相談の手紙の内容はかなり困ったものだったらしい
スミマセン、2話目投稿せずこちらを投稿していましたので、本日投稿分とこちらを入れ替えています。
「はぁ、ええと続き……高熱を出すまで娘は普通の貴族の娘でした。家庭教師の言う通り勉強し礼儀作法を覚え美しい所作で食事をし、刺繍やダンスを覚え、詩の暗唱を得意として……それが突然大きな口を開けパンを口いっぱいに頬張り、音を立ててスープを飲み、ケーキを掴んで食べだしたのです? え、貴族令嬢なのよね?」
手紙を読む途中で自信がなくなり神官を見ると、彼は真面目な顔で頷いている。
「貴族の礼儀作法が身に付いてない私だって、ケーキを手掴みで食べたりしないわ」
「そもそもケーキは神殿で食べられません」
それはそうだ、ケーキはとんでもなく贅沢品なのだから、私は王妃様のお茶会にお呼ばれした時に口に出来る程度だ。
本当は一口一口味わって食べたいのに、お話しないといけないから涙を飲んで意識をケーキじゃなく周囲に向けている。
お茶会って、ある意味大聖女の修行より過酷だと思う。
「そういうことを言っているわけじゃなくて、食事の作法が拙い私でもしないと言っているの」
「拙いのは認められるのですね」
「だってあの方々は、無音で食事するのよ。スプーンやフォークが食器に触れる微かな音すらさせないのよ。何をどう頑張ればそんなこと出来るのか分からないわ」
そういう勉強に費やす時間が違うのだろうけれど、神殿内で食事の作法はそこまで厳しくないから、お茶会とか私だけいつもちょっと恥ずかしい思いをすることになる。
お茶会に参加する度恥ずかしい思いをして、でもどう改善すればいいのか分からずになかったことにするのが私だ。
「食事の作法など最低限出来れば良いのです。パンは一口大にちぎって口に入れる。食べ物が口に入ったまま話をしない。ポタポタ汁をこぼさないなどですね」
「それが最低限だとすれば、この令嬢は最低限の作法すら出来なくなったと言うわけね」
高熱が出る前まで問題なく出来ていたのなら、それは手紙の主も驚くことだろう。
「……問題は食事だけではありません。ドレスが重い、丈が長いのが嫌だと言い始めた為、病み上がりで体に負担なのかと軽い物を作ろうと仕立て人を呼んだところ、暑いし堅苦しいのは嫌だと言い始め、膝が見える下着かと思うようなものを望んだのです。えぇぇっ、そんなの望む? 膝が見える服なんて平民の女の子ですら着ているのを見たことないわよ」
あんまりな話に私が大声を上げると、神官はやれやれとばかりに首を横に振る。
「なかなか凄いお話です」
もう驚きすぎて、変な声しか出ないけれど、まだ手紙は続いている。
「そんなものは、例え眠る時でも認められないと言えば、今度は私はこの世界のヒロインで、あんたはモブのくせにとわけの分からないことを言い始めました。ヒロインとは? モブとは? と聞くと、ヒロインは芝居や物語の女主人公、モブはその他大勢の立場の者だといい、娘は私はこの世界のヒロインなのこれから聖なる力が発現し聖女になるの、そして最後は悪役令嬢を断罪して王子殿下と結ばれ王妃になるのだと、おかしくなったとしか言いようがないことを言うのです。……え、これおかしすぎない? 聖女って結婚、しかも王族の妻なんてなれるのかしら。ん? 大聖女ではなく聖女? 女性神官でもなく? え、王子と結ばれて王妃?」
動揺しすぎて書き間違えをしているのかと、手紙を読んで浮かんだ疑問を神官に向けると、ブンブンと音がなりそうな勢いで首を横に何度も振っている。
「ねえ女性神官ではなく、生きているのに聖女になるなんて、そんなことあるの?」
「そんな事例はございません。大聖女様もご存じの通り、聖女、聖人はこの国では亡くなった神官を指しております。他の国はどうなのか存じ上げませんが、この国では聖女は亡くなった女性神官を言うのですから、結婚などできるわけがありません。それに神官や女性神官は神殿に入り神に仕える者ですから生きていても結婚はいたしません」
この国では神官が亡くなると、どんなに辺境の地の神殿にいた者でもこの大神殿で魂送りの儀式をする。
大聖女が行う魂送りの儀式というのは、亡くなった神官の魂を神の園にある世界樹に送る大切な儀式だ。だから、ご事情があって遺体を運べない場合は、その神官の証を大神殿に送り儀式を行う。
生前神に仕えた神官は死後、神の園にある世界樹の葉に生まれ変わるとされているから、魂送りの儀式は神に生涯を捧げ仕えた神官にとって大切なものとされている。
その儀式を行うのは私の役目で、大切な儀式だと知っているから手抜きは出来ないし、するつもりもない。
ちなみに神官で無い者も亡くなると魂送りを行うけれど、これは神の園に無事魂が辿り着くように祈るものだから亡くなった神官に行うものと名前は同じでも意味合いが異なる。
「そうよね、私何か認識違いをおこしているのかと驚いてしまったけれど、この令嬢がおかしいのね」
「はい、それにしてもこれが事実であれば高熱による一時的な錯乱などではなく、完全におかしくなったとしか思えません。聖なる力を授かり神官になるのは珍しくありませんが、何を勘違いすれば神に仕える者が王子殿下と結ばれるなど言えるのか」
これは神官の言う通り高熱を出したせいでおかしくなった。なんて、簡単な話ではないのかもしれない。と私は真面目に考え始める。




