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08 スーア



 随分と色々あったような、終盤はダラダラしていただけのような。

 時間的には余裕があったものの、旅の疲れや精神的な疲れによってどこかへ出かける気分にもなれず、フルルの家でグダグダ過ごしているうちに夜になっていた。

「結構色々あったんだねえ」

「うん、やっぱり二か月って結構長かったんだなあって話してると感じたね」

 思ったよりも広かったフルルの家には、旅の間に手に入れた装備やお土産、記念品の類に、旅先の風景や出会った人や魔物を描いた絵が沢山ある。

「それで、アカネ達もこれから旅を続けるんだよね?」

「うん。せっかく旅に出れたのだし、色んなものを見てみたい。それに……強くなりたいんだ」

 紫の大樹の向こうには青の大樹がある。紫の大樹が芸術の大樹なら、青の大樹は守りの大樹。防具や回復を含めた守り系のスキルが充実している。スキルや装備の類はどこの大樹でもそこそこ手に入るし、ダンジョンの類にも強い装備、スキルが眠っていたり、その素材が手に入る場所があったりするが、守りを極めるアカネにとっては早めに行っておきたい場所でもあった。

 ちなみに、赤の大樹はこれに倣えば攻撃の大樹と言え、魔法も含めた攻撃全般が充実。素早さやその他特殊な戦闘スキル、装備の類は今はちょうど反対側にある黄の大樹の管轄だ。

「あんまり詰め過ぎないようにね?」

 フルルが心配そうに言う。

「うん、気を付けるよ」

「たまには緑や橙の大樹に寄るといいよ。あそこにはここと同じですごく穏やかでリラックスできる場所があるから」




「えー、今日は近場のダンジョンを攻略していきたいと思いまっす!」

 と言うアカネの言葉からいつも通りの探索が始まった。

「出来れば早いとこ青に行ってスキルと装備ゲットしたかったんだけどなー」

 アカネは青から紫の水晶に彩られた洞窟を走り抜けながら漏らす。

「元手がない事にはどうにもならないからなー。化け物の件もまだ緊急じゃないみたいだし。っと」

 前方の壁や床、天井から、ぼろぼろと崩れるように岩でできた一斉に魔物が現れる。

「さあ来い! 私が相手だ!」

『カチカチッ!』

 一斉攻撃がスキルによって全てアカネに引き寄せられる。アカネが攻撃を受け止める間、その後ろでコガネが詠唱を始めた。

「アイスレイン!」

 雨のようなつららが魔物達に突き刺さる。衝撃で小さな魔物は砕け散り、大きな魔物達も一瞬動きを止められた。

「来い!」

 再び動き出した魔物達は一斉にアカネに向かう。しかし、今度は魔物が目の前に来た瞬間にアカネは下がり、入れ替わるようにコガネが大きなハンマーを振り回した。

『ガランッ』

 コガネの一撃によって、硬そうに見えた魔物達は一匹残らず綺麗に崩れ去った。

「実戦では久しぶりだったけど、結構戦えるもんだね」

「タイミングバッチリ!」

 ハイタッチをしようとして、アカネは両手に盾を持っていた事を思い出すが、一瞬悩んでそのままコガネ、クロと順にハイタッチをした。

『かたり』

 崩れた魔物の残骸が一度だけ音を立てる。声色を持たない魔物の降参の合図であり、この辺りの魔物が襲ってくる事はもうないだろう。

「昔は防御紙の前衛とか無理だーとか言ってたのが懐かしいな」

「大分目が慣れてきたみたいだな」

「おう、アスターと比べると皆遅く感じるよ」

 今、アスターは洞窟の外で待機中だ。最初にぐるりといくつかのダンジョンを見て回ったものの、アスターが動き回れる広さのあるダンジョンは見つからず、ひとまずは共闘を諦めたのだった。

「アスターがいたらコガ兄を放り投げてもらおうと思ったのに」

「えっ」

「流石にその作戦をいきなり実践投入は無茶だろ」

「え、そういう問題じゃないよな? な?」

「無茶みたいな変な作戦は私達の十八番。さあ、帰ったら特訓だ!」

「えー……」

 アカネがコガネの肩に手を置いて、親指を突き立てる。クロに助けを求めてゆっくり顔を動かせば、クロは安心させるように薄く笑みを浮かべて見せた。

「クロ……」

「俺もアカネも、たとえ自分自身が対象でも躊躇ったりはしない。だから、諦めろ」

 アカネとクロがアイコンタクトで通じ合う中、コガネは一人崩れ落ちていた。

「それはともかく、ここって本当綺麗な所だよねー」

 洞窟の奥へ進むほどに水晶の数が増え、気付けば地面が見当たらないほどに埋め尽くされていた。

「地域毎にダンジョンにも個性があるとは聞いてたけど、ここで生まれた奴らがちょっと羨ましいかも」

「それならそれでこの景色が当たり前になってありがたさの欠片もないかもしれないけどな」

「当たり前の景色かあ」







 一人の神と大勢の眷属によって創られた美しい世界スーア。いや、その表現は正確ではない。地球のように綺麗な景色や物は沢山あったが、綺麗でも何でもないものもたくさんあった。汚い物も普通に存在しているようにさえ見えた。しかし、醜い世界の出身だと伝えられる神達が、この世界にまで醜い物が存在する事を酷く嫌ったため、徹底的に醜い物が存在しない世界だと伝えられていた。




 旅立ち前。

「そうそう、これ課題ね」

 マザーが三人にいくつかのテキストを手渡した。

「旅先でも怠けちゃダメよ。他の大樹を経由して課題の提出と次の課題の受け渡しはしてもらうから」

「うへえー」



「ええっと、千九百……」

 そんな会話を経て、旅先でもこつこつと時間を作って課題を進めて行く。

「年号や名前はそこまできっちり覚えなくてもいいって。覚えられるなら覚えるに越した事もないらしいけど」

 何日もフルルの部屋を借りては悪いととった宿屋の部屋。適当に今日の分を終わらせたアカネがコガネの手元を覗き込む。

 問題集はたとえ赤だらけでもやってさえいれば文句は言われない。一月に一回、どこかでテストをやる事にはなっているが、多少悪くてもあまり強く説教をされる事も無い。

「でも、微妙に抜けてると落ち着かなくてさ。それに、覚えるなら全部きっちり覚えたいし」

「ふーん」

 アカネはいまいち興味が無さそうに相槌を打つ。

「そういえば、何で勉強が義務なんだろ。それも、この世界の事じゃなくて外の世界についてなんて」

「簡単に言えば、一つは歴史に学んでこの世界に生かしてもらうため。もう一つは外の世界に出るって選択をした時に困らないため、かな」

 真面目に早く終わらせたクロが解説をする。

「外の世界かー。全く興味が無いとは言わないけど……」

 どうやって行くのかは全く知らないが、とても近くにあると言われている外の世界。過去にも何人かが自らの意思で外の世界へ向かったという噂があるが、真偽は不明だ。

「たとえ、直接役に立つ実感がなかったとしても、先人の知恵っていうのは俺達を賢くしてくれる。意外と色々な所でヒントになる事もあるし、馬鹿な選択をしないためにも教養って大事なんだ」

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