修羅場は突然に
「んん……ふわぁ~」
カーテンの隙間から差し込む温かな光で目を覚ます。重たい瞼を擦り、凝り固まった身体をぐぐと伸ばした俺は、のっそりとした動きでカーテンを開ける。僅かな雲と綺麗な青空が広がる快晴、眠たい身体に温かな太陽の光が心地よい。
結局昨日はリサと話をした後、軽い食事を終えてパーティーを抜け出した。聖女としてどうなのかと思ったが、パーティー参加者のほとんどが勇者パーティーの方に群がっていたため、何も問題なく抜け出すことが出来た。人前でスピーチをしたり、同郷の人間と出会ったりと色々な事があったからか、部屋に戻った後はすぐに眠りについてしまった。
「んん~……はぁ、よしっ」
一度大きく伸びをしてから俺は今日という一日を開始する。
「あむっ……あむっ」
「ユーリ様」
「ん~?」
「リサがユーリ様にお会いしたいとの事ですがいかがいたしますか?」
のんびりと朝食を食べ進めているとミカエラから報告があがる。どうやらリサが俺に会いたがっているらしい。幸いな事に俺は基本的には暇人だ。どうせやる事と言っても本を読むか魔法の練習をするか、気分が乗れば街へと繰り出すだけなので、こちらとしてはむしろありがたい。
「わかった。リサには好きなタイミングで来るように伝えておいて」
「かしこまりました」
「よろしくね」
俺は新しくできた今日の予定にワクワクしながらのんびりとした時間を過ごした。
「こんにちは、ユーリ先輩っ!」
お昼過ぎにリサが部屋へとやって来た。長袖のブラウスにショートパンツと動きやすさとお洒落を両立した服装とそれにあまり似つかわしくない腰に携えられた2本の剣。だいぶ慣れてきてはいるが、ここは異世界なのだと感じる。
「やっほーリサ。昨日はよく眠れた?」
「はいっ!最近までは野宿がほとんどだったので久しぶりにフカフカのベッドで寝たのでそれはもう快眠でしたっ!」
「そっか……大変だったね」
「いえいえっ!私結構どこでも寝れちゃうタイプなので全然気にしないでください!」
高校生なのに魔王軍と命懸けの戦いをしているんだもんなぁ……偉いなぁ。それに比べて俺は王城の一室でぐーたら生活、なんだか心が痛くなってくるよ。
「もし何か辛いことがあったら相談してね。可能な限り力になるから」
「えっ……あ、ありがとうございます」
困惑した表情でこちらを見つめるリサ。はて?俺は何か変な事を言っただろうか……はっ!?
「ご、ごめんリサ!いつもミカエラの頭撫でてるからつい癖で……い、今すぐ浄化の魔法かけて綺麗にするからっ!」
「大丈夫です!むしろもっとお願いします!」
「え」
「金髪美少女からのなでなでとかご褒美でしかないのでっ!」
「わ、わかった……」
くわっと目を見開き、鬼気迫る表情でなでなでを要求して来るリサに俺は首を縦に振る事しか出来ない。中身が男だから頭を撫でられるのは嫌かなと思っていたが、外見はどこから見てもただの美少女だもんな。中身がどうとかあんまり関係ないかも。
「えへ、えへへへ……ユーリ先輩って良い匂いしますね~」
「ちょっ、くすぐったいから胸に顔埋めるのやめてよ」
「減るもんじゃないし良いじゃないですか~。あぁ、おっぱいやわらけ~」
「発言がおっさん臭いぞ若者」
すりすりと俺の胸に顔を擦り付けてくるリサの頭に軽くチョップをお見舞いするが、日頃の戦闘で鍛えられているのか俺のへなちょこな攻撃は全く通じない。ミカエラ相手ならもうちょっと力を込められるのだが、リサ相手だと躊躇ってしまう。
「リサ、ユーリ様が困っています。それとユーリ様の胸は私の特等席なので今すぐ離れてください」
「ユーリ様の胸は指定席じゃなくて自由席です。誰しもがこの柔らかい胸と甘い匂いを欲し、そしてユーリ先輩はその誰しもを優しく受け入れてくれるのです」
「俺の胸を勝手にフリー素材にしないでもらえる?後別に私の胸はミカエラの物でもないからね?」
的を得ているはずの俺の言葉は二人の耳に届くことはなく、そのままリサとミカエラは言い争いを繰り広げる。
「そもそもあなたとユーリ様は昨日知り合ったばかりでしょう?距離感がおかしいんじゃない?しかもなんでユーリ様の事を先輩って呼んでるの?」
「昨日すごく仲良くなったんです。ねー?ユーリ先輩?」
「まぁ……うん、そうだね」
「ほら、ユーリ先輩もこう言ってますし、ただの護衛であるミカエラさんが口出しして良い事じゃないと思いますけど~」
俺に体重を預けながらしてやったり顔でミカエラを見上げるリサ。それに対して、ぐぬぬと声を漏らしながら恨めしそうにリサを睨みつけるミカエラ。そして巻き込まれた俺。
「……いや、護衛として不純な動機でユーリ様に触れる者を見過ごすことはできません。ということでリサ、今すぐユーリ様から離れなさい」
「それを言うならミカエラさんだって不純じゃないですか」
「私のは親愛の情から来るもので決して不純なものではないっ!」
「それを言うなら私のだって友愛だから不純じゃないです~」
まるで子供みたいにミカエラに反論をするリサ。それに対して、眉を吊り上げながら不機嫌な顔でリサを睨みつけるミカエラ。そして巻き込まれた俺。
「……随分と生意気になりましたねリサ。ああ、そうだ。魔王軍との戦いで随分成長したと聞いています。休暇中ずっとのんびりしていると体が鈍ってしまうでしょうし、ここはひとつ私と模擬戦をしませんか?」
「いいですよミカエラさん。私結構強くなったみたいなので、もしかしたらミカエラさん負けちゃうかもしれないですけどそれでもよければ」
「へぇ……リサは面白い事を言いますね。勇者を辞めても道化師として生きて行けそうで安心しました」
「あはは、ミカエラさんの方が芸人としての才能があると思いますよ?」
バチバチと火花を散らしながら不敵な笑みを浮かべるリサとミカエラ。女の子の友情ってこんなに複雑怪奇なの?すごいを通り越して怖いんですけど。後お願いだから俺を間に挟まずに言い争って欲しいんですけど。
「さぁユーリ先輩、訓練場に行きましょう。勇者としての実力をユーリ先輩に見せてあげますっ!」
「さぁ、お手を。訓練場へと向かいましょう。ユーリ様の護衛として必ずや勝利を捧げて見せます」
「あ~れ~」
俺はリサとミカエラに腕を引っ張られ、訓練場へと強制的に連れていかれるのだった。




