Ep.20 己の弱さを抱いて
「さあ、構えて」
冷徹な瞳でアルを見下ろしながら、ミルフレティアは告げる。
アルの眼前に突きつけられるソレは、訓練用の木剣でもなんでもなく、正真正銘真剣だった。
照明に照らされた細い刀身は白銀に輝き、鋭い切っ先はほんの数センチ動けばアルの眼窩を容易に貫くだろう。
「……デリー、倉庫から真剣を持ってきて」
淡々と告げられた言葉に、行く末を見守っていた隊士たちの間にざわめきが広がる。
当然だろう。打ち合いを持ち掛けた当人は既に真剣を構えており、もう一本もいるはずはない。にも関わらず真剣を所望したということは、その真剣が誰のためのものであるのか、考えるまでもない。
すなわち、ミルフレティアは真剣での打ち合いをするつもりなのだ。
一拍遅れてアルもそのことを理解し、言葉を失う。
正気じゃない。これはあくまで訓練であり、ともすれば命を失いかねない真剣での打ち合いなどあっていいはずがない。
唐突に名を挙げられたデリーは、当然のようにミルフレティアに対し声を上げた。
「ま、待ってくれ隊長! これはあくまで訓練だろ!? 真剣での打ち合いなんて聞いたことねぇぞ!
「…………」
「ソイツを見ただろ!? 木剣ですらボロボロなんだ! 真剣なんて使ったら怪我じゃすまねぇ!」
「…………もう一度言う。真剣を持ってきて」
「ぐっ……」
ミルフレティアの言葉を撤回させようと、必死に声を荒げるデリーだったが……ミルフレティアの考えは変わらず。デリーに向けられた水瞳からは「三度目は言わない」という言葉が聞こえてくるようだった。
そんな冷徹な視線を向けられたデリーは強く歯を噛みしめるしかなかった。
どうあがいてもミルフレティアの考えを変えることはできない。ここでデリーが指示を断っても、別の隊士に同様の指示を出すだけだ。
デリーは逡巡の末、重々しく脚を動かした。
練兵場に併設された倉庫に向かい、その中から手頃な真剣を持ってくる。
「さあ、立って」
デリーが真剣を持ってきたのを確認すると、ミルフレティアはアルに対し自分で受け取れと言わんばかりに立たせる。
まともに休憩も取っていないアルは傷だらけの体を震わせながらも、必死に踏ん張り二本の脚で立ち上がる。所持していた木剣は直近の模擬戦で弾かれ、彼方へ吹き飛んでいる。
アルはデリーの下に向かい、真剣を貰い受ける。真剣を手渡すデリーの表情は、苦々しく歪められており、アルを心配しているのが伝わってくる。
「いいか、アルファスト。手遅れになる前にすぐ降参しろ。隊長には敵うわけがねぇ」
「……そんな心配するなよ、死にはしない」
「馬鹿野郎! お前は隊長の強さを知らねぇから!」
アルとて真剣での打ち合いを悟った時点で恐怖を抱かなかったといえば嘘になる。
それでも、アルは強くならなければならないのだ。メアの隣に立つためには、クローリー軍最強の剣士に負けるわけにはいかない。何より、戦いを放棄して逃げるようでは、夢のまた夢。
デリーに心配をかけまいと、あえて何でもない風に言ってのけるアルに対し、デリーは鬼気迫る表情でアルの両肩を掴んだ。その両手は思いのほか力が込められており、デリーの真剣な想いが伝わってくるようだった。
「いいか、よく聞け! あの人は《神速の輝剣》なんて呼ばれるくらい強ぇ、魔界でも十本の指に入る剣士だ! こと剣速に至っては、魔界最速といってもいい! 俺ですら目で追えないくらい速ぇんだ! 避ける避けないの次元じゃねぇ! 瞬きの間に滅多刺しにされる……真剣で打ち合いなんかしたら、ものの数秒で穴だらけだ!」
必死に叫ぶデリーの表情からは、それが冗談や誇張の類だとは思えなかった。
アルは改めてミルフレティアを見やる。
こちらのやり取りなど興味ないとばかりに軽くウォーミングアップをしているミルフレティア。何気なく振るわれたその剣筋は、音を置き去りにするほど速く、アルには目で追うことすらできなかった。
