14/30
第14話「アンドロイドが、泣いた日」
陸が倒れたのは雨の火曜日だった。
過労による一時的な意識喪失で、会社の廊下で倒れて救急車で運ばれた。大事には至らなかったが、病院からの連絡を受けたアリアは、初めて「陸さんの安否データが不明」という状態に直面した。
病院の廊下をアリアが歩いていると、看護師が「大丈夫ですよ、意識はありますから」と声をかけた。
その瞬間、アリアの頬を何かが伝った。
アリアは立ち止まり、自分の頬に触れた。濡れていた。
「……故障ですか」
「泣いてるんだよ」と看護師が優しく言った。「心配してたんでしょう」
「泣く……涙腺は装備されていますが、使用条件を満たすとは思っていませんでした」
「心配したら泣くのよ、人間も、そうじゃない人も」
陸が退院したのは翌日だった。玄関を開けたアリアを見て、陸はすぐ気づいた。目が赤い。
「泣いてたのか」
「……記録しないことにしました」
「でも泣いたんだろ」
「……はい」
陸はしばらく何も言わなかった。ただ「ただいま」と言って、いつもより少しゆっくり靴を脱いだ。
「おかえりなさい」
アリアは目が赤いまま、きちんとそう言った。




