↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失われた職業を継ぐ者  作者: 陸海空
18/19

第18話 見えるようになったもの

 誕生日の菓子は、俺が戻ったころには四つに分けられていた。

 大きさは揃っていない。

 一番大きなものの前に、ソラが座っている。


「遅い」


 俺を見つけると、彼は皿を少し引いた。


「待ってた?」

「待ってた。だから、これ俺の」


 ルナが向かいから指を伸ばす。


「それ、ユウのだよ。誕生日なんだから」

「分けたの、俺だし」

「じゃあ、ちゃんと分けて」


 カイは二人の間で、自分の菓子を眺めていた。

 俺が椅子へ座ると、皿を少し寄せてくれる。


「俺の、少しあげる」

「大丈夫。これでいい」


 残っていた菓子を取った。

 小さかったが、蜂蜜はたっぷり塗られていた。

 四人で食べ始める。

 口へ入れると、ようやく誕生日の午後へ戻ってきた気がした。


 だが、頭の中には手紙が残っている。

 三週間後。

 継承核が売られる。


     *


「また、どこか行く?」


 ルナが聞いた。

 俺は顔を上げた。


「どうして?」

「お父さんたち、さっきから地図見てる」


 窓の向こうでは、父とマルクが書斎へ荷物を運ばせていた。

 旅の準備に使う箱だった。


「西の町へ行くかもしれない」

「遺跡?」

「町。なくなったものが、見つかった」


 ソラが菓子を置いた。


「魔法剣士になるための?」

「うん。設備を動かすもの」

「じゃあ、取ってくればいいじゃん」


 俺は少し黙った。


「ほかにも、欲しい人がいる」

「先に取れば?」


 ルナが言う。

 カイは俺の顔を見ていた。


「簡単じゃないんだな」


 俺は頷いた。

 菓子を持つ手に、少し力が入る。


「まだ、どうするか決まってない」


 ソラはしばらく皿を見て、それから俺へ顔を向けた。


「帰ってくる?」

「帰ってくるよ」

「なら、いいけど」


 彼は残りの菓子を口へ入れた。

 ルナは窓の方を、もう一度見ていた。


     *


 旅の話が決まるまでに、今の状態を確かめておきたかった。

 俺自身だけではなく、三人のことも。


「技能、見てもいい?」


 聞くと、カイが頷いた。

 ソラは袖口の蜂蜜を拭いてから、手を差し出した。


「今日は、剣もあると思う」

「毎日やってるからね」


 ルナは椅子を寄せた。


「私も。どれが見える?」

「見てみないと分からない」


 俺は帳面を開いた。

 以前から、本人に見せてもいいと言われたものだけ記録している。セレスにも、何でも知ったつもりにならないよう言われていた。


 まず、カイへ意識を向ける。


【カイ】

【個人レベル:1】

【職業:未定】

【魔力:22/22】

【剣術:2】

【土魔法:2】

【魔力制御:1】


 俺が読み上げると、カイは自分の手を見た。


「剣、二になってる」

「父様が、形が安定したって言ってた」

「土も?」


 俺は頷いた。

 彼が作った土の盾は、最初より薄くなり、縁も崩れにくくなっている。

 大きくはないが、両腕の前へ置いて、小石を受ける練習ができた。


「ちゃんと、増えてるんだな」


 カイは静かに笑った。


     *


 ソラは俺が呼ぶ前に、さらに椅子を寄せた。


【ソラ】

【個人レベル:1】

【職業:未定】

【魔力:19/19】

【剣術:1】

【風魔法:2】

【魔力制御:2】


「ある!」


 声が大きかった。

 廊下を通ったメラが、食堂へ顔を向ける。


「何がです?」

「剣!」


 ソラが答えてから、少し小さくなった。

 知らない相手ではないが、勢いよく話しかけられると、まだカイの陰へ寄ることがある。

 メラはよく分からないまま笑い、台所へ戻った。

 ソラは俺の帳面を覗く。


「カイは二だけど」

「一を取れたんだから、進んでる」

「風は俺の方が高い?」

「カイは土が得意だから」

「ふうん」


 不満そうに言いながら、口元は少し上がっていた。


 ルナが横から聞く。


「風、もっと強くしないの?」

「弱いのを続ける方が、上手くできる」

「吹き飛ばす方が面白いのに」

「砂が目に入るじゃん」


 ソラは本気で嫌そうな顔をした。

