Ep.35 兄妹
「――」
目を覚まして初めに認識したのは、ミルクのような甘い香りだった。
重々しい瞼をどうにか開くと、そこには知らない天井。視線を動かすと、豪奢ながら上品な装飾と家具で揃えられた一室であることが分かった。
「起きたのかっ?」
次いで、少女の鼓膜を震わせる声。
それはやや若い少年のような声で、焦りと安堵が入り混じったような声色をしていた。
ゆっくりと上体を起こし、声のした方を見やると、そこには一人の少年がいた。
真っ白で少しばかり癖のある髪。血のように赤い瞳。その顔立ちは少しばかりあどけなさが残るが、よく整ったもので、可愛さと格好良さが同居するものだった。
その少年を見て、なぜだか少女は安心感のようなものを感じた。顔立ちのせいか、あるいは雰囲気のせいか。
「無理に起きないほうがいい」
「……ううん、大丈夫」
心配そうに気を遣う少年に対し、少女はかぶりを振った。
少しばかり気怠さは感じるものの、体を蝕む痛みはない。上体を起こしても問題はなかった。
「……ここは? それに、貴方は……?」
少女は見慣れない空間と見知らぬ少年に対して疑問を抱き、小さく呟いた。
「ここはアルメア城……第七魔帝メア・クローリーの居城だよ」
「クローリー……」
「それで俺はアルファスト。路地裏で倒れてたキミを見つけて連れてきたんだ」
「アルファスト……」
未だ頭が回っていないのか、目の前の少年――アルファストの口から放たれる言葉を繰り返す少女。
どうやら自分は気を失っていたようで、そこをアルファストという少年に助けられたらしい。そしてこの場所は第七魔帝の住処のようで……少女はようやく状況を呑み込み、目を伏せた。
「覚えてない? キミはアルメアの路地裏で倒れてたんだ」
「……」
「全身傷だらけで、危ない状態だった。ミーシャ……キミを治した奴曰く、あのまま時間が経ってたら命に影響してたかもって」
「……そう」
「でも、安心して。今は大丈夫、もう命に別状はないから」
少女を安心させるようにだろう。できる限り穏やかな声色で告げる少年に対し、少女は目を向けることができず、静かに聞いていた。
しかし、続く少年の声に視線を上げた。
「……無事で、良かった」
心底安堵するように溢す少年。
その顔は優し気に緩められており……少女はその顔を、知らなかった。
その顔だけではない。
目の前の少年のすべてを、少女は知らなかった。
その優しさも、その雰囲気も、その声音も、その視線も、その心も――。
そして、その知らないものを感じ取るたび、不思議と少女の胸に暖かい何かがじんわりと広がった。
だからこそ、少女は思った。
知りたい、と。知らないすべてを、この感情を、知りたいと。
故に、少女は――――。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
目の前で眠る少女を見ながら、アルは椅子に腰を下ろした。
思い返すのは、少女を見つけた後のこと。
傷だらけの少女を抱えたアルは急いで戻り、城の隣にある礼拝堂に向かった。
そこは回復魔法を得意とするプリーストを多く擁する神聖大隊『星の導き』の拠点だ。誰かしらいるのでは……という儚い希望は、簡単に潰えた。そこには、誰もいなかったのだ。
これは後から知った話だが、『星の導き』はみんなで街に出かけていたらしい。初めてアンリと再会した時もそのようなことを言っていたし、『星の導き』はかなり仲が良いようだ。
ともかく、その日が休暇日であることを失念していたアルは次点の策として、自分の部屋に向かった。
アルはまだ『星の導き』以外で誰が回復魔法を使えるのか把握していないし、いちいち尋ねている余裕もない。
故に恐らく、否、ほぼ確実に使えるであろう人物を求めて自室へ向かったのだ。
そして部屋に戻ったアルの目には、期待通り……いや、いつも通りベッドで怠けるミーシャの姿があった。
詳しいことを知っているわけではないし、聞いてもよく分からなかったアルだが、ミーシャがあらゆる”術”に精通しているらしいことは日常会話の中で聞いていた。故に、ミーシャであれば回復魔法の一つや二つ使えるのではないかと予想し、ほぼ確実にいるであろう自室に戻ってきたのだ。
そして、アルの予想は的中したようで、ミーシャは回復魔法……正確には単純な回復魔法ではないらしいのだが、とにかく回復魔法のような術で少女の傷を直してくれた。さしものミーシャも傷だらけの少女を前にめんどくさいなどとは言わず、やや眉をしかめてはいたものの大人しく協力してくれた。
まぁ普段あれだけ迷惑をかけられているのだから、少しくらい協力してもらっても罰は当たらないだろう。それをミーシャ本人も分かっているのかいないのか、大人しくベッドを少女に明け渡し、自分の部屋に帰っていった。
