Ep.66 メアの憂鬱③
「ミーシャ……!?」
およそこの場に似つかわしくない少女が、気だるげな様子で立っていた。
「ミーシャ、何で貴女が……それに、今のはどういうことですか?」
「ん、アルがエルトを追いかけた理由。エルトを助けるために」
「何で貴女がそれを知っているんですか……?」
「だって、その場にいたし。アルから直接聞いた」
「はぁ!?」
あっけらかんと言うミーシャに、一同は驚愕する。
それもそうだ。何せミーシャはアルとエルトがいなくなった日に、最も情報を知っているであろう人物として辟易するほど質問されたのだ。にもかかわらず、本人は「知らない」の一点張り。ミーシャが嘘をつく理由もないことから、恐らく本当に知らないのだろうと思われつつあったというのに……。
あろうことかミーシャは、前言を撤回して「その場にいた」とまで言ったのだ。
何故今まで嘘をついていたのか、何故今更本当のことを言う気になったのか。一同はミーシャの考えが理解できず、大量の疑問符を浮かべていた。
そん中一早く立ち直ったのは、やはりリーシャ。自由奔放すぎるミーシャに振り回されるのは慣れていることもあり、即座に事情を聞くために口を開いた。
「色々と聞きたいことはありますが……何故、嘘をついていたのですか?」
「だって、バレたらメンドイし。一応アタシ監視も兼ねてたから」
「そんな理由で……では、何故今更言う気に?」
「ん。まぁ、エルトの正体とアルがエルトを追いかけたことまでバレちゃったし……時間の問題かなって。だったら自分から言った方が怒られ度も減るかなって」
「貴女という愚妹は……」
あまりに身勝手すぎる理由の数々に、リーシャは呆れを通り越して頭が痛いとばかりに額に手を添えた。本来であれば気が済むまで説教してやりたいところだが……今はそんなことよりも重要なことがある。もっとも、今更いくら説教したところで変わりはしないだろうが。
「……まぁ、いいです。それより先ほど言ってい――」
「助けるって、どういうこと?」
アルがエルトを助けるために追った、という点についてもっと詳しい話を聞こうと口を開いたリーシャだったが、それを遮るようにメアの疑問が被せられる。
「ん、長くなるんだけど……」
「いいから、説明して」
「えー……メンド……ん、まぁいいや。エルトは第五魔王の配下、それは事実。でもアル曰くただの部下ってわけじゃなくて、第五魔王の”道具”何だって」
「道具……?」
自分から来ておいて長い説明をするのは面倒がるミーシャだったが、メアの有無を言わさぬ視線を受けて渋々口を開く。
「アタシも詳しいことを知ってるわけじゃないけど、感情を排して第五魔王の命令を忠実にこなすための”道具”……そんなところじゃない?」
「それは……事実なの?」
「さぁ? さっきも言ったけど、アルから聞いただけだし。少なくとも、アルは相対してそう感じたらしいよ。エルトの瞳は空っぽだったって」
「空っぽ、か……」
そう言われて思い出すのは、エルトの姿。
確かに彼女は基本的に無表情だし、アル以外にそこまで興味を示さなかった。だがそれは単に感情を表に出すのが苦手な性質なだけかと思っていたが……。
「でもアルは、そんなエルトも心の奥底では、”道具”なんて生き方を望んでいないって思ったみたい。だから、助けたいって。”道具”なんて生き方を辞めさせるために、第五魔王のところから連れ戻すって。吃驚だよね、自分を殺しかけた相手だよ?」
「殺しかけた? どういうことか、説明なさい」
「ん、リーシャねぇも見たでしょ? あの部屋。エルトはアルに刃を向けて、危うく殺しかけたみたい。結局失敗して多少の争いがあったみたいだけど……」
「それが、あの部屋の状態の理由ですか」
アルの部屋には争った形跡が残されていた。
散乱した家具と無数の裂傷、飛び散った血液……どう見てもただごとではなくアルの部屋で”何か”があった証拠だ。それはエルトが内通者であった場合、アルとエルトが争った形跡なのではないかと踏んでいたが……。
どうやら大方の予想通り、あの二人は部屋の中で争っていたらしい。
殺されかけたと言っている辺り、部屋に散らばる血はアルのものなのだろう。第一、エルトが本当に《影世の処刑人》を呼ばれる人物なのであれば、アルに勝ち目はない。むしろ生きているだけ大したものだとすら思える。
「……!」
そこまで考え、セラの脳内にはある考えが浮かんだ。
無意識のうちにチラリとメアの方へ視線を向ければ、彼女は何かを考え込むかのように思い耽っていた。セラと同じ考えに至ったのか、はたまた別のことか。
エルトを仮に《影世の処刑人》とした場合、彼女は両手では数えきれないほどの標的を殺している。大それた異名がつけられるほどだ、常人であれば耐えかねるほどの数を手にかけてきたに違いない。
セラはそれまで、《影世の処刑人》は愉快犯、あるいは対価を得て依頼を全うする仕事人だと思っていた。いずれにせよ本人の意思で、人殺しを行っているのだと。
実際、この世に蔓延る殺し屋などはほとんどがそうだろう。
誰が生きる手段として殺し屋と選ぶのか。常人であればそんな仕事は選ばないし、選べない。
けれど、ミーシャの話が真実なのであれば?
