第二部⑧『思い出すのは片思いのあの子』
想像力が足りない。
それはあたしがそういうふうにできているから仕方がない。
まるで欠陥品かのような無力感を常に味わい続けてどれだけ経つのだろう。きっとあたしはこれからもそういうふうに生きていくのだろう。昼休みの賑やかさがあたしと無関係であるように、きっと誰かと関係を築くことなどできずに生きていくのだろう。
「———そんなあたしに構ってくれるんだから、変人なの」
「何がさ」
「その子の名前は安倉ユウナ。言ってみれば水槽のタニシくらい存在感の無いあたしに興味持ってくれた、あたしの大好きな変人さん」
「…………」
「なんてね。やっぱ陰キャってダメだね 。ちょっと話聞いてくれただけでも惚れちゃいそうになるほど嬉しくなるんだから。でも、安倉さんの顔を思い浮かべるだけでなんだかちょっと心が温かくなる。ポジルンの言う『世界を守る』とはちょっと違うかもしれないけれど、あたし、頑張れるような気がする」
「たぶん違くないよぅ」
「ありがと」
「さっきはきみたちの関係をアイタタとか言ってごめんよぅ」
「いいってことよ」
されど状況は変わらず。
されどメンタルに熱が加わった。
それだけで充分だった。
逃げ続けるスタイルに変化は無いものの、クルミの肩にしがみつくポジルンが背後を目視してくれており、怪人の加速のタイミングを教えてくれる。
それがピタリとハマっている。その実感は両者の間に確実にあっ たのだ。事実、振り返らず一心不乱の走りを続けられる分、クルミに隙は無くなっている。
「安倉さんならどう見るんだろ。この怪人のことを、さ」
振り絞るは足りない想像力。
脳の普段使わない部分をフル回転させる感触。
夕暮れの教室でユウナに翻弄されたように、今度はあたしがこの怪人を手玉に取ってみよう。そして、ちょっと考えてみれば、いや、感じてみれば分かる。怪人の猛烈タックルの頻度が上がっている一方で精度が下がっている。
そう、いつでも殺せるという状況でなくなっているのだ。思うようにいかなくなったイラつきが伝わってくる。それは想像でしかないのかもしれないが、クルミにとっては確信めいたものであった。
「ポジルン!追加の強力な武器 ちょうだい!じゃないとコイツ殺せない!」
「はぁ!?そんな話あったっけ!?」
「ヒロインがピンチの時にそういうのを手にするのがお約束でしょ!?」
「そんな約束、無い!」
「畜生めぇ!」
「矢尻をナイフみたいにして振り回そう!それしかないよぅ!」
「たしかにいいね!あたしもそれ考えたの!でもね、矢をプルンプルン振り回すなんて縄文人でもそんなバカなことはしねぇな!」
直線的な大通りから次第に細かい道へ。曲がり角を曲がり続ければタックルの回避はさらに容易になる。
同時に、街の奥へ進めば進むほどに、必然的に訪れるであろう終わりの予感。
「クルミ!今どこ走ってるか分かってるの!?」
「分かってるよ。あたしの住む街だもん。一人で反省会しながらウロウロ彷徨ってきたあたしが住む街だもん」
ワゴン車が大破する。自転車が弾き飛ばされる。魔法少女が駆け抜けた数瞬後に走り来る怪人。
だが、トムとジェリーの様相を呈していた追いかけっこも終わりを迎えた。狭くなり続ける道の果てに、約束されたかのように行き着く、袋小路。
「嘘つきだ!クルミは嘘つきだ!ホラ見ろ行き止まりじゃないか!!!」
「………っっ!!」
袋小路に袋の鼠。
それが逃亡劇の末に辿り着いたクルミの状況である。
民家の中に逃げ込むか。いや、その時間などない。くるりと反転すればすぐ目の前に怪人の姿。確認できたのは一瞬であったが、莞爾とばかりに浮かべた笑みが裂けた口から猫科の如き凶暴な牙を覗かせていた。
直後。
力を溜め込んだ両脚から放たれる、問答無用の、回避不可能の、猛進タックル。
「クルミッィィ!!!!!」
真正面からであった。
直撃。衝撃。肩に乗っていたポジルンは軸から外れていたため大きく弾かれたのみ。しかし、クルミの身体は怪人と共に、撃ち込まれたバズーカの勢いで民家に吹っ飛び大破させたのだった。




