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無才の剣士 ~もう一度キミに好きと言うため、才能を捨てて記憶を選ぶ~  作者: 塚丸水産
再会編

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Ep.16 クローリー軍の愉快な仲間たち④






「――なるほどな、そういうことなら俺に任せろ」


 絶妙な焼き加減のステーキを口に運びながら、ルストは意気揚々と言ってのけた。


 あれから各々昼食を注文し、想像以上に盛られたそのボリュームに驚きながらも、二人で肩を並べて食べ進めている最中だ。


 ちなみにルストが頼んだのは『六角鹿のステーキ』で、アルが頼んだのは『アクア・バイソンの唐揚げ』だ。

 六角鹿はその名の通り六本の角を持つ鹿で、非常に素早く突進力も誇る魔獣だ。その分肉は引き締まっており、噛み応えのある食感が特徴の高級食材。対してアクア・バイソンは海を泳ぐ牛で、その縦横無尽な推進力は捕らえるのに苦労する。しかし味は抜群で、瑞々しい肉汁が特徴の、これまた高級食材だ。


 そんな料理に舌鼓をうちながら、アルのこれまでの境遇を話していた。

 ついでに現在城内を案内してくれる人物を探していることも吐露すると、ルストが俺に任せろと言わんばかりに自信満々に告げたのだ。


「そりゃありがたいけど、いいのか?」

「いいって。どうせやることもないしな」

「暇なのか?」

「まあな」


 あっけらかんと言うルストはアルを気遣っている様子もなく、本当に暇なのだろう。

 忙しいのに無理して案内役を買って出てくれるのは申し訳ないが、やることがないというのなら付き合ってもらうか。


 仮にも大隊長ともあろうものが暇というのもどうかと思うが……そもそもそのための休暇であることを思い出す。思えばアンリも買い物に出かけると言っていたし。


「じゃあ付き合ってもらおうかな」

「おう、任せろ」


 そんな気安いやり取りを行い、二人は口いっぱいに昼食を放り込んだ。











◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇











「こっから一番近いのは……練兵場かな。同じ一階にあるし」


 満腹になりながら昼食を終えた二人は、食堂を出て次の行き先を考えていた。


「屋内に練兵場があるのか?」

「あぁ。一応外にもあるけど、天気が悪くてもトレーニングできるようにな。丁度一階の反対側にあるぜ」

「そりゃ随分と豪華なことで」


 これまで探索してきた中で、この城が非常に豪勢な造りになっているのは理解していたが、まさか屋内に練兵場を作るほどとは。

 アルは改めてメアの富豪っぷりに驚きつつ、あることを思い出す。


「反対側ってことは、浴場の下か」

「お、浴場は知ってんのか。そーだぜ、トレーニングの後すぐに入れるように近くに作ったんだろうな」

「そういえばガレオンもトレーニングの汗を流しに来てたな」


 ここ数日で通った数少ない場所である浴場を思い出すと、丁度練兵場の上にあることに気づく。

 

 数日前に出会った少年もトレーニングの汗を流しに来ていたと言っていたし、近くにあると何かと便利なのだろう。最も、あの時のガレオンが屋内の練兵場を使ったのかは定かではないが。そこまで気にすることではないだろう。


