Ep.13 クローリー軍の愉快な仲間たち①
ミーシャがアルの専属メイドとなって三日。
アルとしては怪我も完全に治っており、万全の状態になったのだが……リーシャ曰く『一週間は絶対安静、とアルファスト様を治療した方からの言伝です』とのことで、特訓もできず、部屋の中で大人しく過ごしていた。
しかしいい加減暇になってきたアルは、ふと思い出したことを尋ねた。
「そういえばミーシャ」
「ん?」
「前にリラから聞いたんだけど、俺の専属メイドさんがこの城を案内してくれるって。そこんとこどう?」
「……あー……そういえばリーシャ姉ぇから言われてたような……」
以前リラから専属メイドが案内を担当するという話を聞いていたが、ミーシャの衝撃が強すぎてすっかり忘れていたのだ。
この三日間は例の広間で食事をするか、浴場で体を洗うくらいしか城の中を歩かなかったので、もうそろそろ他の場所も探索してみたい。部屋でじっとしているのに辟易としてきたアルはそう思うのだが、
「えー……メンドイ、パス」
「そう言うと思ったよ」
初めから期待はしていなかったが、案の定ミーシャにアルを案内してくれる気はないようだ。
「……適当に誰か拾って案内してもらえば?」
「簡単に言うけどさ……」
「あ、でも……今日は全体の休養日だからあんまり人いないかもね」
「休養日?」
いきなり見ず知らずの他人に案内してくれと頼むのは、些かハードルが高くはないだろうか。ミーシャはそういうの気にしなそうだが。
ミーシャはうつ伏せの態勢からごろんと回転し、仰向けになる。そこで初めてアルに視線を向けると、珍しく説明してくれる気になったのか読みかけの本を閉じた。
ミーシャが視線を合わせるなど滅多にないことだ。大抵一瞥もせず会話をするのだから。もっとも、寝そべりながら人と話すのが正しい姿勢かと言われれば微妙だが。
「ん……この軍には五つの大隊があって、それぞれの隊長を筆頭に部隊訓練をしてる」
「五つ? 四つじゃなくてか?」
「ん、五つ」
ミーシャの言葉に、アルは時の流れを実感する。
アルが生きていたころは、名ばかりの部隊が四つあった。百年の時間が経過し、部下の数も増え、五つに増加したのだろう。
認識の齟齬を埋めるいい機会だ。
そう思い、珍しく親切に説明してくれるミーシャの機嫌を損ねないよう黙って聞くことにする。
「まぁ、ざっくり言うと――、」
続けて、五つの部隊について簡潔に解説してくれる。
己の肉体を武器とする武闘派集団――武闘大隊『武神の鼓』。
主に剣を用いて戦う剣士や騎士を擁する部隊――騎士大隊『輝剣』。
様々な種類の魔術師が集まる魔法部隊――魔術大隊『紅蓮の牙』。
回復や支援を担当するプリースト集団――神聖大隊『星の導き』。
アンデッドだけで構成される夜の部隊――死霊大隊『黄泉の竜』。
ちなみにミーシャ曰く大隊ではないものの、少数精鋭で大隊と同等の権限を持つ隠密集団――隠密部隊『朧』というのも存在するらしい。
これら五つの部隊は各々分かれて訓練を行っているらしい、のだが。
一部の部隊――『武神の鼓』と『輝剣』に関しては訓練の頻度や密度が高く、放っておくと休まず訓練をし続けてしまうため、メアの一存で一斉休養日を設けているとのこと。
「週二日は休養日になってる」
「なるほどな……そりゃ確かに人は少ないか」
以前聞いた話だが、意外にもこの城に住みたいという隊士は少ないのだとか。
城での業務が多いメイドや、一部の隊士、特に隊長クラスは住んでいるが、それ以外の一般隊士はそうではない。そのほとんどが城の隣にある宿舎か、街に家を建てたり宿を借りたりしているらしい。
