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無才の剣士 ~もう一度キミに好きと言うため、才能を捨てて記憶を選ぶ~  作者: 塚丸水産
再会編

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Ep.24 隊長と仲良し大作戦 前編






 ――煌めく一条の流星が瞬いた。


 それはアルの左頬を抉り取る勢いで接近する。

 相手の態勢から繰り出される一撃を予見したアルは、予測通りの一閃に対し瞬時に上体を捻った。


「くっ……」


 事前に予見してなお、一閃を完璧に避けること叶わず鮮血が飛び散る。

 一瞬の痛みと、完全に避けきれなかった動揺から、アルはほんの僅かに硬直してしまう。そして、相対する少女はそんな隙を見逃すほど優しくはなく、


「隙だらけ」

「ぐはっ!?」


 瞬きの間に肉薄した少女――ミルフレティアの水色の髪が視界いっぱいに広がったその刹那、アルの顎下に強烈な衝撃が加わる。勢いそのまま上空に吹き飛ばされるアルだったが、ミルフレティアの追撃は続く。


 ふわりと軽やかに舞い上がったミルフレティアは、まるで重力など感じさせないような動きでアルへ追い付き、剣の柄頭でアルの額を強打する。


 バキッ。


 明らかに骨に異常をきたした音が鈍く響くと同時に、アルは垂直に地面に墜落した。

 背中に響く衝撃とドクドクと血が流れる額の痛みに悶えていると、そんなアルを叱責する言葉が上空より舞い落ちる。


「吹き飛ばされたらすぐ動く。いついかなる時も追撃を警戒して」


 落下するミルフレティアは真っ直ぐ脚を伸ばし、アルの腹部を下敷きに着地する。重力によって加速したその一撃はアルの内臓を容易に圧迫し、尋常ではない嘔吐感が襲い来る。


「うっ! おえっ! がっ、はっ! はぁ、はぁ……――ぶぉわ!?」


 たまらずえずくアルの横っ面を、ミルフレティアによる容赦ない蹴りが襲う。

 当然抵抗も防御もできず、ただただ玩具のように地面を転がるアル。ぐるぐると回転する感覚に三半規管が揺さぶられ、再び胃液が逆流してくるのを感じると同時――。


「――ッ!?」


 一瞬、視界の端をかすめたミルフレティアの姿がぶれた。


「(ま、まずいっ!)」


 考えるよりも先に全身を襲う怖気に従い、腕を使って半ば無理やりその場から離れる。

 その刹那、たった今までアルが転がっていた場所に一本の剣が突き刺さった。まるで本物の隕石のような尋常ならざる衝撃を伴ったその一撃は周囲にも影響を与え、突風のような衝撃波となってアルを襲った。


「がっ――」


 未だ地面に転がるアルに踏ん張ることなどできず、衝撃波に吹き飛ばされ練兵場の壁に激突する。


 そんなアルを横目で捉えながら、地面深くに突き刺さった剣を引き抜いたミルフレティアは、


「今日はここまで」


 体中に傷を刻みながら悶えるアルのことなど興味ないとばかりに視線を外し、背中を向けた。


 そのまま去っていくミルフレティアを見やりながら、地獄のトレーニングが終わったことを理解したアルの体から力が抜けていく。毎度のことながら立ち上がることもできず、しばらくはその場で倒れ伏すアル。


 ミルフレティアとアルの打ち合いが終わる。それすなわち『輝剣』のトレーニングが終わったということでもあり、練兵場を後にしたミルフレティアに続くように隊士たちもこの場を去っていく。


 うつ伏せに倒れるアルは、左頬に接する地面の冷たい感触を感じながら、彼らが去っていく様子を見送る。それからしばらくすると練兵場が静寂に包まれるので、アルの自主トレーニングが始まるのだが――今日はいつもと違うようで。


「今日も相変わらず酷い有様だなぁ……ほれ、お疲れさん」


 倒れ伏すアルの元に、デリーと数人の隊士たちが寄ってくる。

 デリーはアルの体を持ち上げゆっくりと座らせると、水の入った麻袋を差し出してきた。アルはお礼とともにそれを受け取り、逆流した胃酸と飲み込んでしまった砂埃、そして喉に張り付いた血を洗い流すように口に含んだ。


