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無才の剣士 ~もう一度キミに好きと言うため、才能を捨てて記憶を選ぶ~  作者: 塚丸水産
白影編

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Ep.42 意志表明






「――歓迎会?」


 相対する少女の言葉に対し、アルはそのまま繰り返した。


 アルの目の前にいるのは漆黒の少女――メア・クローリー。

 たまたま廊下で会ったところで、メアはちょうどよかったとばかりにアルに声をかけてきたのだ。


「って言っても、俺がここに来てから半年以上経ってるけど……」


 アルがメアに助けられてアルメアにやってきてから早くも半年以上の月日が経っている。それだけの時間を過ごせば、アルもクローリー軍の一員としてここでの生活に慣れているもので、今更歓迎会といってもピンと来ない。


「もしかしてエルトのか?」

「ううん、どっちもだよ。ウチでは毎年この時期にまとめて歓迎会をやっててね。今年はアルくんとエルトちゃん、二人が新しく入ったから、二人の歓迎会だね。……って言っても、ここ最近は新人が入ってこなかったから、歓迎会をするのも久しぶりなんだけど」

「なるほど」


 どうやら決まった周期で歓迎会をやっているようで、丁度その時期らしい。


「それにしても何でこんな中途半端な時期なんだ? 別に新年でもないだろうに」


 魔界は人間界とは違って四季というものが存在せず、地域によって気温や気候が異なる。そのため丁度良い節目となるのが新年くらいしかないのだが、アルがアルメアにやってきたのが新年を少し過ぎた頃なので、丁度一年のうち半分が終わったくらいだ。どうせイベントを開催するなら、分かりやすく新年のほうがよいのではないか? そんなことを思ったアルだったが、


「そろそろ逢魔祭の時期だからねぇ。元々逢魔祭に合わせて歓迎会を調整したわけだし」

「逢魔祭?」


 聞きなじみのない単語に、アルは首をかしげる。

 言葉の響きからして何らかのお祭りだろうか……? そう考えるアルに対し、メアは「うーん」と少し考えるような仕草を見せる。


「詳しい説明は後でしてあげるよ。ちょっと長くなりそうだし」


 それほど長い時間を取れないようで、メアはやや申し訳なさそうな表情を浮かべながら言った。


「それじゃあ、詳しい日程は後で教えるから! 楽しみにしててね!」


 そうにこやかに告げると、メアは足早に去っていった。











◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆











 ――そうして迎えた歓迎会当日。


 アルとエルトは、アルメア城の一階にある大広間にやってきていた。


 特別なイベントでもない限りは入ることのない大広間。

 普段は誰も使わず、閑散としている空間だが、今日にいたっては大勢の人でごったかえしていた。


 クローリー軍、計168人。


 これでも『紅蓮の牙』の隊士のほとんどは警邏に出ているため、実際の総勢は更に多くなる。


 大広間には多くの机が並べられており、その上には豪奢な料理の数々が広がっている。しかしクローリー軍の隊士たちのほとんどは正装ではなく、ラフな恰好をしている。そのためか、会場の雰囲気とは裏腹に堅苦しい空気は流れていない。


 アルとしても『輝剣』の面々を筆頭に、この半年でそれなりに交友を深めてきた顔がちらほらと見えるのでそこまで緊張はしていない。

 しかしつい最近クローリー軍にやってきたエルトはこれだけの見知らぬ人々の中で緊張していないだろうか。そう思って繋がれた右手を辿ってエルトの様子を伺うが、


「…………」


 エルトはいつも通りの無表情を浮かべながら、豪奢な料理に視線を向けている。

 どうやら心配はいらないようだ。


 すると、アルの耳に聞きなれた声が届いた。


『――あ~、マイクテストマイクテスト~。聞こえてるね~? おっけー、じゃあ始めよっか!」


 大広間の最奥に設けられた、小さな壇上。

 そこにはいつも通り黒のややゴスロリチックな衣装に身を包んだクローリー軍総帥――メア・クローリーの姿があった。


 メアの右手には発声の魔道具が握られており、広く賑やかな会場全体に声が響き渡る。しかしその声音はどこか呑気なもので、会場全体に弛緩した空気が流れた。


『えっとね~、もうみんな分かってると思うけど、ボクって堅苦しいのは嫌いだから。前置きは手短にするよ~。今日は年に一度の歓迎会! って言っても、随分久しぶりだけどね。今年は久しぶりに新人が、それも二人も入ってくれたから、紹介するよ~!!』


