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無才の剣士 ~もう一度キミに好きと言うため、才能を捨てて記憶を選ぶ~  作者: 塚丸水産
再会編

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Ep.21 一歩ずつ、着実に






「――本当に、何を考えているのですか……!」


 目を覚ましたアルは、開口一番厳しい口調で詰め寄られていた。


 アルが目覚めたタイミングで偶然部屋を訪れていたリーシャは、アルが目を覚ましたと同時、いつもの澄ました表情を憤怒に染め上げ、珍しく怒りの声を上げた。


 目を覚ましたばかりで状況の掴めなかったアルだが、リーシャとは古い付き合いだ。リーシャがただ怒っているわけではなく、その怒りの根源にアルを心配する感情があることは理解でき、とりあえず謝罪の言葉を吐いた。


「ごめん」

「……」


 しかし、謝罪を受けたリーシャは釈然としない顔でアルを見やった。その顔は純粋にアルを疑っているわけではなく、どこかリーシャ自身も理解できない感情を抱いているようで、


「……なぜでしょう。まだ出会って数日ですが、貴方のその謝罪が形だけのものであることが理解できました。貴方、欠片も申し訳ないと思っていませんね」


 そう告げながら眉根を寄せるリーシャに、アルはやや驚きを感じた。

 アルはリーシャと接した記憶があるため何となく彼女のことは理解できるが、記憶のないリーシャがアルのことを理解するとは。出会ったのは一週間ほど前だし、その間特別付き合いがあったわけではない。言ってしまえば、ほぼ初対面のようなものなのだ。


 それでもリーシャがアルのことを少しでも理解してくれたということは、リーシャの中に僅かでもアルフレッドが残っている証に他ならない。

 その事実にアルは少しばかり面映ゆい気持ちになりながらも、気持ちを切り替えるようにリーシャに尋ねた。


「それで、俺が気絶した後どうなったか聞いてもいいか?」

「どうなったもこうなったもありません。立ち合いが終わるや否や、『輝剣』の隊士たちが急いで礼拝堂に駆けこんだのです」

「礼拝堂?」

「『星の導き』は礼拝堂を拠点としています。アルファスト様を治療するため、急いで『星の導き』のプリーストたちを呼びに行ったのでしょう」


 『輝剣』の隊士たちがアルのために……その言葉を聞いて、アルは些か信じられない気持ちを抱いてしまう。


 何せ、アルに対し侮蔑や軽蔑といった悪感情を抱いていた彼らだ。

 ミルフレティアとの立ち合いでも、アルに対し嘲笑を浮かべたり、アルが倒れるたびに歓声を上げたりしていた。途中から周りを気にする余裕がなくなったので隊士たちがどんな様子だったのかは分からないが……。


「そして、件のミルフレティア様は一か月の謹慎処分となりました」

「え、謹慎!?」


 思いがけない言葉に驚きを返すアルだったが……リーシャは当然と言わんばかりの態度を取った。


「当然です。隊士たちから事の顛末は聞きましたが……明らかに訓練の範疇を超えています。当時のアルファスト様がどれほど危機的状況にあったか、理解していますか?」

「いや……」


 理解していますか、と言われても、これまで気を失っていたアルには自分の容態など分かりようがない。


 試しに包帯だらけの体を動かしてみるも、若干の痛みと骨の軋みを感じる程度で、動かせないほどではない。何なら軽めのトレーニングくらいならできそうな体の状態に、危機的状況という言葉が少し大袈裟に感じたアルだったが、次のリーシャの発言に言葉を失う。


「……アルファスト様は、丸三週間、目を覚まさなかったのです」

「え……」


 三週間という言葉を受けて、アルはようやく自分の状態を理解した。

 マガチカに殺されかけた時でさえ、一週間も経てば完治したのだ。しかし三週間経った今でさえ多少の痛みは残っている現状を鑑みると、ミルフレティアとの立ち合いで負った怪我は、マガチカの時よりも更に凄惨だったようだ。


