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無才の剣士 ~もう一度キミに好きと言うため、才能を捨てて記憶を選ぶ~  作者: 塚丸水産
白影編

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Ep.39 ルストの恋愛パニック①






「つーわけで言ってやったのよ。そこは押し倒すくらいのテンションでガンガン行ったほうがいいってよ」


 時は太陽が真上を通る頃。

 午前中の自主トレーニングを終えたアルと、それに同行していたエルトの二人は、偶然出会ったルストとともに昼食を摂っていた。


 アルの対面に座るルストはついさきほどまで寝ていたらしく、ようやくテンションが上がってきたとばかりに意気揚々と喋っている。アンデッドであるルストにとって朝は天敵のようで、正午を境に徐々に気分が上がっていくようだ。


「それが結局どこまで行ったと思う? 手をつないだところまでだってよ、まったく意気地がないよなぁ」


 昼食を口に運びながらも、呆れるように言うルスト。

 先ほどから話しているのは友人の恋愛エピソードで、やれ意気地がないだのやれチキンだなんだと騒いでいる。


 ルストはややチャラめの恰好をしていることからもわかるように、ノリが軽くコミュニケーション能力が高い。特に女の子が好きなようで、よくメイドや『星の導き』の女性たちと仲良く談笑しているのを見かけるほどだ。


 そんなルストからすれば奥手な友人の様子は聞いていてヤキモキするらしく、むず痒いとばかりにぼやいている。

 対するアルはそういった経験がメアとしかないため、特に肯定も否定もできず、適当に相槌を打っていた。ちなみにアルの隣に座るエルトは興味がないとばかりにひたすらもぐもぐしていた。


「あら、皆さんもお昼ですか?」

「やっほ~」


 すると、そんな三人に声をかける二人組が。


 一人はゆるふわなブラウンの髪とぴょこぴょこと動く猫耳が特徴の童顔少女、リラ・クラレット。

 もう一人は翡翠色の髪を揺らし、エメラルドの瞳を輝かせる快闊な美少女、リリアンヌ・プリッフィア。


 二人もアルたちと同じく昼食を食べるところらしく、その両手には豪奢な定食の乗ったお盆があった。その恰好はもはや見慣れたメイド服。勤務中の昼休憩だろうか、と考えたアルの予想は正しかったようで、


「ちょうど私たちもお昼休憩なんだ~」

「よろしければご一緒してもよろしいですか?」


 もちろん断る理由もないため、アルたちは了承する。

 ちょうど六人が座れるテーブルを利用していたため、リリアンヌがエルトとは逆側のアルの隣、リラがルストの隣に座った。


「そういえばこの前リリアンヌに教えてもらったパスタの店行ったよ。めっちゃ美味かった」

「あ! 行ってくれたんだ~! でしょでしょ、あそこ美味しいし量の調整も効くからお気に入りなんだよね~!」

「……確かに、量の調整は効いたな」


 アルはエムリットの前に置かれていた山盛りのパスタを思い出しながら、苦笑を浮かべる。


「やっぱり男の子だから多いほうがいいもんね~」

「……まぁ、うん」


 肯定する様子を見て、アルが大盛りを食べたと勘違いしたのだろう。リリアンヌがニコニコと屈託のない笑顔を浮かべながら言う。実際にはアルが大盛を食べたわけではないのだが、路地裏で餓死寸前の生き物を拾った話などわざわざしなくていいだろう。絶妙な苦笑で誤魔化す。


 すると、二人の話を聞いていたエルトが興味を示したようで、


「ぱすた……?」

「ん? そっか、エルトは食べたことないのか」

「うん」


 そういえばエルトが来て以降、パスタを食べているところは見たことがない。一応食堂のメニューにはあるのだが、何の食べ物かわからずに頼まなかったのだろう。エルトは基本的に日替わりか、アルと同じものしか食べない。


