Ep.30 努力の結果
――強くあろうとする必要はない。強くなろうと努力しろ。
いつだったか、浴場で会ったグラニスに告げられた言葉。
何故かは分からない。だがアルは今、その言葉を思い出し――吐き捨てた。
「(違う、それは才能のある奴のセリフだ。才能のない奴が努力を続けるなんて、そんなの不可能なんだよ……)」
そんなものはただの、才能のある奴の戯言だ。
グラニス・アグウェルという男は、どこからどう見ても才能のある側の存在だ。
「(だってそうだろう? アイツは、鬼族っていう恵まれた種族で、誰もが羨む強さをもって、『武神の鼓』の隊長だって務めてる……)」
今のアルにとって、グラニスは最も輝いて見える存在の一つだ。
全身から自信と強さを漲らせ、雄々しく屹立する鬼の戦士。今のアルと比べるのすら烏滸がましく思うほどに、完成された武の化身。本当はアルなんかより、グラニスのような男のほうがメアの隣に立つのは相応しいのだ。
「(グラニス、俺はお前が羨ましいよ……)」
グラニスと再会してから、アルが微かに抱き続けてきた嫉妬と憧憬を吐露し――瞬間、いつかの言葉がアルの脳内に響いた。
――アルフレッド、俺は貴様が羨ましい。
いつだったかも覚えていない。
脳の片隅にひっそりと置かれ続けていた、いつかの記憶。
そう、あの日は雨だった。
毎日のように鍛錬を続けていたグラニスは、なぜだかその日、雨に打たれながら曇天を仰いでいた。
――貴様はすべてを持っているな。俺が持たないすべてを。頭脳も、社交力も、知識も、そして……強さも。
――俺には強さしかなかったからな、強さを磨き続けたよ。いつかは貴様に追い付き、追い越したいと思ってな。
――だが、果たしてそんな日は来るのだろうか。貴様は強い。強さしか持たない俺よりも、ずっと。
――……アルフレッド、俺は貴様が羨ましい。
アルからすれば、それは過大評価に他ならなかった。
アルからすればグラニスも十二分に持っている側の存在だったし、逆にアルこそ剣しかないと自負していたのだから。
それでもアルは、グラニスの言葉を受け止めることしかできなかった。
激しい雨に打たれ、全身を濡らしながら言葉をこぼすグラニスが、いつになく弱々しく見えたから。
「(今のグラニスは強い。あの頃より、ずっと、もっと)」
ともすれば、当時のアルフレッドを超えるほどに。
それでもアルの考えが変わるわけではない。
確かにグラニスは努力を続けたのかもしれない。アルフレッドが死んだ後も、ただひたすらに、強くなるために。
ただそれが報われたのは、グラニスが才能を持っていたからだ。才能を持っていたからこそ、努力が実を結び、結果を齎したのだ。
「(……でも、あの時のグラニスを、才能って言葉だけで片付けていいのか……?)」
グラニスには才能がある。それは紛れもない事実だ。
けれど、グラニスはアルフレッドの才能を羨み、それでも超えようと弛まぬ努力を続けたのだ。その間のグラニスは、アルフレッドの才能に勝っているなどとは欠片も思っていなかっただろう。
才能がなかろうと、強くなろうと努力してきたアル。
才能があれど、それを遥かに上回る才能を超えようと努力をしてきたグラニス。
果たしてそこに、諦めるほどの差があるのだろうか。
「……結果を振り返るのは、年老いてからでも遅くはない、か」
血の味を噛みしめながら、小さくこぼした。
まだ完全に吹っ切れたわけではない。それでも、無駄な努力と結論付けるには少しばかり早すぎると、アルは思った。
随分長い間蹲っていたような気がしたが、実際はそうでもないようで、アルがいかに深い思考の海に沈んでいたのか自覚する。
視界の端にゆっくりと歩み寄ってくるジェイルの姿を捉え、アルは僅かに顔を上げ――視線の先にいる、ミルフレティアを捉えた。
「――」
