第四部⑥【魔法少女、警察を呼ばれる】
茂みから突如登場したクラスメイトがヌイグルミような不思議生物と喧嘩をしてるではないか。常識が通用しない事態がツグミの目の前で起きている。そんなとき、人はあんぐりと口を開けて立ち尽くすしかない。
「てめぇみたいな奴なんて大っ嫌いだ!サラリと他人のフリしやがって!恥ずかしいから?恥ずかしいのか!?それでもこちとら必死こいて生きてるんだよバーカ!」
「そ、それはごめんよぅ!でも、でも、あそこまでやらかすとは思わなかったんだから仕方ないだろう!?」
「やらかすって予告してたよなあ!?苦手だって何度も何度も言ったよなあ!そんなときに魔法少女をサポートしないならお前の役割は何なんだよ!?」
「さすがにサポートの範囲外!ぼくだってクルミがあんな意味不明な挨拶を始めるだなんて、想像もしてなかったよぅ!もう、もう、見るに堪えなかった!ぶっちゃけ、巻き込まれたくなかった!」
「あっ!言ったな畜生め!聞き捨てならねぇな!もう仲直りなんてできねぇな!そんでもって二度と自己紹介なんてしねぇよ!バーカバーカ!」
脳は過度の混沌に耐え切れない。
ツグミの脳内では目の前の事態に対して常識的な解釈を試みているのであろうが、ポジルンの存在だけは常識では解釈することができなかった。
ただ、類似する何かを持ち出すのであれば、コレは、いわゆる、『魔法少女モノ』のアニメに登場する、マスコット的なアレだろうか。ソレなのだろうか。
「ああっ!?」
ツグミは素っ頓狂な声を上げた。狂人の狂言としか見做していなかった『魔法少女』というキーワード。
すると、どういうことだろうか、阿呆のクルミが先ほど語っていたアレは、まさか現実のものなのだろうか。まさかの合致である。納得してしまっている自分がいる。
いよいよ混沌に耐え切れなくなったツグミは、自身の脳ミソがクソになってしまったのではないかと疑い、この場からの逃避を選んだ。
「ちょ、ちょっと、待って! ぼくらはこんなことをしてる場合じゃない!新たな魔法少女が頭を抱えながら逃げてゆくよぅ!」
「待ってツグミちゃん!あたしたちの話を聞いて欲しいの!」
「来ないで!警察呼ぶよ!」
『警察呼ぶよ』はショックであった。クルミ、人生を14年ほど生きてきたが、そんなことは言われたことが無かった。
マトモな生活を送っている大多数の人間は『警察呼ぶよ』などと言われずに過ごしているだろうが、いざそれを言われると、自分が完全にアッチ側だと思われている事実に愕然としてしまう。
だが、クルミである。ある意味でアウトロー。魔法少女というファンタジーな世界に片足を突っ込んでいる少女である。アッチ側と言われればその通りなのだ。クルミはめげなかった。
「 ツ、ツグミちゃん!お、おち、落ち着いて!このままだと、あたしたち、ツグミちゃんのマンションの前で、玄関の前で、ず〜〜〜〜っと、説得することになる!」
「!?」
「今度はきっとツグミちゃんの家族にも聞かれちゃうと思うよ!ご近所さんにも知られて色々影響が出ちゃうんじゃないかな!それでもいいの!?いいの!?」
「……うぐっ!」
クルミはここにきて卑劣さを発揮。家族を人質にとって脅迫するというゲスっぷりである。
たしかに、緊急避難の如く走り去ってゆくツグミの足を止めたという意味では合理的判断ではある。だが、咄嗟に善悪の境界を超えてしまうあたり、異常者の片鱗がチラつく。
「フツー、ここで家族を持ち出すかなぁ!?サイコ!このサイコ!! サイコパス女!!!」
「ご、ごめんなの!でも、とりあえず話を聞いて!」
「ねぇ!?家族って誰にとっても弱味なんだよ!?それを利用するんだ!?軽蔑じゃ足りないよアンタ!!」
「つ、つい、口から出ただけで、そ、その、あの、別にそういうつもりじゃ」
「へぇ〜え!?そういうつもりじゃないけどやっちゃったってぇ!?それって犯罪者の言い訳にそっくり!!アンタって、本ッ当に、最ッ低の人間だね!!」
ツカツカと足音を立てて戻ってきたツグミは激怒の表情。当たり前と言えば当たり前なのかもしれない。胸倉掴みグラグラと揺さぶるツグミの間に入り静止したのは、常識人側の住民、ポジルンであった。
「色々と驚かせてごめんよぅ。これはクルミに任せてしまったぼくの責任だ」
「ひゃあ!」
だが、惜しくも存在自体が非常識であった。
パニックへ陥りそうなツグミに対し、ポジルンは冷静に、短く言葉を投げかけた。家族というキーワードにこうも過敏に反応するツグミを説得するならば、きっと。
「ツグミって言うんだね。君の街に危険が訪れている。みんなを護るためにはツグミの協力が必要なんだよぅ」