「じゃあ練兵場に行くか。アルもそのうち使うことになるだろうしな」


 反対意見などあるはずもなく、ルストの提案に頷きを返す。


「そういえばアルってどこの部隊に入るんだ? アンデッドじゃないから俺の部隊じゃないだろ?」

「詳しくは言われてないけど……剣を使うし、『輝剣』じゃないか?」

「へー、アルは剣士なのか」

「生まれてこの方、剣しか使ったことがなくてな」

「生粋の剣士ってわけね。剣かぁ、剣なぁ……」


 雑談を交わしながら歩いていると、ルストが剣という単語に反応し唸り始めた。


「剣がどうかしたのか?」

「いやー、やっぱ男だからよ、俺も昔は剣に憧れて使おうとしたことあんだけど……結局上手く使えなくてな。それっきし」

「そうなのか。ルストはどうやって戦うんだ?」

「俺は専ら素手だな。魔法も使えないことはないけど……あんま安定しないし」


 剣が使えなかったというルストに対し、素直に勿体ないと思うアル。

 自分でよければ教えようかと提案しかけるも――今の自分の状態を思い出し、口をつぐんだ。


 昔のアルならいざ知らず、今のアルに剣の才能は欠片もない。

 当然他人の指導などできる立場ではないし、そんなことをする暇があるなら少しでも自分の鍛錬に時間を割くべきだ。


 何もできない自分の情けなさに歯がゆさを感じつつも、表面上には出さないように注意する。


「ルストってアンデッドなんだよな?」

「そーだぜ。ほら、血色悪いだろ。半分死体だからな」


 そう言って笑いながら自身の腕を見せるルスト。

 顔色を見てもわかるように、ルストの肌はやや蒼白気味でお世辞にも血色が良いとは言えない。


 彼がアンデッドである実感が湧いてきて、アルはこの機会にずっと気になっていたことを尋ねてみた。


「アンデッドって食事とかいらないんだろ? なんで昼飯食ってたんだ?」

「別に食わなくていいだけで食べられないわけじゃないからな。飯食わないとイマイチやる気でないし、まぁルーティンみたいなもんだよ」

「そういうもんか」


 残念ながら食事が必須のアルには分からない気持ちではあるが、彼がそのルーティンを継続してくれていたおかげでこうして出会うことができたのだ。今は感謝しておこう。


 そんな会話を交わしていると、行き止まりにたどり着いた。

 目の前にはこれまで見てきた物の中でも一際大きな両扉。扉の向こうに広大なスペースがあることが簡単に想像できる。


「着いたぜ、ここが練兵場だ。ほら、中に入ろうぜ」


 ルストは手慣れた様子で扉を開き中に入っていた。

 慌ててアルも追従し場内に入ると――アルの目に飛び込んできたのは、広大なフィールド。


 直径にして200mはあろうかという円形のフィールドは程よい硬さの土が敷かれており、硝子で構成される天井の一部からは陽光が差し込んでいる。

 円形にぐるっと聳え立つ外壁にはところどころに扉が設置されていた。


「お、やってんね」


 ルストは何かに気づいたように声を上げた。

 彼の視線を追うと、広大な練兵場の中央で砂埃を立てながら激しく動き回る影が二つ。


 あまりのスピードにシルエットは歪む。アルには目で追うのがやっとで、詳細な姿形を捉えることはできなかった。


「あれは……ガレオンとコングか?」


 しかしルストは違うようで、素早い攻防の中でも二人の姿を正確に把握していた。


 ルストの呟きにあった二つの名前のうち一方には聞き覚えがあり、どうにか激しく動く影に金髪の少年を重ねてみる――間もなく、それまで実戦さながらの攻防を繰り返していた二つの影が停止した。


 どうやら場内に訪れたアルたちに気づいたようで、二つの影は言葉を交わしながらこちらへ近づいてくる。そこでやっと、アルの目には数日前に見たばかりの金髪が映った。


「んあ? 何だ、ルストじゃねぇか。わざわざ休みの日に来るなんて珍しいな。それにそっちは……お、アルか。数日ぶりだな!」


 ガレオンもこちらの正体に気づいたようで、屈託のない笑みを浮かべる。


 数日ぶりに見た彼は当然ながら衣服を纏っていた。といっても上半身は裸に近い。彼の髪によく似た金色の毛皮を羽織ってはいるものの、正面はがら空きでよく鍛えられた肉体が丸見えだ。一方下半身はゆったりとした灰色のズボンを履いており、裾はくるぶしに巻かれた包帯によって僅かに上げられている。


 見るからに武闘派なその恰好は、非常に彼らしいと言えた。


「なんじゃいガレオン。こっちの兄ちゃんのこと知っとるんか」


 一方ガレオンの隣に立つソレは……一言で言えばゴリラであった。


 アルやルストの1.5倍ほどの長身に、異様に広い肩幅。鍛え抜かれた鋼の肉体は、雄々しい茶色の体毛に覆われていた。顔つきもゴリラそのものだが、その口からは理性的な言葉が飛び出る。