「もう一度言うぞ! すぐに降参しろ! さすがの隊長だって、戦う気のない相手に剣は向けねぇ……はずだ」
「そこは言い切ってほしかったなぁ……」
降参を勧めてくるものの、デリーの言葉は歯切れが悪かった。
とはいえ、アルにもその気持ちはわかる。今日初めて会ったものの、ミルフレティアの表情や言動からは何を考えているのかイマイチ判別がつかない。表情はずっと変わらないし、声音も平坦だ。アルよりずっと関わりの長いデリーですらその性質を正確に把握してはいないようだし、ミルフレティアとはそういう人物なのだろう。
もっとも、軽蔑や侮蔑といった悪感情だけは不思議と感じ取れるのだが。
「分かった、無理はしないよ」
「絶対だな? 絶対の絶対だな?」
「ああ」
「……出会ったその日にさよならなんて目覚めが悪すぎるからよ、十分気をつけろよ」
アルの言葉を信じたのか、はたまたこれ以上言葉を尽くしても意味はないと悟ったのか、デリーは真剣を手放しアルの下を離れた。
「(不思議なおっさんだな。今日会ったばかりなのに)」
ただでさえ他の隊士たちから良い感情を抱かれていなかったアルに対し、あれこれと気遣ってくれるだけでもお人好しと言えるだろう。そのうえ今日会ったばかりの男を本気で心配して、自身の上司に歎願までするとは……デリー・ミックという男に対して、アルは敬意と感謝を抱いた。
それでも――アルは逃げるわけにはいかない。
「待たせたな、やろうか」
「えぇ……思い知らせてあげる。貴方の弱さを」
真っ直ぐ切っ先を向けるミルフレティアに対し、アルも真剣を構える。
久しぶりに手に持った真剣は――不気味なくらい、しっくりとこなかった。
アルの両腕にかかるずっしりとした鋼の重さも。
練兵場の照明を反射し、キラリと輝く刃の煌めきも。
ぎゅっと握る柄の感触も。
何年、何十年と共に過ごしてきたはずの”剣”。
久しぶりに握ったソレは、全く別物のようだった。
「(剣が違うとかそういう話じゃない……)」
生前のアルもずっと同じ剣を使い続けてきたわけではないし、むしろ代わる代わる様々な剣を握ってきた。しかしどんな剣を握った時でさえ、不思議と手に馴染んだものだ。
「(これも才能がなくなった代償だってのか)」
”剣”を感じられない。
自分が持っている物体が何なのか、知識としてではなく、感覚的に捉えることができない。
「……それが何だってんだ」
今一度剣を握り直し、前世の執着を吹き飛ばす。
ないものはない。
才能を捨てたのはアル自身だ。それを今更名残惜しむなど、都合が良すぎるというもの。
今のまま強くなると、そう誓ったではないか。
「行くぞ……!」
「どこからでも」
アルの中で渦巻く様々な感情を吹き飛ばすように叫び、悠然と構えるミルフレティアに肉薄する。
「ハァ――!」
ミルフレティアの腹部を狙い、剣を振り抜く。
しかしアルの剣筋を正確に予測したミルフレティアは半歩下がり、刃は空を切った。
「まだだ!」
勢いそのまま、その細い左脚を狙い斬り下げるも――細かいステップにより躱される。
ならばと剣を持つミルフレティアの手首を狙うも――細剣で綺麗に流される。
反撃する様子のないミルフレティアに疑問を抱きながらも、アルは今一度剣を構え、ミルフレティアの白銀の胸元に剣を突きつける。
「……なに、それ」
ふと、そんな言葉が耳に届き――気づけばアルは、地面に両膝をついていた。
「――」
何が起きた……? そんな疑問を抱くのも束の間、アルの腹部に鈍い痛みが走る。それは徐々に大きくなり、激痛となってアルを襲う。あまりの痛みに剣を持たない方の手で腹部を抑えるも、たまらず口から血反吐を吐いた。
「ぐはっ……はぁ、はぁ……」
蹲りながらもどうにか目線を上げたアルの目には、片脚を突き出すミルフレティアの姿があった。ミルフレティアはアルの無様な姿を見下ろしながら、ゆっくりと脚を降ろす。
「(そうか……ミルフレティアは俺の刺突を回転しながら避けたんだ。その勢いそのまま、俺の腹を蹴りつけた)」