 紹介? どうやって? メアの言葉を聞きながらそう思ったアルの肩が、トントンと叩かれる。


 振り返ると、そこには相も変わらず丁寧な所作で佇むリーシャが。

 リーシャは喧騒の中アルにも聞こえるように身を寄せると、耳元に顔を近づけて言った。


「アル様。エルト様を連れて壇上へ上がってください」

「えっ、上がるの?」


 事前に何の話も聞いていないアルは、急に壇上に上がれと言われても心の準備はできておらず、思わず素っ頓狂な声を上げた。


 アルとて特段緊張しがちな性格ではないものの、さすがに150人以上の人物に注目されるのは居心地が悪い。しかも流れからして、アルもエルトも何か発言しないといけないパターンだ。当然何も考えていないアルは、内心壇上に上がりたくないという思いに駆られる。


 しかし、会場は既にアルたちが壇上に上がるのを待っているようで、メアも「早く早く」という視線を向けている。アルのことを知らない者は不思議な表情を浮かべているが、アルを知る者たちはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながらアルのことを眺めている。主に『輝剣』の隊士たちだが。


「はぁ……」


 ここで前に出ないという選択肢はもはやなく、アルは観念してエルトを伴い壇上に向かった。


『は~い、やっと来たね~! というわけで、この二人が新しくクローリー軍に加わったアルファストくんとエルトちゃんです~! アルファストくんに関しては結構前からいるから知ってる子も多いと思うけど、エルトちゃんはつい最近だから。仲良くしてあげてね~! じゃあせっかくだし自己紹介でもしてもらおうかな~』


 やはり来た。

 どうせならメアの紹介だけで終わってくれないかななどと思っていたアルだったが、そうは問屋が卸さず。メアがニコニコしながら発声の魔道具を渡してくる。


 仕方なくそれを受け取り、アルは頭の中で何を発言するか高速で考えながら口を開いた。


『あー、えー、ご紹介に預かった、アルファストだ。『輝剣』に所属している剣士で、まぁ、毎日バカどもと一緒に訓練してる』


 とはいえそう簡単に自己紹介など思い浮かぶはずもなく、アルはとりあえず脳裏に浮かんだ言葉をそのまま口に出した。


 そうしてついつい出てしまった本音に、会場の『輝剣』の隊士(バカども)から野次が飛んでくる。狙ったわけではないが、そのおかげで静まり返ることはなく、丁度いい喧騒に包まれた。


