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05 フルル

 少しぼんやりしていると、第三者の声が間近に聞こえた。

「兄ちゃんたちは観光かい? それとも、定住希望者? できれば通りすがりなんて野暮な事は言わないで貰いたいんだがねえ」

「えっ、えっと……?」

 矢継ぎ早に話すのはコガネと同じか少し上ぐらいの少年。きっと何かの売込みなのだろう。見かけに似合わない大人びた口調で話しながら、空屋と書かれた布をひらひらさせていた。

「うちに来ない? 冷やかしでも大歓迎だよ。僕にとっては見てくれる人も立派なお客さんだからね」

 少年は営業用の口調をひっこめて、人懐こそうに笑った。

「是非見に行くよ」

 色々な事を体験するのが目的なら、とにかく誘いは断らないに限る。コガネ達は紺色の髪に水色の瞳の、ややラフな格好をした少年について行く事にした。


「とりあえず、自己紹介でもしておこうか。僕の名前はスイ。お兄さんたちと同じように他の大樹、僕の場合は黄の大樹からここへ来て、移住を決めたんだ」

 少年スイが案内したのは街の入り口からさほど離れていないごく普通の一軒家。コガネ達は家という物をあまり見た事が無いが、外見は隣近所の家と比べて特別変わった様子はない。中に入ると、ほぼ全体が一つの部屋となっており、手前に様々な種類の芸術作品が、奥にはいくつかの画材と作りかけの作品、あとは布をかぶせられた何かが棚の上に置かれていた。

「ここで暮らしているわけではないのか?」

 クロには生活感のない、住居と言うよりはアトリエのような部屋に感じた。

「ここの大樹に籍を移せば、寝泊まりに困らない程度の部屋が大樹に貰えるからね。でも、大樹の部屋は引っ越してすぐは小さくて、作品を作ったり売ったりに足りないから、こっちにも家を借りたんだ」

「へー、そんなシステムあったんだ」

「アカネ、それはかなり前に学び舎で習った内容だよ」

 初めて聞いたかのような反応をするアカネにコガネが呆れたようにツッコミを入れる。学び舎は、学校のようにこの世界で必要な知識の他、国語や数学など様々な事を習う場所だ。アカネは居眠りと遅刻の常習犯だったから、本当に初めて聞いた可能性もあったが、コガネにそんな事を考慮してやるつもりはない。

「ただ、もともといた大樹の部屋を失うデメリットもあるんだ。本気で移住するのでなければ、そんな事はしない。籍を戻しても同じ広さの部屋はもらえないからね」

「へえ。じゃあ、フルル達がいるのは下の街の可能性が高いのね」

 アカネが把握している範囲では、赤の大樹の部屋が引き払われた様子はなかった。あくまで長期滞在なのだから、大樹には住んでいないだろう。

「……町中全部歩き回るとか言わないだろうな?」

 思案するアカネに嫌な予感がしたコガネが尋ねると、アカネはぽんと手を叩いてコガネを指さした。

「コガ兄ナイスアイディア!」

「やらねーよ!」

「……お相手さんも外出する時もあるだろうし、入れ違いになるんじゃないかな?」

「スイさんナイスツッコミ」

 アカネとコガネの漫才を、クロとスイが微笑ましそうに見ていた。

「赤、黄、青が戦いの大樹なら、橙、緑、紫は文化の大樹。分かりやすいワクワクとかは無いけれど、ここで作られるものが生活に潤いを与える。だから、こちらへ越してくる移住者は結構多いんだ」

「フルルが気に入るのも分かる気がするなあ」

「アカネは気に入ったりしないのか?」

 クロが尋ねると、アカネは少し間をおいてゆるく首を振った。

「私はいいかな。悪くはないんだけど、そのうち飛び出したくなりそう」

「アカネならそーだろうな。おてんば娘だし」

「もー、私だってちょっとは年頃の女の子らしい時もあるんだからね!」

「えっ」

「ちょっ、クロ兄まで本気で驚かないでよ!?」


「アカネ!?」

 雑談に興じていると、入り口から見知った声が聞こえた。

「お、フルルじゃん。久しぶりー!」

「えっちょっ、何も聞いてないよ!? あれ、もしかしてアカネ達もドラゴンに勝ったの!?」

「モチのロン! ちなみにそいつが私達が戦ったドラゴンのアスターだよー!」

『お初にお目にかかるな。ご友人』

 店の外で待っていたアスターが首を店内に伸ばす。

「でっか! え? あそこのドラゴンってこんなに大きかったっけ?」

『私は比較的年を取っているからな。君の所の同族もいずれこの大きさにはなるぞ』

「ほへー、アカネ達はすぐびっくりするような事やってるなあ」

「えっ、俺達も含むの……?」

 コガネは心外だと驚く一方で、クロは何となく察して苦笑いをする。

「こんな所で立ち話も何だし、今私が住んでるところまで来ない?」

「そうだね。メールだけじゃ伝わらない事もあるし、最近の事を色々話そう」

 広い街をフルルを加えた5人で歩いて行く。すれ違う人々はたいてい1人か2人で歩いて行くが、時折コガネ達のように3、4人のグループに人が乗れそうなほどの生き物を連れた旅人も混ざっていた。

「えへへ。私は回復しかできないから、仲間の皆が強かっただけだよ」

 桜の花びらのようなセミロングの髪に花粉のような黄色い目。小柄なフルルはアカネとは対照的におしとやかで、まさに花のように可憐な少女だ。

「でも、やるじゃん! 回復だって重要な役だよ!」

「回復役不在のパーティに言われても説得力はないけどな」

「そりゃ、ウチは回避に命かけてるもん。普通は回復役を信頼して攻撃を受け止めたり反撃したりするんだよ」

 アカネが折角フルルにかけた言葉をコガネが茶化す。フルルはそれを懐かしくも安心したように眺めていた。

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