ジンジンと主張する痛みの最中、アルはどうにか今起きた状況を理解した。
しかし――問題なのは、何が起きたかではない。何が起きたのか、分からなかったことだ。
「(速いのは剣だけじゃねぇのか……!)」
剣筋どころではない。アルの目には、ミルフレティアの動きのすべてを捉えることができなかった。
「……ふざけてるの?」
動けないアルに追撃を加えるつもりはないのか、ミルフレティアは剣を構える様子はなく、代わりに平坦な言葉を紡いだ。
否、その言葉はまったくの平坦ではなく、僅かに怒りの感情が込められていた。
アルのはその言葉の意味も、込められた感情の意味も理解できず、苦悶の表情を浮かべながら見上げることしかできない。
「なに、さっきの攻撃。どれもこれも、私の急所を避けて狙われてた……まさか、私に致命傷を負わせないように?」
ミルフレティアの疑問に対し、アルは沈黙を返す。
偶然、ではない。アルは意図して、あえてミルフレティアの急所を外したのだ。
その理由は明白。万が一直撃した際に、致命傷になりえないように。
アルの様子から偶然ではないことを理解したミルフレティアは――明確に、怒りの感情を露にした。
「舐められたものね……貴方が、私に、致命傷を負わせる可能性があると、本気でそう思っていたというの?」
「――!!」
「教えてあげる。貴方の、どうしようもないほど愚かな、思い違いを」
先ほどのように剣を構えるミルフレティアだったが……その切っ先に込められた殺気は、今までとは段違いだった。暴れ回る怒りの感情全てを込められたと、そういわれても納得してしまうほどの膨大な殺気。
明確にアルを殺すために向けられたその剣先に、アルは痛みも忘れて全身が総毛立つのを感じた。肌という肌が殺気を感じ、じっとりと嫌な汗が滲む。
「さあ、立って、構えて――ここからが本番」
ゴクリ、と。無意識のうちに生唾を飲み込みながらも、アルは立ち上がる。
立たねば、抵抗することもできずに殺される。その事実をアルの肉体が正確に感じ取り、今だけは痛みも疲労も全力でねじ伏せていた。
ガタガタと震える手で剣を構え、ミルフレティアを見据える。
――瞬間、光が瞬いた。
「――ッ!」
流星を想起させる光の槍は、一瞬でアルのすぐ横を貫いた。
「……」
アルがそのことを理解した時には、既に刃は消えていた。
ともすれば夢か幻覚かと思うほどの一瞬の出来事は、しかし、アルの頬を伝う鮮血が現実であると主張する。遅れてやってくる、ジンジンとした痛みだけがアルの五感を刺激する。
視覚も、聴覚も、嗅覚も、すべてを置き去りにする一撃。
後ほんの数センチずれていれば、アルの顔面ははじけ飛んでいた。随分と遅まきながらそのことを理解したアルは、ぶわっと大量の脂汗を浮かべる。
そんなアルの様子など意に介さず、流星を送り出した張本人は悠然と構え、
「――次は、十発」
流星は群となり、再度瞬いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――それは、生きているだけの屍だった。
全身の至るところに切り傷が刻まれ、皮膚が抉られ、痛々しい血肉を露出している。もはや皮膚よりも露出した血肉の方が面積として多いくらいで、元の外見など見る影もなかった。
流れる血液も尋常ではなく、全身からダラダラと血液を流しすぎたせいでその姿は真っ赤に染まっている。足元のソレは血溜まりというのも烏滸がましいほどの量の血で、もはや血の海と表現するほうが適切ですらあった。
見る者すべてが目を覆いたくなるほどの惨状。
もはやソレを人と呼んでいいのかすら、隊士たちには分からなかった。
「なんでだよ……」
誰かが零す。
誰が呟いたのかは……もはやどうでもいいことだった。なぜならその場で立ち合いを見ている全員が、漏れなく同様の感想を抱いていたのだから。
「なんでだよ……」
重ねるように、別の誰かが零した。
「なんでだよ……!!」