その理由は人それぞれだが、豪奢な城に住むのが恐れ多かったり、日常生活の中で上司と会うのが気まずかったり、休養日に仕事のことを考えたくなかったり、という意見が主流らしい。
ちなみにこれらの話はリラに聞いた。ミーシャには一般隊士の知り合いなどいないそうだ。
ただでさえ住んでいないのに、休養日ともなれば街に繰り出す人たちも多いだろう。
なるほど、ミーシャの言う人がいないという言葉にも頷ける。
「ならなおさらミーシャに案内してほしいんだけど」
「イヤー、メイドイもん。口で説明するのもギリなのに、城中を歩って説明とかムリムリ」
ジト目でミーシャを見やるも意に介さず。
話は終わりとばかりに、再びうつ伏せになってしまった。
「仕方ない……一人で行くか」
最悪ミーシャの言うように誰かに案内してもらえばいい。
ハードルが高いとは言ったが、できないわけではないのだから。
そう決めると、アルはミーシャを置いて一人部屋を出た。
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「とは言ったものの、そう都合良い人なんていないよなぁ」
一人寂しくただっ広い廊下を歩くアルは、ここまでの道筋を思い返す。
部屋を出てからここまで数分、すれ違った人物は何人かいたが、その全てがメイドだ。メイド服に身を包んでいる彼女らは当然、暇なアルの相手などしていられないほどに忙しなく業務に取り組んでいる。
まかり間違っても城を案内してほしいなどと頼める状況ではない。
かと言ってメイド以外の誰かと出会うこともなく、城の詳しい間取りも分からず、ふらふらと彷徨っている現状。あまりに広い城が仇となっている。
「とりあえずもう少しふらふらするか」
まだ誰にも会えないと決まったわけではないし、もうしばらく城中を練り歩くことを決めたアル。
いい加減見飽きた廊下の様相を尻目に、先ほどのミーシャの話を思い返していた。
「(予想はしてたけど、やっぱ俺がいた時とは大分変わってんな)」
五つの大部隊と、一つの少数精鋭部隊の存在。
アルは変わってしまったもの、新しく追加されていたものの存在を心の中で整理する。
まず、新しく追加されていたもの。
これは簡単だ。
死霊大隊『黄泉の竜』。
アンデッドだけで構成される部隊とは、なんとも思い切ったものだ。
アルフレッドの時代にはアンデッドの仲間も数人いたとはいえ、大部隊を編成できるほどでは決してなかった。
それにアル自身はどうでもいいという考えの持ち主だが『アンデッドは人にあらず、魔物である』という一部の過激派が掲げる思想が蔓延っていたことも事実。
それを鑑みるに、今こうしてアンデッドの部隊と堂々と宣言できるのは良い兆候なのではないだろうか。魔帝の一翼を担う部隊がアンデッドで構成されているという事実は、魔界に少なくない影響を与えているはずだ。
「(やっぱもう少し今の魔界の状況を知ったほうがいいか……?)」
元よりアルは俗世に敏いほうではなかったが、それでも最低限の常識は持っていた。
しかし今のアルは百年分の知識がまるまるないうえ、俗世と隔離された田舎村で育ったため今の世界の情勢を全くもって知らない。ここ百年で変わったことに関しては子供より無知だろう。
「(ま、それは追々だな。まずはクローリー軍の変わったことを知らんと)」
新しく追加されていた部隊については『黄泉の竜』くらいなものだ。厳密に言えば『朧』も昔は存在しなかったが、大部隊ではないため割愛。
次に、変わってしまったものについて。これは二つある。
騎士大隊『輝剣』と魔法大隊『紅蓮の牙』。
この二つの部隊に関しては、アルフレッドの時代から存在はしていた。しかし部隊の名称が全く違うのだ。
『輝剣』と『紅蓮の牙』という聞き馴染みのない単語。これらの正体に関して、アルはある程度の推測は立っていた。
