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無才の剣士 ~もう一度キミに好きと言うため、才能を捨てて記憶を選ぶ~  作者: 塚丸水産
再会編

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Ep.25 隊長と仲良し大作戦 後編






『作戦その2 デートに誘おう大作戦』




「ふざけんな! 全然ダメだったじゃねえかよ!!」

「馬鹿な、こんなはずでは……僕のデータが間違っていたというのか……?」


 あらんばかりの感情を込めながら叫ぶも、当の発案者はアルのことなど気にも留めず、愕然とした表情を浮かべながらうわ言を呟いていた。


「聞いてんのか!?」

「まぁまぁ、落ち着けってアル」

「お前もだかんなデリー!」

「失敗することもあるさ、ドンマイ」

「うがーーーー!!!」


 怒りに燃えるアルを宥めるように、ポンと肩に置かれた手。そのあまりに他人事すぎる様子に、アルはとにかく声を上げた。


「とにかく、作戦その1はダメだったわけだが……俺たちには、まだ作戦があるだろ?」

「ふざけんな、まだやれってのか!?」

「おうよ。お前は隊長と仲良くなりたくはないのか?」

「それは……」


 それまで怒り心頭だったアルは、ミルフレティアの氷のような態度を思い返し口ごもった。これからもずっとあのような視線を向けられるのは辛い。アルだってできることなら仲良くなりたいとは思っているが……、


「問題はお前らの作戦がダメダメってことだろ」

「その1はアレだ、きっと、ほら。白猫が好みじゃなかったんだろ、たぶん」

「そういう問題だとは思えないけどな」

「安心しなって。その2を立案したのはこの俺、キリア様だからね」


 優雅に前髪を流しながらそう言う男は、滑らかな金髪と整った顔立ちが特徴的な優男、キリア・ローゼルだ。


「作戦その2『デートに誘おう大作戦』の概要は昨日説明したね? 俺の緻密な作戦なら問題ないよ」

「あぁ、確かに細かく練られた作戦だったな……問題はそれらが全部、デートが成立した後の作戦ってことだけどな!」


 キリアが言うように、プレゼント作戦と比べてデート作戦はかなり綿密に練られた作戦だった。しかしそのほとんどがデート中の作戦で、肝心のどうやってデートを成立させるかはアル任せだった。


「すまない。デートに断られるなんてこと、考えたこともなくて」

「この優男が」

「心配しなくていいよ、アル。君も十二分に整った顔立ちをしている。少なくとも『輝剣』において……俺と副隊長に次ぐほどにはね」

「そうかよ、そりゃどうも」


 遠征中らしく未だに会ったこともない副隊長がイケメンという、死ぬほどどうでも良い情報を入手した。


「仕方がない。即興だが、セリフくらいは授けてあげよう」

「不安しかないんだが」

「いいからいいから。ほら、耳貸して」


 まともなセリフが出てくるとは思えなかったが、アルは自分の力でミルフレティアをデートに誘えるとも思えず、渋々キリアに耳を近づけた。


「――」

「……は? 本当にソレ言うのか? 俺が?」

「もちろんさ」


 キリアの口から出てきたセリフ。それはとてもじゃないがアルが言いそうにないセリフで、アルは信じられないというようにキリアに問いかける。が、返ってくるのは当然と言わんばかりの態度。


「んじゃあ、あらかた決まったな! 早くしねぇと日が暮れちまうぜ」

「そうだね、ほら、行ってきな」


 急かすようにアルの背中を押すデリーとキリア。

 これ以上何を言っても無駄だと感じ、深いため息とともに覚悟を決めた。


「行って来いアル! 骨は拾ってやるよ!」

「失敗する前提じゃねぇか!」


 そんな軽口を叩きながら、アルは次なる目的地……練兵場を目指した。


 練兵場に入ると、広大な広場にポツンと一人座るミルフレティアがいた。どうやら自主トレーニングをしていたらしく、今は休憩しているようだ。肩にかけたタオルで汗を拭っている。


