Ep.17 クローリー軍の愉快な仲間たち⑤
改めて緑系の髪色のキャラ多いな。
作者の一番好きな色は緑です。
――そこは、自然と人工が高次元で融合された、箱庭の楽園だった。
練兵場と同程度の広大な空間には、壮大な自然が芽吹いている。
深緑の木々の合間を縫うように、赤や青、黄色、紫といった色とりどりの花が咲き乱れている。一見乱雑にも見える色の配置は、よく見ると緻密に計算され尽くした人為的な配色となっており、不思議と調和が取れている。自然に見える不自然さ、というのはそう簡単に演出できるものではないだろう。
地面に植えられた花々は、いったいどこから吹いてくるのか爽やかな微風にあてられ揺らいでいる。
「あれは……」
アルの目を引いたのは、あたり一面の自然から湧き出るように現れる光の玉。
ぼんやりと輝く小さな光玉は、まるで自然の吐息のようにふっと表れ、ゆっくりと上昇していく。
光玉の行方を目で追うと――そこには太陽があった。
正確には太陽を模したライトで、庭園中央の天井に設置されている。
遠くから見てもかなり大きなライトは綺麗な丸形。周囲が硝子張りになっていることで雲一つない蒼色が広がり、蒼天の中にただ一つ浮かぶ丸い光はまさしく太陽のようだった。
ゆらゆら浮かぶ光の玉は太陽に集い、吸収されていった。
「――凄いな」
壮観、というのはこのような光景を言うのだろう。
てっきり小さな家庭菜園程度を想像していたアルは、予想以上の絶景に心を奪われ、呆然と立ち尽くした。
「綺麗だろ? 俺も初めて見たときは驚いた」
眼前の光景を食い入るように見つめるアルを見て、ルストは共感するように頷いた。
「中央にはちょっとした休憩スペースがあるんだ。せっかくだから行こうぜ」
未だ立ち尽くすアルの背を軽く押しながら、ルストはタイルの道を歩いていく。
部屋の中央に円形の形で広がる庭園は、四つの区画に区切られており、各々を仕切るようにタイルの道が中央に伸びている。それぞれ四つの道の入口にはアーチ状の門のようなものが設置されており、アルたちはアーチをくぐって進む。
庭園の中に入ると、アルの頬を微かな風が撫でた。
耳を澄ませば木々のざわめきに加え、小鳥の鳴き声のようなものも聞こえてくる。
庭園の中は木々で囲われ部屋の壁面を見ることができないこともあり、頭上を見なければ本当に屋外にいるような気分になる。
「俺も詳しい仕組みは分からないんだけどよ、換気も兼ねて庭園内を風が循環してるらしい。魔道具のおかげらしいけど、本当に便利だよな」
「鳥は? 本当にいるのか?」
「あぁ。鳥だけじゃなく小動物くらいならいるぜ? ほら」
ルストの目線の先を見やると、そこには一匹の小動物がいた。
一見すると愛らしいただの兎に見えるが、その耳はやや長く垂れさがっており、額にはちょこんとエメラルドの宝石が埋め込まれている。
「カーバンクル……か?」
アルは該当する生き物の名を呼ぶが、にわかには信じられなかった。
カーバンクル。
分類上は動物ではなく魔物の類だが、危険性は皆無で人に危害を加えることはない。むしろその愛らしい容姿からペットとして人気……なんてことはない。
如何せんカーバンクルは貴重すぎるのだ。額の宝石は通常の宝石ではなく、魔力が籠った魔石に近いもの。その純度は相当高く、小指程度の大きさでも一等地に城が立つレベルの高値が付く。それゆえカーバンクル狩りが横行し、今では希少種とされていた。アルの知る限りでは、一生の内に一度でもお目にかかれれば幸運とまで言われていた。
そんな希少な存在であるはずのカーバンクルが一匹……否、姿を見せたカーバンクルの下に、仲間と思しきカーバンクルが数匹寄ってくる。
「四、五……五匹もいるのか?」
「いや、実際にはもっといるぜ。カーバンクルとか他の希少生物とか、この庭園にはかなりの数の動物たちがいるからな」
どうやらこの庭園に住むのはカーバンクルだけではないようで、アルは驚きを隠せない。
