異世界初の戦闘はまさかの魔王軍四天王
報告を受けた俺は急いで身支度を整え、目撃情報があった正門前へと向かった。向かったのだが……。
「うぅ……痛いよぉ……痛いよぉ……前来た時はこんなの無かったのにぃ……ママぁ……助けてぇ~……」
黒を基調としたドレスと対照的な白銀の髪。整った顔立ちと上質なドレスから一瞬、どこかの国のお姫様かと思ってしまうが、彼女の頭にある漆黒の角が彼女が人間ではないことを物語っている。きっと魔王軍四天王として相応しい恰好と見た目をしていたのだろう。土と涙に塗れていなければ。
「……え、あれが四天王?」
「はい。あの土に塗れ、涙で顔がぐちゃぐちゃになっている惨めな女が魔王軍四天王の1人、呪いのサテラで間違いありません」
「だ、誰が惨めな女よっ!!」
先ほどまで泣きじゃくっていた銀髪美少女ががばっと起き上がり、きっとこちらを睨みつけてくる。目鼻立ちはすごい整っているし、まるでアメジストの様な紫色の瞳は見るものを魅了する何かを持っている。土に塗れているせいであれだが、やはりこの子はとんでもない美少女だ。
「えっとぉ……一応聞くけどこんなところで何してたの?」
「ふんっ!あなたに話す義理はないわ!」
「えぇ……あっそうだ。はいこれ、もし良かったら使って?」
ぷいとそっぽを向くサテラに俺は自分の持っていたハンカチを渡す。
「ええ、ありがと……って人間から情けは受けな───ひぃ!!」
ブンッと風を切る音が鳴るとほぼ同時にサテラに向かって剣が振り下ろされる。サテラはギリギリのところで回避に成功したものの、突然の攻撃にビビり散らかしているのか心臓の辺りを抑えながらプルプルと震えている。
「ユーリ様への無礼な態度に飽き足らず、慈悲まで無下にするとは……万死に値する!」
剣を振り下ろした張本人であるミカエラが、切っ先をサテラに向けながら怒りを爆発させる。いくら見た目が可愛い女の子でも魔王軍四天王であれば容赦はないのだろう。
「あんな風に優しくされるなんてずるいぞっ!!あたしだってユーリ様に女の子扱いされたいっ!!」
うん、全然違った。
「は、はぁ?あんた一体何言ってるわけ?ちょっとそこの金髪っ子、そいつあんたの従者でしょ?従者くらいちゃんと躾けときなさいよね!」
「本当にうちの子がすみませんでした。ほら、ミカエラも一旦剣下ろして」
「ガルルルル……!」
ガルルルルじゃねぇよ。犬かお前は。
「まぁ、さっきのあなたの優しい行動に免じて今回は許してあげるわ」
「はぁ……ありがとうございます。それでえーっと……あなたは魔王軍四天王の1人呪いのサテラで間違いないんだよね?」
「えぇそうよ!ワタシこそが魔王軍四天王の1人、呪いのサテラよっ!恐れ慄き、子犬の様に震え上がりなさい人間っ!」
ドヤァと胸を張り自信満々に自己紹介をするサテラ。さっきまでのやり取りがあったせいで全然恐怖心が湧いてこない。何だろう……この溢れる親戚にいるクソガキ感は。ん?待てよ?ってことはもしかしたら……。
一つの作戦を思いついた俺は実行に移すべく、ニコニコと笑顔を浮かべ、声のトーンを上げる。
「え!?サテラって魔王軍四天王の1人なの?すごいねっ!」
「……で、でっしょ~?ほらほら、もっと褒めて。もっと崇め奉って!」
俺の誉め言葉を聞いたサテラは嬉しそうに鼻を伸ばす。ビンゴ、やはりこいつはチョロい。少しおだてるだけで何でも話してくれそうな雰囲気がプンプンするぜっ!
「本当にすごいよ。私と同い年に見えるのにそんな地位にまで上り詰めるなんて……いっぱい頑張ったんだね」
「え、えへへ~……ま、まぁ?それなりには頑張ったけど?意外とすぐに魔王軍四天王になれたんだよねぇ。あ、ちなみに私が四天王の中で最年少ね」
「えっ!やばっ!サテラってすごい有名人じゃん!」
「有名人……えへ、えへへ~。まぁ?巷じゃそこそこ人気があるかもねぇ?」
サテラは褒められて気分が良いのか、分かりやすくでれでれと嬉しそうに笑う。チョロいとは思っていたがあまりにもチョロすぎる。こんな精神年齢小学生の子が四天王とか魔王軍ってそこまで強くないのでは?
