁ」
第4訓練場の入り口付近にいた王冠を被った骸骨がふわっとオスカルの元に飛び移り、オスカルに触れるとみるみるうちに左右の腕が治った。
「よくやったルラー。訓練を終わらせてスケルトンたちを引き上げてくれ。私はこの者と少々話がしたい。後でこの者を迎えに来てくれ」
「かしこまりましたぁ」
ルラーはリッチだった。上品な白いローブに大きな宝石がはめ込まれた杖を携えている。魔法の練度からかなり高位のリッチであることはオスカルにも分かった。
ルラーは骨の指でスケルトンたちに指示を出す。生き残った数少ないスケルトンたちはぞろぞろと歩き出し訓練場を後にする。
ルラーとともにいたオーガが入り口からゆっくりとオスカルの元へ歩く。
「ザンライよ。殺気を押さえろ。周りが怯えているぞ」
「申し訳ありません。そのものがあまりに良い気配を出すもので、思わず」
「第5部隊の訓練も終わりでいいな」
「申し訳ありませんがそれはできません。スケルトンと侮り、足元をすくわれたこいつらに稽古をつけますので」
「そうか。ほどほどにな」
「ありがとうございます」
ボロボロになっているオーガたちを見渡し、にやりと笑い、怒号を飛ばす。
「覚悟はできているな! 無様をさらしたのだ。今から無限組手だ!」
それを聞いたオーガたちが悲壮な顔をしている。オスカルにやられたとはいえ、それなりの強さがある彼らでも恐れる訓練なのだろう。
「では少し話をしようか。オスカル殿」
オスカルは魔王を見て固まる。
なぜ私の名前を知っているんだ。
「貴殿がかの有名な賢者だということはこの私の目で分かる」
今ここで殺されるのか。いやそうだと助けた意味がない。なにを考えているんだ。
「言ったであろう。貴殿と話がしたいだけだ。安心しろ」
そういうことか。わかった。私も話ができるのは嬉しい。
「それはよかった。では私の執務室に案内する」
ザンライの怒号とオーガたちの悲鳴と剣戟の音がする訓練場を後にする。
魔王の執務室に通されると黒い長椅子に座るように促される。オスカルはそこに腰掛ける。魔王は自身の専用の椅子に腰掛ける。
現代の魔王は心の声が聞こえるのだな。戦うときはさぞ苦戦しそうだ。
「存外不便な能力だぞ。大量の声が同時に聞こえてくるのだからな。最初は苦労した。さっそく本題に入ろう。貴殿はあのオスカル・アイゲンスであろう。見た目はスケルトンだがな」
まさか現代の魔王にまで名前が知れ渡っているとはな。私はそのオスカルの転生した姿だ。まさかスケルトンになるとは思っていなかったがな。
「それは災難だったな。して何が目的か教えてもらおうか」
魔王は迸る魔力を放ち、凄まじいプレッシャーが執務室に満たされる。しかしそれに気圧されず、オスカルは答える。
転生魔法の実験だ。そしてどうせ転生するなら魔物になりたいと思っただけだ。まさか魔法が使えないとされるスケルトンになるとはな。思わぬ誤算だ。魔法が得意なデーモンなどになりたかった。
魔王は噴き出して笑う。ひとしきり笑うと口を開く。
「貴殿は本心で言っているな。実に面白い」
笑い事ではない!
「すまない。実はな、私の目ですべてを見抜いたように言ったが一度人間時代の貴殿に会っている。その時の魂と瓜二つだからわかっただけなのだ」
魔王の額に目が行く。額には1つの眼があり、こちらを覗いていた。それを見たオスカルははっとする。
思い出した。オルガ。心眼のオルガだな。三つ目族の魔物でやたら強かったから覚えている。
「覚えられているとは光栄だ」
なにが光栄だ。ボコボコにされてこっちは撤退を余儀なくされた苦い思いでしかない。それでこの私をどうするつもりだ。
「なにもすることはない。魔王軍に対して敵対的であれば排除しようと思っただけだ」
なにを根拠に。私はあなたを裏切るかもしれないだろ。
「あまり心眼を舐めないでいただきたい。人物を見極めるのは得意でね」
じゃあもうなにも用件はないんだな。
「用件はすでに終わっている。君の真の目的も我らに害がないとわかったのでな。しいていうなら転生魔法を教えてもらいたいぐらいだな」
扉のノックが聞こえる。魔王オルガは入室を許可する。入ってきたのはルラーだった。
「迎えが来たな。いずれ貴殿は人を殺さないといけない場面に遭遇する。その時に本質が見えるだろうな」
私はとうに人間に未練などない。
オスカルは立ち上がり、部屋を出ていこうとする。
「貴殿の名前はスカルだ。名がないとめんどくさいだろう。」
そうかいと返事をして部屋の外に歩みを始める。
「魔王様、会話は楽しめましたかぁ」
「とてもよい時間だった」
「それはよかったですぅ。では失礼しますぅ」
執務室の扉がしまる。
「お名前決まりましたねぇ。スカルさん、これからよろしくお願いしますねぇ。早速ですが第4部隊に大仕事があるのでお手伝いいただけますかぁ」
スカルは頭を下げてルラーの言葉に返事をする。
二人は第4部隊の作戦室に足を進める。




