おのれ勇者め
「あ、そういえばユーリ様」
「ん?どうしたのミカエラ?」
傷ついたメンタルをミカエラのなでなでによって回復したタイミングでミカエラから話を振られる。何というマッチポンプ……ミカエラ、恐ろしい女。
「近々勇者様が王都へ帰還されることはご存知ですか?」
「ああ……そういえばそんな話もあったね」
そうだ、思い出した。全てはこの話から始まったんだった。勇者が近々帰ってくるから王都に近づいてくることはないだろう。そんなミカエラのフラグ建築から始まり、がばがばセキュリティである王都を某警備会社も顎を外すほどの聖女セキュリティシステムを起動したところで魔王軍四天王の1人である呪いのサテラが王都へ接近。そのまま戦闘が発生するという見事なフラグ回収劇が起きたのだ。
勇者が帰ってくるというイベントが無ければミカエラがフラグを立てることも無かったのに。そして俺が呪いのサテラと戦って、怖かったとミカエラに甘える事件も起きなかったというのに。
俺の中で怒りの炎がメラメラと燃え始める。全ては勇者のせいだ……勇者が居なければ俺がこんな羞恥心でもだえ苦しむことはなかったというのに……。
「えっとぉ……ゆ、ユーリ様?」
「おのれ勇者……ゆるすまじ……」
「ユーリ様は勇者様と面識があるのですか?」
「いやない。ないけど間接的に迷惑を掛けられたからちょっとだけムカついてる」
「それは許せませんね」
まぁ直接的な原因はあなたなんだけど……まぁ、うん。いっか。
「それで?勇者はいつ帰ってくるの?」
「1週間後に到着するそうです。また勇者様の帰還を祝してパーティが開かれるとのことです」
「うげっ、流石に出席しないとダメだよね」
「そう……ですね。ユーリ様が呪いのサテラを撃退したことへの賛辞も行うという話も耳にしました」
「え、私サテラを撃退したこと伝えてないんだけど」
「もちろん。私がしっかりと報告しておきましたっ!」
ミカエラ……お前は本当に余計な事を!
褒めて欲しそうにこちらを見つめるミカエラに思わずため息が出そうになる。本来であれば戦果を包み隠さず上に報告してくれる優秀な従者であるんだけどね。俺は目立ちたくないの、周りから過度に期待されたくないの。適度な仕事と大量のお休みという今の生活を壊したくないの。……でも俺の事を思ってやってくれてるから責めるわけにもいかないんだよなぁ。
「ありがとねミカエラ」
「いえいえっ!ユーリ様の偉業を正確に伝えるのは私の役目ですのでっ!」
「うん。でも今度からは俺に一言言ってからにしてね?」
「分かりました!」
もう過ぎたことはどうしようもないからひとまずはこれで良しとしよう。
「あの……」
「ん?まだ何か大事な事あるの?」
「い、いえその……何と言いますか……」
身体をもじもじとさせ、何かを訴えかける様にこちらを見つめるミカエラ。……あぁなるほど。
「はいはい、私のためにありがとね」
「あ……えへへ~」
頭を撫でるとミカエラふにゃりと目を細め、嬉しそうに笑う。まったく……うちの護衛は可愛い奴だぜ。
それから何か面倒なことが起きることも無く、本を読んだりお散歩をしたりと、のほ~ほんと過ごし1週間が経過した。ここ数日王城の雰囲気が忙しなかったが今日は一段と忙しない。まぁ人類代表みたいな人間がやって来るならそりゃ忙しくもなるよね。
そう他人事として捉えられたら良かったのだが、残念な事に今日は俺も当事者なのだ。どうやら帰還したその日にパーティを行うらしく、現在俺はミカエラ他数名のメイドによって着せ替え人形にされている。
「あのぉ……もうこれで良いと思うんだけど」
「駄目ですよユーリ様っ!せっかくユーリ様を着せ替え人形に……じゃなくてユーリ様が主役なのですから、最大限可愛くしなければっ!」
「今本音漏れてたよねミカエラ。それと主役は勇者様だからね?そこの所勘違いしない様に」
「頭の片隅に入れておきます。さぁ次はこちらの御召し物を。こちらも絶対に似合いますので!」
これは何を言っても無駄だと察した俺は大きくため息を吐き、ミカエラ達の指示に従う事にした。10着近くドレスを試着した結果、俺は純白のドレスを着ることになった。白いドレスは目立つと一応抵抗してみたが、オタクの様に俺の良さを語られ、結局白のドレスを着ることになった。近くのメイドたちがミカエラを止めるどころか、同調していたことは非常に解せません。
「あぁ……ユーリ様、なんてお美しい。まるで天使が舞い降りたかのような神々しさと可憐さ……ここで死んでもいい。あ、でもここで死ぬならユーリ様に天国へ連れてってもらいたい」
衣装の手直しや化粧などを終えた俺はミカエラの言う通り、まるで天使の様に可愛い美少女に変身していた。元がとてつもない美少女なこともあり、プロにより化粧を施された俺は可愛さと美しさを兼ね備え、まるでこの世の人間とは思えないほど神聖なオーラを放っている。
やばい……俺めっちゃ可愛いんですけどっ!なにこれ天使!?え、パーティーとか行かずに一生ここで鏡と睨めっこしてたいんですけどっ!
「ああああああ!!」
さっきまで俺を見て限界化していたミカエラが、発作でも引き起こしたかのように発狂し始める。
「い、いきなりどうしたのミカエラ!?」
「が、画家を手配しておけばよかったぁ……」
……駄目だこいつ、早く何とかしないと……。
俺の可愛さで脳を焼かれてしまったミカエラがその場に膝をつく。彼女の表情はまるで親を殺された時の様な絶望の色に染まっており、心の底から落胆していることが分かる。俺の事が好きなのは嬉しいが、流石に愛が重すぎて引きそうになる。
「ってこら。服が汚れちゃうでしょ?早く立ち上がって」
「……マイスイートエンジェル」
「今の発言はちょっときもい」
「ぐはっ!?」
俺の口撃が効いたのか、ミカエラはその場に四つん這いになる。だから服汚れるって。
現在ミカエラはドレスではなく何故かタキシードを着ている。理由は俺に変な男が寄ってこない様にするためと、ドレスだといざという時に動きづらいからだそうだ。近衛騎士団の副団長なのにパーティに参加して良いのかと思ったが、俺の護衛が最重要任務だからと真剣な表情で言い切ったため、深くは考えないようにしている。まぁミカエラだしな!いっか!
「もう……ほら。今日は私のことをエスコートしてくれるんでしょ?」
俺はミカエラへと手を差し伸べ、柔和な笑みを浮かべる。自分で見えてはいないが今の俺はきっとこの世界で一番可憐で、可愛くて、美しい笑みを浮かべているだろう。その証拠にミカエラの瞳が大きく見開かれ、頬が紅潮し、だんだん鼻息が荒く───うん?
「お、お任せくださいユーリ様!ユーリ様に近寄る羽虫共は私共が塵一つ残らず切り伏せて見せますので!」
「うん。絶対にやめて?」
メンタルが回復したのは良いが、回復しすぎてテンションがおかしくなってしまった。可愛いのは良い事だが、可愛すぎるのはそれはそれで問題だな。




