間抜けは見つかったようだな
「それで私に話があるとの事ですが」
「あ、はい!先ほどのスピーチの事で感謝を伝えたくて」
「感謝……ですか?」
「はい。あのままだと私の仲間が爆発しそうだったので……」
「……心中お察しします」
彼女の困り顔とぱっと見で分かる癖の強さから、発生しかけていた問題を理解する。この人結構苦労してそうだなぁ……。
「せっかく王都へ帰還したのにあの出迎えでは納得できませんよね」
「はい……」
きっと彼女たちは命懸けの戦いから帰還したというのに、ぽっと出の聖女に主役の座を奪われ、雑に扱われたら怒りが湧いてくるのは当然だろう。気まずいからという理由で勇者たちに視線を誘導したが、結果的に良い方向へと進んだらしい。
「私自身勇者パーティーの方々が雑に扱われていることに疑問を感じていましたので、図らずともリサさんの役に立てたようで何よりです」
「……本物の聖女様だぁ」
俺のアルカイックスマイルにリサは目をキラキラと輝かせる。この世界の人からしたらおかしな反応と思われるかもしれないが、聖女や勇者と言ったファンタジー要素が皆無の日本人にとってはこれが自然の反応なのである。俺も本当は共感したいところだが……俺は見て見ぬ振りをしなくてはいけない。
「ふふ、おかしなことをおっしゃいますね。私は本物の聖女ですよ?」
「あ、あははすみません……私の故郷は聖女様みたいな方はいなかったのでつい」
「それを言うなら今日私も初めて勇者様にお会いしたのでお互い様ですね」
「そ、そうなんですね」
何というコミュニケーション能力。このやり取りを前世の俺に見せてやりたい……と思ったが、見せたところで百合尊いなぁとしか思わないだろうからやっぱり見せなくても良さそうだ。それにしても本当に俺のコミュ力の進化はすさまじい。例えるならそう……スライムからドラゴンに進化したみたいなレベルですごい。というかこの世界にスライムっているのか?モンスターが居るのは確認してるけども。
「申し訳ございませんユーリ様。少々厄介事に巻き込まれてしまい……あら?リサも一緒だったのね」
「あ、ミカエラさん!お久しぶりです」
「久しぶりねリサ。元気そうで何よりだわ」
フランクに話を始めた二人に俺は目を丸くする。
「2人って知り合いだったんだね」
「はい。私がリサに剣術を指導したのです」
なるほど。そういう関係性があったとは……。ミカエラも勇者と面識があるなら事前に情報をくれても良かったのに。
「ミカエラさんは今ユーリ様の護衛をされてるんですか?」
「ええそうよ。私はユーリ様の剣であり、盾であり、従順な下僕でもあるのよ」
「最後のは違いますからね」
胸を張って自慢げに語るミカエラに間髪入れず訂正を加える。せっかく良い感じに会話出来てたのにお前のせいで変な誤解を招いたらどうすんだ。
「表では清楚で優しい聖女様が裏ではハードな事を……ありだな」
ありだな、じゃないんですよリサさん。というかあなた結構オタク寄りの人間なんですね。滅茶苦茶仲良くなれそうで嬉しいですよ。まぁ素性を明かすつもりはないんですけど。
「まったく……他人の前であまり変な事を言わないでねミカエラ」
「ユーリ様が不利益を被るような真似は絶対にいたしませんっ!」
「今不利益を被りかけたんだけど……まぁいいや。あ、料理取って来てくれてありがとね」
「いえ、このくらいは当然ですっ!」
と口で言いつつも、俺に感謝されてとても嬉しそうな表情をするミカエラ。彼女に尻尾が付いていたらきっとぶんぶんと振られていただろう。
「リサさん、久しぶりの再会ですし、2人でお話ししてきてはどうでしょうか?」
「良いんですか?」
「はい、私は少々お腹が空いてしまったので。どうぞ私のことはお気になさらないでください」
「ありがとうございます、ユーリ様」
これでようやく一人の時間が訪れた。コミュ力は進化しても、やはり見知らぬ人と話すのは気力を使う。それに大勢の人の前で勇者たちに気を遣いながらスピーチをするという苦行のせいで、俺のMPはかなり削られている。食事中は誰かに話しかけられることも無いだろうし、それに勇者と聖女が近くに居るところにわざわざ話しかけに来る猛者は……あまりいないはず。
俺はミカエラから受け取った皿に目をやる。肉を中心に野菜やその他美味しそうな料理がバランスよく並べられている。一人だと絶対にお肉しかとらないだろうから、色々な料理を食べることが出来るし、下品と思われないからとても助かる。
くぅ~。
自分のお腹が今か今かと料理を待ち望んでいる。まぁそう焦るな、今からこの国の一流シェフが作った料理をたっぷり食べさせてやるからな~。
「いただきます」
「……えっ、えっ!?」
フォークで突き刺したお肉を口へ運ぶと同時に、リサの驚く様な声が聞こえる。一体何事かと思い、彼女の方へと視線をやると大きく見開かれた漆黒の瞳とバッチリ目が合った。
はて?一体どうしたのだろう……ん?待てよ?
俺は頭の中でリプレイ映像を再生する。ワインレッド色のソースを纏った鮮やかな赤色のお肉に、銀色のフォークを突き刺す。そして流れる様に口元まで持ってきた後に俺は「いただきます」と言った。「いただきます」と言ってしまった。
「……ユーリ様、今何て言いましたか?」
俺馬鹿じゃねぇのおおおおおおおおお!?!?!?
急に味がしなくなったお肉を咀嚼し嚥下する。いつもの食事よりも嚥下が難しかったのは味を感じなかったからだろうか。
「……ミカエラ」
「はい?」
「ごめんちょっと席はずしてもらえる?出来れば私たちの会話が聞こえない距離まで。それと人が近付かない様にしてくれると嬉しい」
「……承知しました」
俺の空気が変わったのを察してか、ミカエラは一礼をしてから俺達から距離を取る。ミカエラがある程度距離を取ったのを確認した俺はリサの方へと歩みを進め、距離を詰める。
「その……もしかしてですけど、ユーリ様って」
「あ~うん。実は俺、元日本人なんですよね」
「やっぱりそうですよ……え、俺?」
リサは今までで一番驚いた表情を浮かべる。良い事ではあるが、まさか染みついた挨拶のせいで日本人バレするとは……。
俺は自分の間抜けさに大きくため息を吐いた。