「まぁ、メア様がここにカーバンクルとかの希少生物を集めるのは保護って名目もあるからな……別に疑うわけじゃないけど、変なことは考えない方がいいぜ。ここの動物たちに危害を加えたり攫ったりなんかしたら、クビじゃ済まないからな」
「……まぁ、そうだろうな」
投獄で済めば御の字、酷ければ処刑まであり得る。メアやアンリあたりは捕縛の罰で手を打つかもしれないが、リーシャは毅然とした態度で死刑を求刑するだろう。それに対しアルはまったく異存はない。
「心配しなくても、こう見えて俺は動物好きなんだ」
何せ、前世では自然に囲まれながらお日様の下で昼寝をするのが趣味だった男だ。ゆったりと寝そべるアルに動物たちはよく群がってきて、可愛がったり一緒に寝ていたりしていたものだ。まるで自然の一部となったような感覚がして、アルにとってお気に入りだった。
昔の平和な情景を振り返りながら進んでいると、どうやら中央に着いたようで、視界が開けた。
そこはこれまた円形に開けた空間になっており、中央には壮大な噴水が座している。透き通った水は上空に噴射され、人工太陽の光を反射し輝いていた。
噴水の周囲にはアンティーク調の机と椅子がいくつか設置されており、これがルストの言う休憩スペースなのだろう。
「(この自然に囲まれながらお茶を嗜む……なんとも優雅でいいな)」
優雅さとは無縁なアルだが、今ばかりはそんな小洒落たティータイムも悪くないと思えた。もっともアル自身、自分が優雅にティータイムを嗜む光景はどうあがいても想像できず、背中がむず痒くなるだけだったが。
そんなことを考えながら周囲の景色を拝んでいると、ふと噴水の向こうに人影が見えた。
「あれは……」
噴水沿いに反対側に歩くアルの視界に映ったのは、知らない人物――小柄な美少年が優雅にティータイムを嗜む光景だった。
たった今想像していた自分のティータイム姿とは比較にならないほどに、優雅で気品に溢れたその姿に、アルは小さく声を漏らした。
それは『王太子の休息』と名付けられた絵画。そう紹介されてもまったく違和感を覚えないほどの光景だった。
ミント色の髪はやや癖の強いセミショート。
中世的かつ美麗な顔立ちは万人を虜にする相貌。長い睫毛は伏せられ、瞳の色は伺えなかった。
その身は王侯貴族の着るような礼服に包まれているが、ズボンは太もも上部までしかないハーフパンツ。そこから伸びる細い脚は白いタイツに包まれていた。
容姿と装いを含め、王太子という言葉がピッタリはまる美少年だ。
何より目を奪われるのはその姿勢と所作。
ピンと伸びた背筋と丁寧に揃えられた両足は気品を感じさせ、ゆっくりとティーカップを口に運ぶ所作は優雅さを感じさせる。カンと小さな音を立てながらティーカップとソーサーを置く動作からですら、下品ではない程度に音を鳴らす技術が垣間見えた。
ほっと一息つくと同時に、ゆっくり開かれたエメラルドの瞳と、アルの視線が交わる。
「おや? 貴方は……アルファストさん、ですかね?」
アルの相貌を視界に収めた美少年は、そっと顎に手を当て逡巡したのち、アルの名前を言い当てた。
「そうだけど……キミは?」
「ごめんなさい、本当なら僕の方から伺おうと思っていたのですが……僕はセラ・アスタロトと言います。気軽にセラと呼んでください」
アルの問いかけに対しセラと名乗った美少年は、スッと立ち上がると自然な動作で礼をした。その口元には小さな微笑みが浮かんでおり、所作だけでなく表情まで上品な印象を受けた。
アルの知る限り最も上品な所作を身に着けているのは言うまでもなくリーシャだが、彼女はメイドという立場ゆえか優雅さよりも丁寧さを優先する。それは主人を立てるメイドの在り方、あくまで表立つのは主人で自分は裏方であるという立場を暗示するために、あえて見栄えを簡素化したものだ。
ゆえに、これまでアルが見てきたどんな人物より見栄えを重視するセラに対し、アルはある種当然の疑問を抱いた。
「もしかしてセラはクローリー軍の中でも偉い立場なのか?」
「あまり誇示するものではありませんが……そうですね。一応、参謀兼秘書という役割を与えられています」