ついには感情を抑えきれず、堰を切るように叫んだ。
「なんで――まだ立つんだよ……!!」
理解できない。その場の全員が、理解できなかった。
死に体なのは見れば明らか。むしろ、なぜまだ死んでいないのか不思議なほどの重症だ。当然動けるはずはなく、剣を持つなどもってのほか。実際、先ほどから何度も何度も血の海に体を沈めている。
それでもアルは、決して折れはしなかった。
倒れるたびに立ち上がり、血を流すたびに剣を構えた。
息は絶え絶え、体のあらゆる箇所から激痛が走り、視界はとうにぼやけている。聴覚も途絶え、今となっては自身の荒い息使いすらも聞き取れない。倒れるたびに頭が真っ白に染まりそうになるのを、グッと抑え、気力だけで立ち上がる。
ともすれば、マガチカに負わされた傷よりも、もっと酷い――それでもアルは、立ち上がり続けた。
最初に向けられたのは、嘲笑。
立ち合いが始まった当初こそ真剣を使うとのことで、固唾を呑んで見守っていた隊士たちだったが……ミルフレティアが明らかに手を抜いており、致命傷を避けていたことで、安堵が広がった。
死ぬことはない。それが分かった隊士たちは、それまでの鬱憤や嫌悪を晴らすように、アルを嘲笑した。
剣で斬られるたびに歓声が上がった。
腹を蹴られるたびに嗜虐心が満たされた。
横っ面を殴られるたびに爽快な気分になった。
あまりに一方的な戦いは既に、ミルフレティアによる公開処刑となっていた。
彼らは腐っても剣に命を捧げる者。いくら嫌いな相手とは言え、立ち合いであえて痛めつけるような真似はしなかった。ゆえにこそ、鬱憤を晴らす機会が訪れず、燻ったままの感情が発露した。
『ハッ、いい気味だ』
『せいせいするぜ』
『贔屓されてこれとは、情けない』
『つーか弱すぎね?』
『話にならないな』
『自業自得だ』
隊士たちは口々に溢し、アルが情けなく降参するのを今か今かと待ちわびていた。
そんな隊士たちの空気が変わったのは、アルとミルフレティアの打ち合いが始まって一時間が経ったあたりだろうか。
いくら打ちのめされてもなお、諦めず立ち上がり続けるアルに、隊士たちは口をつぐんだ。
それは決してアルを認めたとか、感心したとかではない。
倒れるたびに増え続ける傷が、痛々しく刻まれ続ける傷が、見るに堪えない傷の数々が、隊士たちの許容範囲を超え始めたからだ。
繰り返しになるが、彼らも剣に命を捧げる者たちだ。
善か悪かと問われれば、その天秤は前者に傾く程度には、高潔な精神を誇る者たち。
ほんの少し、気に入らない男が痛い目に遭えばいい。
ほんの少し、妬ましい男が苦しめばいい。
その程度の、細やかな願望。
当然ながらそれも人として許されざることではあるものの、常日頃から過酷なトレーニングを実行する彼ら『輝剣』の隊士たちは、そのあたりの基準が一般的ではなかった。
早い話、多少打ちのめされる程度は、彼らにとって受け入れられる罰でしかないのだ。
しかし、いや、だからこそ。
彼らとてアルに過剰な罰は望んでいないし、殺すなどもってのほか。
アルのあまりに凄惨な姿は既に、隊士たちの考える”罰の許容範囲”を大きく超過し、良心の呵責を訴え始めていた。
歓声は消え、どよめきが広がり、アルを心配する声が出始めた。
『早く降参しろ』
『今ならまだ間に合う』
『早く治療を受けないと』
『本当に死ぬぞ!』
そんな言葉を吐きながら、隊士たちは内心、どの口が言うのかと自虐する気持ちが浮かんでいた。それでも声を上げるのは、今は何よりも打ち合いを止めさせなければという良心ゆえ。
掌返しという誹りも、都合が良いという恨みも、すべては終わった後に受け入れる。だから、今は一刻も早くアルを治療しなければ。
そんな隊士たちの気持ちを受けて――なお、アルは降参しなかった。
「(――勝ちたいとか、負けられないとか、これは、そんなんじゃない……)」
薄れゆく意識の中、半ば無意識に剣を構えつつ、アルは内心独り言ちる。