エルトは自分の意志ではなく、第五魔王の命令で《影世の処刑人》などと呼ばれるまで、人殺しを続けてきたのだとすれば?
正常でいられるはずがない。
初めから異常な精神を持っているならばともかく、正常な精神を持ったものが数多の人殺しを重ねていったのだとすれば……彼女の心は、もう……。
――あるいは。
そんな彼女の心に残った、ほんの微かな光を、アルは察知したというのだろうか。
「……」
ふと視線を感じ、セラはエメラルドの瞳をそちらに向けた。
そこには、セラに紫紺の瞳を向けるリーシャの姿が。恐らくは彼女もセラと同様の考えを思い浮かべていたのだろう。その瞳には微かに憐憫の色が浮かんでいた。
「……何で」
各々が思いに耽り、僅かに沈黙が落ちた執務室において、メアの小さな声はやけに響いた。
「何で、アルくんはエルトちゃんを助けようって思えたの? 自分のことを殺しかけた相手なんでしょ? 自分のことを騙してた相手なんでしょ?」
エルトが内通者だった以上、彼女が語った言葉は全て嘘だったのだろう。
記憶喪失だということはもちろん、日常の中でアルにかけた言葉も、仕草も、行動も。すべてが嘘で、アルを騙すためのものだったのだ。
そう、アルは信じていた相手に――裏切られたのだ。
傍目から見ても、アルはエルトのことを可愛がっていた。自らの妹だと公言し、まるで本当の兄妹のように接していたはずだ。
その結果が、自分に突きつけられた刃。
絶望しただろう。
失望もしたはずだ。
信じれば信じるほど、裏切られた時の失意は大きくなる。
それはメアもよく……分かっているつもりだ。
「何で、アルくんはそれでも……エルトちゃんを信じられるの? 自分が”道具”だって言葉も、同情を引くための嘘かもしれない。そうじゃなくても、エルトちゃんを助けに行って、素直に助けられるとも思えない。ううん、十中八九、拒絶されるのが目に見えてる。だって、自分に刃を向けた相手でしょ……?」
だからこそ、メアには分からなかった。
何でアルは、エルトを信じられるのか。
自分を騙し、嘘をつき、刃を向け、裏切った相手を――何でまだ、信じようと思えるのか。
メアはアルの真意を問うように、ルベライトの瞳を大きく揺らがせながら、言葉を紡いだ。
「……”一度決めたことは、死んでも貫き通す”」
「……?」
「アルが言ったこと。そして、”兄として、妹を助ける。一度決めたことだ”とも言ってた」
「……それは」
「それが、アルの”信念”なんだって」
「なに、それ……」
意味が分からない。
たったそれだけのために、アルはエルトを助けに行ったというのか。
何もかも投げ捨てて、クローリー軍を去ってまで。
「大切なのは、エルトがどう思うかじゃなくて、自分がどうしたいからしいよ。そしてアルはエルトを助けるって、守るって決めたみたい。……あるいは、決めてたのかな?」
「……裏切られても、良いってこと? もう一度信じて、その結果また裏切られても、平気だっていいたいの……?」
ミーシャが告げたアルの言葉を、信じられないと拒絶するメア。
なぜなら、裏切られるのは怖いことだ。