 アルは先ほどキリアから伝授されたセリフを心の中で反芻しながら、ミルフレティアの元に向かう。当然見晴らしのいい練兵場を歩くアルの姿に気づかないわけはなく、ミルフレティアはため息をもってアルを迎えた。


「はぁ……今度は何の用? 忙しいから手短に」

「あ、あぁ。分かってる」


 ゴクリと生唾を飲み込み、覚悟を決めたアルは――ミルフレティアの顎に手を添え、不敵な笑みを浮かべた。


「隊長、いや、ミルフレティア……相変わらず美しいね。絹糸のような美しい髪も、宝玉のように煌びやかな瞳も、瑞々しいその唇も、白磁のように白い肌も。キミのその美しさが俺を狂わせる」

「……」

「キミとの逢瀬を何度夢想したことか……けれど、もう想像じゃ耐えられないんだ。現実のキミは、俺の妄想なんかじゃ再現しきれないほどに美しい!」

「…………離して」


 小さく呟いたミルフレティアの言葉など聞こえないとばかりに、アルは続ける。


「だからミルフレティア……俺と、デートをしてほしい」

「…………もう一度だけ言う。離して」


 はっきりと拒絶するような言葉が聞こえてくる。しかし、それをかき消すようにキリアの助言がアルの脳裏に響き渡る。


 ――女性というのは形だけでも嫌がるものさ。でも、それを真に受ける男は三流。真の男なら、女性の拒絶という薄い壁をぶち破らなくちゃね。


 ミルフレティアの言葉には殺意が滲みだしているような気がするが、アルはあえて気づかないことにした。気づいたら負けだと思った。気づきたくなかった。


「(ええい、ままよ!)」


 ミルフレティアの拒絶という薄い壁をぶち破るため、アルは離すどころかより近づいた。ミルフレティアを抱き寄せ、形のいい耳元に顔を寄せる。トレーニングをしていたからか、ミルフレティアからふわりと汗の匂いが漂ってくる。


 アルは限界までミルフレティアの耳元に口を寄せ、甘い吐息とともに呟いた。


「――恥ずかしがるなよ、可愛いな」


 アルの言葉と吐息が耳に吹きかかり、ミルフレティアは微かに肩を震わせた。


「(お、まさかホントに成功――)」


 瞬間、アルの体を途轍もない衝撃が襲った。

 たまらず吹き飛び、アルは地面に蹲った。腹部を尋常ではない痛みが襲い、口から胃液が零れ落ちた。


「な、に……」


 苦悶の表情を浮かべながらミルフレティアを見ると、彼女は右拳を真っ直ぐ突き出していた。そのままゆらゆらと幽鬼のように歩き寄ってくる彼女の表情は――幽鬼なんかよりよっぽど冷たいものだった。


「ひ」


 侮蔑、嫌悪、軽蔑、恥辱、憤慨。

 ありとあらゆる負の感情を詰め込んだようなその表情に、アルは全身に寒気が走るのを感じ、思わず声が漏れた。


「……気持ち悪い。あまりの気持ち悪さに鳥肌が立った」

「……」

「……気色悪い。あまりの気色悪さに一瞬気を失った」

「……」


 一歩一歩、ゆっくり近づいてくるミルフレティアに、アルはただただ震えて待つことしかできなかった。それは、処刑を待つことしかできない咎人の気持ち。


「……良かった、剣を置いておいて。もしも剣を手に持ったままだったら――殺してた」


 彼女の言うように、本当に良かった。

 ミルフレティアが休憩の際に剣を持たない人物で、本当に良かった。


 そう思いながら、アルは迫りくる流星を受け入れた。

 その日の流星は、いつもより遅く、いつもより重かった。











◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇











「もういい」


 頬を真っ赤に腫らしたアルは、開口一番そう告げた。


 ミルフレティアの温情か、彼女はたった一撃で許してくれた。その代わりその一撃だけは、情け容赦の一切ない全力の一撃だったが。フルスイングされた拳はアルの頬を的確に撃ち抜き、練兵場の端まで吹き飛んだ。もちろん軽傷では済まなかったが、普段のトレーニングを考えれば大したことはない。