「じゃあ今度の休みにでも一緒に行くか。美味いぞ」

「エルトちゃんはどんな味が好き? さっぱり系? クリーミー系? がっつり系?」

「……?」


 リリアンヌの問いの意味が分からないのか、エルトは疑問符を浮かべている。

 記憶のないエルトは食べるものすべてが新鮮なようで、どれもこれも美味しそうに食べている。しかしどれもが新鮮だからこそ、自分の好みというものが分からないのだろう。


 リリアンヌもエルトの事情は知っているので、首をかしげるエルトを見て察したのか、アルを挟んでエルトの頭を撫でた。


「そっか。じゃあね、私のおすすめを教えてあげる。あそこのお店で特に美味しいのはね、カルボナーラとペスカトーレだよ! 他ももちろん美味しいんだけど、その二つは群を抜いてるね!」

「かるぼなーら? ぺすかとーれ?」


 興奮気味に言うリリアンヌだったが、エルトからすればパスタの名前を言われても分からないだろう。やや舌足らずな発音でオウム返ししている。


「……どっちがいいの? わからない……」

「はは、じゃあ俺とエルトで一個ずつ頼んで、分け合いっこすればいいさ。そうすればどっちも食べられるだろ?」


 カルボナーラとペスカトーレという名前だけではどんなパスタなのか想像もできないようで、難しい顔で悩むエルト。アルは笑みをこぼし、リリアンヌに代わって頭を撫でながら提案した。


「うん」


 アルの言葉にエルトも微笑を浮かべながら頷いた。

 そんな二人を見て、リリアンヌは微笑ましいものでも見たような表情で、


「二人って本当に兄妹みたいだよね~。髪の色が似てるのはもちろんだけど、それ以上にそのほんわかした雰囲気っていうか、二人だけの空間っていうか」


 アルとしてはエルトを本当の妹だと思って接しているだけで、周りからどう見られているのかは考えたことがなかったが……しかし第三者から見ても本当の兄妹に見えるというのは、悪い気はしない。


 リリアンヌの言葉に満更でもない表情を浮かべるアル。すると、それまで微笑みを浮かべていたリリアンヌが目を細め、対面に――ルストとリラにジトッとした視線を向けた。


「……それに比べて。あっちはもう少しどうにかならないもんかなぁ」


 やや呆れるような声音につられてアルもそちらに視線を向けると、なんとも奇妙な光景が広がっていた。


「……あ、その、えっと……」

「はい? どうしました?」

「……いや、なんでも……」

「そうですか?」

「うん……リ、リラ」

「はい?」

「その……美味い、な」

「はい、そうですね」


 普段は誰に対しても饒舌に話すルストが、口をもごつかせながら言葉を絞りだしている。そんなルストを見ながら、リラは不思議そうな顔を浮かべている。しかし自分から話を振るつもりはないのか、ただただルストがぎこちなく言葉をかけるだけの、気まずい空間が流れていた。


 アルは今まで見たこともない様子のルストに首をかしげながら、


「何やってんだアイツ? 喧嘩でもしたのか?」

「そうじゃないよ、よ~く見てみ?」


 ルストがやらかして喧嘩でもしたのかと思ったが、それにしてはリラの雰囲気は柔らかい。ルストのぎこちない言葉にも対応しているし、怒っている様子は見て取れない。


 リリアンヌに促されルストの様子を観察していると、ルストは異様なほどにリラにチラチラと視線を向けていた。当然それに気づいたリラがルストを見ると、視線が合った瞬間にルストはバッと顔を背ける。見れば、その色白の肌は真っ赤に染まっており――、


「え、まさかそういうこと?」

「そういうこと」


 二人を見ながら、ヒソヒソと小さな声で喋るアルとリリアンヌ。


 ルストの様子とリリアンヌの肯定。

 つまりは――ルストはリラが好きなのだろう。恋愛的な意味で。


 今までルストとリラが話しているところを見たことがなかったため気づかなかったが、ルストは明らかにリラを意識して普段のように話せていない。まるで人が変わったようにどもり、動揺している。