その水色の瞳はいつものように細められているが……アルをジッと見つめる彼女の瞳には、いつもと違う感情が込められているように思えて、アルは思わず目を見張った。
ミルフレティアの冷たい瞳は知っている。なにせこれまで散々向けられてきたのだ。凍てつく氷のように冷たく、冷淡な瞳。それを受けるたび背筋が凍るような悪寒を感じたものだが、どうやら今はそうではないようで。
「(……いつもより、暖かい?)」
あるいはそれは、アルの勘違いかと思えるほどに僅かな差でしかない。他の者に告げても、勘違いだろうと笑い飛ばされるほどの誤差。
しかし誰よりもミルフレティアの冷たい瞳を知るアルには、いやアルだからこそ、今のミルフレティアの瞳に宿った”熱”を見逃さなかった。
「……ぇ」
それはこそ。アルは自分の視界を疑う光景だった。
僅かに、ほんの僅かに。しかし確かに。
正面からその姿を捉えるアルにしか分からないほど、小さく、頷いて見せたのだ。他でもない、アルを真っ直ぐ見据えながら。
「――まさか、貴女も俺に諦めるなって、そう言うのか……?」
それが真実かは分からない。
アルが都合よく解釈しているだけかもしれない。
それでもアルには、今のミルフレティアはアルの努力を肯定するように頷いたとしか思えなかった。
「……はは」
思わず、アルの口から笑みが零れた。
意味が分からない。
他でもないアルが、誰よりも知っているはずだ。才能のない自分は、どれだけ努力しても無駄なのだと。努力を続けることに意味などないのだと。
それなのに、アルが羨む二人が、それを否定する。
アルが誰よりも羨む男が努力を諦めさせない。
アルが誰よりも羨む剣士が努力を肯定する。
「……」
無意識のうちに、剣を握る手に力が籠った。
アルの心に闘志の火が小さく燻り、立ち上がる力を与えた。
「……上等だ、やってやるよ」
アルが信じられなくとも、二人がアルの努力を信じるというのならば、アルはその二人を信じよう。その二人が信じるアルの努力を、信じてみよう。
「俺は無才だ――無才の剣士だ」
小さく呟き、真っ直ぐに剣を構えた。
「才能がないなりに、精一杯あがいてやるよ。その先に何もなかったとしても……諦めるのは、今じゃない……!」
何より――そう簡単に、メアを諦めてたまるかよ。
アルは口内に残る血を吐き出すと、仕切り直しだと言わんばかりに歯をむき出しにして笑った。
「……何だその顔は。まだ諦めてないというのか? ……いいよ。じゃあ教えてあげるよ。君の努力は無駄だったってことを。才能のない奴は、どれだけあがいても無駄だってことをねぇ!」
アルの諦めない意志を感じ取ったのか、ジェイルは苛ついたような表情を浮かべながらまくしたてる。
当然待ちの姿勢など取るはずもなく、ジェイルは木剣を構え、アルに向かって突貫した。
「ほらほらほらぁ!!」
上ずった声を上げながらも、ジェイルの剣の冴えは変わらず。流れるような剣撃を繰り出し続け、アルは先ほどと同じように受け身の態勢を取る。
「息まいたわりに何も変わってないけどぉ!? 結局威勢だけかい!?」
次々に繰り出される攻撃を、アルはひたすら受け続けた。
一撃、五撃、十撃、二十撃。
流麗なまでにとめどなく続く連撃を、しかしアルはただ防御に徹しているだけではなかった。
「(速い、それに隙が無い連撃……一見すると反撃の暇もない攻撃に見える。けど……)」
ジェイルだって生きているのだ。
何度も何度も同じ攻撃を繰り出していれば、ある程度リズムは掴めるし、息だって上がるだろう。その僅かな隙を見逃さぬよう、アルは攻撃を防ぎながらも、ジッとその剣筋を見続けた。
そして――、
「今だッ……!」
流れるような連撃が途切れた、僅かな隙間。
瞬時に剣を握り直したアルは、攻撃を縫うようにジェイルに接近する。
「くっ!? させるかぁ!」
当然ジェイルも見ているだけではなく、接近するアルを迎撃するように攻撃を繰り出す。
