大失態
「失態だ……俺史上最大の失態だ……」
ベッドの中に潜り、頭を抱えながら自分の行動を振り返る。
「めっちゃ恥ずかしいんですけどおおおおおおお!!」
枕に顔を埋めながら俺は大きな声で叫ぶ。ちなみに念のために防音の結界を張ってから叫んでいる。これで周囲の人間からの評価が下がることはないだろう。
「はずい!めっちゃはずいんですけど!何?怖いから抱っこねだるとか俺は子供なのか!?幼稚園行くのが怖い5歳児なのか!?」
異世界に転生してから初めての戦闘をした。それも道端に生息するスライムと比べるのが馬鹿馬鹿しくなるレベルの強敵である魔王軍四天王の1人、呪いのサテラと。
チュートリアル無し、初手魔王軍四天王というゲームだったらあまりにもクソゲーだが、俺の身体はチート能力を盛り込んだハイスペックボディ。無事に怪我人を出すことなく魔王軍四天王の1人、呪いのサテラを撃退することに成功した。ここまでは良い、上出来も上出来だ。
しかし、今まで命がけの戦いとは無縁の生活を送って来た俺にとって、あの戦いは精神的ダメージがとても大きかった。戦っている最中はアドレナリンのおかげか何とも思わなかったのだが、戦いの後は体がガクガクブルブルと震えに震えました。どのくらい震えていたかと言うと箪笥の中で一生「ガクガクガクガク」と呟くレベルです。
そして問題はここから。戦闘後の恐怖により人肌や安心感を欲していた俺は、ミカエラに抱っこをお願いしたのだ。しかも部屋に戻ってからもしばらくの間はミカエラに引っ付いていたというおまけ付き。
いやですね?女の子とイチャイチャしたいなぁとは思っていますよ?せっかく異世界に転生したんだから、女の身でも美少女とあんなことやこんなことをしてみたいとは常日頃から思っていますよ。
だが俺は心まで女の子みたいになりたいとは思っていないっ!俺は女の子とイチャイチャする時は自分が優位に立っている状態でイチャイチャしたいんだっ!メス堕ちだけは絶対にしたくないっ!!
にも関わらず昨日の俺はまるで女の子の様にミカエラに甘えたのだ。昨日の自分の言動を思い返すだけで心臓が火あぶりにされているみたいな痛みが走る。うごごご……恥ずかしすぎて死ぬぅ……!
羞恥心に悶えながらベッドでのたうち回っていると規則正しいリズムで扉がノックされる。俺は慌てて布団を捨て去り、近くに置いていた本を適当に開く。
「失礼します……ユーリ様?」
「な、なにっ!?ミカエラ!?」
「その、お茶が入りましたのでそろそろご休憩なされてはどうかと」
「そ、そうだね。そうするよ」
俺は平静を装いながらソファへと向かう。過去を変えることは出来ないが、未来を変えることは出来る。これ以上昨日の様な失態を晒すわけにはいかない。身体は女の子でも、心まで女の子にはならないっ!
「……あのぉ、ミカエラさん?」
「はい、どうされました?」
「いや、その、いつもよりも距離が近いと言いますか……」
隣に座るミカエラ、彼女の距離感はいつもと比べて非常に近い。どのくらい近いかと言うと肩と肩が余裕で触れ合う距離感。昨日の今日でなければ女の子と密着出来て嬉しいと喜んでいたが、今はどちらかというと気恥ずかしさの方が勝ってしまう。
「……今は人目もありませんので、昨日みたいにたくさん甘えても良いのですよ?」
「……」
そう言って、優しい笑みを浮かべるミカエラにドキッと心臓が跳ねる。
な、何だこいつ!?なんで今日はこんなにメロいんだ。いつもの美少女なのにどことなく気持ち悪い雰囲気を醸し出しているミカエラは一体どこに!?
「うぐっ。別に今日は甘えないし」
「ふふ、恥ずかしがらなくても良いんですよ?」
「んっ」
ミカエラが微笑みながら俺の頭を優しく撫でてくる。くそぉ!無駄に顔が良いせいでドキドキしてしまうっ!しかもなんだこの慣れた手つきは!一体どこでこんなスムーズな動きを身に着けたんだ!いや俺だったわ!!
「み、ミカエラって優しいよね。初めて会った時からずっと」
「好きな人に優しくするのは当然の事だと思いますよ?」
「え」
「あれ?言ってませんでしたっけ?私がユーリ様と初めてお会いした瞬間に一目惚れしたこと」
「初耳だわ!」
なるほど。俺への優しさや異常なまでの忠誠心はここから来ていたのか。道理でよく挙動不審になる訳だ。
「なのでユーリ様に甘えられるのはすごい嬉しいのです。昨日なんかもう……寝るまでにやにやが止まりませんでしたから」
「き、きもい……」
「さぁユーリ様!昨日みたいに「ミカエラ、もうちょっと一緒に居たい」とか「ねぇ、ぎゅってして」と甘えてくださいませっ!」
「やめろおおおお!俺の心を的確に抉ってくんなああああああ!!」




