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07 化け物

「カズト!?」

「あっ、リアン」

 大樹に戻ってみれば、大樹の根元、帰還の間と呼ばれる場所で呑気に待つカズトの姿があった。

「マザー! これは」

「その辺りの説明も今からするから、とりあえずその辺りに座りなさい」

 リアンは詰め寄ろうとしたが、マザーに強く押さえられて渋々適当な根の上に座る。他の面々も地面を半ば覆い尽くす根の上にそれぞれ座り、マザーの話に耳を傾けた。


「まず結論から言えば、君達が見たと言う黒い何かは魔物ではない。あれは外の世界からの侵入者で、あれに襲われれば二度とこちらの世界に戻ってこられない可能性があるもの」

 マザーの口調はごく普通の、ただの事実を告げるようなものだったが、皆が思わず息を呑む。

「もしかして、先に二人だけ戻されたのって……」

「単純な対応速度の問題だね。あの化け物はこちらの力にすら妨害してくるから、対応に多少の遅れが出る事があるんだ」

「戻ってこれないって、そんな危ないものどうするんだ!?」

 マザーはコガネが立ち上がりかけたのを見やると、安心させるように話を続ける。

「既に創造主に伺いを立てた。こちらで見つけた物に関しては既に破壊済みだけど、今後貴方達が先に見つけた時の為に、破壊用の武器と魔法、それからあの化け物に襲われた時専用の回復魔法を各大樹で取得できるようにした」

「じゃあ」

「……それはすぐに貰える物なのか?」

 全体に期待の色が見えた中で、クロが尋ねれば、マザーは察しが良いとでも言うように頷いた。

「その通り、あれは無条件で貰える物じゃない」

「え、でも、絶対あった方がいい物じゃないのか?」

 コガネが困惑して聞く。

「あれの討伐は仕事として依頼し、依頼を受けた者にのみ必要な物と若干の報酬を渡す方針になった。その代わり、非常退避用の笛を全員に渡しておくよ。吹けば吹いた人は大樹に戻されるし、その場にいる誰かが吹けば、依頼を受けていない全員が戻される仕掛けとなっている」







「……なんか、思ったより大変な事だったね」

 笛だけ渡され、帰還の間から追い出されるように出てきて、アカネは軽く口にした。

「ちょっと! そんな軽い問題じゃない」

「リアン落ち着いて」

 コガネがリアンの腕を掴む。顔がコガネの方を向いたが、まだ全く落ち着いてはいない。

「でも!」

「アカネだって混乱しているんだ」

 コガネに宥められ、リアンは二人を見比べて溜息を吐いた。

「……悪かった。確かに、私達だけの問題ではないからな……」

「……うん」

 リアンが謝ってもアカネの反応は鈍い。何かと強がることが多いのは、コガネ達がよく知るアカネの特徴だ。

「まあ、多分、今すぐ危険な事にはならないんじゃないか? とにかく今は休んだ方がいいと思うぞ。ひっどい顔してるしな」

 コガネに指差され、リアンは苦笑した。

「ふ、まさにその通りだな。ありがとう。今日は早めに休ませてもらうよ。コガネこそ、やせ我慢の酷い顔をしているぞ」

「おう。早いが、おやすみって言っておくな」

「ああ、おやすみ」

 リアン達が自分達のドラゴンに飛び乗ると、ドラゴンは待っていたかのように飛び立って行った。



「あー、つっかれたー!」

 リアン達の姿が見えなくなったのを見て、コガネは思いっきり後ろに倒れ込む。

「お疲れ様。私が借りてる家を貸そうか?」

「助かる。そう言えば、今日泊まるところとか全然考えてなかったもんな……ってフルルは平気なのか?」

 先程からずっと静かだったフルルは、傍目にはあまり混乱しているようにも、強がっているようにも見えない。

「私はどちらにしても戦うつもりがなかったから。それに、創造主もマザーも、コガネ達も信じてる。きっと何とかなるよ」

「フルルー!」

 アカネが感極まってフルルに抱き付く。フルルはしっかり腕を回して離れる様子のないアカネの背中をさすってやった。


 しばらくしてアカネがようやく落ち着く。回した腕を緩めて向かい合うと、アカネはふと思い出した事を言った。

「あれ、そういえばもう一人は? フルル達ってたしか4人パーティだったよね?」

「確かにシザがいないな。彼はどうしたんだ?」

 赤の大樹にいた時は、リアン、ディクス、シザ、フルルの4人で出かけている姿をよく見かけていた。もともとは学び舎で席が近く、少人数で学ぶ時も同じグループにされる事が多かったに過ぎないメンバーだった。兄弟や兄弟に近い幼馴染の関係であるアカネ達にはあまり馴染みのない関係だが、アカネ達とあまり変わらない関係にも見えていた。

「シザは私と同じであまり戦いたがらない、と言うか、ちょっと怠けたがりだったからね……。私が抜けた時に、じゃあ僕もーって言ってそのまま……」

「どこへ行ったか分からない、と……」

 遠くを見ながら苦笑するフルルに、聞いた側も気が抜けてくる。

「ある意味アイツが一番の癒し系かもな」

 誰からともなく笑い声が漏れていた。





「どーも侵入者がいる気がすんだよなあ」

 たくさんのモニターに囲まれた部屋。四十前後ぐらいの男の前でそれぞれのモニターにスーアの景色がランダムに表示され、十秒ごとに一つずつ表示される場所が切り替わっていく。

「一通り――したはずですが」

 男の隣で、モニターに映る若い中性的な姿の人物が問いかける。

「まだちょっと残ってる気がするんだよねー」

「どうされますか」

「クラドならどうする?」

 クラドと呼ばれたモニターの人物は一瞬だけ考えるそぶりを見せると、はっきりと意見を述べた。

「すぐにスーア内の精密な捜査を行い、住人に覚られないうちに排除を行えばよいかと」

「単純にスーアの中だけを考えるならそれでもいいんだけどねえ」

 男がちらりと見た画面に一瞬だけ黒い影が映る。

「でも、奴らは何度でも来るだろうし、多少の外部の思想は薬にもなる」

「今回は見逃すと?」

 男は顎に手を当ててしばし思考をする。横でそれを見るクラドが数度瞬きをした頃、手元のキーボードにいくつかの文章を書き連ね、画面に向かって簡単に当面の方針を告げた。

「ま、とりあえずワード増やしとくかあ。ウェブリア、これだけやっておいて。上にある奴ほど急ぎで」

「御意」

 文章の入力されたモニターから硬い機械音声で返事が返る。男の隣でクラドは興味深そうに入力された文章を眺めていた。

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