『『輝剣』以外にもちょくちょく知ってる顔もあるけど、とにかくよろしく頼む。敬語とかそういうのは苦手だから大目に見てくれるとありがたい。後はそうだな――』


 それまでの当たり障りのない挨拶から一転。

 アルは一拍置いた後、自身の思うまま、目指す先を語った。


『――俺はいつか、魔神にも負けないくらい強くなる。今は弱くて、ダメダメだけど……それでもいつか、必ず』


 それまでの考えながら喋るような態度ではなく、その言葉だけははっきりと、強い意志を込めて紡いだ。


 それに対する周囲の反応は様々だった。


 ただ静かに目を伏せる神速の剣士。


 不敵な表情を浮かべる紅蓮の大鬼。


 大仰に頷く金色の獅子。


 信じられない者を見るかのような表情を浮かべるアンデッドの長。


 見るからに表情を輝かせる小柄なプリースト。


 「おいおいアイツ一発かましやがった」とでも言いたげな『輝剣』の隊士(おっさん)たち。


 困惑、驚愕、呆れ、様々な表情を浮かべる見知らぬ隊士たち。


 そして――僅かに目を見開く、漆黒の少女。


 お世辞にも良い雰囲気とはいえないそれらを受けて、しかしアルは後悔はしていなかった。


 やってきたばかりの新人が、随分と偉そうな口を叩くと思うだろう。

 現実を分かっていない、夢見がちな子供だと思うだろう。

 初めて『輝剣』の面々と出会った時に向けられた悪感情――とまではいかないまでも、明らかに良くない感情を向けられる。


 特に『輝剣』に並ぶほどに好戦的な面々が集う『武神の鼓』の構成員は、アルの身の程知らずな発言に殺気立った。


 それでもアルは――いや、だからこそ。

 メアも、リーシャも、ミルフレティアも、グラニスも、その他の隊士たちも。全員が集うこの場所で改めて自分の決意を表明することで、逃げ場をなくし、再確認したのだ。


 決して折れず、諦めず、俯かず、決意に向かって走り続けるという、その意志を。


 唯一後悔したことがあるとすれば……この後に自己紹介をするエルトに申し訳ないことか。

 どよめく会場を他所に、自己紹介を終えたアルはエルトに魔道具を渡した。


「その、すまんエルト。とんでもない空気で渡しちまって」

「……?」


 しかし、肝心のエルトはアルの懸念をイマイチ理解していないようで、不思議そうな表情を浮かべながら魔道具を受け取った。


 そして、


『……エルト。……おにぃの妹』


 エルトはそれだけ言うと、自己紹介は終わりとばかりに発声の魔道具を降ろした。


 ただでさえアルの宣言で絶妙な空気が漂っていた会場内が、エルトの簡素すぎる自己紹介で更にざわついた。それが緊張によって言葉少なくなったわけではないことは、エルトの澄ました表情で一目瞭然。それはまるで、お前らと仲良くするつもりはないと、そう受け取られてもおかしくない態度だった。


 ビッグマウスの身の程知らずと、親交を深める気ゼロの少女。

 クローリー軍に新しく入った二人、そのあまりの傍若無人ぶりに、会場は静まり返り――、


「――おいおい、アタシがいない間に随分と面白そうな奴らが入ったじゃねぇか!」


 勢いよく開かれた扉と共に、豪快な声が会場に響いた。


「リズッ? どうしてここに? 帰ってくるのはもう少し先のはずじゃあ……」


 思わぬ人物の登場に、メアが驚いたような声を上げる。

 一方のアルはリズという名前を聞いて、つい最近耳にしたばかりのある人物を想起した。


 そう、会場中の注目を集めるその人物は――リズリット・ファン・リースフェルト。

 クローリー軍魔術大隊『紅蓮の牙』の大隊長であった。


 今なお警邏に出ているためアルメアにはいないはずのその少女は、方々から向けられる疑問に対し、快活な笑みを浮かべた。


「なんてことねぇよ。珍しく歓迎会やるって連絡貰ったからな。ずっ飛ばして帰ってきたんだよ。まぁそのせいで他の連中はバテちまったけどな」


 リズリットの周りには他の『紅蓮の牙』の隊士たちの姿は見えない。流石に部下たちを置いて一人で帰ってくきたわけではないようだが、急いで帰ってきたせいで疲労が溜まっているようだ。恐らく別の場所で休んでいるのだろう。