それからしばらく。アルが少女を抱えて駆けずり回っているのを誰かが見ていたのか、話を聞いたリーシャが事情を聞きに来たりもしたが、アルも詳しい状況は分からないため詳しい話は少女が起きてから、ということになった。
そして数時間が過ぎ……夜も更けた頃、少女が目を覚ました。
「ん……」
僅かな声を漏らしながら、少女はゆっくりと瞼を開けた。
そのことに気づいたアルは、無事を確認するように少々上ずった声で尋ねた。
「起きたのかっ?」
少女からの返答はなく、代わりに小さな体を起こし始める。
「無理に起きないほうがいい」
「……ううん、大丈夫」
アルは少女の身を案じるも、当の本人は心配ないとばかりにかぶりを振った。
どうやら強がりではないようで、アルに視線を向ける少女の表情に苦しそうな気配はない。もっとも、眉一つ動かさない無表情からは安らぎも見て取れないのだが。
少女の顔色を確認すると同時に、少女の容姿が改めて視界に入る。
髪はアルと同じような白色で、肩口をくすぐる程度まで伸びている。しかし前髪だけは短く、ちょこんとした小さな眉よりも随分上で切り揃えられている。瞳は綺麗な空色だが、睫毛が眠た気に細められており、感情が伺えない。それが寝起きだからなのか、常にこうなのかはアルには分からなかった。小さな口も横に真っ直ぐ閉じられており、なんの感情も見て取れなかった。
「……ここは? それに、貴方は……?」
少女は周囲を伺いながら、そう問うた。
「ここはアルメア城……第七魔帝メア・クローリーの居城だよ」
「クローリー……」
「それで俺はアルファスト。路地裏で倒れてたキミを見つけて連れてきたんだ」
「アルファスト……」
アルはできるだけゆっくり告げたが、少女は未だ混乱しているのだろうか。アルの言葉をうわ言のように繰り返していた。
「覚えてない? キミはアルメアの路地裏で倒れてたんだ」
「……」
「全身傷だらけで、危ない状態だった。ミーシャ……キミを治した奴曰く、あのまま時間が経ってたら命に影響してたかもって」
「……そう」
「でも、安心して。今は大丈夫、もう命に別状はないから」
アルの言葉を聞いていた少女は、徐々に状況を理解したのか静かに目を伏せた。
少女が今何を考えているのか分からない。なぜあんな場所で傷だらけになって倒れていたのかを知らないアルには、少女の胸の内を理解することはできなかった。
それでも、苦悶の表情を浮かべながら倒れ伏す少女の姿を知っているアルからすれば、物静かでもきちんと生きている様子を見て、無意識のうちに安堵が零れた。
「……無事で、良かった」
そんなアルの呟きが聞こえたのか、少女はほんの僅かに目を見開きながらアルを見た。それはまるで理解できないものを見るかのような視線で、アルは予想していなかった反応に首をかしげる。
「どうした……?」
「……ううん」
疑問を浮かべるアルの視線から逃げるように、少女は再び目を伏せてしまった。
そして訪れる沈黙の時間。
アルは口を開きかけるが、無感情に俯くだけの少女に何を言ったらいいのか分からず。結局アルが発したのは、少女が快復してから聞こうと胸にとどめていた疑問だった。
「……なんで、あんな所で倒れてたんだ? 何か、あったのか?」
何かあったから倒れていたのだろう。そんなことはアル自身百も承知だったが、それは自分の口から発せられた疑問が目覚めたばかりの少女にとっては不躾なものだったと遅れて理解し、取り繕うように添えられた気遣いだった。
対する少女はアルの疑問に対し、ほんのわずかに逡巡する様子を見せ、その小さい口で言った。
「――分からないの。なんで倒れてたのか。自分が、誰なのかも」
少女から告げられた言葉の意味を理解するのに、アルは数秒要した。
「(分からない……? 自分が誰なのかって、それじゃあ……)」
記憶喪失。
そんな言葉がアルの脳裏を過った。
もちろん知識としては知っているが、実際にその症状を患った人物を見るのは初めてのことで、アルはどう返したらいいのか分からなかった。
そんなアルの様子を見ながら、少女は淡泊な声音で続けた。
「……だから、わたしには何も分からない。今までどうしてきたのか、これからどうすればいいのか」
「……」
「……今まで何を考えて生きてきたのか、なんのために生きてきたのか。何を思って、何を感じて生きてきたのか」
「……」
「……何も、分からない。……わたしって、何なんだろう」
そう告げる少女の瞳を見据えたアルは、思わず息を呑んだ。
空色の瞳にあったのは、伽藍洞の虚空だけ。
