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 ダニエルの部屋は、仕立屋「プロフェット&ナイト」の店内の奥にある。


 私の部屋と同じくらいの大きさの部屋は、何体ものトルソーが乱立していた。人の胸部に似せて作られたマネキンには、大小さまざまな布が待ち針で留められている。


 ここで、ダニエルは客の要望に合わせた服を仕立てるのだった。まだ形になっていない布の呼吸が、部屋に満ちていた。


 私はダニエルが淹れたコーヒーを手に、壁に寄りかかった。

 ダニエルは肘掛椅子に座り、手早く作った夕食――ローストビーフの横に茹で野菜を添えている――にナイフで切れ込みを入れながら、話し始めた。


「君がグロブナー夫人の邸宅で見た、蝋人形があっただろ。それを作った本人から依頼だ」


 天使のような顔立ちに、艶やかな肢体。女性のような腰の曲線とは裏腹に、股にぶら下がっている立派な男性器。


 あの蝋人形の彼を作った人間がいるということに、私は少なからず衝撃を受けていた。考えてみれば当たり前なのだ。芸術作品は、必ずそれを作った人がいる。しかし、私の中であの蝋人形はそんな普通の芸術作品とは一線を画していた。


 私は心の底で、彼が誰の助けも借りず、自分自身でこの世に誕生したのだと思い込みたかったのだ。


 私は彼で、彼は私であった。彼の皮の裏に広がる空洞は、そのまま私が内に抱え込む洞でもあるのだ。


「順を追って話そう。今日、蝋人形師だという女性から声をかけられてね。彼女の名前はエヴァ・ミラー。美しい女性だったよ」


 美しい女性。

 その言葉を聞いて、私は蝋を型に流し込み、人間を形作っていく蝋人形師の姿を想像した。


 本物の金髪を植え、何も映さないガラスの目玉を彼女は入れ込む。彼女の指が無機質な肌を擽る度に、蝋人形は冷たい息を吐く。


「娼婦をやっているが、少しでも家計の足しになればと思い、幼い頃から好きだったモノづくりを始めたらしい。特に蝋人形を路上で売っていたら、彼女の秘められた才能に気づいた人たちがちらちらと作品を買い取り始めたそうだ。そして最近では、あのヒュー・ルーパス・グロブナー氏が、彼女の作品を認めた。パトロンになったらしい。話を聞くだけでも、相当な惚れこみようだよ」


 ――才能の原石に埃を被せるようなことがあってはならない、なんて言っていたけれど。


 グロブナー夫人の眉を顰めた顔が思い出された。自分が理解できない芸術に、夫が多額の資金を投じているなど、彼女にとっては不満でしかないのだろう。


「グロブナー氏は、彼女が蝋人形師として成功することを望んでいる。まあ当たり前だがね。グロブナー氏だって、心の底から慈善事業をしているわけじゃない。エヴァ・ミラーが有名になれば、彼女の才能をいち早く見出したパトロンとして彼の名にも箔がつくからな。それを狙っているのだろう」


 考えなくても分かることだ。貴族は名声と権力を何よりも欲しがる。


「それで、グロブナー氏は考えたわけだ。彼女の蝋人形が英国で一躍人気になる方法をね……何だか分かるかい?」


 ダニエルはくるりと指の間で回したナイフを、私に向けた。

 私は肩を竦めた。


「さあ。見当もつかないな」


「蝋人形だけの展覧会だ」


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