 などと基準がおかしくなりつつあるアルに対し、デリーたちは流石に申し訳なさそうな表情を並べていた。


「すまん、まさかこうなるとは」

「ごめんねぇ……何がダメだったんだろう」

「頭からつま先までダメだろ」


 冷静に突っ込むアルだったが、まぁ一割くらいは自分も悪いかなと考えていた。もちろんほぼほぼデリーたちのせいではあるが、実際に実行したのはアルだ。そもそもミルフレティアを抱き寄せるなんて蛮行に及べばどうなるか、考えなくても分かることだった。アルもアルでどうかしていたのだろう。


「うーん……しかしその様子じゃあ、最後の作戦は辞めとくかぁ」


 若干惜しむような声色を滲ませるも、アルの状態を慮って作戦中止を告げるデリー。他の3人も異論はないようで、仕方ないとばかりに頷いている。


「ちなみに作戦その3は何だったんだ? 一応聞くだけ聞くけど」

「作戦3は俺が立案したんだ」


 昨夜の作戦会議では教えられなかった……というより、デリーたちが作戦その1とその2を激推しするものだから無駄に時間を取り、作戦3の説明に入ることには夜も更けてしまっていたため後回しにされていたのだ。

 そのためアルは作戦その3を知らず、デリーたちもその2まででいけるだろうと根拠のない自信を持っていたため教えることなく、今に至った。


 今更ながらのアルの問いかけに反応したのは、一人の大男。

 坊主頭と糸目、そしてガタイの良い肉体が特徴的な男はロブ・スタン。アホ三人とは違い思慮深い表情を浮かべる彼は、顎に手を当てながら告げた。


「俺が立案したのは『隊長を知ろう大作戦』。仲良くなるためには、まず相手のことを知ることが大切だと思うんだ。何が好きなのか、何を大切にしてるのか。相手のことを知って初めて、距離を縮める方法を考えられると思う」


 あまりにまともなその言葉に、アルは思わずにはいられなかった。


「いや、最初からそれでいいじゃん!」


 趣味嗜好も知らないのにいきなりプレゼントを渡すとか、急に馴れ馴れしくデートに誘うとか、そんなぶっ飛んだ作戦ではない。まず仲良くなるための一歩を踏むような作戦に、アルは今日初めて感心を抱いた。


「え、やるのか?」


 作戦その3がアルに好感触だったことに驚いたデリーは、心配そうにアルの腫れあがった頬を見た。


「それよりも治療してもらったほうがいいんじゃ……」

「このくらい平気だよ。いつもに比べれば大したことない」

「いやお前、大分感性がおかしくなってるな……」


 普段のトレーニングを見ていれば慣れるのも無理のないこととはいえ、デリーたちは若干引いたように引きつった笑みを浮かべた。


「とにかく、それくらいならやるよ。さっきも言ったけど、仲良くなりたいのはホントだしな」


 話しかけるだけならば、最悪無視されるだけだ。

 今日一日でミルフレティアに様々な表情を向けられ、拳すら向けられたアルは、もはや無視されるくらいならなんとも思わなくなっていた。怪我だけではなく、その感性までもおかしくなっていたのだ。


 それにデリーたちとは違い、まともな作戦を考えてくれたロブにも申し訳ない。


 デリーたちはやや心配そうな表情を浮かべるも、アルは最後の作戦を実行するため、食堂に赴いた。











◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










 丁度夕食時とはいえ、休日の食堂はそこまで混んではいなかった。

 少なくともミルフレティアの隣は開いていたようで、やや緊張しながらも食事を持って近づく。


「あ、あの……隣、いいかな」

「……」


 黙々と食事を行うミルフレティアに問いかけるも、反応はなし。返答も、視線すらも返ってこなかった。


「(沈黙は肯定だ)」


 いつまでも立っているわけにもいかず、アルはそう言い訳しながらミルフレティアの隣に腰かけた。


「……あの、さっきは、その、ごめん。調子に乗りました……」

「……」

「それで、その……ちょっと聞きたいことがあるというか……」

「……」


 謝罪も質問も、そこにアルなどいないとばかりに無反応を貫くミルフレティア。先ほどは無視される程度と高を括っていたアルだったが、実際にこうまで無反応だと心が折れそうになってしまう。