「(たぶん、隊長が変わったんだろうな)」
その推測の根拠となったのは、浴場での一幕。
武闘大隊『武神の鼓』と、その隊長グラニスの存在だ。
武闘大隊に関しては、前述の部隊とは違い部隊名も隊長もアルの知るそれと相違ない。
紅蓮の美丈夫が優雅に酒を煽りながら、珍しく上機嫌で名付けた名前だ。忘れるわけもない。
もしかしたら『輝剣』と『紅蓮の牙』も隊長の気まぐれで名前を変えただけ、という可能性もないことはないが……アルの知る二人の隊長はそういう柄ではないし、名付け直すにしても二人に似合ってなさすぎる。
「(特に『輝剣』とか……正反対だろ)」
脳裏に浮かべるのはアルの良く知る漆黒の騎士。
普段は寡黙で真面目なくせして、アルに対しては口煩い。輝くなどという文字とは正反対の暗闇のような人物だった。
「(そうなると二人はどうなったんだ? 隊長辞めて隠居でもしたのか? 死んだなんてことは……まぁないだろうな)」
殺しても死なないような二人だ。
魔術大隊の隊長に関してはもういい年齢のクソジジイだったし隠居でもしているのだろう。老衰? 冗談ではない。あの偏屈で図太い爺さんが老い程度に負けるとは思えない。
騎士大隊の隊長は……アルは彼以上に強い剣士を知らないし、誰かに負ける姿など欠片も想像できない。いわばアルにとって憧れでもある存在だ。何か理由があってメアの下を離れたのだろう。
「(そうなると最後は……)」
神聖大隊『星の導き』。
これも『武神の鼓』同様、部隊の存在と名前、どちらも昔から存在していたものだ。
回復や支援を主に担当する部隊で、アル自身何度もお世話になったこともあり頭が上がらない。
もしかしたら、いや十中八九、マガチカに殺されかけたアルを治療してくれたのはこの部隊の誰かだろう。後でお礼を言うために誰が助けてくれたのか聞いておかなければ。
「(名前も一緒ってことは隊長も変わらないってことだよな)」
アルは一人の少女を思い浮かべ、つい微笑ましい気持ちになる。
身長はアルの腰ほどしかなく、あどけない顔立ちと大きく丸い瞳は幼女と少女の境目。
表情がコロコロ変わる様子も、ちょこまかと小動物のように忙しなく動きまわす様子も、本当に子供のようで愛らしく、見ているだけで庇護欲が湧いてくるような、そんな少女。
「そう、まさにあれくらいの――」
アルは視界の先にちょこんと映ったシルエットを捉え、たった今思い浮かべていた少女を重ねる……というか、
「えっ、あれ本人じゃね」
丁度お互い向かい合うように歩っているため徐々にシルエットの詳細が明らかになっていく。
黄色と水色で彩られた修道服を着る少女の身長は低く。
後ろでゆるく波打つ桃色の長髪はかなり長く、少女の足元まで伸びている。
空色の瞳は大きく丸い水晶玉のようで、その上には短くパッツンと切り揃えられた前髪と、頭上に乗る司教冠。
その姿は、アルの知るそれと完全に一致していた。
「アンッ――」
「あぁ~~~!!!」
反射的に少女の名前を呼びかけるも、アルに気づいた少女の大声にかき消される。
軽く見開いたまん丸の瞳でアルを捉えた少女は、トテトテと可愛らしい擬音が鳴りそうな足取りで駆け寄ってくる。
「あなた、大丈夫なのですか~!?」
私、心配してます! と言わんばかりの態度でアルの様子を観察し、ペタペタと触診? のようなことをし始める少女。もっとも、身長差がありすぎてどれだけ手を伸ばしてもアルの胸元にしか届いていないが。
それよりも、アルには気になることがあった。
今世でアルと少女に関わりはない。少なくともアルに会った記憶はないし、少女が奇跡的にアルフレッドについて気づいたというわけでもあるまい。
