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聖女とは名ばかりの

 うわ部屋広っ……てか家具とか全部高そうなんですけどぉ……。


 案内された部屋はアニメなどで見覚えのある立派な部屋だった。フカフカのソファに大きなベッド、そして色味の濃い見るからに高そうな机や、誰が描いたか分からない絵画等々、貴族の部屋という言葉がぱっと思い浮かぶ。

 

「聖女様」

「ひゃいっ!」


 やばっ、部屋じろじろ見過ぎたか?というか今の俺の返事めっちゃ女の子みたいだったな!いや女の子なんだけども!


 俺を王城へ拉致……じゃなくて保護してくれたミカエラが声を掛けてくる。

 

「ご紹介が遅れたことをお詫び申し上げます。私はワーデン王国近衛騎士団副団長を務めております、ミカエラ・レイバンと申します。どうぞミカエラとお呼びください」

「ゆ、ユーリ・ラファルトです。よろしくお願いしますミカエラさん」


 若干どもったが意外とするりと言葉が出てきて嬉しい。これも聖女の身体になったからかな?コミュ力も上がるとかこの体万能か?

 

「呼び捨てで構いませんし、敬語も必要ありません」

「えっと……じゃあよろしくね、ミカエラ」


 俺は出来る限りの笑顔を浮かべて挨拶を返す。上手くできているかどうかは分からないが、この体は超が付くほどの美少女だ。きっと上手く行っている……はず!

 

「……はい。私のことはどうぞボロ雑巾の様にお使いください」

「使わないよ!?」


 なんだこいつ!?これが騎士道ってやつなのか!?初対面の人に満面の笑みでボロ雑巾みたいに使ってくださいって言うとか覚悟ガンギマリすぎでしょ!


 こうして俺は伊藤健一改め、ユーリ・ラファルトとして生きていくことになったのだが、俺の異世界生活は思った以上に快適な物だった。


 俺は駄女神……じゃなくてラーファの使者という扱いらしく、俺は国賓以上の待遇を受けていた。初めて見た時から何となくそうだろうとは思っていたが、与えられた部屋には最高級の家具や有名な画家が描いた絵画、外国から仕入れた高価な絨毯等々、一般市民の生涯収入の数倍はある豪華絢爛な物が設置されていた。


 最初は居心地の悪さを感じていたが、数日経った今では何とも思わなくなるどころか、フカフカのソファやベッドで堕落的な生活を満喫している。


 さらに出される食事もまた豪勢で、国お抱えのシェフが作った料理を毎日好きなだけ食べることが出来る。働かず、ただ存在するだけで最高級の衣食住を与えられる。聖女って最高すぎないか?


 このまま俺は何もせずに堕落的な生活を送りたいのは山々だが、このまま何もせずに食っちゃ寝の生活を送り続けていると「あいつってホントに聖女なの?ただのごくつぶしにしか見えないんですけど」と周囲に悪評が広まり、王城から追い出されかねない。


 と、いう訳で俺は今この世界の地政学や歴史、そして今後お世話になるであろうワーデン王国のあれこれについて調べるべく本の虫になっている。ただベッドでゴロゴロするだけなのも暇だったので、酔い暇つぶし兼周りへのアピールにも繋がる。我ながら良いアイデアだ。


「ん~聖女の仕事って結構大雑把なんだなぁ……。めっちゃ仕事してる奴もいれば何もしてない奴もいるし」


 現在俺が読んでいるのは聖女の歴史についての本だ。聖女は回復魔法に優れているだとか、教会の中で1,2を争う程の権力を持っているという漠然としたイメージはあるが、結局のところ俺はこの世界で何をしたら良いのか分からない。その疑問を解消すべく、こうして聖女についての知識を頭に入れているのだが……参考になっているのかいまいちよく分からん。


 まずこの国において聖女という存在は「女神の使者」という扱いらしい。女神はこの世界において絶対的な存在、その遣いともなれば国王も丁重に扱わなければいけない。まぁこうして国賓級の待遇を受けている点からも察することは出来るわけだが。

 

 次に聖女の仕事について。どうやらこの本やその他文献によると「国難を解決する」のが聖女の仕事らしい。あまりにも抽象的過ぎて結局何をしたら良いのか分からないが、過去の聖女の功績を例に挙げるならば多くの人の怪我や病気を治したり、魔王軍の侵攻を防いだり、孤児やスラムに住む人々の救済を行ったり。大体は弱者救済といった人道的な行動が聖女の仕事なのだろう。


 そして最後に聖女に関する条約について。聖女はその力故に存在するだけで国のパワーバランスを壊してしまう。そのため、戦争に利用すること、政治に関わらせること、大きな権力を与えることは禁止されているらしい。妥当な判断と言えるだろう。とはいえ友誼、あるいは平和の象徴として他国に訪れることもたま~にあるらしい。


 とまぁ、色々調べて分かったことは聖女のお仕事は徳を積むことらしい。この世界に道徳の教科書を作って広めればそれはもう立派な功績になるのではないだろうか。名前は……心のノートとかどうだろう。とてもいい名前だと思いませんか?


「ん~……本読み過ぎて疲れた~」


 俺はぐぐぐと背を伸ばし、凝り固まった身体をほぐしていく。この世界に来てまだ分からないことは多いが、魔王軍もそんなに活発じゃないし、ワーデン王国も比較的平和な国らしいし、このままのんびりしつつ必要になったら人助けでもしましょうかねぇ。そうすれば聖女の肩書にも傷をつけずに、のほほんと暮らせるし。


 コンコンコン。

 

「どうぞ」

「……読書中のところ失礼しますユーリ様。至急お伝えしたいことが」

「どうしたのミカエラ?」


 俺に伝えたいこと?一体何だろう……今日の晩御飯の献立とかかな?いや、ずっと本を借りっぱなしだったから返却の催促か。いっけね、返しに行くのが面倒で部屋に置きっぱなしだったからなぁ。


「部下に確認させたところ、現在王都で謎の病が流行っているらしいのです」

「……はい?」

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