お持ち帰り
「ミカエラ」
「はい」
「美味しそうな料理取ってきて。後はこの前のパーティーみたいにならない様に端っこに居るから」
「かしこまりました」
ミカエラにそう指示を出し、後はしれっとこの場を離脱するだけ。この場に居る多くの人間は勇者パーティーに目が行っている。このミッション、楽勝だな。
「ユーリお姉様っ!」
「の、ノアちゃん!?」
目立たない端の方へとはけようとした次の瞬間、俺の胸目掛けてノアちゃんがダイブして来る。そんな彼女の身体を抱き止め、その場でくるりと一回転することによって勢いを吸収する。
「もう……危ないよ?」
「えへへ、ごめんなさいユーリお姉様」
ごめんなさいと言いつつも謝る気が無いのか、ノアちゃんはペロッと舌を出して悪戯な笑みを浮かべる。何だこの可愛い生き物は、俺が男だったら間違いなく惚れていたぞ。
「ユーリお姉様のスピーチとても素晴らしかったですっ!このことをどうしても伝えたくてつい勢い余ってしまいました」
「そっか、ありがとねノアちゃん」
「ふわぁ……」
俺は彼女の髪が乱れない様最新の注意を払いながら彼女の頭を撫でる。俺に撫でられたのが嬉しかったのか、ノアちゃんの口からはうっとりとした声が漏れ、彼女の表情はとろりと蕩けていく。
「ユーリお姉様……もしよろしければ二人で一緒にこのパーティーを抜け出しませんか?」
「え?」
「出来れば二人で落ち着ける場所……そうだ、私のお部屋でゆっくりと、2人きりでお話しませんか?」
ノアちゃんの腕がするりと俺の首に回され、翡翠色の瞳がまるで獲物を捉えたかのような怪しい光を放つ。
ドクンと心臓が跳ねる。自分よりも年下のはずなのに彼女から放たれる妖艶な雰囲気に頭がくらくらしそうになる。彼女の甘い匂いと温かい熱が自分の正常な思考を徐々に溶かしていく。
「だ、駄目だよノアちゃん……王女様がパーティを抜け出すなんて」
「本日の主役は私ではなく勇者様御一行です。私が居なくなっても問題ございません。それに先ほどのスピーチのおかげで多くの方は勇者様に釘付けになっています。今から抜け出せば誰にも気づかれることはありませんよ?」
勇者たちにヘイトを移したのが裏目に出るとは思いもしなかった。国王陛下を悩ませる才能溢れるお転婆娘は頭の方も優秀らしい。
「さぁ?お邪魔虫が居ない間に二人で一緒に愛の……じゃなくて私のお部屋へと参りましょう」
「ちょっ、まっ」
流れる様に腕を抱かれ、ぐいぐいと身体が引っ張られていく。これ以上ノアちゃんの思い通りにさせたらまずいと本能が警鐘を鳴らす。何がまずいかと言うと俺の貞操や将来が危険に晒される。ここは少し痛い思いをさせてしまうが、力づくで彼女の腕を……って力つよっ!?
「うふふ、私少しばかり剣術も嗜んでおりますの」
抜け出そうとしているのがバレたのか、意外と力があるんだぞと遠回しにアピールしてくるノアちゃん。俺普段は本より重い物持ってないからね、そりゃ勝てねぇわ。
って諦めてる場合じゃないって!ちょっ、だ、誰か~!助けて~!
俺は必死にノアちゃんの腕を引き剥がそうとするが、彼女の腕は鉄で出来ているのかと思う程びくともしない。
「うふふ、ユーリお姉様は可愛いですね。そんなに暴れなくてもこの後た~っぷり可愛がって差し上げますので」
「め、目が怖いよノアちゃん……あとそういう冗談は良くないかなって思うの」
「冗談ではないので何も問題はありませんね」
こ、こいつ……本気で俺を喰う気だ!まずい、このままだとお嫁に行けない身体にされるううううう!!
「あのっ!待ってくださいっ!」
俺たちの背後から聞き覚えのある声がかかる。この声は確か───。
声のした方に顔を向けると、そこには鮮やかなドレスを身に纏った黒髪の少女が……勇者が立っていた。