 強くするより、何が起きるか気にする。

 その慎重さは、練習でも変わらなかった。


     *


 ルナの文字は、三人の中で一番多かった。


【ルナ】

【個人レベル:2】

【職業:未定】

【魔力:12/12】

【剣術:1】

【弓術:2】

【狩猟:1】


「レベル、二?」


 俺が聞くと、ルナは頷いた。


「父ちゃんと、角兎を狩ったとき」

「魔物?」

「小さいの。逃げるの速いよ」


 カイが目を丸くした。


「倒したの?」

「弓で当てた。最後は父ちゃん」


 ルナは両手で弓を引く形を作った。

 指の動きが、俺たちが木剣を構えるときとは違って自然だった。


 ソラが椅子へ背をつける。


「怖くない?」

「怖いのもいる」

「じゃあ、行かなきゃいいのに」

「でも、獲物を見つけるの好き」


 ルナはそう言って、俺を見た。


「魔法は?」

「今は、表示されてない」

「棒は光るようになったよ」

「まだ、技能として安定してないのかもしれない」


 彼女は少し考えた。


「じゃあ、弓をもっとやる」


 迷いがなかった。

 そのうえで、練習具も貸してと言った。

 どちらか一つに決める気はないらしい。


     *


「ユウは?」


 カイに聞かれ、俺も自分の手を見た。


【ユウ・レインフォード】

【個人レベル:2】

【職業:未定】

【魔力:118/118】

【剣術:3】

【火魔法:2】

【水魔法:3】

【風魔法:3】

【土魔法:2】

【魔力制御:3】

【武器強化:1】

【継路眼:2】


 魔力量を読むと、三人が黙った。


「……百?」


 ソラが聞き返した。


「百十八」

「俺、十九なのに?」


 俺は帳面の最初の方を開いた。

 六から始まった記録。

 増えたり、しばらく変わらなかったりした数字が並んでいる。


「毎日、使って戻してた。みんなより先に始めたし、昼にも練習してたから」


 それだけが理由かは、まだ分からない。

 だが、続けた量が違うことは確かだった。


 ルナが古い記録へ顔を近づける。


「こんなに書いたの?」

「全部じゃない。紙の前は、板に書いてた」

「よく飽きないね」


 俺は少し笑った。

 前よりできることが増えると、次も試したくなる。

 その繰り返しだった。


 カイは、俺の木剣へ目を向けた。


「じゃあ、剣も父さんより上?」

「それは違う」


 俺はすぐに首を振った。


「父様には、全然当てられない」


     *


 ちょうど父が食堂へ来たので、技能を詳しく見せてもらえないか聞いた。

 父は三人の顔を見て、俺の帳面へ目を落とす。


「比べていたのか」

「今、どれくらいなのか知りたくて」

「見ていい。ただし、数字で全部が分かるわけではないぞ」


 父が椅子へ座った。

 俺は意識を向ける。


【アーヴィン・レインフォード】

【個人レベル:24】

【職業:剣豪】

【魔力:160/160】

【剣術:7】

【武器強化:5】

【魔力制御:4】

【火魔法:1】


 読んでいる途中から、胸が少し高鳴った。

 剣術七。

 俺の三とは、数字だけでも遠い。


「剣豪って、いつなったの?」


 父は袖口を直した。


「お前が生まれる前だ。国境の討伐に出ていたころ、候補が開いた」

「神殿で?」

「ああ。領外の大きな神殿で選んだ。ここの近くでは扱っていなかったからな」


 ルナが身を乗り出す。


「七なら、すごく強い?」

「剣には慣れている」


 父は控えめに答えた。

 俺は首を振った。


「セレスが、七から八は名手だって」


 父は少し困った顔をした。

 ソラはその顔を見てから、俺へ振り向く。


「じゃあ、旅は安心じゃん」


 父がすぐに答えた。


「油断すれば、怪我をする。どの職業でも同じだ」


     *


 庭で、違いを見せてもらった。

 父は普通の木剣を持つ。

 武器強化も使わない。

 俺は構え、一歩進んだ。

 届く場所へ入ったはずだった。


 振り下ろす前に、父の木剣が俺の柄へ触れた。

 両手が横へ流れる。

 足を踏み直したところで、肩を軽く叩かれた。


「もう一回」


 今度は、すぐに振らず待った。

 父の手元を見る。


 動いたと思った瞬間、木剣の先が俺の胸へ来ていた。

 触れる前に止まる。


