第3話「炊事洗濯、パーフェクトに失敗する」
「同居人として役立ちます」
アリアがそう宣言したのは、陸が会社に出かける直前のことだった。
「役立たなくていい」
「いいえ。学習のためには実践が必要です。家事を担当します」
陸は止めるタイミングを逸した。帰宅すると、洗濯は終わっていた。が、陸が大切にしていた十五年ものの黒いライブTシャツが、子ども用に見えるサイズに縮んでいた。
「なぜ」
「素材特性に基づき、六十度で洗浄しました。清潔度は最大です」
「縮んでるだろ!!」
「縮みました。記録します:綿素材は低温で洗うべき」
夕飯はさらに衝撃だった。テーブルに並んでいたのは、白米と鶏むね肉の塩茹でだけ。量だけはたっぷりある。
「カロリー:六百二十キロカロリー。タンパク質:四十一グラム。栄養バランス:優秀です」
「うまいもの食いたいだけなんだよ俺は……」
陸は疲れ果てて箸を持った。一口食べる。味はない。塩気だけがある。
すると横で、アリアが静かに言った。
「……これは失敗ですか」
初めて聞く、微妙に違うトーンだった。陸が顔を上げると、アリアが真剣な顔でこちらを見ていた。不安、という言葉が浮かんだ。本当に不安そうだった。
「失敗とは言わない。ただ……俺の好みと違う、っていうだけだ」
「好み。記録します」
「おまえ、本当に何でもノートに書くんだな」
「書かないと忘れます」
「アンドロイドが忘れるのか」
「忘れません。でも書いた方が、なんとなく、確かな気がします」
陸はその「なんとなく」という言葉が、アンドロイドの口から出たことに、なぜか引っかかりを覚えた。