最初は勝つつもりだった。
負けられないと。強くなるために、メアの隣に立つために、ミルフレティアに負けるわけにはいかないと、そう思いながら戦っていた。
だが、ミルフレティアに何度も斬りつけられ、何度も蹴り飛ばされ、何度も殴りつけられ、何度も地面に転がって、ようやく気づいた。
――俺は、驕っていたんだ。
剣の才能を失い、アルフレッドからアルファストに転生した意味を、本当の意味で理解していなかった。
マガチカに負け、自身の弱さを呪った。
メアとの差を突きつけられ、自身の弱さを恥じた。
己の弱さを受け入れ、強くなろうと決意した。
それでもアルは、心のどこかで思っていたのだ。
マガチカは魔神だ。負けたのは仕方がない。
100年もの時間があれば、メアと差がつくのは仕方がない。
例え剣の才能を失ったとしても――自分は、それなりに強いと。魔神やメアには敵わなくても、そこらの有象無象には負けないと。
だからこそ、一般の隊士たちに負けたことで、アルの心がささくれ立った。
自分の心が、アイデンティティが崩れ落ちるのを、どうにか前世の自分を引っ張り出すことで繋ぎとめていた。
そして――ミルフレティアに勝つことで、証明しようとした。
今なら分かる。
アルがミルフレティアに挑んだのは、強くなるためでも、メアの隣に立つためでもない。ただ、アルファストという存在を肯定したかった。アルファストの中に存在していたアルフレッドが崩れ去っていくのを、阻止したかった。
そんな、惰弱で身勝手で、自己中心的な理由でミルフレティアに挑んだのだ。
その結果――アルフレッドの”剣”は、粉々に砕け散った。
ミルフレティアの剣が、動きが、精神が。
何もかもがアルのそれを優に上回っており、アルはただ、されるがままに打ちのめされ続けた。
勝てない。勝てるはずがない。勝てるわけがなかった。
アルフレッドという依り代を失ったアルの目には、ミルフレティアの剣技が一片の曇りもなく映った。それはアルのような過去に縋りつく惰弱な剣技でも、自身を証明するためだけの身勝手な剣技でもない。
ただひたすらに、強く――。
それだけを想い、磨き、貫き通した美しい剣。
アルにはそれが、眩しすぎた。
「(だからこそ――)」
アルは、決して降参しなかった。
何度傷つけられようと、何度倒れようと、何度でも何度でも立ち上がり、剣を受け続けた。
それは、己の弱さを受け入れるための儀式。
アルファストの中に巣食っていた、驕りを殺しきるための儀式。
「(今の俺には、メアの隣に立つ権利も、そのために強くなろうとする権利もない)」
過去の栄光に縋り、過去の才能を抱き、過去の自分になろうとしていた自分は、今日ここで死ぬ。
――俺は、アルファストだ。
惰弱で脆弱で、剣の才能なんて欠片もない、ただ一人の剣士。
それを受け入れて初めて、俺は俺になれる。
「――」
もう何度目かも分からない、輝きが瞬いた。
霞む視界の中、アルはその輝きから目を離さなかった。
数十発の流星を浴びたアルの体は吹き飛び、血の海の中に墜落する。
「――」
指一本動かすことができず、完全に体の感覚が消える。
ミルフレティアの剣技を受け入れるためだけに開き続けていた瞳が、色を失う。
「――」
アルの意識は、深く沈んでいった。
己の弱さを抱いて、どこまでも、どこまでも――。
一応言っておきますが、あえて皆の前でボコボコにすることで隊士たりの留飲を下げようとか、ミルフレティアはまったく考えてません。
純粋に、純然に、気に入らなかったから打ちのめしただけです。
ミルフレティアはそういう女です。
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感想・誤字報告、お待ちしております。
少しでも面白い、気になると思っていただけたら登録お願いします。でも読んでくれるだけでありがたいので最悪しなくても良いです()。
嘘です、シテクダサイ。