信じたいと思えば思うほど。信じそうになればなるほど。裏切られた時の恐怖がメアの心を蝕む。
信じられない――信じたくない。
だってアルの”信念”は、メアの恐怖を真っ向から否定するものだから。あるいは――メアの恐怖すら、受け入れてしまうものだから。
「――それが、アルなのでしょう」
ミーシャを通してアルに投げかけられたメアの疑問。
それに答えたのは、笑みを浮かべたミルフレティアだった。
「”一度決めたことは、死んでも貫き通す”……実にアルらしい生き方だと思います。そして、アルがそれを体現する姿を、私は見てきた」
「……ミル」
「アルは強い。けど無敵じゃない。何度も何度も負けて、己の弱さに打ちのめされて、それでも立ち上がり続けたように。きっと、傷つくと思います。信じた結果裏切られて、アルの心が無事で済むはずがない。傷ついて、失意に塗れて、絶望だってすると思います」
「なら……!」
「でも、決して折れない。諦めることだけはしない。例えどれだけ裏切られようと、アルはその度に立ち上がって足掻き続ける。……大切なのは、傷つかない強靭な心でも、傷つかないように殻に籠ることでもない。本当に大切なのは……どれだけ傷ついても、立ち上がる強い意志です。私はアルを見て、それを教わりました」
「……!」
ミルフレティアから告げられた、アルの意志。
その在り方は、メアの心に大きな衝撃を与えた。
――大切なのは、 どれだけ傷ついても立ち上がる強い意志。
それはメアの在り方とは、真逆のものだ。
傷つかないように、裏切られないように。自分の殻に籠って、信じないように心を守ろうとする保守的な在り方とは、相容れない生き方。
それはメアにとってとても怖くて……とても羨ましい生き方だった。
「(ボクは……臆病だったのかな……)」
アルの在り方と自分の在り方を比べて、メアは心の中で独り言ちた。
「(いや……違う。どんなことを言ったって、アルくんがボクらを捨てたことに変わりはない……!)」
――俺、強くなるよ。メアの夢の手伝いができるように……その《剣鬼》と同じくらい、いいや、それ以上に
――俺はいつか、魔神にも負けないくらい強くなる。今は弱くて、ダメダメだけど……それでもいつか、必ず
――俺の意志は、何一つ変わらないよ。あの日、あの場所で言った通り……そして、さっき宣言したように。俺は剣鬼を越えて、魔神にも負けないくらい強くなって――キミの隣で、君の夢を支える。それが、俺が努力し続ける理由だから
――だから、キミは待っててくれ。今すぐに理解してほしいとも、受け入れてほしいとも思ってない。これは間違いなく、俺の我儘だから。キミは悩まず、そのまま走り続けてくれればいい
メアの脳裏に、アルの言葉が浮かんでいく。
アルがメアに向かって言った、言葉の数々。それは紛れもなくアルの本心で、強い決意のもと告げられた言葉だ。少なくともメアは、そう思っていたのだ。
けれど、アルはエルトを選んだ。
メアに告げた言葉の一切合切を、投げ捨てて。
「(何が……”一度決めたことは、死んでも貫き通す”だよ。貫き通せてないじゃないか……)」
メアに言った言葉はどうなる?
メアと結んだ約束はどうなる?