感情も、意志も、想いも、何一つとして浮かぶことのない、空の瞳。
自分という存在を失い、空の瞳が映し出すのは対面にいるアルの姿。その瞳を見つめていると、自分が吸い込まれるような錯覚すら覚える。
そう、まるで――すべてを失った空っぽの器に、アルという存在を押し込もうとしているみたいで。
少女の語る記憶喪失という状況が、口から出まかせではないことを何よりも証明していた。
「(俺とは真逆だな――)」
生まれ変わってもなお、前世を忘れられず、前世に縋って、前世に苦しめられてきたアルとは、対極の在り方。
すべてを投げ打ってでも記憶を選んだアルとは対照的な存在。
前世の記憶はおろか、今世の記憶すらない、空っぽの存在。
今のアルにとって、記憶とはアルという存在のすべてを構成する要因だ。
それらがすべて消え去ったらと想像して――アルの全身を悪寒が走った。
記憶があったから、メアと再会することができた。
記憶があったから、今の己の弱さを自覚することができた。
記憶があったから、強くなるための努力を続けることができた。
アルの想いも、後悔も、意志も。そのすべてを根幹から無に帰すような、アルがアルではなくなるような感覚。
けれどそれは、もう一つのアルでもあって。
「(俺がもしも、記憶じゃなくて才能を選んでいたら――)」
今の少女のように、伽藍洞な瞳を浮かべながら、ただただ無感情に剣を振るっていたのだろうか。
失った自分を知ることすらなく、喪失感を感じることもなく。何も感じず、すべてを忘れ、ゼロから自分を構成していったのだろうか。
「(俺は――)」
そんな未来は訪れない。
アルは才能を捨て、記憶を選んだのだから。
けれど、アルは何故か確信があった。
例え記憶をなくしたとしても、アルの心の一番深い部分には、必ずメアがいると。思い出せなくても、覚えていなくても、胸にぽっかり空いた喪失感を埋めるために、彷徨い続けるのだと。
それはあまりに空しく、虚しい人生だ。
ありえたかもしれない己の未来を想起して――アルは、眼前の少女を放っておくことができなかった。それはまるで、もう一人の自分を前にしたかのような感情で、抑えることなどできるはずもなく。
気が付けばアルは、口を開いていた。
「――じゃあさ、こう考えるのはどうだ? キミは今日ここで、生まれ変わったんだ」
「……生まれ、変わった……?」
「あぁ。これからは、新しい自分として生きていく。何も覚えていなくても大丈夫。一から自分という存在を、再構成していくんだ」
それはともすれば、残酷な提案なのかもしれない。
けれどアルには、今の虚ろな瞳で世界を生きてほしくはなかった。
「もちろん、過去の記憶は探っていこう。思い出せるように努力しよう。過去を忘れるなんて、そんなこと……しちゃダメだ」
「……」
「でも、過去にばかり囚われて、今を蔑ろにするなんて絶対に良くない。記憶を取り戻すことばかりに執着して、空っぽのまま生きるなんて……そんなの、可哀想だろ?」
「……可哀想? 誰が?」
「今のキミがだよ。記憶をなくした今のキミだって、間違いなくキミ自身なんだ」
これは、過去を捨てることはなく、その執着だけを切り捨てて、今世をアルファストとして生きていくことを決意したアルだからこその考えだ。それが完全に正しいだなどとアルは思っていないし、これが少女にとって救いになるかどうかは分からない。
けれどアルは少女に、記憶を求めて彷徨うだけの亡霊にはなってほしくなかった。
「今、その瞳には何が映ってる?」
「……何も、ない」
「違う、よく見ろ。俺だ、俺が映ってるはずだろ」
アルを捉えながらも、何もないと言う少女。そんな少女の肩をつかみ、アルは改めて視線を交差させた。アルの瞳には少女が映っているし、少女の瞳にも当然アルが映っている。
「過去を見ながら生きたって、そんなの楽しくないだろ?」
「……楽しくない?」
「あぁ。今を見据えて、今を生きろ……難しいことを言ってるのかもしれない。これは、俺の押しつけだ。俺の考えをキミに押し付けてるだけだ」
それでアルが成長できたから、努力をすることができたから、少女にもそうしろと、そう言っているのだ。
それはなんとも一方的で、傲慢な考えだった。
けれど少女の虚ろな瞳を見て、アルは強引にでも、今を生きる理由を抱いてほしかった。
ここで必ず記憶を取り戻そうとか、必ず思い出させてみせるとか、そんな言葉を吐くのは簡単だ。
けれどそれは、今の少女を否定することになる。少女の生きる理由のすべてが、過去の自分になってしまう。
もしかしたら、簡単に記憶が戻るのかもしれない。
明日起きたら、ふっと思い出すのかもしれない。
けれど、そうじゃなかったら?