 リーシャの態度から察するに、今回はアンリの治療を施されなかったということはないだろうし、前回同様アンリの回復魔法込みでこの結果ならば、アルは本当に危機的状況だったのだろう。


 今更ながら死んでいたかもしれない状況に怖気が走るのを感じる。

 しかし、それはそれ、これはこれだ。


「……心配かけたみたいでごめん。でも、俺は後悔してない。意味はあったと、そう思うから」


 リーシャを筆頭に様々な人に心配をかけただろうし、アンリたちに苦労もかけてしまった。そのことに対しては素直に申し訳ないと思うが……しかしアルは、あの立ち合いと負った傷に関しては、全て意味のあるものだと思っている。


「……何やら、晴れやかなご様子ですね」

「分かるか?」

「えぇ……以前はどこか思いつめた様子がありましたが……今は吹っ切れたように見えます」


 思いのほかアルのことを見ていたらしいリーシャに、少しばかり照れくさい気持ちになる。


 確かに以前のアルは、心のどこかで前世のことを引きずっていた。表面上はアルファストとして生きていても、アルフレッドとしての気持ちを捨てきれずにいた。だからこそ、メアやリーシャを前にすると、アルファストとして接しきれずにいたのだろう。


 だが、今は違う。

 ミルフレティアとの立ち合いを経て、アルの中にいたアルフレッドは綺麗さっぱり消し去った。

 とはいっても、アルフレッドのことを忘れるわけでも、なかったことにするわけでもない。アルフレッドとしての記憶と気持ちはアルファストにとっても大切なもので、それをなかったことになんてできない。


 あくまで、アルフレッドに対する執着を消し去っただけだ。

 アルフレッドとして生きた記憶はそのまま、アルファストとして今を生きる。難しいことだろうし、きっとメアたちを前に完全にそうすることはできないとも思う。


 けれど少なからず剣に関しては、アルファストとして一から始めることに決めた。どうせ感覚で剣を振っていたアルフレッドの経験など大して役に立たないのだ。いっそのこと全部捨て去って、一から始めてみるのも悪くない。


 そうして初めて、アルファストとしてメアの隣に立てるのだと、そう思った。


 それらをリーシャに伝えることはできなかったが、それでもアルの様子から感じ取るものがあったのだろう。スッとその長い睫毛を伏せ、静かに言った。


「……心配しましたし、言いたいことは山のようにありますが……いいでしょう。”意味があった”と、貴方がそう言うのであれば、私はそれを受け入れます」

「悪いな」

「いえ……私は初めて、こうしてアルファスト様と相対している気分です。……失礼ながら、一つお願いが」

「リーシャが俺にお願いって……想像できないけど、なんだ?」

「……アル様と、そうお呼びしてもよろしいですか?」


 基本完璧主義で完結主義なリーシャがお願いなどと珍しく、アルは身構えるが……いつになく柔らかい表情で告げられたその言葉に、呆気に取られてしまう。


「え、お願いって、それ?」

「えぇ……ダメ、でしょうか?」

「いや、もちろんいいよ」


 彼女の癖である、コテンと小首を傾げる様子が相まって、アルは初めてリーシャのことを可愛らしいと感じてしまった。

 もちろんアルに断る理由はなく、むしろ前世と同じように呼んでもらえるのならば是非もない。


「ありがとうございます。それでは改めて……アル様、これからよろしくお願いいたします」


 薄く微笑みながら丁寧に礼をするリーシャを見て、アルは懐かしい気持ちになる。


「(リーシャの笑みを見るのはもっと先だと思ってたんだがな……)」


 不思議な話だが、何かしらリーシャの琴線に振れる部分があったのだろう。


 今日この時をもって、アルはリーシャに”仲間”だと思ってもらえたような、そんな気がした。











◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 









 それから一か月。

 アルの調子も戻り、ミルフレティアの謹慎も解け、『輝剣』の訓練が再開されることとなった。


 約二か月ぶりの訓練は――目に見えて何かが変わることはなかった。


 デリーは何回か見舞いに来てくれていたので久しぶりの再会というわけでもなく。他の隊士たちは変わらずアルのことを遠巻きに見ていた。とはいえ、そこには以前のような悪感情は感じられなかった。むしろ、どう接したらいいのか分からず、戸惑っているように見える。


