第三部⑪『敗走』
「み、み、未成年に向ける兵器じゃないでしょアレ!?」
「たぶん未成年関係無いね」
「破綻者だ!あのアホは人格破綻者だ!」
「その破綻者に食って掛かったクルミも相当な破綻者だと思うけどね。少なくともぼくには そっち側に片足突っ込んでるようにしか見えなかった」
「なにそれ説教なの!?」
「説教?違う違う。五感以外にもぼくはサポートするだけだよぅ。やられっぱなしで逃げるのはくやしいかもしれないけれど、クルミがヒートアップしたらぼくはクールに判断するだけさ。今の威力を見たろう?とてもじゃないけど勝てない。クルミの負けさ」
「アイツに一泡吹かせてやりてぇ!」
「ブラフが成功しただけでもミラクルだよぅ。相手が弓の能力を警戒していたあたりまでは正解かもしれないけど、だからと言って火力が低いわけじゃなかったのは大誤算だったけどね」
敵前逃亡。
それが果たせただけでも上出来と言えるだろう。
敵がポジルンとクルミという2vs1に翻弄される結果になったからいいものの、まともにぶつかって果たして勝ち目が有ったろうか?考えるだに薄ら寒いものがクルミの背筋を冷やす。やはり、短気は損気でしかないのだ。彼我の実力差を見極められずに発揮する負けん気も損気である。
「………人語で話しかけられたとき、正直背筋が凍ったの」
「正直ぼくも」
「あんな知的生命体が異次元にウロついてるだなんて聞いてないの!それともあたし説明聞き逃してた!?また乗り遅れましたか!?」
「大丈夫。落ち着いて。……ああいう存在はぼくにとっても未知なんだよぅ。こうやって冷静ぶった口調で話さないと動悸が収まらないくらいに。何者かが人為的に怪人を発生させている。その可能性は薄々想像はしていたけれど、こういう形で元凶に出会うとは思わなかった」
「元凶ってことは…まさか…」
「そう、いずれ対決しなくちゃいけない」
クルミは責任を背負ったことがない。なるべくそういう場から逃げ続けてきたし、こんな奴にわざわざ責任を背負 わせようと思う者もいなかったからだ。
ここにきてクルミ、魔法少女としての重圧を知る。その精神的負荷をクルミは、軽やかにスルーした。
「ま、大丈夫でしょ」
「軽い!」
「あたしだって成長してるんだよ?ちょっとずつ強くなっていけばイケるの。そう思わない?」
「クルミは大物なの!?それとも人格破綻者なの!?」
「どっちでもねぇんだよ!あたしはあたしの価値観で話してるの!このペースでやれば大丈夫だって言ってるの!あたしだって今の状態じゃ勝てないことくらい分かる。だからそれまでは逃げる。逃げ続けて勝つまで待つから大丈夫なの!」
いくら否定しようとも、どちらかといえば人格破綻者側である。悪く言えばネガティブ思考、良く言えば慎重 派。そんなクルミだが、長期的なスパンで物事を考えるときには計算が大幅に狂ってしまう。
事実、夏休みの宿題は31日まで持ち越すし、結果的に未提出に終わることすらある。陰キャのクセしてそういうことができないから最底辺なのだ。努力を継続することが苦手なのに、ちょっとずつやれば大丈夫だのと、出来もしないプランと立てては破綻するのだから、これはもう異常と呼ぶ他ない。
クルミが「大丈夫」と口先だけでは言っていても、ポジルンからは疑いの眼。やはり運命を共にするパートナーは必要である。仮にクルミが一人で動いていたならば木端微塵になっていただろうから。
「あーあ、勝てなかったの勝てなかったの」
クルミ、敗北を喫する。
まるで部活感覚のセリフである。
「ちょっと上手く行きすぎじゃないのか」そう思う者も少なくないだろう。「もっと手痛い敗北でグッチャグチャになればよかったのに」そう期待する者も少なくないだろう。
だが、今回の結果を受けたポジルンの決断が、クルミを精神状態をグッチャグチャにするのだ。訪れるべき苦難が、待ち構えているのだった。
一方。
「……申し訳ございません……」
「まあいいだろう。生け捕りにせずとも接触ができただけでも我々の得た情報は多い。相手は一人と一匹ということで間違いは無いのだな?」
「……他を頼る素振りは……ありませんでした」
「それならば、わざわざ特別に戦力を割く必要も無かろう。この件に関してはお前に任せたぞ」
「……はっ」
「他 には何か報告すべき点はあるか。直接言葉を交わしたのだろう。『魔法少女』はどうだった」
「……それについては……なんというか……その……」
「どうした」
「……どう表現すれば分かり兼ねますが……突然早口で……発狂したように……」
「なんだそれは。『魔法少女』は精神が不安定なのか」
「…不安定でした…何を言っているのかよく分からず…少し…その…キモかったです…」
「つまりは陰キャか」
「どう見ても陰キャでした」
「魔法少女が陰キャなのか」
「陰キャが魔法少女でした」
向こう側の世界。
陰キャという単語が飛び交う悪の組織。
陰キャと呼ばれる存在は、文化・時空・次元を超えてどこにでも普遍的に存在するのだろうか。それとも、こんな悪魔じみた城にさえもネット環境が整備されているのか。もしもWi-Fiが次元を超えて飛び交っているのだとすれば、実にアッパレである。
ともあれ、まさか次元の果てでも陰キャ呼ばわりされているとは本人は知る由も無く、明け方近く、冷え切った夜の街を徒歩で帰ってきたクルミはベッドの中でクシャミをした。




