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無才の剣士 ~もう一度キミに好きと言うため、才能を捨てて記憶を選ぶ~  作者: 塚丸水産
再会編

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Ep.27 盟黒都市アルメア 前編

長くなったので前編と後編に分けます。






 辺りを見れば、快活な表情を浮かべた人々が行き交っている。

 元気に走り回る子供、楽しそうに談笑する若い男女、穏やかに寄り添う年配の夫婦。


 久々に感じる街の喧騒に、アルは思わず笑みをこぼした。


「そういえばちゃんと街に来たのは初めてだったな」


 現在アルがいるのはメアの城の城下街。

 その街の一角に佇んでいた。


 アルがメアの元にやってきてからはや二ヵ月ほど経ったが、アルはこの街へ来たことはなかった。最初の一ヶ月ほどは休養していたようなものだし、ここ最近は鍛錬に精を出していたので、たまに窓から見渡すくらいのもの。いずれは行きたいと思っていたが、なんだかんだ機会がなく後回しにしていたのだ。


 友人のルストはアンデッドの特性ゆえか日中に外に出るのは好まないし、鍛錬以外にあまり興味のないガレオンは街に繰り出すことは少ない。女性陣とは集団ならまだしも、二人きりで出かけるほどの関係値は築けていないはずだ。同じ隊の仲間は言わずもがな。デリーはああ見えて妻子持ちなので、休暇日は基本的に家族と過ごしているらしい。


 では、なぜ今になって街に訪れたのか。

 それは昨日アルの部屋に訪れたメアが理由だった。











◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇











「アルくん、明日は暇~?」


 夜も遅く、そろそろ寝る準備をしていたアルの下にやってきたメアは、開口一番そう告げた。


 とりあえずメアをベッドの上に座らせ、アル自身は椅子に座って対面する。

 ちなみに今日は自分の部屋で寝るようで、ミーシャはついさっき帰っていったばかりだ。実にタイミングが良い……というより、ミーシャがいなくなるタイミングを伺っていたのだろうか。


「ああ、明日は何もないよ。休暇日だし、自主トレくらいしかすることないしな」

「そっか! じゃあ二人で街に出かけようよ!」

「え、二人で?」


 思いがけない提案に、アルは鼻白んだ。

 今更言うまでもなくアルのメアに対する好感度は上限を突破しているが、メアの方はそんなことないだろう。そもそもここ二ヵ月ほどでアルがメアと接した時間は多くないし、友人と思われているのかすら怪しいくらいだ。いや、二人の格差を考えれば友人とすら思われていないだろうと考えてもいたくらいだった。


 確かにメアは気安く接してくれているが、それは彼女の性質でしかない。実際アル以外の部下にも等しく明るく接しているだろう。メアからすればアルは、数多くいる部下の中に一人にすぎないのだから。


 そう思っていたからこそ、メアからの誘いにアルは驚くしかなかった。


「うん! アルくんって、まだ街に出かけたことないでしょ?」

「ああ。いつか行きたいとは思ってたけど、中々機会がなくて」

「じゃあせっかくだし、明日はアルメアを案内してあげるよ!」


 その言葉を聞いて、アルは得心した。

 メアがアルを誘う理由が分からなかったが、街を案内してくれる腹積もりだったようだ。

 デートの誘いだなんて思っていたわけではないが、それでもやや事務的?な用事に内心肩を落とす。とはいえ、メアが直々にする必要はないわけだし、少なからずアルとは休日に出かけてもいいと思ってくれる程度には関係性を築けていたようで、ほっとする気持ちもあった。


「そりゃありがたいけど……いいのか? 忙しいんじゃ」

「う~ん、まぁ忙しくはあるけど、一日くらいなら大丈夫!」

「でもリーシャあたりに怒られるんじゃ?」

「問題ナシ! そもそもリーシャの提案だしね、これ!」


 休暇日はあくまで隊士に与えられたもので、セラやメイド同様メアにも適用されない。そうでなくても最近のメアは忙しそうで、たまに会っても仕事が多くて大変だとぼやいていたくらいだ。そんな状況で仕事を放り出してアルに構っていては、恐らく、いや確実にリーシャの雷が落ちるだろう。


 そう危惧したアルだったが、帰ってきた予想外の言葉にこれまた驚きを隠せない。


「(あのリーシャが? 俺とメアを……?)」


 他でもないメアが言っているのなら真実なのだろうが、それでもにわかには信じがたい。


 確かにここ一ヵ月ほどは早朝に会うことも多くなり、それなりに仲良くなってはきたと思う。が、あのリーシャが、アルとどれだけ仲良くなろうとメアとの逢瀬を容認するとは思えなかった。