にも関わらず、少女はアルのことを一目見ただけで怪我も心配をしてきた。
となると答えは一つ。
「もしかして、キミが俺の怪我を治療してくれたのか?」
「そうなのです! びっくりしたのですよ~! 生きているのが不思議なくらいの大怪我でしたから!」
やはり、少女がアルのことを治療してくれた張本人らしい。
当時のアルの容態を思い出しているのか、全身で驚いた様子を表している。
「そっか……ありがとう。おかげで死なずに済んだよ」
「いえいえ、無事で良かったのです。それに、見たとことほとんど治っているようで安心したのです」
彼女が治療をしてくれたのなら、アルの回復具合にも納得がいく。
彼女は外見こそ可愛らしい少女だが、天才の名を欲しいままにするプリーストだ。
特に治癒魔法と結界魔法に関しては、広大な魔界において比肩する者すらいないレベル。アルは魔法は完全に門外漢なので詳しいことは分からないが、かつての魔術大隊の隊長が熱弁していたので事実なのだろう。
実際、彼女がいなければアルフレッドが死んでいた回数は片手じゃ数えられない。
彼女の手にかかれば、死に体の状態ですらたった数日で完治するまでに仕上げられる。
アルは改めて自身の容態を確認し得心した。
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はアルファスト。気軽にアルって呼んでくれ」
「分かりました~! アンリはアンリ・ファーニと言うのです! よろしくなのですよ、アル!」
少女――アンリは元気いっぱいにそう言うと、アルの手を取りブンブンと大きく揺らした。
「それにしても凄い治癒魔法だな。たった数日でここまで良くなるなんて」
「そうですか?」
「うん。ホント、冗談じゃなく……アンリがいなかったら死んでたかもしれない。キミ以上の治癒魔法の使い手なんていないんじゃないかな?」
「ふふーん、もっと褒めてもいいのですよ! アンリは褒められると嬉しいのです!」
アルの正直な感想を受け、アンリは得意気に胸を張った。
褒められて嬉しいと書いてあるようなその表情はとても可愛らしく、アルにとっては懐かしくて……自然と、アルの手は伸びていた。
左手で司教冠を持ち上げ、右手はアンリの頭に。
そのまま慣れた手つきでゆっくりと撫でる。
「えっ」
不意に漏れたその声で、アルは自分のしたことを自覚した。
「え、あ、ごめん! つい――」
つい、癖で。
口から出かけた言葉を飲み込む。
アルファストがアルフレッドだった頃。
アルはよくアンリの頭を撫でていた。相対する彼女の一挙手一投足がとても愛らしく、ついつい湧き上がる庇護欲の赴くまま、彼女の薄い桃色の髪を撫でてしまっていたのだ。それはいわば、ペットや子供に向ける類の愛情。
初めは驚いていたアンリも、次第にアルに身を任せるようになって、気づけば一日一回のナデナデタイムが恒常化していた。
その頃の癖で、アルの手は自然と動いてしまっていた。
しかし、そのような事情を知る由もないアンリからすれば、初対面で急に頭を撫でた失礼な男、あるいは変態でしかない。
アルは急いで彼女の頭上に乗る手をどけようとするが……それは他でもない、アンリの小さな手によって阻まれた。
「ア、アンリ……?」
「なんでしょう……なんというか……すご~く、懐かしい気がするのです」
いつかの記憶に想いを馳せるアンリは、確かめるように自分からアルの手に撫でられる。
「この手つきとか、感触とか、リズムとか、そういうの全部……懐かしいのです。それに、こうして撫でられてると体がポカポカして、自然と嬉しくなって、まるで――」
懐かしむようなアンリの言葉に、アルは息を呑んだ。
まさか、自分の正体に気づいて――?