「立場的には俺ら大隊長……つまり幹部連中と同等だな」
セラの言に対し、ルストが横合いに補足を入れる。
アンリから始まり、ステラ、ルスト、ゴリアンヌ、コング、そしてセラ。
たった一日でこうまで立場のある人物と知り合うとは……アルはもしかしたらこの城は魔境なのかもしれないと思い始めた。
一方でアル以外の一般隊士はまったく見ないことから、今日が休日であることを鑑みても、もしかして城内に住むアルは場違いなのでは、という疑問も浮かび上がる。
「メア様とリーシャさんからお話は聞いています……色々と。期待していますよ、アルファストさん」
『色々と』。やや含みのあるその言葉に込められた意味は分からなかったが、セラの声色からは悪感情は感じられない。深く追及するものでもないかと思い、アルは聞き流すことにした。
「その期待に答えられるように頑張るよ。改めてアルファストだ、よろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします」
「それと、アルでいいよ。そう呼んでくれると助かる」
「そうですか? では、アルさんと呼ばせてもらいますね」
アルの提案を柔和な笑みで受け入れる美少年。
優雅な出で立ちから取っ付きにくい性格かもしれないと僅かに心配したアルだったが、話してみれば柔らかく爽やかな笑顔を浮かべる非常に話しやすい少年のようだ。クローリー軍の役職持ち全般に言えることだが、メアの下には人格者が集まっているようでアルは安堵する。
眼前で笑みを浮かべる好青年に対し好意的な感情を抱いていたアルだったが――アルのセラへの印象は、次の一言で崩れ去った。
「同じ男ってことで色々話しやすいだろうし、仲良くしてくれるとありがたい」
「――――は?」
体が底冷えするような低い声。
それがセラの口から発せられた言葉であると理解するのに、アルは数秒を要した。一応ルストから漏れた可能性を考慮し彼に視線を向けると……「あちゃー」と言わんばかりに顔を掌で覆っていた。
もう一度セラに視線を戻すと、彼は深く俯いてしまいその表情を見ることはできない。
しかしなぜだろうか。セラの全身から立ち上る鬱鬱としたドス黒いオーラを肌で感じ、彼の表情が不思議と分かる気がした。
「……あ、あの、セラ……さん?」
「なんで敬称なんてつけるのかな? セラでいいって言ったのに」
アルに一切視線を向けずに発せられた声は先ほどのような冷淡な低音ではなかったものの、先ほどまでのよく通る爽やかな声ではない。まるで今にも沸騰しそうな感情を無理やり押さえつけているような、そんな声音。
「(しかも敬語じゃなくなってるし……!)」
事態が飲み込めないアルを他所に、セラは一歩、また一歩と距離を詰めた。
「そんなことより、もう一度言ってくれないかな? 誰が、誰と、同じだって?」
「え、は、え……?」
「ほら、早く」
セラが進む。アルが後ずさる。
セラが更に進む。アルが更に後ずさる。
一切の表情を見せることなく、ただただアルとの距離を詰めてくるセラに対しアルは底知れない恐怖を感じた。
怒っている。
何に対して怒っているのかまでは理解できないが、セラがアルの何らかの言動を契機として激怒したことだけは理解できた。
「(と、とにかく謝るか……?)」
とはいえ、セラが怒っている理由が分からなければ謝ることもできない。
アルは唯一の希望であるルストに対し視線を向ける。その表情は困惑と懇願で構成されており、後のルスト曰く「あそこまで『助けてください』って書いてある顔は初めて見た」とのこと。
二人のやり取りと冷や冷やしながら見守っていたルストは、アルの表情から何を求めているのかを察し、助け船を出そうと口を開くが、
「――ルストさんは黙って」
「え、でも――」
「いいから」
「ハイ」
セラの圧にあっさり敗北したルストは、アルに対し「すまん」とばかりに手を合わせる。
「(弱すぎだろ! 使えねぇ!!)」
あまりにあっさり引き下がるルストに対し内心悪態をつくアル。
そんなアルを見て、意識が自分以外にいっているのを察したセラがガシッとアルの両頬を掴んだ。