相変わらず雨のように繰り出される剣撃はしかし、
「隊長より遅いッ!」
何十回、何百回、何千回とミルフレティアの流星を受け続けてきたアルには、焦って繰り出したジェイルの連撃など止まって見えた。何より先ほどの攻防でジェイルの攻撃のリズムは完全に掴んでいる。
最低限の動きでジェイルの攻撃を避けると、アルはジェイルの胴体を横薙ぎに切り裂く。
「ぐっ!?」
しかし、腐っても『輝剣』上位の剣士。
ジェイルは咄嗟に体を捻り、致命傷だけは避ける。しかしアルの剣は確かにジェイルの横腹を切り裂き、ジェイルは苦悶の表情を浮かべる。
「舐めるなぁ!!」
アルに攻撃を受けたのがよほど気に障ったのか、ジェイルは憤怒の表情を浮かべながら叫ぶ。しかし剣は先ほどの攻撃を放ったままで、構えてもいない。ジェイルが剣を振りぬくよりも先に、アルの一撃が入るだろう。
瞬時にそう判断したジェイルは、咄嗟にその長い脚を突き出した。
勢いよく放った脚はアルの腹部を抉り、アルは思わずせり上がる嘔吐感に吐瀉物を吐き出しそうになるが――、
「ガレオンより軽いッ!」
アルは迫りくる痛みも気持ち悪さもすべてを気合で押さえつけ、歯を食いしばって耐える。
蹴りの一撃で終わりだと思っていたのか、ジェイルは苦悶の表情を浮かべつつも耐えて見せたアルを見て驚きを隠せなかった。
当然、次の一撃など用意しているはずもなく――ジェイルが気づいた時には既に、アルの一撃が眼前まで迫っていた。
「これで、終わりだッ!」
全身全霊をもって放たれた突きは、ジェイルに避ける暇すら与えず――仰け反るジェイルの首元に、しっかりと突きつけられた。
「――」
決着。誰が見てもそう思うその光景は……アルの勝利という結果をありありと示していた。
数秒、練兵場を沈黙が支配する。
本来勝敗を告げるデリーですら、目の前の光景を受け止めきれず、呆然と立ち尽くしていた。
そんな空間に、小さく、確かな声が響いた。
「――終わりね」
ピシャリと告げられたその言葉は、ミルフレティアのものだった。
この場においてただ一人、ミルフレティアだけが訪れた結果を受け止め、理解していた。
ミルフレティアの言葉に遅れてデリーが我に返り、咄嗟に叫んだ。
「け、決着! 勝者――アルファスト!!!」
勝者、アルファスト。
告げられたその言葉に再び会場は静まり返り……次の瞬間、割れんばかりの歓声が響き渡った。
それはマッキンやキリア、ロブだけではない。
この場で勝敗の行方を見守っていた隊士たち全員が、アルの勝利を祝うように声を上げていた。それだけに留まらず、隊士たちは我慢できないとばかりにアルを囲んだ。
「やったなアルファスト! すげぇよお前!!」
「まさか本当にジェイドの奴に勝っちまうなんてな!!」
「僕、ちょっと感動しちゃいましたよ!」
「それに清々したな! ジェイドの野郎、前からウザかったし!」
「ほんとそれ! なまじ実力があるから文句言えなかったけど……やってくれたなアルファスト!!」
勝利を告げられてなお、自身が勝ったという実感が湧いていなかったアルは、瞬く間に自分を取り囲んで称賛を告げる隊士たちになおさら困惑した。
そこには今までアルを快く思っていなかった隊士や、遠巻きに見つめてくるだけだった隊士たちも大勢いて、アルは何が何やら分からなかった。
肩を組まれ、背中を叩かれ、手を取られ、頭を撫でられもした。とにかく数十人の男たちに群がられ、もみくちゃにされる。
「え、あ、あぁ……」
全員もれなく喜色を浮かべる中、渦中のアルだけはひたすらに困惑した表情を浮かべていた。
「みんなお前のことを認めてんだよ、アル」
「え……?」
そんなアルに助け船を出したのはデリー。湧き立つ隊士たちをなだめつつ、アルの肩を叩きながら告げた。