 ミルフレティアは謹慎明けだが何ら変化はないようで、相も変わらず冷淡に指示を出している。アルに対してもこれといったアクションはなく、まるであの打ち合いなどなかったかのようだ。


「あんま気にすんなよ。隊長はまぁ、ああいう人だからよ……たぶん、あの打ち合いのことも悪いと思ってねぇと思うぜ。だから謝罪とかはないだろうな。俺個人としてはどうかと思うけど」


 ミルフレティアの様子を伺うアルを見て、謝罪でも期待しているように見えたのだろうか。デリーが気を遣うように言ってくれるが、アルにとってそんなことはどうでもよかった。


 大前提、アルはあの打ち合いに関してミルフレティアに非はないと思っている。

 真剣での立ち合いはやりすぎだとは思うが、ミルフレティアの様子を見るに相当手加減してくれていたようだし、急所は的確に外していた。恐らくアルが降参を宣言すれば、ミルフレティアは大人しく手を引いたのだろう。それを分かっていながら、降参せずに立ち上がり続けたのはアルの個人的な都合だ。


 アルとしては謹慎すらも重い罰だと思うが、大隊長という立場にいる以上対外的に罰を与えないわけにはいかなかったのだろう。そういった事情も考慮して、アルはミルフレティアの処罰に対して口出しはしなかった。


「(ミルフレティアにとって、俺は相変わらず木っ端剣士だ)」


 『輝剣』の一員と思われているのかどうかすら怪しい。

 だが、それでいいのだと、アルは思った。それを覆せるかどうかは、これからのアル次第なのだから。


 ――そう意気込んでも、体はついていくはずもない。


 むしろ長い間安静にしていたせいで体力は落ち、体は鈍り、以前の訓練以上に体がついていかなかった。

 外周は当然のように遅れ、素振りも盛大に時間がかかった。打ち合いなどまともに動けず、案の定全戦全敗。


 それでもアルは分かっていたとばかりに、下を向かず、歯を食いしばり続けた。


「……アルファスト。貴方は明日以降、全体のトレーニングに追加して”腕立て1000回”、”スクワット1000回”、”腹筋1000回”追加。それくらいしないと話にならない。それと、隊士との打ち合いが終わったらひたすら私と打ち合ってもらう……もちろん、木剣で」


 はたから見ればいじめとすら捉えられるような過酷な個人トレーニングを課せられても、アルは粛々とこなした。いや、実際には粛々となんてかっこいいものではなく、血反吐をまき散らし、死にかけながらではあったが。


 ミルフレティアの言うように、それくらいしないと話にならない。

 それはアル自身、痛いほど理解していた。


 己の弱さを痛感したアルは、今まで以上にトレーニングに打ち込んだ。

 人の倍やらなければ強くなれない。人の倍傷つかなければ弱いままだ。死にかけるなんて、アルが強くなるために当たり前のこと。


 才能のないアルには、急激に強くなる方法なんてない。

 無才は無才なりに、地道でも、気が遠くなるような時間をかけてでも――一歩ずつ、着実に、進んでいかなければならないのだ。


 それこそが、それだけが。

 弱いアルが強くなるための、唯一の方法なのだから。






これまではなんやかんや驕りがあったんですね。才能を失ったって言っても、アルには前世の経験がありますし。有象無象には負けへんやろって。

ですが今回アルくんは自分がつよつよではなくよわよわであることを、ようやく真に理解しました。










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感想・誤字報告、お待ちしております。

少しでも面白い、気になると思っていただけたら登録お願いします。でも読んでくれるだけでありがたいので最悪しなくても良いです()。

嘘です、シテクダサイ。






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