困った時のラーファちゃん
「な、謎の病?」
「はい。現在王都では多くの者が体調不良を訴えているらしいのです」
ミカエラによるとこの謎の病は1週間ほど前から始まったらしい。最初は体調不良者の人数が少なく、ただの風邪か何かかと思っていたが、日を追うごとに体調不良者が急増。原因は不明のまま患者の数が増え続け、このまま放置できないほどの問題になっているらしい。
「どうかユーリ様のお力をお借しいただけないでしょうか?」
いやです。……なーんて言える立場と状況じゃないからなぁ。
俺は聖女だ。先ほど読んだ本にも書かれていたが聖女の仕事は「国難から国を救う事」だ。聖女が居るのに王都が謎の病気で機能不全に陥ったとなれば、俺が本物の聖女かどうか疑われ、この国から追い出されてしまう可能性がある。追放系は読む分には面白いが、自分が追放されるなんてことは絶対に避けたい。
それに俺に助けを求めるミカエラの顔は鬼気迫る物がある。それほどまでに謎の病は猛威を振るい、多くの人間を苦しめているのだろう。
「……わかった。すぐに向かうからミカエラは私のこと、ちゃんと守ってね?」
「はいっ!ユーリ様の事は何が起きても……それこそ魔王が来ても必ずお守りします!この命に代えて!絶対に!」
「あ、うん。よ、よろしくねぇ……」
そこまでしないでも良いんだけどなぁ……。
目をキラキラと輝かせたミカエラにそんなことを言える勇気はなく、ただただ苦笑いを浮かべることしか出来なかった。騎士道を押し付けられている……これがキシハラってやつか。
「……これはすごいね」
ミカエラを連れて向かったのはライファル大聖堂、王都でも一番大きな教会だ。白を基調とした建物と色鮮やかなステンドグラスが特徴的で、荘厳という言葉が良く似合う大変立派な教会だが、現在は地獄絵図と化している。
教会の中に足を踏み入れると横たわり、うめき声をあげる人間がゴロゴロと転がっていた。詳しい人数は分からないが、ぱっと見でも100人近くいる。正直な事を言うとこのまま回れ右をして家に帰りたいです。
「けほっ……けほっけほっ!」
「うっ……くるしっ……」
横たわる患者と彼らのうめき声に目と耳を塞ぎたくなるのを我慢しつつ、ミカエラの後をついていく。
「……ご安心くださいユーリ様。私が傍についております」
「へ……?あっ、ごめん!」
酷く重たい空気に気圧されたせいか、俺は知らない間にミカエラの外套を掴んでいたらしい。は、恥ずかしい……中身30のおっさんが自分よりも明らかに年下の女性にくっつこうとするとか……やばい、めっちゃ顔熱くなってきたんですけど。
「……んんっ!ゆ、ユーリ様っ。もしよろしければお手を」
「だ、大丈夫!もう大丈夫だからっ!」
「そ、そうです……か……」
何でそんな残念がってるんだお前は。……ははーん?さてはミカエラ、俺を守るという建前で美少女である俺に触れようとしているのか?ふんっ、俺のこの美少女ボディに触れるなんてひゃくね……いや2年くらいはやいわっ!
「ライゼン大司教」
そう呼ばれた立派な白いおひげを蓄えたおじいさんは「おお」と声を漏らしながらこちらに身体を向ける。某魔法学校の校長先生みたいな人と言えば想像しやすいだろう。
「ミカエラ様。本日はどのようなご用件で……む?もしやそちらの方は」
「紹介します。こちらはユーリ・ラファルト様。今代の聖女様であらせられます」
「初めまして。ユーリ・ラファルトです」
「これはこれは……お初にお目にかかります。私はライゼン・ソーガン、大司教の地位を与えられております。お見知りおきいただけると幸いです聖女様」
ライゼンと名乗ったおじいさんが俺に向かって恭しく頭を下げる。
大司教って結構な役職だよな……。そんなおじいさんに丁寧に頭を下げられる。ふむ、悪い気分じゃないな。
「して、聖女様がここにいらっしゃったということは」
「はい。ユーリ様にここにいる者達の治療をお願いしようかと」
「おお!それはありがたい話ですな。これ以上の受け入れは難しいと丁度頭を悩ませていたのです」
「以前来た時よりも随分と増えてますからね」
「ええ。日を追うごとに体調不良を訴えるものは増え続け、他の教会や修道院も多くの患者で手一杯だと報告が上がっています」
そんなにやばい状況なのか。聖女になって早々国難らしい国難が訪れていて俺的にはあまり嬉しくないんですけど。
「ユーリ様。早速で申し訳ないのですがここにいる者達の治療をお願いしてもよろしいですか?」
「え、あ、えーっと……ちょ、ちょっとだけ待ってね」
まずい。ついてきたは良いものの、どうやって治療をしたら良いのか全く分からない。ここ数日知識を入れることに集中してたせいで魔法のテストをするのをすっかり忘れていた。
背中にたらりと冷や汗が流れる。もしこのまま回復魔法を使えなかったら……俺の聖女としての立場が危ぶまれるどころか、偽の聖女として処刑される可能性だってある。そしてそのまま国外追放、あるいは「死罪だってあるかもしれない。どうしよう、どうしようどうしよう。何か打開策は……あっ、そういえば。
「このような状況で申し訳ないのですが、少しだけラファルネーベ様に祈りを捧げてもよろしいでしょうか?」
「ライゼン大司教、ユーリ様はこうおっしゃられておりますが……」
「ええ、構いませんよ。ではこちらへどうぞ」
よしっ、これで何とかなるはずだ。
俺は心の中でガッツポーズをしながら、祭壇の前へと移動する。色鮮やかなステンドグラスを背後に、精巧に彫られたラーファの石像が堂々と鎮座している。これだけ見ると神々しく、威厳のある女神なのだが、実際に話したことのある身からすると「ちょっと盛られてね?」という感想が浮かんでくる。
俺は膝をつき、胸の前で祈るように手を握る。
ラーファ、聞こえるか?