「おうよ。つい最近ウチに来たアルだ。こう見えてなかなか鍛えてんぜ」

「ほう……」


 何故か自慢するようなガレオンの言葉を受けて、ゴリラは顎に手をやりながらアルを見やる。

 ここ数日で何度か受けた値踏みするような視線だが、例に漏れずゴリラの視線も純粋な好奇心の色しかなく、嫌な雰囲気は感じなかった。


「……発展途上。じゃが、伸びしろは十分。うむ、いいのう兄ちゃん! 名はなんという?」


 ゴリラとは思えないほどに鋭い視線でアルを射抜いたかと思えば、豪快な声音で褒め称えた。

 いったいアルの何を見て気に入ったのか、アル自身には分からなかったが、気に入ってもらえたのならとりあえず良しとしよう。


「俺はアルファスト。気軽にアルって呼んでくれ」

「アルじゃな。ワシはコング。見ての通り、バリバリの武闘派じゃ!」

「コングは『武神の鼓』の副隊長なんだぜ。普段からこうして一緒にトレーニングしてんだ」


 本人の自負するように、その肉体はどう見ても武闘派そのもの。膨れ上がった胸筋を誇示するように胸を張るコングに、ガレオンは鋭い拳を振りぬく。


 バシン! と鈍い衝撃音が走るものの、コングは低い唸り声を上げるだけで傷一つ負ってはいなかった。恐らくコングの頑強さを見せるためのパフォーマンスだったのだろうが、それでもそれなりに勢いの乗ったガレオンの拳を受けて無傷とは……『武神の鼓』の副隊長というのは伊達ではないようだ。


 これまでの流れから分かるように、アルはコングのことは知らない。

 そもそも前世では大隊そのものができたばかりで体制が整っていたわけではなく、副隊長という立場も存在しなかった。


「こいつら、休みの日でも構わずトレーニングしてんだぜ? ほんと呆れるだろ?」

「何じゃルスト。お主はもっと鍛えんかい。ただでさえ貧相な体なんじゃから」

「俺はそういうんじゃないからいいの」


 コングの言葉をするりと躱したルストはアルの隣に立つと、二人を追い払うようにシッシッと手を払う。


「今はアルを案内してんの。自己紹介も済んだならとっととトレーニングの続きでもしてな」

「んだよ連れねぇな……しゃーねぇ、じゃあなアル。いつでも歓迎すっからよ、一緒にトレーニングしようぜ」

「ルストもいつでも来ていいからのう」

「気が向いたらな」


 なんやかんや親しい間柄なのだろう。ルストの邪険な態度を特に気にすることなく、二人は訓練に戻っていった。


「とりま練兵場の中を簡単に紹介すっか」


 アルも気になっていたが、外壁に設置された複数の扉をルストは案内してくれる。


「まずは倉庫だな。この中にゃいろんな武器や防具が置かれてる。好きに使っていいぜ」


 一番近くにあった扉を開きながらルストが告げる。

 扉の中は薄暗く、練兵場の明かりが差し込むことでようやく中の様子を伺うことができた。中には剣や槍などの武器の類が乱雑に置かれていた。


「もっとデカい倉庫もあるけど、練兵場で使うのはここの武器が多いな」


 それ以上に紹介することはないのだろう。ルストはそんな言葉とともに扉を閉め、次の扉に向かって行く。


「ここはちょっとした休憩スペースだ。ここと同じような部屋がいくつかある」


 次の部屋は清潔な広間だった。椅子や机がいくつか置かれており、寝そべる用のスペースもある。


「んで次が更衣室なんだが……まぁ入る必要もないか。一応男女別に分かれてて、入口に青いマークが書かれてんのが男性用、赤いマークが書かれてんのが女性用だ」


 ルストの案内に導かれ扉を見ると、そこには確かに青いマークの書かれた扉と赤いマークの書かれた扉の二種がある。


「万が一間違えたらリーシャの姉御に殺されっから、気をつけな」

「さらっと怖いこと言うなよ」


 普段の三割増しで冷徹な視線を向けるリーシャの姿を思い起こし、アルは全身に寒気が走るのを感じる。


 あれは確か、間違えてメアとリーシャが着替え中の部屋に入ってしまった時のこと。苦笑を浮かべるメアと、無言で鬼のような圧をかけるリーシャの姿はなかなか忘れられるものではない。


 間違えるつもりはないが、それでも間違えないように気を付けようと決意する。


「これが最後だな。この扉は外に繋がってて出入りができる。外の宿舎に住む連中はこっから入ることが多いな」


 言いながら軽く扉を開くと、確かに外の景色が見える。

 広い庭園と、その奥に見える巨大な建物。


「あれが宿舎か?」

「あぁ。まああっちは追々案内してやるよ。まずは城の中だな」


 練兵場内の説明もあらかた終えたようで、ルストはアルを促しながら出口へ向かう。


「次は……室内庭園だな」






気ままに人物紹介


【コング】

ゴリラの兄貴。






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嘘です、シテクダサイ。






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