頭を撫でる感覚で気づくなんて、そんなことありえるのか。現実的な部分でそう考えるも、自然と期待してしまう気持ちは抑えられない。
それにアンリとはとりわけ仲が良かったしありえない話じゃない――そんなアルの思考を吹き飛ばしたのは、アンリの無垢な笑顔だった。
「まるでアルくんみたいなのです!」
「え……」
「あ、アルくんっていうのは昔一緒にいたお友達で……あれ! そういえば名前が似ていますね! 凄い偶然です!」
「あ、あぁ……そうだね」
「ナデナデも似ていますし……これはきっと女神フエラリヴェア様がアンリに齎してくださった奇跡の出会いなのです!」
似ているけど別人。
よく考えれば当たり前の結論に至ったアンリは満面の笑みで……アルは微妙な気持ちになる。
「(可愛いけど気づいてほしかったかな……)」
メアしかり、リーシャしかり。特に前世で仲の良かった相手に別人のように接せられるというのは、どうにも心に傷がついてしまう。
「(いや、これでよかったんだ。アンリが気づいたら絶対メアの耳にも入るし)」
アルが帰ってきたと知れば、嬉々として城中に知らせて回るアンリの姿が容易に想像できる。
それはアルの決意が許さない。
一度決意した以上、メアに己の正体を明かすのは隣に立てるくらい強くなってからだ。それは絶対で――メアと関わりの深い仲間たちにも知らせることはできない。アンリほど分かりやすく吹聴するとは思わないが、アルとメアの関係を知っている旧知の仲間たちがアルの正体を知れば、必ずメアに報告するだろう。アルの決意は客観的に見ればただの我儘でしかないのだから。
だからこそ、今はまだ知られてはならない。
嬉しそうに女神に祈りを捧げるアンリに、アルは司教冠を返す。
「(祈りを捧げるならフエラリヴェアじゃなくてカミラとかいう女神だけどな……)」
などとは本人に言う必要はないだろう。
敬虔なる善光教の信徒である彼女は、善神フエラリヴェアを信仰しているのだから。
「話が脱線しちゃったけど、これからよろしくなアンリ」
「はい、よろしくなのです! 会った時には是非、頭を撫でてくださいね!」
「あ、あぁ。俺でよければ」
「約束なのです!」
どうやらナデナデのおかげで、アンリのお気に召すことができたようだ。
アンリとは良好な関係を築けただけではなく、気兼ねなくナデナデできる言質までもらった。アルからすれば、これ以上ない成果だろう。
「(そうだ、アンリなら)」
アルは自分がここにいる目的を思い出す。
元々アルが城中を歩いていたのは案内人を探し求めてのこと。
その点、アンリならピッタリだ。初対面の割には仲良くなれたし、古株のアンリは城のことを良く知っているだろう。嬉々として案内してくれる様が想像できる。
「なぁ、アンリ。良かったらなんだけど――」
「――あ、いた! もうアンリちゃん、こんなところで何してるの? もうみんな待ってるよ?」
アルの言葉を遮るように、間延びするような大らかな声が廊下に響く。
その声はアルの背後から聞こえてきたようで、振り返ると見覚えのない美女が駆け寄ってきていた。
身長はそれなりに高くアルと同程度。
金色の髪は長くストレートで、同色の瞳は穏やかに弓を描いている。
何より目を引くのは――走る彼女に呼応して上下左右、縦横無尽に暴れまわるその双丘。緑色のゆったりとしたローブを押し上げるほどに主張の激しいそれは、アルの視線を自然と引き寄せる。
美女はアンリのそばまで駆け寄ると、そのままアンリを抱きかかえた。
「わっ! びっくりしたのですよ~」
「ふふっ、相変わらず可愛いのねアンリちゃん」
快活な表情を浮かべるアンリ。それを見つめる美女の表情は、慈愛にあふれていた。
目尻の垂れた金色の瞳は優し気に細められ、黒子が添えられた口元はU字を描いている。やや赤く上気した頬も親愛の表れだろう。
いきなり抱きかかえたのには驚いたが、二人のやり取りを見るに親しい間柄なのだろう。