 そのあまりの変わり様にアルは少しばかり面白い気持ちになるが、それ以上に、


「お前めっちゃ奥手じゃねえか」


 先ほどまで友人のことをやれ意気地がないだのやれチキンだなんだと言いたい放題だったルストだが、いざ想い人を前にしたルストは明らかに緊張して普段のチャラさを出せていない。それどころか普通に喋ることすらできておらず、一体どの立場から友人を批判していたのか、呆れてものが言えない。今のルストを見ている限り、手を繋ぐことすら夢のまた夢に思えるが。


「そうなのよ。前からずっとこんな調子でね、一向に進展しないの。ルストくんずっとドギマギしてるし、リラはリラで気づいてるのか気づいてないのかよくわかんないし」

「なるほど。そりゃなんとも……」


 ヤキモキするだろう。先ほど友人に対してヤキモキしていたルストだったが、リリアンヌに比べればどうということはない。友人と知人の微妙な関係を間近で見せられ続けるリリアンヌの気持ちを察して、アルは同情するような視線を向ける。


 そんなアルを見て、リリアンヌは何かを思いついたようで、ニヤリと笑みを浮かべた。それは悪戯っ子のような笑みで、アルは嫌な予感がした。


「そうだ、良いこと思いついた。アルくん、この後予定ある?」

「……いや、ないけど」

「そっか。じゃあ私今日15時までだからさ、仕事終わったらアルくんの部屋に行ってもいい?」

「……一応聞いておくけど、何をする気だ?」


 絶対に面倒ごとに巻き込まれることを確信しているアルは、無駄だとわかっていながらリリアンヌに問う。案の定リリアンヌはルストとリラを見やり、その端正な顔を歪めて悪い笑みを浮かべた。


「ちょ~と協力してほしいことがあってねぇ」










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆











「で、何するつもり?」


 15時を回り、アルの部屋を訪れたリリアンヌ。

 アルに促されるままベッドの上に座り、「疲れた~!」と伸びをするリリアンヌに問いを投げつける。明らかに嫌そうな表情を浮かべるアルの態度にリリアンヌは苦笑を浮かべながら、


「別に悪だくみしようってわけじゃないよ」

「どう見ても悪い笑顔だったけどな」

「こんな美少女に失礼だな~、まぁちょっとお節介を焼こうってだけ」

「お節介?」


 言葉の意味が分からず、アルは繰り返す。


 ちなみにミーシャはいない。別にいてもよかったのだが、どうやら今日は予定があるらしく、昼食から戻ってきたらいなかった。

 エルトはアルの膝の中にすっぽり収まっている。


「そ。あの二人が出会って随分経つんだけどね~、一向に進展しないわけ」

「さっきも言ってたな」


 あの二人、というのは言わずもがな。ルストとリラのことだろう。


「正直見てる方もヤキモキするっていうか、もうちょっと鬱陶しいくらいなんだよね」

「まぁ、分からなくもないけど」


 思い浮かべるのは昼間の様子。

 リリアンヌの言う通りなら、ルストとリラが出会って少なくない時間が経っているはずだ。しかしリラはともかく、ルストの態度はとてもそうは思えないほどにぎこちなかった。せめて出会って一ヵ月程度であれば納得もできるが、数十年単位で経過しているのに未だ会話もままならないとなれば、鬱陶しく思い始めるのも無理はない。


「だからさ、いっそのこと私たちでくっつけてあげようよ。恋のキューピットてやつ?」

「それは、まぁ、そう思うのも無理はないけど……何で俺まで」


 やりたいのなら一人でやればいい、と冷たいことまでは思わないが、アルに協力させる理由が分からない。正直アルの恋愛経験はメアとしかないため、あまりそういった面で役に立てるとも思わなかった。


「アルくんはルストくんと仲良いでしょ。私は世間話くらいしかしないし、ルストくんに詳しい人がいると助かるんだよね~」

「まぁ結構話す方ではあるけど……出会って数ヵ月だしなぁ」


 ルストとは間違いなく友人といえる間柄ではあるものの、未だ出会って一年も経っていないアルからすれば、詳しいとまで言える自信はなかった。そもそもルストが想い人を前にするとああも調子を狂わすタイプだとも知らなかったわけであるし。


