第四部①【陰キャのあなたに追加戦士をぶつけるとどうなるのだろうか】
「ぁ〜〜〜〜だぁ〜〜〜〜〜〜!!!!!」
「分かってくれよぅ。これは仕方ないことなんだよクルミ」
「やだ!やだ!やだ!やだ!いやだ!いやだ!い・や・だぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
ワンオペではしんどかろう。そんなブラックな魔法少女業務に対してポジルンからの提案。『追加戦士』の申し入れを本来、クルミは泣いて喜 ぶべきであるのだが、あろうことか泣いて拒否しているではないか。
「あわわわわわ、聞こえてませんよ、あわわわわ、聞こえてませんよ」
「……そういうことする?ちょっと子供っぽすぎやしないかい?」
「そもそも、なんでなのさっ!?魔法少女はあたしだけで充分なのっ!!お願いだからこのまま一人でやらせてほしいの!!」
「クルミの絶対拒否の態度ほうがぼくにとっては『なんでなのさ』だよぅ。新たな敵が現れた。新しい戦力が必要。これは誰にでも分かる合理的な発想だよぅ」
「合理的!テメェはどっかのインキュベーターかよ!知らない知らない!合理性よりあたしの感情的な部分を大事にしてほしいの!」
ハァ。みっともなく喚き続けるクルミを前に、ポジルンは溜息をついた。
この手の話し合いというものは平行線を辿るに決まっている。そう、どちらかが歩み寄らねば理屈と感情の交点は生まれ得ないのだ。だが、ポジルンからしてみれば、ダダをこねるクルミに対してここで引き下がるわけにもいかないのだ。
「正直言って今までだってギリギリだった。一歩間違えればクルミが危ない場面なら沢山あったろう?でも、もしそこに『仲間』がいたなら?そう、もっと余裕をもって勝利できていたはずなんだ。ましてや、あんな幹部まで現れたんだ。一人で戦ってたら最悪、怪人と幹部の挟殺の憂き目に遭うよぅ。それに、前回のクルミはなんだっけ?『勝てなかったの勝てなかったの』だっけ?そんな部活動みたいなテンションでやってたら早かれ遅かれ木端微塵!」
「そ、そんなの負け惜しみで軽口叩いただけじゃん!ポジルンの気に障ったならあたしの気を引き締めなおすから!謝るから!だから『仲間』だなんて、やめて!」
「仲間の何がそんなに嫌なのさ!?」
「何度も言ってるじゃん!あたし、他人と上手くやっていく自信が無いの!だから嫌なの!」
「……病的だね」
その手の言葉はクルミの心にグサリと刺さる。
ポジルンが慈悲が無い言葉を吐くのは、クルミの「あーあ、勝てなかったの勝てなかったの」という苦し紛れの発言にイラッときたせいもあるのだろう。やはり、余計なことを言うべきではないのだ。薄い胸を貫いた見えない言葉の槍によりダメージを受けるクルミに、ポジルンは容赦なく畳みかける。
「 他人と上手くやっていく自信が無い?だったら今から人付き合いの練習をするべきだよぅ。それとも大人になってから練習するつもりかい?誰が相手してくれるんだい?これは魔法少女として、というのもあるけど、クルミの今後の人生のためでもあるんだよぅ。他人と連携して物事を進めてゆく努力をしなければ社会に入れないよ?」
「ち、ち、畜生め!正論ばっかり吐きやがって……!」
「正論のどこがいけないんだよぅ!」
「反論できないからだよ!」
前回の戦い。それは転機。
ポジルンとしては、なんとしてでもここで追加戦士の導入をせねばならない。
いざ提案すればクルミは反発する。それを見越していたからこそ、このタイミングしかないのだ。とっくに詰んでいるというのに見苦しく喚き散らす。まさに醜態。これが魔法少女クルミの現状である。
「……苦しいことから逃げてちゃダメって、みんな言うの。もちろんそれはあたしにも、よ〜く分かってるの。このままじゃロクな人間になれないこと、よ〜〜く分かってるの。たとえば今度のテストだってロクな結果が出ないって、よ〜〜〜く分かってるの。でも、よ〜〜〜〜く分かってても全くヤル気になれないのは、なぜ、なに、どうして?あたしの心のギアが錆び付いて動かなくなってるの?」
「言い得て妙かもしれない。きっと動くことをやめると歯車が錆び付くんだよ」
「最初の一歩がつらいの。あたしの心はギイギイ悲鳴を上げてるの」
「あのさ?他人と付き合うのはそんなに億劫なのかい?」
「逆に問おうか?どうしてそこまでして他人と接しなきゃいけないの?」
「……別にクルミが完璧に世捨人になるなら構わないけど、ぼくにはクルミがそれを望んでるようには、見えないんだ」
ハァ。今度はクルミの方が溜息をついた。いくらかクールダウンしてきたのだ。
誰もが幼い頃に経験があるように、ダダをこね続けるのは非常に体力を消耗するのである。冷静になり、ベッドの上から自室を見渡せば、床に広がるゴミクズたち。億劫であると言い続け、後回しを続けた結果の堆積物たち。内訳はといえば、どれもこれも学校で受け取ったプリント類ばかりで彩りに欠ける。魅惑的なコスメが散らかっているというわけでもなければ魅力的なホビーでもない。
(これからのあたしの人生はずっと、他人から押し付けられたモノたちで埋め尽くされてしまうのだろうか?)
そう考えると暗澹とした気分になってくる。生きる活力が数割減になる。もちろん、クルミとて、そんな人生はまっぴらだし、ましてや世捨人として開き直りたいわけでもない。
ああ、面倒事を苦にもせずスマートに処理できるような人間であれば、どれだけマシだろうか。人付き合いをスムーズに行えるような人間であれば、どれだけラクだろうか。などと思いつつ今日も何も行動できないで自己嫌悪ばかりを溜め込む人間は、どれほどいるのだろうか?
「くそっ……」
ペシッ。クルミは自分の顔面を平手で叩き、そのまま顔を覆った。
「……世捨人の魔法少女なんて魔女みたいなもんな の」
「んと、たぶん、そう、なのかな?」
「みっともなく動揺してるあたしが嫌いだ。あたしはもっとキラキラしたいの。分かったの。追加戦士、受け入れるの」
「それが賢明な判断だと思うよ」
「勘違いしないでよね?あたしは『受け入れる』の。ポジルンに『押し付けられた』わけじゃ決してないの。あたしは一歩前に進むんだ。ふふふ、そうするんだ」
そのあたりのこだわりをポジルンが理解してくれていたかは怪しい。しかし、クルミからすれば決して譲れない部分なのだ。自分の意志で一歩を踏み出したことに意義があるらしい。他人から見れば小さいが、クルミにとっては脱・陰キャへの大きな一歩。
はたして、無理に自分を変化させようとする試みは、何パーセントくらいで 成功するものなのだろうか?
おそらく、陰キャから陽キャのキャラチェンジの成功例は国内において数件程度ではなかろうか?
勇気を振り絞ったそれは、ステップアップか、それとも、投身自殺か。
少なくとも、やぶれかぶれに「ふふふ」と笑うクルミの姿を見るに、やけっぱちのような気配が漂っているのだが。