「それで、今日はどうしたんだ? 揃いも揃って。残ってトレーニングするってわけでもないんだろ?」


 アルは毎日のように『輝剣』のトレーニングの後に、練兵場に残り自主トレーニングをしている。しかし他の隊士たちがアルと同じように残ることは、今までなかったはずだ。まさか労うためだけに残ったわけでもあるまい。

 ゆえに何用か分からず、アルは怪訝な表情でデリーたちを見る。


「いやな、アルが『輝剣』に入ってから四ヵ月近く経つだろ? にも関わらず、隊長は相も変わらずお前に厳しいわけだ」

「それは、まぁ」


 ミルフレティアは自他ともに厳しい性格だ。隊士たち全員に厳しく、冷徹に接している……が、それでも会話はするし、稀にだが雑談だってしている。そのくらいの温厚さは持ち合わせているのだ。

 しかしながら、アルに対しては他の隊士たちと比べて明確に冷たい。基本的にトレーニング以外ではいないものとして扱われているし、話しかけても必要最低限の返答しか返ってこない。もちろん彼女からアルに声をかけるときは業務的なことだけ。


 訓練だってアルに対してだけ量を増やしているし、最後の打ち合いでは毎日滅多打ちにしている。物理的にはもちろん、打ち合い中ことあるごとにアルを叱責するような言葉を吐くため、精神的にもボコボコにされている。もちろん労いの言葉も、アルを慮るような言葉も聞いたことがない。むしろ簡単に倒れるアルに対して冷淡な視線を向けることの方が多い。


 他の隊士たちですら同情的な視線を向けてくるくらい、アルはミルフレティアに嫌われているのだ。

 アルも当初はそのうち打ち解けられたらな、くらいに考えていたが、数ヵ月経った今でもまったく改善される様子はない。


「(訓練が厳しいのは仕方ないとして……普段はもう少し優しく接してくれたらなぁ)」


 過酷な訓練はアル自身強くなるために必要なことだと受け入れているので構わないのだが、せめてまともに会話が成立するくらいには仲良くなりたい。と思うアル。


 そんなアルの気持ちを見透かしたのかどうかは分からなかったが、デリーたちは一様にニヤリと笑いながら言った。


「正直見てる方も冷や冷やするわけよ。いつか殺されちまうんじゃねぇかってな」

「物騒なこと言うなよ……」

「てなわけで、俺らで考えたわけ」

「ロクなことじゃなさそうだけど……何だよ?」


 ふふんと鼻を鳴らしながら一拍おいて、


「題して、『隊長と仲良し大作戦!!』ってな!!」


 デリーは自慢気な表情を浮かべながら言ってのけた。見れば、3人ほどいる隊士たちも得意げに頷いている。その様子を見る限りでは、相当に自信があるようだ。


「つーわけで今日は顔貸せよ。明日は休暇日だし、夕飯でも食いながら作戦会議と行こうぜ!」


 意気揚々と告げるデリーに対し、アルの胸中は不安でいっぱいだった。











◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇










 

『作戦その1 プレゼント大作戦』




 そうして迎えた翌日。


 アルはデリーから無理やり渡された”ソレ”を抱えながら、遠巻きにミルフレティアを見ていた。


 場所は室内庭園。

 噴水のすぐそばに腰を下ろすミルフレティアの様子を、アルは木陰に隠れながら窺っていた。ちなみにチラリと背後に目を向ければ、更に少し離れた場所にはデリーたちがいる。アルと同じように木陰に身を隠しながらこちらの様子を窺っている。


「……」


 本当にやるのか。アルは未だに覚悟が決まらず、手元の”ソレ”を見つめてから、再確認するようにデリーたちを見た。するとアルの様子に気づいたらしいデリーは、グッと親指を立てて見せた。