 そもそもメアが男と二人で出かけることに良い顔をしないメイドだ。マシになったとはいえ、未だにメアがアルを贔屓しているという噂が囁かれているこの状況で、アルとメアが二人で出かけるのを提案するなんてリーシャらしくない。


「(いや、そこまで深く考える必要もない、か……?)」


 もしかしたら働きづめのメアをリフレッシュさせるためのいい機会だと思っただけかもしれないし、純粋にアルを慮った結果かもしれない。考えにくいが、アルならば大丈夫と信頼してくれている可能性だってなくはない。


「(ま、考えたって分からないことをごちゃごちゃ考えるくらいなら楽しむか。久しぶりのデートだしな……まぁデートではないけど)」


 そんな複雑な胸中でいたアルは、ふと聞きなれない単語に疑問を感じ首を傾げた。


「そういえばアルメアって?」

「うん、知らなかったの? あの街……っていうかこの城も含めて、アルメアっていうんだよ。正式には盟黒都市アルメア。ここもアルメア城って名前だしね」

「そういえば今まで気にしたことなかったな」


 街にも城にも名前があるなんてことは考えてみれば当たり前だが、アルはそんなことすら気にする余裕もなかったのだと自覚し、思わず苦笑が零れた。正常であれば一番最初に確認することだったが、メアと再会したり死にかけたり特訓漬けだったりで完全に頭から消えていたようだ。


「じゃ、明日は11時に集合ね! 集合場所は……城を降りたところでいっか!」

「了解」


 そう言うと、メアは跳ねるように立ち上がった。


「楽しみにしてるね!」

「俺も」

「それじゃ、おやすみ~!」

「おやすみ、メア」


 そんなかつては何千回もしたやり取りを久しぶりに経て、メアは去っていった。


「あ! お腹は空かせて来てね!」


 言い忘れていたとばかりに、扉の隙間から顔をのぞかせて告げるメア。それだけ言うと、今度こそ去っていった。


「相変わらずだな」

 

 相変わらずの忙しない様子に笑みをこぼしたアルは、思いがけず入った明日の予定を楽しみにしながらベッドに入ったのだった。











◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆











 そんなやり取りを経て、今日はメアとのデート――もとい、メアに街を案内してもらうことになったのだった。


 ちなみに現在アルが背を預けているのは巨大な門。赤と黒で彩られた豪奢な門の先には、思わず昇るのが億劫になるくらいには長い石階段が続いている。これを昇っていくとアルメア城に着くのだ。


 正直同じ城に住んでいるのだから一緒に出ればよかったのでは? と考えないでもなかったが、現地で待ち合わせするほうがデートっぽいので黙っておいた。恐らくメアはそこまで深く考えていないだろうけれど。


 そんなこんなでしばし待っていると、やや遠くから声が聞こえてくる。


「おまたせ~!」


 声の方に視線を向けると、長ったらしい石階段をトテトテと駆け降りるメアの姿があった。

 そのままメアを見守っていると、メアは「とうちゃ~くっ!」と朗らかな声を上げながら、軽快にアルの隣へやってきた。


「ごめんね、待った?」

「いや、さっき来たとこ」

「そっか」


 そんなやり取りをしながら、にぱっと笑みを浮かべるメアはシンプルな黒ワンピースに身を包んでいた。あまり飾り気のない彼女とはいえ、毎回アルのためにお洒落をしてきたメアの姿を知っている身からすれば、簡素な服装に思うところはでてくる。


「(……まあ目的は案内だしな)」


 当たり前だがアルに対しお洒落をする意味などない。その事実をありありと感じ、アルは心の中でそっと涙を流した。どうせなら久しぶりに可愛いメアを見たかったと。


「(いや、メアはいつも可愛いけど!)」


 何を着たって可愛いのはもちろんだが、着飾ったメアはより一層可愛らしいのだ。なんならアルに喜んでもらうために慣れないお洒落を頑張っている様子が可愛いまである。


 そんな益体もないことを考えていると、いつの間にかメアは先に行っていた。


「ん? どしたの? 行っちゃうよ~?」

「あ、ごめん」


 慌ててメアの後を追い、隣に並ぶ。


「それで、どこを案内してくれるんだ?」

「最初に案内する場所は決まってるんだ! ……お腹空かせて来てくれた?」

「ああ、朝食を食べずに来たからな、お腹ペコペコだよ」

「よかった! じゃあこっち!」


 可愛らしく問いかけるメアに頷きを返すと、パッと明るい笑みを浮かべる。そのままアルの手を取り、足早に駆け出した。


 手を引かれるまま着いていくと、それまでの生活感あふれる住宅街を抜け、商店街のような場所にやってきた。周囲を見れば飲食店、それも露店が多いようで、食欲をそそる良い香りがそこかしこから漂ってくる。