 そんな部下たちに対し、リズリットは呆れるような情けないような表情を浮かべ、


「鍛え方がなってねぇよまったく。いくら魔術師だって言っても、体力ぐらいつけとかねぇといざって時に動けねぇのによ……こりゃ後で鍛えなおしだな」


 リズリットのその言葉に対し、アルメアに残っていた数人の『紅蓮の牙』の隊士たちが慄くような表情を浮かべた。


「まぁ今はこっちの話よりも新人の話だ。お前ら二人……特にアルファストって言ったか?」


 そう言いながら、リズリットはズカズカと会場を歩き……アルの前に立った。


「お前、面白いこと言ってたな。魔神に負けないくらい強くなるって? ――本気で言ってんのか?」


 リズリットは好戦的な笑みを浮かべながら、アルの顔を真っ直ぐ見据えた。そのまま顔を接近させ……アルの眼前に、リズリットの端正な顔が迫る。


 態度こそ好戦的だが、その顔立ちは非常に美しい。


 切れ長の目にスッと鼻梁の伸びる鼻。翡翠色の瞳は宝石のようで、色白の肌によく合っている。

 燃えるような赤色の髪はいわゆるウルフカットと呼ばれる髪型となっており、特徴的な外ハネが彼女の強気な性格を現しているようだった。


 リズリットの翡翠の瞳に、アルの黒瞳が反射する。

 リズリットの圧力にアルは気圧されそうになるのを必死に耐えながら、むしろ負けてたまるかとばかりに語気を強め、


「本気だ。俺は絶対に魔神に並ぶほど強くなる――一度そう決めたんだ。俺は死んでも貫き通す」


 アルの中に燻る意志を込めて、リズリットに視線をぶつけた。

 そんなアルを少しの間見つめたリズリットは、笑みを更に深め、口を開こうとして――、


「ウチの部下にちょっかい出さないで、リズリット」


 言葉が紡がれるよりも先に、リズリットの肩の手が置かれた。


 視線を向ければ、そこには冷淡な視線をリズリットに向けるミルフレティアの姿が。相変わらず無表情ながら、何となく不機嫌さを滲ませていた。


「なんだよミルフレティア。お前の部下ってことは剣士なのか?」

「そう。だから貴女には関係ない。とっとと消えて」

「いーやそれこそ関係ないね。別に剣士だろうか魔術師だろうがどうでもいいんだぜ? アタシはそいつの心意気を知りたかったんだからよ。アタシらの前で大見得きったコイツの心意気をな」


 二人の間に火花が散る。

 こんな場所で戦うことはないと思うが、もしも戦闘になったら剣を持たないミルフレティアが不利だ。アルの知る限り四六時中剣を携えているミルフレティアだが、流石に今は持っていない。

 

 会場も二人の様子にどよめき、固唾をのんで見守っている。


「……」

「……」


 そしてミルフレティアとリズリットの間に走る緊張がピークに達するのを感じた瞬間、傍で見守っていたメアの魔力が高まり、


「ぷっ」


 もう耐えられないとばかりに、リズリットは噴き出した。


「はははははっはははははっはは!」


 突然の奇行に、アルやミルフレティアはもちろん、会場全体が困惑に包まれる。

 しかしそんな空気を余所に、当の本人は快活な表情を浮かべ、


「そうおっかない顔すんなよミルフレティア、別に手荒な真似はしねぇって。ちょっと気になったから確認したかっただけだつーの。それに……」


 リズリットはアルに視線を向けると、まるで友人のように肩に腕を回した。


「目を見りゃ分かるぜ。それにあんな啖呵を聞けばなおさらな。アタシはコイツが気に入った。ミルフレティア、お前が心配するようなことはしねぇよ」

「……そう」


 心配無用と言ってのけるリズリットに対し、ミルフレティアは何やら複雑な視線を向けていた。しかし手を出すつもりはないと理解したようで、一応の納得は見せる。


「(びっくりしたぁ……そんなに大口叩くならここで力を見せてみろ的な展開になるのかと思った……)」


 あるいは生意気な新人を教育してやる的な。

 理性的な部分では、こんなパーティ会場で戦闘などするわけがないとは思いつつも、リズリットならやりかねないと思わせるほどの気迫があった。結局のところ、リズリットはアルの思ったよりは理性的だったようで、杞憂に終わったわけだが。


 そうして友好的な感情を向けられたことで、緊張感が解け、アルの体から力が抜ける。

 するとどうだろう。今まで意識していなかった感触がアルを刺激する。それはアルの半身を襲う二つの柔らかい感触――リズリットの胸だった。


「(……ってかコイツ、改めて見ると凄い恰好してるな)」


 ヘソの上までしか丈のない黒のタンクトップに、茶色の皮でできたショートパンツ。色白の肌を惜しげもなく晒す、露出度の高い恰好だった。


 更に心臓に悪いことに、リズリットの体付きはかなり肉感的で豊満だ。ステラやルーシィには及ばないまでも、十分すぎるほどな重量を誇る双丘が、密着するアルの体に押し付けられる。むにっと形を変えるそれはタンクトップの下に何も着けていないようで、直接的すぎる柔らかさがアルに伝わってくる。


 しかし本人はまったく無頓着なようで、気にする様子もなくアルを離す様子はない。


「つーわけでこれからよろしくなアルファスト。お望みならいつでもしごいてやるよ」

「……あぁ、よろしくリズリット。そのうち頼むよ」

「リズでいい。アタシもアルって呼ぶからよ」

「わかった」


 人の気も知らず晴れやかな表情を向けてくるリズリット――リズ。

 

 面倒な相手に気に入られたようだが、おかげでアルとエルトの自己紹介による微妙な空気は吹き飛ばされたようだ。会場の面々はリズに対して呆れるような空気に包まれている。そして、


「(叶うならとっとと壇上から降りたいなぁ……)」


 内心そう思うアルだった。











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感想・誤字報告、お待ちしております。

少しでも面白い、気になると思っていただけたら登録お願いします。でも読んでくれるだけでありがたいので最悪しなくても良いです()。

嘘です、シテクダサイ。泣いて喜びます。






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