結局のところエルトを助けるだの何だの言っても、メアとの一切合切を切り捨てたことに変わりはないではないか。
揺らぎかけたメアの心が、再び沈んでいく。
「……でも、じゃあ何でアルくんはクローリー軍を出ていったの? エルトちゃんを助けるだけだったら、他にもやりようはあるでしょ。どれだけ都合が良いことを言っても、アルくんがクローリー軍を捨てたことに変わりはないよ」
「メア様……」
「それは……」
なおも否定的な意見を述べるメアに、ミルフレティアは口ごもる。
実際、エルトを助けたいだけなら、メアたちに黙ってクローリー軍を去る必要はないのだ。アルを信じていると言ったミルフレティアも、その理由だけは分からず、メアに返す言葉がなかった。
しかし、この場においてその理由を知る者が一人。
面倒だとは思いつつも、ミーシャは口を開いた。
「もう一つ、アルが言ってたことがある」
「もう一つ……?」
「ん、”強くなって、メアの隣に立つ”……それも決めたことだって」
「――それ、は」
メアは思わず目を見開いた。
ミーシャから代弁されたそれは、紛れもなく、アルから告げられた言葉だったのだから。
アルの言葉にメアの心はひっかきまわされ、大きくざわついた。
「(アル、くんは……ボクとの――)」
”一度決めたことは、死んでも貫き通す”。
そして、メアとの約束もまた、アルの信念に基づいて決めたこと。
「(だって、じゃあ、何で……)」
アルが自分との約束を放り投げていたわけじゃないことは、素直に嬉しい。
だが分からない。それならば何故、アルはクローリー軍を去ったのか。メアの下からいなくなったのか。
「……エルトを助けに行くってことは、第五魔王に喧嘩を売るってことになるから。エルトのこと、アルがメア様に相談してたらどうなったと思う?」
「それは……」
「アルはメア様の夢を応援したかったみたいだからね……メア様に迷惑をかけたくなかったんだよ」
「――ぁ」
ことここに至って、メアはようやく、アルの真意に気づいた。
アルは言ったはずだ。
メアの夢を手伝うと。
メアの隣で、メアの夢を支えると。
「(アルくん、キミはボクを……)」
アルは投げ捨ててなどいなかった。
メアを切り捨ててなどいなかった。
エルトを助けると誓いながらも、メアとの約束を果たすために、最善を尽くしていたのだ。
メアならば魔神になれると信じて――その邪魔をしないために、たった一人で第五魔王の下へ向かって。
アルだって分かっていたはずだ。
第五魔王インフェル・ノクターンの下からエルトを助け出すことは、非常に困難であると。ノクターン軍の兵士はもちろん、最悪の場合、インフェル・ノクターン本人と戦う可能性だってある。そうなった場合アルに勝ち目はないだろう。
死ぬかもしれない。
どう考えてもメアに協力を仰いだ方が確実だ。
でも、アルはしなかった。
それはメアたちを蔑ろにしていたわけではない。むしろ、その逆。メアのことを思っていたからこそ、アルは一人で行ったのだ。
「――アル、くん」
そのことをようやく理解したメアは、酷い自己嫌悪に陥っていた。
アルはずっとメアのことを信じていた。メアの夢を支えるという言葉をたがえるつもりはなかった。
にもかかわらず、メアはアルのことを疑った。
信じられなかった。
「(ボクに、アルくんに想ってもらう資格なんて――)」
微かに震える自分の掌を見る。
アルはずっと、この手を取ろうとしてくれていたのに……。
メアは無意識のうちに拳を握り、その長い爪が白い肌を突き破っていた。僅かに血が滲む。けれど、メアにはそんなこと気にする余裕はなくて……、
「(ボクは、どうして――)」
「――メア様!」
そこで、メアの思考を遮るような声が響いた。
「大変デス! 分身体カラ連絡ガ入リマシタ!」
「ぇ、な、何……!?」
普段は至って冷静沈着なクロロの、張りつめた声。
ただ事ではないその様子に、メアは思考を放棄し問いただした。
そして、
「――”賢王の館”ニテ、インフェル・ノクターントアルファストガ交戦シマシタ……!」
「――!?」
一同の間に、緊張が走る。
アルがエルトを追ったと、そう聞いた時点で想像はしていた、最悪の展開。
リーシャは目尻を鋭くつり上げ、セラは最善の行動を模索し、ミルフレティアはすぐにでも動こうと脚を動かし、ミーシャは僅かに目を細めた。
そして――メアは漆黒の翼を顕現させていた。
普段は収納している”吸血鬼”の特徴。
その幅は3mはあろうかというほどの、巨大な一対の翼。
メアは腰から伸びるそれをはためかせ、グッと腰を降ろした。
「メア様ッ!? お待ちください!!」
メアが何をしようとしているのか。
それを一早く察知したリーシャが静止するが、時すでに遅く。
「ッ!!」
まるで弾丸のように跳ねたメアは、窓を突き破り、夜空を駆けて行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「――はぁ」
