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04 紫の大樹

「皆、いってきます」

「マザー、カナさん。いってきます!」

「いってらっしゃい」

 次の日の朝。ドラゴンの上に乗ると、それぞれに別れの挨拶を交わす。

「目一杯色んなものを体験して、いつかすごい土産話をしてあげるからね!」

 きりりと顔を引き締めて挨拶するコガネの横でアカネが大きく手を振りながら話すと、カナも微笑んで手を振り返す。

「母さん、いってきます」

 一番後ろに乗ったクロの元まで飛んできたクロの母は、そっと手を取って寂しそうに微笑んだ。

「いってらっしゃい、元気でね」

 クロの母が離れると、ドラゴンはゆっくりと立ち上がった。

『では行こうか』

「うん、行こう。アスター!」

 昨日三人で相談して考えた名前。星の意味を持つ名前のファードラゴンは、夜色の羽根を舞い散らせながら青空の元へ飛び立っていった。







『まず向かうのは“紫の大樹”でよいのだな?』

 紫の大樹と言うのは、三人が生まれた赤の大樹に比較的近い大樹の一つだ。現在世界に存在する大樹は全部で七本。一番最初から存在し、もっとも大きな大樹“世界樹”。それを中心とした正三角形上に存在する、赤、黄、青の大樹。さらに外側、三本の大樹の中間あたりに存在し、他よりも新しい、橙、緑、紫の大樹。

「前のフルルのメールでしばらくそこに滞在するみたいな事も言ってたから、もしかしたらフルル達にも会えるかもしれないんだ」

「待ち合わせとかはしなかったのか?」

 もう二月も前の話にはなるが、アカネとフルルがとても仲のいい友人同士だったのは周知の事実だ。コガネ達には甘えなのか容赦のない言動が目立つアカネだが、妹のように大事にしていたフルルには随分と優しく、穏やかに一緒にいる姿が印象的だった。

「うん、驚かせたかったからね。実はドラゴンに勝ったって事もまだ伝えてないの」

 小さく笑ったアカネは小さな悪戯をする表情で人差し指を立てる。

「だって、フルル達も勝つまで何も教えてくれてなくてさ。試しに挑戦してみたら何とか勝っちゃったっていうのが理由みたいだけど、だったら私達もちょっと驚かせてみたいって思わない?」

「そんな事を言われてたのか……」

 フルルはあまり自慢を言うような性格ではない。勝つ自信もないのに勝ってしまったと言うのは事実だろうが、三年前に同じメンバーで挑戦して攻撃をする前に倒されたアカネに火をつけるのには十分だっただろう。


 びゅうと風が頬を撫でる。

 アスターは緩やかに翼を動かして飛んでいく。大樹の天辺で足をぶらぶらさせている時のような風は、そろそろ夏が近付く気候にちょうどいい。

「このまま世界の果てまで簡単に飛んでいけそう」

 紫の大樹よりも更に外側。大樹よりもずっと高い所まで行き、更に二週間も外へ向かって飛び続ければ、空の青さの奥に真っ白な霧に包まれた世界の果てがうっすら見えるらしい。

『望むなら、少し進路を右に変えて、真っ直ぐ世界の果てを目指してやってもいいが?』

「冗談やめて。あの中はものすごい嵐だし、俺らはせいぜい四日分ぐらいの食料しか持ってないんだからさ」

 世界の果ての霧の中では常に雷鳴が轟き、竜巻も常にどこかしらで発生していると言う。砂や石交じりの大雨が度々降り注ぎ、とても生身の人間が立ち入れるような場所ではない。

 しかも、あの場所は文字通りの世界の果て。あるところまで行けば地面は無くなり、更にその先には何も存在できない、空間すらなくなる場所がある。

「でも、一度ぐらいは大地や空間が生まれる場所を見てみたい気分もあるなあ」

「クロ!?」

 三人の中で一番そう言ったものと無縁そうなクロは、まるで机に置かれた閉じた箱の中身を気にするような気軽さで呟いた。

「だって、ずっと昔は世界の果てはもっと近く、今の紫の大樹がある辺りにあったんだろう? それが嵐の中で少しずつ新しい大地が作られて、今の広さになった。恩恵を身近に感じて、その現場が届きそうで届かない場所にあると思うと興味が湧かない?」

 あの場所が届かない事は分かっている。世界が人を拒絶する場所に、世界の加護が効く訳がない。そうやって伝わっている場所だ。

『あえて届かない場所に指をくわえずとも、世界は見かけよりも広いぞ。全ての町、全てのダンジョンを知り尽くそうと思えば、十年では足りぬし、その間に新たに生まれるダンジョンもある』

「……そりゃ、虱潰しでもするように回ればね。半分詭弁じゃないの」

 アカネはしょうがないなあとでも言いそうに笑いながら答え、アスターもその通りだと目で答えた。

『小さな生き物のように足元を見れば世界も広く見える。そんな世界でも君達は君達が想像する以上に様々な体験をして、変わっていくだろう。だが、もし、本当にその世界に物足りなくなったら、世界の果てでも、外の世界でも好きなだけ導いてやろう。私達も含めたこの世界の力が全く借りれない世界へ向かう覚悟があるのならな』

 遠くを見ればさほど変わらない風景も、真下を見れば山、森、川、草原とどんどん移り変わっていく。地上からいけば、それぞれ全く違う景色が広がっているだろう。

『君達はどこまで遠くの空を目指したいかな?』




 旅に出てから三日目の昼過ぎ。

 夜は結界付きのテントを張って休みながら、ようやく彼らは紫の大樹へ辿り着いた。

「やー快適だったね。びっくりするぐらい何もなかった!」

 まだアスターが下りきらないうちからアカネ達はひょいひょいと飛び降り、長旅で凝った体を思い切り伸ばした。

「俺達の赤の大樹に比べると随分低いけど、見える景色は随分壮観だな」

 最後にゆったりと降りたコガネはアスターをぽんぽんと労わってやりながら、大樹の下を眺めて息を吐いた。

「うん、こんなに広い街は初めて見たなあ」

 紫の大樹は赤の大樹より後に生えた樹なだけあって、大樹自体は赤の大樹の半分と少し程度の大きさしかない。しかし、その根元には大きな街が広がり一目で見渡せるその光景は、樹上の街とはまた異なる雰囲気を持っていた。

「紫の大樹は芸術と工芸が盛んで、単純に大きいだけじゃないすごいものが見られるって、フルルが言ってたの」

「こんな広い所で見つかるの?」

 枝葉が無い分見やすいかとも思ったが、平面的な町は意外と見通しが悪い。

 もっともなコガネの質問に、アカネは何も考えてなかったのか、んーと考えるそぶりを見せて軽く言った。

「別にいいんじゃない? 見つからなくたって」

『顔を見に来たのではなかったのか?』

「それはそうなんだけど」

 ふと、コガネは視界の端に見た物に目を奪われた。

「ん?」

 肩に触れる程度の黒い髪。立ち並んだ店の商品を眺める横顔はやや色黒でほどほどに整っている。年はコガネ達と同じかやや下だろうか。大人か子供か、男か女か、全体的にどちらにも寄らない中間の姿。特別目を惹く容姿ではないはずなのに、その表情に、動きに何故か違和感を感じた。

「コガ兄、どうしたの? 何か面白い物でもあった!?」

「えっ、いや、別に」

 近付いてくるアカネを手で押しやりながら、そっとさっきの方を見れば、その人物は店の前から立ち去るところだった。

「ちょっとだけ、人形っぽい雰囲気の人だった気がするな……」

 後姿はさっきよりも自然に見えた。

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