しかし、アルはデリーの言葉を上手く呑み込めず、周囲の隊士たちを見渡した。そこには一様に笑みを浮かべた隊士たちがおり、力強く頷きを返している。デリーの発言を肯定するかのような様子に、アルは疑問を返した。
「何だって急に……あぁ、ジェイルに勝ったからか?」
「そうじゃねぇよ」
ジェイルに勝ったアルを見て、『輝剣』の隊士として相応しいと判断したから受け入れた。それならば納得のいく反応だと思い、アルは得心しかけるのだが……デリーは即座に否定した。
「でも、他にきっかけなんて……」
「きっかけってんなら今の試合だろうな」
「じゃあやっぱり……」
「それだけじゃねぇってことだ。お前、今までの自分を思い出してみろよ。その中に答えはあるはずだぜ?」
そう言われてアルは『輝剣』に配属されてからの自分を思い出すが……いくら振り返っても、無様に打ちのめされる自分の姿しか浮かばなかった。
「どうだった? 今までのお前は。すっげぇ情けなかっただろ。訓練にはついてこれず、誰にも勝てず、毎日必死こいて鍛錬に打ち込んで……本当かっこ悪いよなぁ」
「おい、事実だけどはっきり言うなよ。知ったようなこと言いやがって……」
「みんなも知ってるだろ、見てたもんなぁ。毎日毎日ボロボロになるまで打ちのめされて。コイツのなっさけない姿」
デリーは周囲の隊士たちに確認するように言ってのける。
それに対し、隊士たちは思い思いの言葉を吐き始めた。
「本当、最初はびっくりしたぜ。こんなに弱い奴が俺たちと同じ『輝剣』かよって」
「僕より弱い剣士は初めてみましたよ」
「……正直、少し見下していたな」
「剣もまともに振れないし」
「ちょっと小突いただけで吹き飛ぶしな」
隊士たちの口から告げられるのは、今までのアルの醜態。
アル自身自覚はしていたが、こうもはっきり、しかも大勢に一斉に言い放たれるのは慣れているはずもなく、居心地が悪そうな表情を浮かべた。
思わず恨みがましい視線を向け……アルは気づいた。
言葉だけ聞けばアルを貶している隊士たちだが、その表情には嘲笑や侮蔑といったアルを侮る色はなく。それどころか、むしろ――、
「そうだ。俺たちは知ってんだよ」
驚くほどに穏やかな表情を浮かべながら、デリーはアルを見据えた。
「お前がどれだけ情けなかったかを知ってる。お前が何もできなかったのを知ってる。お前がどれだけ弱かったのかを知ってる。だから――」
今までのアルを想起させるような言葉を紡ぎ、
「――お前がした”努力”を、俺たちは知ってるんだ」
その言葉に、アルは大きく目を見開いた。
「お前がどんだけ弱かったかを知ってるからこそ、ジェイルに勝つ、これだけのことを成し遂げるために、どんだけ努力を重ねたかが分かる。俺の一撃に簡単に吹き飛ばされてた奴が、ジェイルの連撃を受けきるのにどんだけ傷ついた? 俺の剣筋を見切れなかった奴が、ジェイルの剣を避けるまでにどれだけ打ちのめされた? 俺の拳を受け止められなかった奴が、ジェイルの蹴りを耐えるのにどれだけ歯を食いしばった?」
「――」
「見てたし、知ってるよ。お前がジェイルを倒すまでに成長する――その過程を、その努力を」
静かに、しかし確かに熱が込められたその言葉を受け、アルは周囲を伺った。
そこにはデリーの言葉を否定する隊士は誰一人としておらず、皆アルを見据え力強く頷いた。
「正直な……お前が天才で、何でも簡単にできちまうような奴だったら、俺たちはここまでお前を認めなかった。どれだけ強くても、どれだけ人格者でも、な」
「……」
「なにせ、俺たちがお前を認めたのは、強いからでも、ジェイルに勝ったからでもねぇ。どんな過酷な状況にあっても、どんな理不尽な目に遭っても、決して諦めず、ひたむきに足掻き続けて――努力の果てに、勝利を掴む奴だったからだよ」
デリーの言葉が、デリーたちの想いが、アルの心を大きく揺れ動かした。
「いいか、アル。お前が俺たちを認めさせたのは、全部――お前の、”努力の結果”なんだ」