 そんな自信なさげな声を出すアルに対し、リリアンヌは問題ないとばかりに指を振った。


「分かってるよ。だからもう一人呼んでるんだ」

「もう一人?」

「そ、アルくんとは別の面でルストくんに詳しい娘」


 リリアンヌの言うもう一人の心当たりがなく、アルは首をかしげる。

 対してリリアンヌは壁に掛けられた高級そうな時計を見ながら、


「っていうか15時に集合って言ったんだけどなぁ~、迷ってるのかなぁ」


 リリアンヌのこぼした言葉を聞いてアルは思案した。

 迷う、ということはこの城に詳しくない人物なのだろうか。とはいえ、無関係の人物を城に招待するような権限はリリアンヌにはないだろうし、少なからずクローリー軍の関係者ではあるはず。


 思い当たる人物を考えていると、不意にノックの音が部屋に響いた。この時間にアルの部屋を訪ねる人物はそうそういないため、恐らくはリリアンヌの言ったもう一人なのだろう。


「あ、噂をすれば」


 リリアンヌもその人物だと思ったようで、アルに視線を向ける。扉を開けていいかの確認だろう。そういったところは流石メイド、気が遣えるものだ。微かに感心しながら、アルは頷きを返す。


 そうしてリリアンヌによって開かれた扉から姿を覗かせたのは、アルの知らない女性だった。


 体躯は小柄で、リリアンヌよりも少し小さい。

 赤褐色の長髪は両肩の前でまとめられており、いわゆるおさげという髪型だ。ぱっちりとした丸い琥珀色の瞳はやや垂れ気味で、丸いメガネがかけられている。何より目を引くのは、動くたびにポヨヨンと暴れる二つの塊。見たところステラと同じくらい……だが、ステラよりも小柄なせいでより大きく見える。


 見覚えのない少女は少し慌てた様子で部屋の中に入り――転んだ。何もない場所で。


「すみませんっ! ちょっと迷ってしまっ――きゃあ!?」


 ベタン! と小気味良い音をたてながら地面に衝突するその少女は、あろうことか顔面からダイブし、額を床に打ちつけた。


「(うわ、痛そう)」


 そんな感想を抱いていたアルは、次の瞬間恐怖に彩られる。


 少女を見つめながら座るアルの足元に、コロコロと転がってきた――少女の頭が。


「うぁああっ!?」


 そのあまりに衝撃的な光景に、アルはエルトを抱えながら飛び跳ねた。さしものエルトも衝撃を受けたようで「ひゅっ……」という息を呑む音が聞こえてきた。


「(いやいや、見間違いだろ!)」


 そう願い改めて確認するも、それは紛れもない少女の頭部で「いたぁ~い!!」と叫びながら涙を流している。視線を胴体に向ければ、そこには首から先を無くした体がジタバタと動いている。


 首と胴体が離れ離れになってなお生きている――というより、そもそもああも簡単に首が取れるものだろうか。

 アルは混乱の最中で思考を巡らせ……先ほどから静かなリリアンヌに視線を向ける。そこには笑いをこらえるように口元を押さえて震える少女が一人。


「おいリリアンヌ、これはどういうことだ……?」

「ぷ、ぷふ……あはははっ! アルくんってば驚きすぎ!」


 とうとう我慢できなくなったようで、アルの問いをきっかけにリリアンヌは大笑いしだす。


 状況が理解できず、驚きと困惑を浮かべるアルとエルト。

 頭をコロコロしながら痛みに悶える見知らぬ少女。

 そんな二人を見て、大笑いするリリアンヌ。


 そんなカオスな空間が落ち着いたのは、十分後のことだった。











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感想・誤字報告、お待ちしております。

少しでも面白い、気になると思っていただけたら登録お願いします。でも読んでくれるだけでありがたいので最悪しなくても良いです()。

嘘です、シテクダサイ。泣いて喜びます。






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