「(アイツ……)」


 どこから自信が湧いてくるのか、デリーたちは成功すると疑っていない。あるいは、成功しようが失敗しようが構わないという他人事のような考えなのかもしれないが。


 アルは深くため息をつきながら、昨夜の作戦会議を思い出す。


『よし! まずは作戦その1『プレゼント大作戦』だ!』

『プレゼント? ミルフレティアに、俺が??』

『おうよ。女ってのは総じてプレゼントを貰うと喜ぶもんだ。無論、隊長も例外じゃない! はず』

『本当かよ……』


 自他ともに厳しくストイックな女騎士、それがミルフレティア・クーハという少女だ。

 正直今でも、アルは彼女がプレゼントを貰って喜ぶとは思えなかった。しかも恋人でも、ましてや友達といえる関係でもないアルからのプレゼントなら、なおさら。


『つーかプレゼントっていっても何をあげるんだよ。俺隊長の嗜好とか全然知らないんだけど』

『モーマンタイ!! コイツだ!』


 そう言って自信満々に差し出されたプレゼントこそ、現在アルが抱えている物体――白猫のぬいぐるみだった。


『は……? よりによってぬいぐるみかよ……。隊長とぬいぐるみとかどう頑張っても結びつかないだろ』

『ふふふ、甘い、甘いですよアル君……!』

『まさかこれお前のチョイスか? マッキン』

『そうなのです! 僕の統計によると、隊長のような普段クールな女性こそ、意外と可愛いものが好きだったりするのですよ!』


 そんな不明瞭すぎる統計を語った男は『輝剣』隊士の一人、マッキン・フロッグだ。細身でメガネを掛けたその男は、今もメガネをクイッと持ち上げながら不敵な笑みを浮かべていた。


『どんな統計だよ』

『ほらほら、この白猫ぬいぐるみを見てください、可愛いでしょう!』

『そりゃ可愛いけど……てか何で白猫?』

『特に理由はありません。強いて言うなら……ちょっとアル君っぽかったから? ですかね』

『どこがだよ』

『とにかく! こんな可愛いぬいぐるみを渡されて喜ばない女性はいません!』


 そんなこんなで無理やり押し切られたアルは、ミルフレティアに白猫ぬいぐるみをプレゼントするべく、機会を窺っていた。

 ちなみにミルフレティアの動向を知るため、アルは朝からストーカーまがいの尾行をしていた。


「(ホントに何をやらされてんだ俺……)」


 そう嘆くも、ここまできてしまったからには後に引けない。

 アルは意を決し、ミルフレティアの前に姿を出した。


「た、隊長!」

「……」


 いきなり姿を現したアルに対しすっと視線を向けるミルフレティアだったが、アルを認識した途端、興味を無くしたように視線を逸らした。


「う……お、おはよう……ござい、ます……」


 アルなどまったく意に介していない態度に、アルは臆しながらも言葉を続けた。もっとも尻すぼみに小さくなっていき、普段使わない敬語まで出てくる始末だが。


「…………何?」


 そんなアルに対し、ミルフレティアは視線を寄越すこともなく端的に呟いた。

 もはや考えるまでもなく歓迎されていない様子。アルは今すぐこの場を去りたい気持ちを押さえつけ、どうにか本題に入る。


「コレ! 良かったら貰ってくれ!」


 そう言って白猫ぬいぐるみをミルフレティアの前に突き出す。

 さしものミルフレティアも視線を向けて、アルの両手に抱えられるぬいぐるみを見た。


「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」


 気まずい沈黙が流れる。

 アルの言葉に対し、ミルフレティアは何一つ言葉を返すことなく、ただただぬいぐるみを凝視している。


「……あの」


 あまりの気まずさにアルが口を開く。対してミルフレティアはぬいぐるみに向けられていた視線を、ゆっくりとアルへと移動させた。


 その表情は――形の良い眉を盛大に寄せ、胡乱げに歪められたものだった。


「……何の真似? 何がしたいの?」

「そ、それは……」


 貴女と仲良くなりたかったんです。などと馬鹿正直に言えるわけもなく、アルは言い淀んだ。そんなアルを見て、ミルフレティアは小さなため息をつきながら目を伏せた。


「……まぁ、貴方の意図はどうでもいいけど。貴方から受け取るものは何もない」

「……ハイ」

「用が済んだなら消えて」

「…………ハイ」


 突き放すようなミルフレティアの言葉に、アルはただ肯定を返すことしかできなかった。







気ままに人物紹介


【マッキン・フロッグ】

『輝剣』の隊士。若め。

メガネのデータキャラ。隊の中では弱い方。

アルとミルフレティアの初めての打ち合いでは最初は言いざまだと笑っていたが、割と早い段階から心配していた。小心者。

出番はあまりないので覚えなくていい。






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感想・誤字報告、お待ちしております。

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嘘です、シテクダサイ。






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