記憶を取り戻すのに、何年、何十年、何百年――一生、思い出すことができなかったら?
それだけの時間、少女は過去の自分を取り戻すためだけに生きることになる。今の自分を蔑ろにして、過去の自分に執着することになる。手の届かない記憶を求めて、永遠に彷徨うことになる。
そんな空しい生き方は、してほしくなかった。
「……俺はキミに、空っぽのまま生きてほしくないんだ」
絞りだすように発せられたアルの言葉に、少女は初めて反応を見せた。僅かに目を見開き、疑問の言葉を口にする。
「……なんで、そんなに親身になってくれるの? 貴方と私は、今日出会ったばかりじゃないの?」
本気で分からないというように、困惑するような表情を浮かべる少女。そんな少女に、アルは少しばかり哀愁の籠った笑みを返した。
「……似てるって、思ったんだ。自分と――いや、あり得たかもしれない自分と」
「……?」
「そうなったらきっと、俺は一生、彷徨い続けたと思うんだ。一人で、亡霊のように」
メアとの、仲間たちとの記憶を求めて……それが何なのかも理解できないまま、胸に空いた喪失感の赴くまま、一人彷徨う亡霊のように。
「だから、キミを一人にしたくないって……そう思ったんだ」
「……そう」
きっと、少女には理解できないだろう。
現に少女は、アルの言葉を聞いてもピンと来ていないのか、釈然としないような表情を浮かべている。
けれど、それでも良かった。
これは紛れもない――アルの、自己満足なのだから。
あり得ない世界の、存在しない自分が、ほんの少しでも救われたらいいと――否、救われた気になりたいと、そう思っただけの、自己中心的な偽善なのだから。
アルの言葉を、少女は頭の中で砕いていく。
生まれ変わったと思って生きていく、一から自分を再構成していく……そうして新たな人生を歩みながら、記憶を探していく。それは言葉にするのは簡単でも、実際に受け入れるのは至難の業だろう。
はいそうですかと、簡単に割り切れるものではない。
それでも少女は、どうにかアルの言葉を受け止め、
「……でも、分からない。生まれ変わるって言っても、どうしたらいいのか……ゼロがなきゃ、一から生きていけない……私は、何者として生きていったら……」
前を向こうと、今を見ようとする少女はしかし、その第一歩が踏み出せなかった。分からないづくしの中、ほんの些細なきっかけが欲しかった。
伽藍洞の瞳の中に、まるで迷子のような戸惑いの色が浮かんだ。それを見て、アルは言い淀む。
少女の言うことはもっともだ。けれど、そのきっかけをアルが与えていいのか……そもそも、どのようなゼロを与えれば、彼女は今を生きていけるのか。
口ごもるアルの視界の端を、少女の白い髪がかすめた。
「――じゃあ、キミは今日から俺の妹だ」
「……ぇ?」
あまりに予想外の言葉だったからか、少女の口から掠れるような声が漏れた。
そんな少女の白髪を、アルは優しく撫でつけた。
「ほら、この白い髪。俺のとそっくりだろ?」
「……ぁ」
右手で少女の頭を撫でながら、左手で自分の髪を見せつける。
アルの髪も、少女の髪も、まるで本物の兄妹のように似通った純白をしていた。
そこでようやくアルの言わんとすることを理解し、少女は瞳を瞬かせた。
「……あ、に……?」
「そう、兄。お兄ちゃんと呼んでもいいぞ?」
「……お、にぃ……ちゃん?」
「そうだ」
消え入るような声でそう呟く少女に対し、アルは肯定するように頷いた。
その後も少女は確かめるように「おにぃ……おにぃ……」と繰り返していた。いつの間にか”ちゃん”が消えていたが、アルは特に気にしなかった。
「俺もキミが記憶を取り戻せるように協力する。だから、二人で頑張ろう。楽しく生きながら、二人で記憶を探していこう。なんたって兄妹なんだからな」
「……うん」
「それに……兄は妹を守るものだからな。俺がキミを守るよ、絶対に」
真っ直ぐ少女を見据えながらそう宣言するアルを見て……少女は、初めて笑みを浮かべた。もっとも口角がほんの僅かに上がる程度の、よく見なければ分からない程度の笑みだったが。少なくともアルは気づいたので問題ない。