「(……)」


 チラッと離れたところでこちらの様子を窺いながら食事を摂るデリーたちを見ると、四人全員がサムズアップしていた。若干ムカつく気持ちはあるものの、ここで諦めるわけにはいかないと気を取り直す。


「それ、六角鹿のステーキだろ? 好きなのか?」

「……」

「……他に好きな食べ物とかあるのか?」

「……」

「…………趣味とかは? 休暇日は何してるんだ?」

「……」

「………………何で剣士を目指したんだ? そもそも何でクローリー軍に?」

「……」

「……………………好きな動物とか、いる……?」

 

 矢継ぎ早に質問するも、ミルフレティアは一切反応せず。

 我関せずとばかりに食事を進め、早々に食べ終えてしまう。


「あ……」


 もう用は済んだとばかりに立ち上がり、お盆を持ち上げるミルフレティア。

 このままだと行ってしまう、どうにか引き留めないと……そう考えるも、何を言っても無視されてしまう以上、どうすればいいのか。


 アルが言葉に迷っていると――ふと、ミルフレティアは周囲に視線を彷徨わせた。


「……?」


 てっきり足早に去るものだと思っていたアルは、ミルフレティアの不可思議な行動に疑問を抱く。


「何してるんだ……?」


 しかしミルフレティアは答えず。

 代わりに視線を止めたのは、少し離れた場所にいるデリーたち。先ほどからチラチラと視線を向けていたデリーたちは、ミルフレティアに気づかれないよう肩を小さくして縮こまっていた。


 彼女は少し考えるように目を伏せ、アルにチラリと視線を向けた後、再びデリーたちを見た。


「……」


 スッと目を細めたミルフレティアは、足早にデリーたちの元へ向かった。おのずとアルも着いていくと……二人が接近したのに気づいたデリーたちが、ビクンと肩を震わせた。


「……なるほど。今日の奇行の原因は、貴方たちというわけ」


 確信したような言葉に、デリーたちは再び大きく肩を跳ねさせる。そして恐る恐るミルフレティアに視線を向けた四人は――恐怖のあまり硬直した。


 ミルフレティアが四人に向ける視線は今日のアルに対するものと同じくらい冷徹で、暗く冷たい怒りを纏っていた。


「……詳しい訳は分からないけど、連帯責任。貴方たち四人、次のトレーニングから一ヵ月間アルファストと同じ内容をこなすこと」

「「「「えっ」」」」


 ピシャリと告げられた言葉に、デリーたちから声が漏れる。


「そ、それって……最後の立ち合いも……?」

「当然。高みの見物を決め込んでいた貴方たちも、たまには同じ目に遭うべき」


 毎日のように傷だらけになるアルの姿を思い出したのだろう。四人は近い将来訪れる自身の姿を想像し、恐怖に震えた。


 そんな四人を他所に、言いたいことは言ったとばかりにミルフレティアは去っていった。


「……?」


 その去り際、ミルフレティアはアルに視線を向けた。しかし、それも一瞬。アルが疑問を抱く間もなく、足早に行ってしまった。


 




 ――それから一ヵ月、毎日ボロ雑巾のように転がる姿が五人に増えるのだった。


 






気ままに人物紹介


【キリア・ローゼル】

『輝剣』の隊士。比較的若め。

キザ野郎。金髪優男。ナチュラルナルシスト。

自分に自信たっぷりニキのため、贔屓されるアルのことは特になんとも思ってなかった。中々良い顔してるな、くらいの感想。

出番はあまりないので覚えなくていい。


【ロブ・スタン】

『輝剣』の隊士。年齢はデリーより少し若いくらい。

真面目。良い奴。浅黒い肌に坊主、糸目の大男。

寛大な男なので、アルのことは最初から歓迎していた。

出番はあまりないので覚えなくていい。





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感想・誤字報告、お待ちしております。

少しでも面白い、気になると思っていただけたら登録お願いします。でも読んでくれるだけでありがたいので最悪しなくても良いです()。

嘘です、シテクダサイ。






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