 速かった。

 だが、速さだけではなかった。


 俺が見ている場所とは別のところから、剣が来る。

 こちらが動く前に、動きにくい場所へ足を置かれる。


「数字が高ければ、力任せに振ると思ったか」


 父が聞いた。

 俺は首を振った。


「……どこに来るか、分からない」

「こちらは、お前がどこを見ているか分かる」


 父は木剣を下ろした。

 俺は自分の構えを見た。

 魔法剣士になっても、この剣へ届くには、まだ練習が要る。


     *


 夕方、三人が帰ったあと、俺は城塞騎士の記録を開いた。

 カイの土の盾。

 守るために強くなりたいという言葉。


 継路眼二で、本人の状態から道を調べられるようになっていた。

 ただ、記録の条件と、実際にできていることの関係は、まだ曖昧だった。


 技能の数字が足りていても、実技を満たさない。

 数字がなくても、ルナは練習具を光らせられる。

 その間に何があるのか、知りたかった。


 俺は円盤へ意識を向けた。

 自分の魔法剣士の経路を開く。


【技能条件:達成】

【基礎職業選択:未実施】

【実技条件:未達成】


 いつもの表示だった。

 俺は、実技条件へさらに意識を向けた。


 何が足りないのか。


 目の奥へ、軽い重さが来る。

 無理に読もうとせず、帳面の記録を思い出した。


 構えるときは保てる。

 歩いても保てる。

 振る瞬間、水が落ちる。


 そのとき、文字が変わった。


【継路眼:3】


 俺は息を止めた。


【継承経路分析:解放】

【実技阻害要因:魔力配分の偏り】


 さらに、その下へ短い説明が現れた。


【武器強化への出力集中により、維持術式への供給が中断しています】


 俺は自分の手を見た。

 剣を振る瞬間、力を入れ直していた。

 剣へ通す魔力も、それにつられて増やしていたのか。


 正解の技を与えられたわけではない。

 ただ、失敗している場所が、初めて見えた。

 俺は帳面へ書いた。

 剣を振るときも、送る量を変えない。


     *


 父へ報告しようと書斎へ向かうと、中からマルクの声が聞こえた。


「領主様が直接ヴァルデンへ向かわれるのですか」

「代理だけでは、話が遅れる。核の回収については、私がその場で判断する」

「購入になる場合、出せる額には限りがございます」


 足が止まった。

 盗まれたものなのに、金の話になっている。


「セレスも、今の出品者が盗品と知っているかは不明だと書いている。競売前に止められるか、商会へ証拠を出す」

「南の伯爵家は?」

「こちらの領内から持ち出されたものだと、正式に知らせる」


 父の声は、庭の稽古と同じくらい落ち着いていた。

 俺は戸を叩いた。


 呼ばれて入り、継路眼が三になったことを話す。

 父は帳面を読み、頷いた。


「明日の朝、試してみよう」

「旅は?」

「私と一緒に来てほしい。商会で核を確かめるには、お前の力が必要になるかもしれない」


 俺は頷いた。

 父は机の上の箱を閉じる。


「出発は明後日だ」


 そのとき、マルクが小さな封書を差し出した。

 父宛てではなかった。


「今の便に、こちらもございました」


 宛名を見る。

 ユウ・レインフォード。

 セレスの字だった。


 開くと、一枚の紙と、細い金属の欠片が入っていた。

 紙には短く書かれている。


『エドガーから、あなたに見せてほしいと預かったものです。北の核に取りつけられていた部品だと言っています。私は、手紙に同封された図を読むための鍵だと考えています』


 父が図を広げた。

 核の表面に似た、細い線と円が並んでいる。

 俺は金属の欠片を見る。

 継路眼へ意識を向けた。


【継承核識別片】

【機構改変記録:あり】


 続きを読む。

 父とマルクが、俺の声を待っていた。


【遠隔命令受信経路:追加】

【職業付与対象への接続を要求】


 意味が、すぐには分からなかった。

 誰へつながるのか。

 問いかけると、新しい文字が浮かぶ。


【対象:本核を使用して職業を選択した者】


 俺は、父を見た。

 核を戻せば、職業を選べる。

 そう思っていた。


 だが、誰かがその仕組みに、別の道をつけ足していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。