「うん……おにぃ。わたしは今日から……おにぃの妹」
「あぁ、キミは今日から俺の妹だ」
はっきりとアルを見据えた少女の瞳には、僅かながら光が宿っていた。それが嬉しくて、アルは安堵するように笑みを浮かべる。
「そういえば……名前も、覚えてないんだよな?」
「……うん」
改めて少女を呼ぼうとして――そもそも少女の名前を知らないことに気づき、アルは尋ねた。自分のことが分からないと告げたばかりの少女は、当然自身の名前も覚えておらず、小さく頷きを返した。
そして少女は控えめな所作でアルの袖を掴み、
「……おにぃが付けて」
アルに名前を付けてほしいと、はっきりとそう言った。
「(な、名前かぁ……)」
新しい名前を求めてくれたことも、アルを頼ってくれたことも、嬉しくはある。
けれど、正直なところアルは自身のネーミングセンスにまったくもって自信はなかった。エムリットのネーミングセンスを貶してはいたが、そんなアル本人も自慢できるようなセンスはないのだ。
それでも頼ってくれた少女の手前、考えられないとは言えず、どうにか頭を悩ませる。
しかしどうにもしっくり来る名前は浮かばず、何か参考になるものはないかと周囲を見まわし、
「……?」
少女の付けている首輪? のようなものに視線が止まる。
それはやや無骨な鉄製の黒い首輪で、ところどころに青色のラインが走っていた。よく見れば炎のような紋様も入っており、首輪なのかチョーカーなのか判断はできなかった。
そしてその側部、丁度少女の耳下辺りの位置に、殴り書きのような文字で”L”と書かれている。
「(イニシャルか……?)」
これが少女を表す文字であるならば、イニシャルだと考えるのが妥当だろう。
アルはこの”L”を参考にして名前を付けようと思い、頭の中で考える。
「(L……エル? いや、それは安直すぎるか。アル……アルファスト……エル……)」
中々良い名前が思いつかずむんむん唸るアルだったが、せっかく兄妹という繋がりができたのだ。どうせならアルにも繋がりのある名前にしようと考え、
「――よし、決まった。キミは今日から”エルト”だ」
「エルト……」
アルの告げた名前を確認するように呟き、少女は受け入れるように頷いた。
「まぁそこに書いてあるLって文字と、俺のアルファストって名前をくっつけただけなんだけどな」
「……Lと、アルファスト……」
「あぁ。似てるほうが兄妹っぽいだろ?」
「うん……私は今日から、エルト」
Lとアルファストを合体させてエルト。結局安直になってしまった感は否めないが、どうやら気に入ってくれたようで、少女――エルトは無表情を崩して、微かに満足げな表情を覗かせた。その様子にアルは安堵する。
「(オーセインって姓は……言わない方がいいよな)」
もしもエルトがオーセインという姓を名乗り、それ関連の問題に巻き込まれたら目も当てられない。無用なトラブルに巻き込まれないよう、アルも普段はオーセインと名乗っていないのだし、エルトにも名乗らせないほうがいいだろう。それに同じ姓を名乗ろうが名乗るまいが、アルとエルトが兄妹であることに代わりはないのだから。
「そういうことだから、エルト。これから兄妹として、よろしくな」
「うん」
アルは手を差し伸べ、エルトがそれを握った。
――この日、二人は兄妹になった。
気ままに人物紹介
【エルト】
前髪短めの白髪ショート。眉毛は小さめの麻呂眉。空色の瞳はジト目がデフォ。
つまり白髪麻呂眉ジト目ロリ。
同じ無表情組でも、たぶんミーシャやミルフレティアよりまともな中身をしている。たぶん。
来ていた服装は黒い忍者服のようなもの。網タイツが眩しい。基本服と一体化しているフードを被っている。
まるで斥候やスパイのような風体だが、果たして……?
ちなみに得意武器はナイフと暗器。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
感想・誤字報告、お待ちしております。
少しでも面白い、気になると思っていただけたら登録お願いします。でも読んでくれるだけでありがたいので最悪しなくても良いです()。
嘘です、シテクダサイ。泣いて喜びます。