努力の結果――その言葉にアルの心に残った僅かな黒い感情が、綺麗に剥がれ落ちる。
「(そうか……俺の努力は、無駄じゃなかったんだ)」
強くなれるか分からない。
成長しているか分からない。
意味があるか分からない。
そんな暗闇の中で、未来の自分なんて分からずに、過去の自分に照らされて……足掻き、藻掻き続けた結果は――無駄だったのだと。
そう、一時は思ってしまった。
けれど、自身の中に確かに残った憧憬が、足を折ることを許さなかった。諦めることを肯定してくれなかった。だから、自分のことは信じられなくても、精一杯足掻いてみようと決意して――ジェイルに勝利という結果をもって、アルの努力は肯定された。
確かに、強くなっていた。
確かに、成長していた。
けれど、それ以上に――アルを見つめる多くの人々の視線が、熱が、想いが。アルのこれまでを、アルの努力を、無駄ではなかったと、意味があったのだと、そう信じさせてくれた。
「(俺の努力は、意味があったんだ……)」
アルの努力によって、こんなにも多くの人たちの心を動かすことができた。
それでどうして、意味がなかったなどと言えようか。
強くなることは重要だ。成長することも重要だ。
けれど、それよりももっと重要な意味があるのだと、アルは今日、初めて知った。
「弱さを知ってるからこそ、努力を知ることができる、か……そんなこと、考えたこともなかったな」
アルはずっと、己の弱さを恨んでいたし、憎んでもいた。
弱さを受け入れた今も、いや、今だからこそ、弱い自分が許せずにひたすら鍛錬に打ち込んだ。弱い自分ではメアの隣に立てない。弱い自分ではメアに相応しくない、と。
けれど、弱い自分があったからこそ、今こうしてデリーたちはアルを認めてくれている。弱い自分を知っているからこそ、成長した自分を見て、それまでの軌跡を理解してくれる。
「(そんなこと、前世の時代にはなかったな)」
アルフレッドは天才だった。
もちろん努力をしなかったわけではない。けれど、殊更剣に関しては常人の理解を大きく超えていた。一の鍛錬が十になって返ってくる。十の実戦が千になって返ってくる。
多くの人々はアルフレッドの強さを称えた。
剣の才能を恐れ、《剣鬼》などと大それた通り名まで与えた。
けれど誰も……アルの努力を見ようとはしなかった。
アルフレッドが強いことなど皆知っている。アルフレッドの剣が常軌を逸していることなど皆理解している。努力をして強くなっても、それは当たり前のことだと皆が笑った。
それが嫌だったわけではない。
剣の才能があったのも、努力をすれば簡単に強くなれたのも事実だ。称賛されるのも、褒め称えられるのもアルにとっては嬉しいことだった。
けれど――、
「(みんなが努力を知ってくれて、認めてくれるってのは、こんなに心地いいものなんだな)」
アルフレッドの時代には決して味わえなかった感覚。
アルという存在を理解するのではなく、アルの歩いてきた道を理解されるような、新たな感覚。アルフレッドとしてではなく、アルファストとして一から歩き始めることを決めたアルからすれば、それは何よりも心地よくて――、
「ありがとう、みんな。俺は今日初めて――努力が報われた気がしたよ」
それはアルフレッドがアルファストに生まれ変わって以来、初めて浮かべた、心からの笑みだった。
「……んじゃあ、今こそ”アレ”を言うべきだな」
アルの感謝を受けて、デリーは優しい笑みを浮かべた。
それから周囲を伺い、隊士たちと顔を見合わせ、告げた。
「――『輝剣』へようこそアルファスト。お前は今日から、俺たちの仲間だ」
――この日、アルは改めて『輝剣』の隊士となった。
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嘘です、シテクダサイ。泣いて喜びます。




