聖女の条件()
今、この女神はなんて言った?せい……じょ……?き、聞き間違い、だよな?
「聞き間違いではありませんし、あなたが想像する聖女です」
「……い、いやいやいやいやいやいや」
う、嘘だっ!こんなの嘘に決まっているっ!俺が聖女?俺は男だぞ!大事な場所には二つの金色の宝と、一本の誇らしい棒がぶら下がっているんだぞっ!?そんな俺が聖女?聖女……はっ!もしかして俺の知っている聖女ではなく、別の何かの可能性がまだ────。
「いえ、健一さんの想像している聖女です。あなたには女の子になってもらいます」
「……あれですか。教会の最高権力的な立ち位置に居る聖女?」
「その聖女です」
「回復魔法の才能がやばい系の聖女?」
「その聖女です」
「めちゃくちゃ美人で髪サラサラ肌ツヤツヤ、おっぱいボインボインなあの聖女!?」
「その聖女で……いやどこの痴女ですかそれ?」
いきなりスンと真顔になり、淡々とツッコミを入れるラーファ。俺はその隙を見逃さない。
「じゃあ俺の知っている聖女じゃないですね。他を当たってください」
「い、いえいえ。あってましたあってました。髪もサラサラで肌は綺麗で、胸も大きいその聖女で間違いありません」
「なん……だと……」
まさか俺の異世界ライフではハーレムを築くことが出来ないどころか、今まで力を貯めに溜めてきた俺の俺を使う事すら出来ないというのか……。
ラーファに叩きつけられた残酷な未来に、俺は力なくその場に崩れ落ちる。ちくしょう……俺は異世界でも童貞のままなのかっ……!
「ら、ラーファ!男なら何でもいい!チート能力は無くても良いから、男で生まれ変わらせてくれっ!」
「無理ですね。他の異世界転生枠はもう埋まってるので。男性枠はすっごい人気なんですよね~」
「くそがぁあああ!!」
くそっ!男として異世界転生出来ればずっと妄想していたことが現実になるのにっ!こんなあと一歩のところで俺の夢が潰えるなんて……そんなのあんまりだぁぁぁぁぁ!!
「えっとぉ……健一さん?大丈夫ですかー?気を確かにー?」
「俺は大丈夫ですよ……正常に機能してます……」
「そんな地面にへばりつきながら言われても困るんですけど」
やばい。もう萎えた。やる気が全く起きない。異世界転生とかもうどうでもよくなってきたなぁ……。ハーレム築けないどころか女の子にさせられるし。
「げ、元気出してくださいよ健一さん!聖女って結構すごいんですよ?この世界では人類の中でもかなりの好待遇ですし、回復魔法と聖属性魔法のスペシャリストなんです。それに今回は色々サービスをして容姿についてのリクエストは大体叶えちゃいますし、何なら稀有とされている結界魔法だっておまけしちゃいますっ!」
そんなことを言われても聖女だよ?聖女……聖女……ん?いや待てよ?聖女ってよくよく考えたら普通にめっちゃ良い転生先なのでは?
俺はがばっと起き上がり、今まで見てきたラノベ、漫画、ゲームに出てきた聖女という存在を整理していく。
聖女。物語の中心人物の1人。教会という中世社会における最高権力の中の最終兵器的存在。回復魔法や聖属性の魔法を得意とし、大体の作品で聖女は有能枠として扱われている。しかも聖女は大体が美人。今の俺の顔面がこう……神の力によって絶世の美少女へと生まれ変わるのだ。
あれ?転生先としては普通に良いのでは?
「……ラーファさん」
「はいラーファさんです」
「容姿のリクエストってどのくらいまで叶えて貰えます?」
俺の質問にラーファさんは待ってましたと言わんばかりに、にやりと笑みを浮かべる。
「女性、そして人間という種族以外なら何でもカスタマイズ可能ですよっ!可愛い系の美少女や綺麗系のお姉さん。そして髪の色、長さ、質感はもちろん、身長、バストヒップの大小も。なんならほくろの位置や数まで決めちゃうことが出来ますっ!」
「お、おぉ……!」
やはり性別の壁は超えられないが、それ以外なら女神の力でどうとでもなるらしい。
「それに女神の加護ってことで今なら何と病気や呪いへの完全耐性もつけちゃいます」
「えぇ~?でもお高いんでしょう~?」
「いやいやっ!それ今なら何と無料っ!異世界に転生するだけで全部無料でできちゃうんですっ!」
深夜のテレビショッピングの要領で異世界転生を進めてくる女神。ノリが良すぎだろ。本当に女神?ユーツーバーとか、配信者とか言われた方がまだ納得いくんだけど。いや、その場合絶対に人に迷惑をかけるタイプのドッキリ系ユーツーバーになるだろうからやっぱり女神の方が良いかもしれない。失望しました、ファンやめます。
「いかがですか?転生したくなったでしょぉ?」
「……まぁそうだな。でもその前に1つだけいいか?」
「もちろんです。何でもお聞きください」
「どうして聖女なんだ?それ以外にも別の転生先があると思うんだが」
純粋に気になっていた。どうして俺の転生先が聖女なのか。もちろん枠が埋まっているというのはあるだろうが、それ以外にも聖女という優良物件を俺に勧める理由は何かしらあるはずだ。
俺は自分で言うのもあれだが心が清らかな方ではない。親のすねをかじって生きて、真面目に働く人たちの事を馬鹿にして、そして彼らを馬鹿にした自分の事をもっと馬鹿にしてを繰り返す、心が汚れ切った最悪の人間だ。そんな俺が聖女になる資格があるのだろうか?聖女は教会の……人々の象徴だ。そんな大それた存在に俺なんかがなってしまっていいのだろうか?