「ここは?」

「ふふん! ここはボクのイチオシの食べ歩きストリート! 通称『多来福《たらふく》通り』だよ!」


 自慢気に笑みを浮かべながらメアを尻目に、今度は行きかう人々に注目してみる。すると、大半の人たちの手には様々な飲食物が持たれていた。


「(そういえば好きだったもんな、食べ歩き)」


 様々な街を訪れては屋台で売られている食べ物を美味しそうに頬張る姿を思い出し、アルは懐かしい気持ちになる。


「ほら、行こう!」


 未だ握られたままの手を引かれ、二人は『多来福通り』を練り歩く。


 メアのイチオシ、という言葉に偽りはないようで、ただの食べ歩きスポットとは思えないほどに力を入れて作られている。入ったばかりとはいえ終わりが見えないほどに長く続いているし、多くの人が行きかうことができるようにかなり広々とした造りになっている。


 露店の種類も数えられないほどに多く、甘味や塩味、見覚えのある懐かしい食べ物から見たことのない珍しい食べ物まで、様々な料理が売られている。

 思わず感心しながら周囲を見渡していると、


「どう? 凄いでしょ! 昔っから絶対作ろうと思ってたんだよね! だから思わず力を入れすぎてみんなに文句を言われたりもしたけど……へへ」


 まるで自身の傑作を自慢するように言ってのけるメアに、アルは疑問符を浮かべた。


「? その言い方じゃあ、まるでメアがここを作ったみたいじゃないか」

「? そだよ? っていうかこの都市自体、ボクたちで作ったんだしね」

「え……」


 何を当たり前のことを、と言わんばかりの様子のメアを見て、アルは言葉を失った。


「(――そうか、考えてみればおかしな話じゃない。魔帝ともなれば都市の一つや二つ統治することになるし、自分が拠点とする都市を発展や更改、造ることだってある)」


 基本的に自分の領地を持ち、統治することが許されるのは魔王以上の称号を持つ者だけだが、その魔王ですら実際に領地を持っているものは少ない。当時のメアも多数派の一人で、自身の領地を持つことなく各地を旅しながら魔神を目指していたのだ。


 しかし、魔帝ともなれば自身の領地を持つことが当たり前になる。

 都合よく領地を持つものが死んだり降格されれば、その地の統治を引き継ぐこともあるかもしれない。しかし大抵の場合は、『大魔総会』から指定された土地を自身で発展させていく必要があるのだ。


 メアが後者だとすれば、自身の管理する領地内に都市を造ることは何らおかしいことではない。むしろ魔帝としては当たり前の行動とまで言える。


「(……俺はまだメアが魔帝だっていう実感が湧かないみたいだな)」


 隣で不思議そうな表情を向ける少女が、またも遠く感じてしまい、アルは思わず気落ちしそうになるが、


「(いやいやいや、そんなこと分かってたことだろ。今更気にしたってどうすることもできない。だから強くなるって決めたんだ。今は今を楽しもう)」


 気を取り直し、アルはメアに気丈に問いかけた。


「何が食べたい?」

「ん~、色々あって迷うけど~」


 メアは悩むように周囲の露店を見まわし、


「まずはアレ!」


 アルたちのすぐ近くにある店を指さした。

 その店はサンドイッチを販売している店のようで、分かりやすく絵で表現されたメニューがデカデカと表示されていた。


「あのお店は行きつけなんだけどね~、たっくさんの種類のサンドイッチが置いてあるんだよ! 毎回違う味が食べられて全然飽きないんだ~」


 メアの言うように、メニューに描かれたサンドイッチの種類は数えるのも一苦労なほど豊富だった。


「これはこれで迷うな」

「良かったらボクが選ぼっか? 何回も来てるから特に美味しいの選んであげるっ」


 楽しみな様子を前面に押し出すメアに任せると、メアは足早に屋台に向かっていった。


 ちなみに、アルとしては非常に情けない話ではあるのだが、現在アルは無一文だ。

 クローリー軍の隊士であるアルは給料を貰う予定ではあるのだが、最初の一ヵ月はほとんど治療してもらってただけだし、この一ヵ月の給料はまだ支払われていない。クローリー軍は月給制なのだ。