「そんな有名人で、すごい頑張り屋で、偉~いサテラちゃんはこんなところで一体何をしていたのかな~?」
「え~?そんなにサテラちゃんのこと知りたいの~?」
「うん。サテラちゃんのこともっと教えて~?」
微笑みを湛えながら、子供に接する時みたいに優しい声音で質問を投げかける。
「しょうがないな~。ワタシはね?勇者が戻って来る前に王都に攻撃して滅茶苦茶にしようと思ってたんだっ!」
「はい有罪」
「えっ……」
3つの光の輪がサテラの周りを囲み、そのまま彼女の身体を拘束する。まさか拘束されるとは思っていなかったのか、サテラはバランスを崩しバタンと地面に倒れこむ。サテラは何が起きたのか理解できず、数秒間ぽかんとした顔をしていたが、自分が罠にはめられたことに気付いた途端、まるで親の仇でも見るかのように鋭い眼差しをこちらに向けてくる。
「だ……騙したわねっ!!」
「騙してなんかないよ。ただ不意打ちしただけだから」
「この……ひきょーものっ!!」
陸に打ち上げられた魚の様にジタバタと地面を跳ねる。
「……それを言うなら王都の井戸に呪いをかけたサテラの方こそ卑怯だけどね?」
「あれは……立派な戦略だしっ!」
「なら私のこれも立派な戦略だよ。じゃあ衛兵さん、後は任せちゃってもいい?」
「……は、はいっ!お任せくださいっ!」
仕事を終えた俺はそのまま踵を返し衛兵さんに後処理をお願いする。手足はしっかりと縛っているし、多分問題は無いだろう。
「ふぬぬぬ……ふぬぬぬ……ふぬぬぬぬぬ!!……ふんっ!!」
と思っていた矢先、サテラは思いきり力を込めて俺の拘束から逃れる。強度は割と高いはずなのに……流石は魔王軍四天王と言ったところか。
「はぁ……はぁ……こ、このくらい余裕よっ!魔王軍四天王であるこのワタシをあまり舐めない───ってちょおおおお!!」
俺が飛ばした光の矢を避けるためにサテラが情けない声と共に大きくその場から飛び退く。
「ちっ」
「ちょっとあんたっ!まだ喋ってる途中なんだけどっ!人の話は最後まで聞きなさいってお母さんから習わなかったわけ!?」
「敵には容赦するなとも教わったから……ねっ!」
「ひぃ!」
まぁそんなことは親から一度も習ってないんだけどね。
俺は間髪入れずにサテラに向かって魔法を放つ。しかし流石は魔王軍四天王と言ったところか、俺の放った攻撃は簡単に避けられてしまう。だったら───。
「主よ、神の御業で以て彼の者の自由を奪いたまえ。───ホーリーチェイン!」
魔法陣から光り輝く鎖が生まれる。その鎖はまるで意思を持っているかのように動き、サテラに向かって飛んでいく。
「ふんっ!……ってあぶなっ!?」
サテラの魔法によって弾かれてしまった鎖だったが、流れる様にする方向転換し再びサテラを捕らえようと動き続ける。ホーリーチェイン、馬鹿みたいに固い鎖が対象を自動追尾する魔法だ。後数分もすればサテラの事を捕まえられるだろう。
「ほらほら、頑張って逃げてみな~」
「本当は私が言う台詞のはずなのにっ……ひゃっ!くっ、このぉ!」
蛇の様に地を這い、宙を舞う鎖を弾きながら、華麗に避け続けるサテラ。むぅ……意外としぶとい。でもまぁもうそろそろ捉えられるはず。
「カースドブレイク!」
「なっ!」
そう思っていた矢先、どす黒いレーザーが光の鎖に向かって放たれ、そこそこの強度を誇るホーリーチェインがサテラの放った魔法によって崩壊してしまった。そして続けざまにサテラは魔法陣を展開し、攻撃の姿勢に入る。標的は俺……じゃなく俺の後ろに居るミカエラ達だ。
「カースドブレイク!」
「っ……ホーリーシールドッ!」
サテラの放ったレーザーは俺の作った魔法の盾により防がれる。しかし、どのくらい魔力を込めたらよいのか分からなかったせいで、俺の意識はサテラからミカエラ達を守ることへと引っ張られる。その結果先ほどまで近くに居たはずのサテラが、蝙蝠の様な羽をはためかせ上空へと飛翔していた。
「……あなた名前は?」
「ユーリ……ユーリ・ラファルトだよ」
「ユーリね。あなたの名前、もう忘れないわ」
きっとこちらを睨みつけるサテラの瞳は、先ほど以上に鋭い。俺の煽りが効いたのか、はたまた彼女のプライドが傷つけられたからなのかは分からないが、完全に敵対視されているのが伝わってくる。
「また会いましょうユーリ。今度はあなたのこと呪い殺してあげるから」
そう言い残すとサテラは一瞬のうちに消えてしまった。
「……もう二度と会いたくないんですけど」
自分の手のひらを見ながら呟く。初めての戦闘、初めての殺し合いをしたからか身体がプルプルと小刻みに震えている。
「ユーリ様、ご無事ですか───ゆ、ユーリ様!?」
俺はこちらに駆けつけたミカエラの胸に顔を埋める。
「ミカエラぁ……怖かったよぉ……」
「がわいいいいいいい!!じゃ、じゃなくて!ユーリ様!ご安心くださいっ!もう既に敵はおりませんっ!ささっ、後片付けは衛兵たちに任せて部屋へと戻りましょう!」
「……ミカエラ、抱っこ」
「うっひょおおお!!じゃなくてお任せくださいませっ!このミカエラ、何が何でもユーリ様の事を部屋までお守りいたしますっ!」
戦闘による恐怖で精神がおかしくなった俺はミカエラに抱っこをしてもらい、部屋へと戻るのだった。