むにゅっと頬の形を変えるくらい強めに捕まれるアルは、まるでタコのような間抜けな口を晒す。当然そんな状態ではまともに言葉を発することもできず、
「にゃ、にゃんでしゅか?」
「よく、よく見てください。そのうえで、もう一度言ってください。先ほどの言葉を!」
口調こそ元に戻ったものの、その声色や所作には先ほどまでの優雅さが欠片もなく、アルの中で上品にティータイムを楽しむセラの姿が音を立てて崩れ落ちる。
そんなことはまったく知る由のないセラ本人は、それまで頑なに隠していた表情を見せるように、ガバッと顔を上げた。
そこには先ほども見た、人形と見紛うほどに緻密に整った美しい顔だけがあった。
アルはセラが何を言いたいのかまったく分からず、ただ困惑するしかない。
そんなアルの表情を見て眉根を寄せたセラは、ズイッと更に顔を近づけた。
もはや鼻先同士がくっつくほどに接近した二人の顔。
丁寧に整えられた形の良い眉と、長く繊細な睫毛、リリアンヌのものよりも更に濃く深いエメラルドの宝玉、瑞々しい唇。それらがアルの視界いっぱいに広がり、いくら同性といえど気恥ずかしさを感じたアルは目を逸らした。
「な、何を言わせたいのかまったくわからないんだが……その……」
このままでは埒が明かない。そう思ったアルは明確に『降参』の意図を込めた視線をセラに向ける。
アルの視線を受けたセラはそこに込められた意図を正確に把握し――次の瞬間、アルにも、それを見ていたルストにすら予想できないことが起きた。
――セラの瞳が潤んだ。
一瞬、何が起きたのか理解できなかったアル。
しかしアルが呆然とする間にもセラの目尻には小粒の水溜まりが生まれる。
「(……え!? えっ!? 泣いた!? 何で!?!?)」
先ほどまで怒りを露わにしていたセラの、唐突の涙。
なぜ怒られていたのか分からなかったアルだが、なぜ泣くのかはもっと理解できず、頭の中に大量の疑問符が溢れる。
「(情緒どうなってんだ!?)」
困惑と混乱の最中、アルの視界にはセラの顔が映っていた。
うるうると涙ぐむ瞳。ぐすっと啜る鼻は赤く。同様に体温が上昇したのか、白い頬は僅かに上気し、赤く染まっていた。先ほどまでは綺麗に整っていた顔は歪み、優雅さを演出していた小さな肩は震えている。
先ほどまでの悠然とした美少年はもはやそこにはなく――アルには、小さな体を震わす今のセラが、どうしても男には見えなかった。
「――ぁ」
同時、アルの脳裏に電撃が走った。
アルの言葉とセラの言葉、そしてセラ本人の様子。
たった今アルに走った予想と照らし合わせると、おのずと一つの答えが浮かび上がる。
「もしかしてセラって――女の子、なのか?」
恐る恐る告げられたアルの言葉に対し、セラはビクリと肩を跳ねさせると、
「……そうだよぉ。僕ってそんなに男の子に見える……?」
弱々しくそう呟くセラは、どこからどう見ても美少女だった。
気ままに人物紹介
【セラ・アスタロト】
クローリー軍の参謀兼秘書。僕っ娘悪魔。羽と尻尾は自由に出したり消したりできる。
メアもリーシャも頭が回る方とはいえ、ずば抜けて頭脳明晰というわけではないのでクローリー軍の頭脳系の役割を一手に担っている。頭脳担当。
パッと見美少年に見えるがちゃんと女の子。中世的な顔立ちと服装、薄い胸部装甲のせいで男に見られがちなことを気にしている。
可愛いものが好き。実はリリアンヌと仲が良い。
基本的に穏やかかつ爽やかな性質だが、女の子らしい一面もある。優雅な所作はメアの秘書ゆえ見栄えを重要視した結果であり素ではない。できるだけ普段から心がけて生活はしているが、ふとしたきっかけで崩れる。
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感想・誤字報告、お待ちしております。
少しでも面白い、気になると思っていただけたら登録お願いします。でも読んでくれるだけでありがたいので最悪しなくても良いです()。
嘘です、シテクダサイ。




