第四部⑨【はじめての自己主張】
『分かったかなぁ?』と言われてもクルミはうつむいたまま黙ってしまっている。ゆえに沈黙が落ちる。
その気まずさに耐え切れないで、ハァーっと大きく溜息をついたのは、ツグミのほうであった。
「………なんだろうね。ついさっきまで私、 魔法少女になりきろうとカッコいいこと言ってたのにね。どうしてこんな辛辣なこと言っちゃうんだろうね」
「今さら自己嫌悪なんてやめてツグミちゃん。そういうのズルいの」
「後味が悪いんだよ」
「言いたいこと言ったんだったら後味の悪さも受け入れなよ。そこから逃げるのはズルいよ」
その言葉に、一旦はスイッチの切れたツグミが再びONになった。どうやらこの二人は、口を開けばお互いに深い深い底無しの泥沼へと、どこまでも陥ってゆくようだ。
「どうしてそのセリフをアンタが吐くのかなぁ!?いつもいつもアンタがマヌケなことするたびに、ムカついてるんだよ私は!私だって本当はアンタが苦しむようなことなんてわざわざ言いたくないんだよ!アンタのスネを蹴ったりだって、そんなイジメっ子みたいなことしたくないんだよ!」
「あれれ!?それ、悪役側の考えだよね!?『本当ならこんなことしたくなかった』だなんて悲しげな顔でさぁ!じゃあ初めからやらないでよ!分かって!伝わって!あたしは痛いの!」
「それだけ不愉快なんだよアンタが!人間関係って勝手にできるわけじゃない。築き上げるのって楽じゃないんだよ。私は頑張って毎日生きてるんだよ。アンタは人生ナメてるんだよ!」
「だからって蹴らないでよ!どうして痛いことするの!あたしだって言わせてもらうよ!裏ではイジメっ子みたいなことしてるクセして表では善人ぶってるツグミちゃんを見ると、気持ち悪くて仕方がないの!」
クルミが感情を剥き出しにして怒っている。その首筋に噛み付くかのように。その表情を今まで見たことが無かったせいでツグミは一瞬だけ怯んだ。
いつも怯むのはクルミのほうだった。
いつも引っ込むのはクルミのほうだった。
咄嗟、というべきだろう。先に手が出たのはツグミ。近付きすぎたクルミの両肩をドンッと突き放した。
「……私だってね、本当はキラキラしたい。でも、アンタを見てるとどうしようもなくイライラする。だから、もうこれ以上、近付くのやめよう?たしかに昔は仲良しだったよ。でも一度開いた溝は埋めがたいよ。だったら離れるしかないんじゃない?無理に近付いたら傷が増えるだけじゃないかなぁ?」
二人の間に空間ができた瞬間をポジルンは見逃さなかった。
頭上で両者がギャアギャアやるのをオロオロしながら眺めるばかりであったが、『いまぞ!』とばかり、ようやく割り込むことができたのだ。
「ストーップ!と、とりあえず二人とも一旦、落ち着こうよぅ!」
二足で立ち上がったポジルンは想像以上に不格好。やはり四足獣は四つになってこそ見栄えがするというものである。
「どいて!ポジルンはすっこんでて欲しいの!」
「そうはいかないよぅ!冷静になってクルミ!」
「私は冷静だよ。そこのバカと違ってね」
「そうやって煽るのやめてよぅ!ツグミ!魔法少女の仲間割れは死活問題!ぼくにとって死活問題なんだよぅ!」
「うるせぇ!あたしなんて『人生ナメてる』とか全否定されてんだ!そっちのほうが余程、死活問題だ!」
「ほーらほら! アンタそうやって自分のことばっかり考えてるんでしょ!?ちょっとは落ち着きなよ!」
三者三様の自己主張。公園の暗がりに混沌の嵐。
だが、引き下がることなどできない。
中でも特にポジルンは引き下がることはできない。
魔法少女の結束を夢見たポジルンである。それが目の前で関係の崩壊を目の当たりにすれば、そりゃ必死にもなるだろう。
「ピ—————ピキィ————————!ピキィ——キイィ—————!!」
威嚇か。悲鳴か。ちっとも可愛くないポジルンの発作的な鳴き声がけたたましく響いた。
きっと精神的ストレスが最大になることにより発せられるのだろう。ヒートアップしていたクルミもツグミも、これには萎えてしまった。
「……ピキィ…ピキ 」
「も、もういいのポジルン」
「ピキピキィ……仲良く…仲良く…」
「だからもういいってば」