当時のことを思い出し、メアは再びため息をついた。
あの時は考えるよりも先に体が動いたが、今にして思えばよく分かる。
何故、リーシャの静止も聞かず、まともに話し合いもせず、一目散にアルの下へ駆けたのか。
それは、あれ以降メアを思い悩ませる要因と同じだ。
それを自覚するたびに、メアの心は暗く沈んでいく。
具体的には――自身に感じる失望と負い目、そして……ミルフレティアとミーシャに感じた嫉妬だった。
失望と負い目は、当時メアの心を支配していた最大の要因だ。
アルを信じられなかった自分に対する失望。それでもアルは自分のことを信じてくれていたという事実に対する負い目。
今でこそ自分の心を整理する時間ができたためマシではあるが……当時のメアの心情は、それはもうぐちゃぐちゃだった。
それもそうだろう。
アルを信じたいと思いながらも、信じたくないと揺らぐ心。そして裏切られたと悟り、迫りくる痛みと同時にメアの心を覆う暗い影。けれどもミルフレティアたちから告げられるアルの意志を感じて、再び「信じたい」と「信じたくない」の間で揺れ動く心。そして、アルはメアを裏切ってなどなく、メアのことを変わらず想っていてくれたと知ったのだ。
メアの心情はぐらぐらと揺れ動き、しっちゃかめっちゃかだった。
今思えばそれらはすべて、心が弱いメア本人のせいなのだが――当時のメアは自分の心が分からず、とにかくアルを失うわけにはいかないという一心で行動してしまったのだ。
当然、後からリーシャにとても怒られた。
セラにも怒られた。
あの時のメアの行動は、ともすればアルの意志を無駄にする行為だったのだから。
メアが直接動くということは、一般隊士であるアル一人の行動とは比べ物にならないほどの責任が生じる。最悪の場合、魔神になるというメアの夢が、それまでの努力が、すべて無駄になるかもしれなかったのだ。
そのことについて、メアは深く反省をしていた。
それでも――アルを助けられたこと自体は、微塵も後悔していないが。
そして――今のメアの心を苛んでいる最大の要因、それはミルフレティアとミーシャに対する嫉妬心だ。
「(ミルもミーシャも、ボクなんかよりよっぽどアルくんのことを理解してた……)」
アルがクローリー軍を捨てたと、そう疑ったメアとは違い。
ミルフレティアは初めから、一貫してアルのことを信じていた。
何か理由があるはずだと。アルが途中で投げ出すはずがないと。
だからこそ、アルを探して事情を聞くべきだと。
そしてそれは、正しかった。
ミルフレティアの言うように、アルには事情があり、メアたちのことを蔑ろにするつもりはなかった。アルは自分の”信念”に基づいて、エルトを助けようとしていたのだ。そして、メアとの約束も破るつもりはなかった。例えクローリー軍ではなかったとしても、メアの隣に立つため、研鑽を積むつもりであったとは、本人から聞いたことだ。
ミルフレティアはメアなんかより何倍も、アルのことを理解していたのだ。
そしてそれはミーシャもまた同様だ。
彼女の場合は少し違うが、それでもアルの事情を、そして心情をメアなどよりもよく知っていた。あの時点では恐らく、クローリー軍で一番アルの真意を理解していたと言ってもいい。
自分の知らない意志を、想いを、アルから直接聞いていたミーシャに対して、嫉妬しなかったといえば嘘になる。
「……そりゃあボクはあんまりアルくんと話せてないけどさ~……」
ミルフレティアは毎日アルと一緒にトレーニングしているし、ミーシャは専属メイドとして傍にいることが多い。必然的にメアよりも会話をすることは多いだろうし、その分親密にもなるだろう。
もちろんクローリー軍のリーダーとして、部下たちの仲が良くなることは嬉しいことだ。
それでも、自分よりもずっとアルのことを理解している二人に対して、何も思わないわけもなく。
自分の情けなさも相まって、二人に対する嫉妬心がメアの心を蝕んでいった。
それは決して、恋心などという感情ではない。
純粋に自分が見初めて、仲が良いと思っていた相手に、より深い理解者がいたという事実に対するやるせなさだ。アルを見てると”彼”を思い出すという個人的感情が、一切関係ないかと言われると、否定はしきれないが。
それでもメアは、純粋にアルファストという一人の人物と仲を深めたいと思っていた。
「あ~~!! もう! どうしたらいいんだよ~~!!」
どうしても胸のもやもやは消えず、発散するように叫んだ。
それからしばらく、毎晩のようにメアの叫び声が聞こえたという。
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感想・誤字報告、お待ちしております。
少しでも面白い、気になると思っていただけたら登録お願いします。でも読んでくれるだけでありがたいので最悪しなくても良いです()。
嘘です、シテクダサイ。泣いて喜びます。