 そもそもアルは未だに何の貢献もしていないし、貰ったとしても元を辿ればメアから支給されているような金なので、偉そうに奢ることもできないのだが。

 メアもアルが無一文なのは分かっているだろう。だからこそさりげなく買いにいってくれたのだ。


「……すまんメア。いつか必ず返すから」


 本人には聞こえないように感謝をこぼす。

 流石に奢られっぱなしというのは男が廃るし、いつかは返せるように努力するしかないだろう。もっとも、それがいつになるのかは皆目見当もつかないが。


 そうこうしているうちにメアは買い物を済ませたようで、両手にサンドイッチを持ちながら帰ってくる。


「おまたせ~! どっちがいい? こっちは『コカトリスのチキンカツサンド』で、こっちが『グリーンパレスの三色サンド』」


 そう尋ねながら、メアは両手のサンドイッチを見せてくる。


 『コカトリスのチキンカツサンド』は分厚いチキンカツが挟まれており、持っているだけで透き通った肉汁が零れている。


 一方『グリーンパレスの三色サンド』はハムとチーズとレタスが挟まったオーソドックスなサンドイッチだ。しかし、名前から察するにグリーンパレスで採れた食材を使っているのだろう。

 グリーンパレスとは魔界に存在するとある平原で、魔界でも随一の肥沃な土地として有名だ。そこで採れる農作物や動物等の食材は、他の地で採れるものよりも格段に美味としても知られている。


 どちらも魅力的で悩ましいが、空腹感を強く感じるアルはがっつり食べたいという欲が勝った。


「それならコカトリスの方を貰おうかな」

「おっけ~、はい」

「ありがとう」


 渡されるチキンカツサンドを受け取り、予想以上にずっしりとした重量感にやや驚く。


「それじゃあ、食べよっか」

「そうだな」


 そう言うと、二人はそれぞれのサンドイッチにかぶりついた。


「んっ……!」


 瞬間、弾けるように肉汁が口の中に広がった。

 コカトリスの旨味をこれでもかと含んだ肉汁が口全体に広がり、ガツンと殴られたような衝撃が脳内に響く。そしてその旨味が浸透する頃には、サクッとした衣と噛み応えのある肉の食感と旨味も加わり、『コカトリスのチキンカツサンド』という料理の完成された味を堪能することができた。


「うまっ! めちゃくちゃ美味いぞこれ!」


 想像以上の美味しさに上ずった声を上げると、幸せそうな表情を浮かべながらサンドイッチを頬張るメアと視線が合った。


「でしょ~! ここのサンドイッチは全部美味しいけど、特にこの二つは絶品なんだ~」

「さっすがメア! メアのおすすめは外れないからなぁ~」

「えへへ、ありがと~」


 メアを褒め称えながら、アルは次々に『コカトリスのチキンカツサンド』を食べ進めた。


 ちなみにコカトリスとは魔獣の一種で、体長3mはある巨大な鳥だ。

 かなり強力な魔獣で、特に厄介なのは一定間隔で放ってくる石化光線だろう。かといって光線ばかりに気を取られていると、その巨体からは想像もできないほどの速度で突進してくる。討伐難易度もかなり高かったはずだ。


 しかしその分肉は絶品で、癖になる弾力とジューシーな肉汁を両立させた魔界でも有数の食材だ。この『コカトリスのチキンカツサンド』はその特徴を最大限生かした料理といえよう。コカトリスの肉は何度か食べたことのあるアルですら、まるで別物のような美味しさに舌鼓を打ってしまう。


 気づけば最後の一口分しか残っておらず、名残惜しい気持ちになりながらも完食する。


「美味かったぁ」

「良かった、喜んでもらえて」

「もちろん、大満足さ。でも……」


 『コカトリスのチキンカツサンド』が美味だったのは間違いないのだが、むしろそれゆえに、アルの胃袋を余計に刺激してしまったようだ。サンドイッチ一つでは満腹になれず、むしろもっと食べたいとばかりに空腹感を襲ってくる。


 思わずお腹をさすっていると、アルの気持ちを代弁するかのように腹の虫が音を立てた。


「あははっ、まだまだ食べれるみたいだね!」

「はは、まあな」

「よーし! じゃあどんどん行こう! 目指すは『多来福通り』全制覇~!」

「流石に死ぬって……!」


 途方もない目標を掲げるメアに対し苦笑を浮かべるアル。

 そんなアルを見て更に笑うメアは、再びアルの手を取り、勢いよく駆け出して行った。



 








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感想・誤字報告、お待ちしております。

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嘘です、シテクダサイ。






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