「……確かにあなたはお世辞にも真っ当な生き方をしてきたとは言えません」
うぐっ……。自分で言っておいてあれだが、女神様から直接言われると心に来るものがある……。
「ですが、あなたの持つ優しさ、他者を助けようとする心の在り方は紛れもなく本物です。その証拠にあなたは自らの命を投げ捨て、名も知らぬ人間を助けたのですから」
「……」
今までの人生、俺には誇れるようなことが無かった。むしろ周りに迷惑をかけてばかりで、劣等感を抱くことの方が圧倒的に多かった。だからだろうか、ラーファ……ラファルネーベ様からの言葉がすっと、心の奥に入り込んでいく。久しぶりに心の底から嬉しい、やってよかったと思えたような気がした。
「……それとあなたが聖女の条件を満たしていた唯一の人間だったからです」
「聖女の……条件?」
「はい。聖女として転生するための条件、それは──」
ラーファの言葉に俺の喉が大きな音を立てる。俺はもしかしなくても選ばれた人間だったのか……!
「あなたの身体が全くもって穢れていないからですっ」
「……は?」
時が止まった。一瞬ラーファの言葉を理解できずに脳みそがフリーズしたのだ。これは別にラーファが別の言語を喋っていたとか、難しい内容を話していたとかでは全くない。ただ、純粋に脳の処理が追い付かなかったのだ。
「いやぁまさかびっくりしましたよ。女性経験がないどころか、キスすらしたことが無いだなんて。健一さんの身体がもうピッカピカすぎて聖女の適性が馬鹿みたいに高いんですよね」
「やめろ……やめてくれえええええ!」
俺はその場に蹲った。
「そんな満面の笑みで人の心えぐり取るのやめてくれますぅ!?お前には人の心とかないのかよっ!」
「まぁ、私女神ですから」
「そんなマジレス求めてるわけじゃねぇんだよ!謝れよっ!人の心ボロボロにした責任取って謝れよっ!」
確かに俺は童貞だ。生まれてこの方彼女が出来たことは愚か、恋のABCのAにすら到達していない超ド級の童貞ド童貞だ。でもさぁ!?まさか死んだ後に女神から童貞いじりされるとは思わないじゃんかぁ!!
「健一さん、30歳まで童貞だった場合魔法使いになれるって言葉があるじゃないですか?それが聖女になっただけのことですよっ!いやぁ健一さんはめっちゃ清らかですね~!」
「嬉しくねぇよ!俺だって可能なら女の子の1人や2人とあんなことやこんなことしたかったよ!」
「二股ですか?最低ですね」
「ちっげぇよ!言葉の綾だよっ!つうか経験人数0だわ!そして俺は死んで来世は女だから永遠の0が確定してんだわああ!!」
もうやってられん!この人の心を嬉々としてえぐるサディスティック女神の思い通りになんてなるもんかっ!このまま俺は成仏して来世は可愛い幼馴染と毎日イチャイチャして添い遂げてやるんだっ!
「はい。それじゃあ健一さん、あなたのセカンドライフがより良い物であるよう祈っております」
「は!?ちょっ!?」
俺の身体が光の粒と共に消えていく。床に目をやるとそれはもういかにもファンタジーな魔法陣が描かれていた。
「ご安心ください。目が覚めたら健一さんが想像した姿になっていますので。あぁそれと、教会で祈りを捧げると私とお話をすることが可能なので、何か困ったことがあったら何でも相談してくださいね」
「おいこらっ!もうこの際転生するのは良いからひとまず俺の心を傷つけたことを謝罪して──」
「では健一さんっ、あなたに神のご加護があらんことを~」
「このっ!鬼畜女神があああああああ!!」
淡い光と共に消え行く視界の中で、俺はラーファに向かって愚痴を吐き捨てる。こんなおっさんが聖女になるとか……どう考えても無理に決まってんだろうがああああああ!!




