パーティー会場(クラブ)
「この場に集まってくれた臣民よ!志を共にする同志よ!我々人類は忌々しき魔族たちと長い間戦ってきた。多くの者が犠牲となり、その度に我々は嘆き苦しんできた。一度は敗北の危機に晒されたが、我々人類は手を取り合い、多くの研鑽を重ねながら英雄たちと共にこれまで戦い続けてきた」
あ~……帰りてぇ~……。
国王陛下の演説を後ろで聞きながら俺は心の中で大きなため息を吐く。
現在、勇者パーティーと俺は国王陛下の近くで一列に並んでいる。今回のパーティーは勇者パーティーの帰還と、俺の功績を称えるためのもの。どうやらパーティーの主役は参加者たちに挨拶をする必要があるらしい。致し方が無いとはいえ非常に面倒くさい。別に大層な事はしていないはずなのに、ミカエラという有能なのか無能なのかよくわからない従者のせいで、巷で俺は「救国の聖女」なんてもてはやされているらしい。ちやほやされるのは喜ばしい限りだが、それに付随する面倒事と周囲の視線には頭が痛くなる。
人類と魔王軍との戦いによって辛酸を舐めさせられ、それを糧に人類は手を取り合って今に至る。そんな俺達まじまんじ、人類ずっとも、マジ感謝。てか勇者パーティーってマジやば谷園、ぴえん超えてぱおん。そんな最高にいかした人達からバイブス上がる言葉貰っていくぜ~。
そんな内容を堅苦しい文章でつらつらと述べる国王陛下の語彙力は素晴らしい物がある。よくもまぁそんなことを台本無しに言えるなぁ。
俺はこの苦痛にも等しい時間が早く終わることを願いつつ、校長先生の話を右から左へ流す様に、国王陛下の長いスピーチと勇者パーティーの挨拶を華麗に聞き流していく。
「直近、我々は未曾有の危機に陥っていた。多くの者が苦しんだ突然の流行り病。あれは魔王軍四天王の1人、呪いのサテラによるものだった。もし対処が遅れていたら今頃王都は機能を停止し、歴史あるワーデン王国が滅びていたかもしれない。そんな国難をたった一人で解決したのが、救国の聖女ユーリ・ラファルト様なのだっ!」
「おおっ!流石聖女様だっ!」
「聖女様万歳っ!」
会場が異様な熱気に包まれる。先ほどまで挨拶をしていた勇者パーティーの面々とは比べものにならないほどの熱気が会場を包みこむ。先ほどまではヒソヒソと会話をしていた参加者たちの声が、がやがやと明らかに大きくなる。さっきまでは厳正で優雅なパーティー会場だったのに、何でいきなりクラブみたいな盛り上がり方してるの?
「さらにユーリ様は流行り病の原因を取り除くだけではなく、結界魔法によって王都の防衛力を強化してくださった。もはや我らが王都は魔王の攻撃すら防ぐ鉄壁の要塞と化したのだっ!」
「ユーリ様はなんてすばらしい聖女なんだ!」
「流石は女神ラファルネーベ様の使者様だっ!」
「ユーリ様万歳っ!」
国王陛下が俺のしたことに尾ひれどころか背びれまで付けながら話をする。がやがやとしていた参加者の声がさらに大きさを増し、会場のボルテージが高まっていく。
「なんとそれだけではないっ!ユーリ様は魔王軍四天王の1人である呪いのサテラと戦い、撃退することに成功したのだっ!!」
「うおおおおおおおお!!」
「ユーリ様万歳!ユーリ様万歳!」
主役であるはずの勇者パーティーを差し置いて、貴族や豪商たちは口をそろえて俺の名前を称える。
……めっちゃ気まずいんですけど~。勇者パーティーの帰還を祝うパーティーなのになんか乗っ取っちゃったみたいで超絶気まずいんですけど~!
俺は頬が引き攣りそうになるのを何とか抑え、聖女然とした笑みを浮かべ、一応皆の声援に応えるように控えめに手を振ってみることにした。
「うおおおおおおおおお!!」
「聖女様万歳っ!ユーリ様万歳っ!」
「い、今俺に向かって手を振ったよな!?」
「馬鹿かお前はっ!今のはどう考えても俺に振ってただろうが!」
あまりの盛り上がり様に乾いた笑いが込み上げてくる。確かに主役の1人とは聞かされていたが、あくまでメインディッシュは勇者パーティーのはずだろうが!なんで!?なんで俺の時だけこんな盛り上がってんだよっ!もっと危険を冒して魔王軍と戦ってる勇者パーティーの事を褒めてあげてよっ!じゃないと気まずくて胃がキリキリするだろうがっ!
悲痛な叫びが脳内でこだまする。こんなことになるなら仮病でもしてパーティーをサボれば良かったと後悔している。でも俺回復魔法に異常なほどの適性があるから多分仮病通用しないんだよね。はは、はははは……。
「ユーリ様、皆に一言お願いしてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい」
国王からバトンを渡された俺は一歩前に出て参加者もとい観客たちを見回す。先ほどまでの騒がしさはどこへやら、観客たちは俺の一挙手一投足を焼き付けるかのように無言で俺の事をジーっと見つめている。こんなに注目されたのは小学校の運動会で思いっきり転んだ時以来だ。
「今代の聖女を務めております、ユーリ・ラファルトです。本日はパーティーにご参加いただき誠にありがとうございます」
ひとまず自己紹介と挨拶をしたが、問題はここから。俺は一体何を言えば良いんだっ!この会場の雰囲気に合わせて何かファンサービスでもした方が良いのか?バイブス上げてこー!とか言った方が良いのか!?
俺はぐるぐると頭を回し、この場に相応しいかつそれでいて自分の評判がこれ以上変な上がり方をしないような言葉を探す。
「……私は聖女です。女神ラファルネーベ様の使者として多くの方々が平和に暮らせるように尽力するのが私の責務であると考えています。私にはラファルネーベ様より与えられた力があり、この力で多くの方の病気やけがを治すことが出来ます。しかし、私には戦う力が……誰かを守る力が足りません」
守ることに関しては結界魔法のおかげでかなり優秀だし、光属性の魔法お使えるから攻撃が出来ないわけではないが、ここでは力が足りないという事にしておく。魔王軍四天王を撃退しただろとツッコまれそうだが、あれは相性が良かったからとか適当に嘘を吐けば良い。
「ですが、我々には勇者様と勇者様を支える勇敢な者たちが居ます。彼ら彼女らは自らの命を天秤に掛けながら私たちのために日夜魔族と戦ってくれています」
俺は身振り手振りを交えたり、まるで演劇をしているかのように声のトーンを調整しながら上手いことヘイトを勇者パーティーへと向ける。
「ですから皆さん!今日は我々のために命を懸けて戦ってくれている勇者パーティーに心から感謝しましょう!この方達のおかげで私たちは今日も平和に過ごすことができ、笑って明日を迎えることが出来ているのですっ!勇者パーティーに最大級の感謝を。勇敢なる我らが英雄に乾杯っ!」
「「「うおおおおおおおおお!!」」」
お淑やかさや礼儀正しさが少しばかり欠けていたかもしれないが、ひとまず皆の視線や熱量を勇者パーティーに向けることに成功した。観客の皆様も俺の名前ではなく勇者パーティーの話を口にしている。ようやく本日の主役が一体誰なのかを再認識したことだろう。
俺は肩の力を抜き、大きく息を吐く。これで気まずい思いをしなくて済む。後は誰にも話しかけられない様端の方でひっそりとご飯を楽しみながら時間を待てば万事解決だぜ。