「(それにしても……)」
全体的にちみっこいアンリと、上も下も大きい美女が並ぶとサイズ感が狂うな。などと益体もないことを考えるアルに、二人の視線が向けられた。
「それで……この殿方は? 見覚えはないけれど……」
「そうなのです! ステラにも紹介するのですよ~」
アンリはステラと呼ばれた美女の腕の中から飛び降りると、アルを紹介するように手を向けた。
「彼はアルくんなのです。先日メア様が助けた男の子なのですよ~」
「アルファストだ」
「そういえば、そんなことも言っていたような……なるほどね」
ステラは思い当たるふしがあったのか、アンリの紹介を受けて得心したように頷き、アルと相対する。
「うん、優しそうな子ね。アンリちゃんと仲良くしてあげてね」
「こっちはステラなのです~!」
「あら、紹介してくれてありがとう。ワタシはステラ・エレオノール。神聖大隊『星の導き』の副隊長を務めているわ」
自慢気に自身を紹介するアンリを見てにこやかに笑いながら、ステラは強く存在を主張する自身の胸元に手を添える。
『星の導き』の副隊長。
隊長であるアンリに対し、まるで保護者のような立ち振る舞いをしていることからただの一般隊士ではないと思っていたが、どうやら想像以上に上の立場の人物だったようだ。
そして同時に得心する。
隊長と副隊長という関係ならば、お互いに支えあうことも多いだろうし親しい間柄なのも頷ける。きっと普段から天真爛漫なアンリを可愛がりつつ支えているのがステラなのだろう。
「ステラね。よろしく頼むよ」
「えぇ、こちらこそ」
「……敬語とか使ったほうがいいかな?」
「ふふ、気にしなくていいわ。それに、失礼を承知で言うけれど……あまり敬語とか得意そうではないもの」
「うっ……その通り」
今まで会った中で、過去の知人ではなく、明確に立場が上の人間。
人によって態度を変えるのが好きではないアルとはいえ、今更ながらふと失礼なのではないか、と自身の言葉遣いを顧みる。
しかし……気にしたところで意味はない。
ステラの言うように、まともな教育を受けてこなかったアルは敬語という概念自体は知っているものの、得意とは言えない。喋れないことはないのだが、すべからくカタコトになり、会話がままならなくなる。
いくらメアに対して敬語を使いたくなかったとはいえ、リーシャに釘を刺されてなお口調を改めなかったのには、そういった理由がある。
そんなこんなで敬語が不得手なアルは、気にした様子のないステラの対応に安堵する。
「あら、つい話し込んじゃったわね。元はと言えばアンリちゃんを呼びに来たのに」
「あ、そうなのでした!」
「何かあるのか?」
「今日は同じ部隊の子たちと街にお買い物に行くのですよ~。お休みですからね」
楽しみな様子を全身で表すアンリに微笑ましい気持ちになるが……予定があるのでは、城の案内は頼めそうにないな。
アルは言いかけた提案を引っ込め、また別の案内人でも探そうと気を改める。
「そっか。じゃあ早く行ってあげないとな」
「そうなのです! みんなを待たせちゃ悪いのですよ~!」
「うふふ、それじゃあ、ワタシたちは行くわね?」
「またいつでも声をかけてくださいなのですよ~!」
先導するようにアンリの手を握るステラと、アルに対しブンブンと大きく手を振るアンリ。
アルはそんな二人を、軽く手を振りながら見送った。
何がとは言いませんが、
ステラ>リーシャ>>リラ>>ミーシャ>メア>アンリ
です。何がとは言いませんが。
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感想・誤字報告、お待ちしております。
少しでも面白い、気になると思っていただけたら登録お願いします。でも読んでくれるだけでありがたいので最悪しなくても良いです()。
嘘です、シテクダサイ。




