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「君は何か食べたのか」
「ん? いや、今からだ。適当に何か作ろうと思っている。君も一緒に下に来るかい? 食後のコーヒーを淹れてあげようか」
「それも有難いが……君は何か、僕に言いたいことがあるんじゃないか」
毎日顔を合わせている相手だ。些細な変化を感じ取ることができるのは、私も同じだった。
「帰ってきたらすぐにスーツを脱いで、皺や埃をきちんと取る君が、まだ外出の服装のままなのは不自然だ。客人が来たと言っていたから、その客人の前ではまだスーツを着ていたとしても、私の部屋に来るまで時間はあったはずだよ。何か他のことに頭がいっぱいになっている証拠だ。それに、私の一挙手一投足をじっと見守っている。タイミングのいい時を見計らっていたんだろ」
意識が覚醒した直後は混乱していたから見逃したが、言葉を交わすにつれて違和感を覚えた。
いつもより落ち着きがない。彼が纏っている雰囲気が、朝会ったときより微かに明るくなっている。普段より喋る速度が速い。
水面に浮かぶ塵のように、違和感は漂い、揺れる。
ダニエルは私の言葉に目を丸くしたが、その直後声を上げて笑った。
「全く、君には敵わないな」
そしてベッドの端に座った。彼の体重を支え、ベッドは軋んだ音を上げた。
彼の碧眼は明るく輝いていた。私と目線を合わせ、続けて言った。
「大ニュースだ。君にも関係がある。下で、コーヒーでも飲みながらゆっくり話そうじゃないか」
ダニエルは部屋から出ようとして、ふと思い出したように振り返った。
「そういえば、出ていく前に阿片チンキの瓶を君のベッドの傍に置いたと思うんだが……なくなっているな」
阿片チンキ?
ベッドを見渡した。確かに暗赤褐色の液体で満ちた瓶は、どこにも見当たらなかった。
「いや、知らないな。移動させた覚えもないし」
「まあ、毎日飲むわけではないからいいんだけどね。思い出したら、また教えてくれ」




